防災リーダーと地域の輪 第23回

「コラぼうさい」で災害に強いまちづくり

大きな被害が予想される南海トラフ地震に備え、高知県立大学の防災サークル「イケあい地域災害学生ボランティアセンター」が、住民、NPO、他大学などと連携した「コラぼうさい」に取り組んでいる。

高知県立大学の防災サークル「イケあい地域災害学生ボランティアセンター」(通称、「イケあい」)は、平成23(2011)年10月、東日本大震災の被災地支援に関心を持つ学生を中心に発足した。現在のメンバーは約85名、その9割が女性である。「イケあい」は昨年、ぼうさい甲子園の大学部門で「ぼうさい大賞」を、そして今年は、防災まちづくり大賞の「消防庁長官賞」を受賞している。

高知県は南海トラフ地震が起こった場合、地震や津波で大きな被害を受けると予想されていることから、「イケあい」は、地震の発生を想定した様々な活動を行っている。その一つが、「未災地ツアー」である。「未災地」とは、「未来に被災するであろう地」という意味と、「未だ被災していない地」という二つの意味をもつ。

「私たちの先輩が東日本大震災の被災地へボランティアに行った時、住民の方から『被災前のきれいなまちを見てほしかった』と言われたそうです。それを聞いた先輩は、南海トラフ地震で大きく変わってしまう前に、美しい高知を多くの人に見てほしいと考え、『未災地ツアー』を企画したのです」と「イケあい」の2代目の代表で、高知県立大学3年生の小林美輪さんは言う。

昨年3月に開催された2回目の未災地ツアーには、高知県立大学の他、岩手県、愛知県、和歌山県などの大学から35名の学生が参加し、大学に隣接する三里地区などを地元の消防団員の案内で歩いた。南海トラフ地震が発生すると三里地区には津波が30分程で到達すると想定されており、学生たちは倒壊の可能性がある建物、路地の広さ、避難経路などをチェックした。その他、南海トラフ地震に関する講義や災害図上訓練なども行われた。

「ツアーでは、高知の魅力も感じてもらうために、素晴らしい景色や美味しい食べ物も楽しんでもらいました。防災意識の向上だけではなく、学生同士の絆が深まったことも大きな成果でした」と小林さんは言う。学生が始めた未災地ツアーは大学の地域学実習として3市町村で実施されるまでに発展している。

地域の危険箇所と魅力を同時に体感する未災地ツアー(写真はすべて高知県立大学提供)

グループワークを行った未災地ツアーの参加者

大学と地域をつなぐ

「イケあい」は「大学生が接着剤・潤滑油となったコラぼうさい(コラボレーション+防災)」を活動のテーマとして掲げ、地域と大学との連携にも力を入れている。そのためメンバーは地域の様々な行事にも参加している。例えば、三里地区で開催される運動会には企画の段階から加わり、防災に関連する競技を提案。ヘルメットをかぶって脱げないように網の下をくぐったり、簡易担架で人を運ぶなど、楽しみながら防災を意識できる「防災リレー」を実現させた。
また、大学に近接する小学校で、女性や子どもの視点で避難所運営を考えるワークショップをNPOと共催。女性や子どもが安心して避難所生活を送れるためにはどのような工夫が必要かを、小学校の校舎と体育館の見取り図を使って地域住民とともに考えた。
さらに、救援物資の飲料水の空箱を利用して簡単に作ることができる段ボールベッドを考案している他、大学主催の災害訓練への協力、小学校での防災授業の実施、高知県内の他大学防災サークルとの情報交換など、幅広く活動している。
「私たちは、メンバーがそれぞれ所属する学部の特徴を活かして活動しています。例えば、災害訓練では、看護学部のメンバーは応急救護を、社会福祉学部のメンバーが手浴※の実技指導しました」と小林さんは言う。
昨年8月、広島県で大雨による大規模な土砂災害が発生した時は、清掃活動用のタオルと支援金の寄付を呼びかけた。9000枚以上のタオルが集まり、広島県のボランティアセンターに送られた。さらに、被災地でのボランティアを募集、約25名の学生が現地の清掃活動や被災者のニーズ調査などを行った。
今年は地域の「ボランティアセンター」としての活動も広げる予定である。例えば、学生ボランティアを高齢者宅に派遣して、話し相手になる、あるいは手浴を行うといった、地域住民の要望に応える取り組みである。
「防災のためには、私たちのような学生を含め、地域の人同士の信頼関係を深めることが大切です。今年はさらにたくさんの学生を巻き込んで、災害にも強いまちづくりに貢献したいと思っています」と小林さんは言う。

※手浴 洗面器などに入れたお湯に手を浸すこと。リラクゼーション効果があるが、災害現場ではコミュニケーションツールとして実施される。

校舎と体育館の見取り図を使って、避難所開設訓練を行う地域住民と「イケあい」のメンバー

空になった段ボール箱(2リットルペットボトル6本入り)を24箱使って作ることができる段ボールベッド

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