防災リーダーと地域の輪 第19回

私たちは未来の防災戦士

宮城県の気仙沼市立階上(はしかみ)中学校は東日本大震災の教訓を生かし、「知る」、「備える」、「行動する」を視点とした実効性のある防災学習に取り組んでいる。

宮城県気仙沼市は東日本大震災による津波で深刻な被害を受け、死者・行方不明者は1300名を超えた。気仙沼市立階上中学校(生徒数121名)は震災後に生徒、卒業生、地域住民などに対してアンケートを行った。その結果には、「津波が来てもたいしたことはないと思った」、「自分で判断せず、周りをみて判断してしまった」、「家族を心配して家に戻った」など、津波への危機意識、自助の認識不足を示す回答が多く見られた。

「震災の反省から、『ここには津波は来ないだろう』、『自分は助かるだろう』といった『思いこみ』を正し、自分の命は自分で守るという『自助』の力を毎年養っていく防災学習を実行することにしたのです」と階上中学校教諭の戸羽康幸さんは言う。

階上中学校は震災前、「自助」、「共助」、「公助」をテーマに1年毎に実施してきた防災学習を、「自助」、「自助・共助」、「自助・公助」と見直し、〝自助〟を基盤に、3年サイクルで学べるようにした。さらに、「知る」(正しい知識・技能を身につける)、「備える」(正しい知識をもとに、日頃から準備をする)、「行動する」(頭だけの理解ではなく、行動へと結びつける)といった視点も取り入れている。

そうした取り組みを「『私たちは未来の防災戦士』~『自助』『自助・共助』『自助・公助』の学びと『つながり』の大切さを通して~」という名で、2012年度防災教育チャレンジプランに応募、採択された。

初年度は「自助・共助」をテーマにした防災学習が行われた。例えば、階上中学校の学区内にある11の自治会との合同避難訓練である。この訓練では、自宅や地域にいる時に地震が発生したことを想定して、生徒は地域住民と各地域の避難所に避難。生徒はそこで、避難者リストの作成や避難者一覧表の掲示などに取り組み、地域の人と助ける側としての訓練も行われた。また、校内では「ショート避難訓練」も実施している。その内容は、授業時間、休み時間などに予告せずに緊急地震速報を流し、生徒はその場の状況に応じて、頭を隠す、あるいはガラス窓から離れるといった身の安全を守る行動をするという訓練である。この他にも、校庭に設営されている仮設住宅の住人との合同避難訓練、避難所設営訓練、防災マップ作成などにも取り組んでいる。

「地域住民の方々からは『階上中学校は防災学習に非常に熱心』という評価を頂いており、それが地域住民の方々の防災意識の向上にもつながっていると考えております」と戸羽さん。

こうした訓練の成果は実際にも現れている。2012年12月7日の夕方に地震が発生し、津波警報が発表された時、部活動で校内にいた約50名の生徒が体育館に集合し、訓練通りに避難所設営を始めた。帰宅していた生徒の何名かも自主的に登校し、避難所設営に参加している。体育館には300名を超える避難者が集まったが、生徒は避難者一覧表の作成、畳やイスによる避難スペースの確保、毛布の配給などに落ち着いて取り組んだ。

その後、2013年度は「自助・公助」、今年度は「自助」をテーマにして、防災学習を実施。そして、その地域と密接に連携した取り組みなどが高く評価され、2014年2月に防災教育チャレンジプラン「防災教育大賞」を受賞した。

「生徒の間では、防災学習は本校の伝統で、引き継いでいくものという意識が高まっています。震災の経験を風化させないためにも、今後、近隣の小学校や地域の方々との活動をさらに増やし、より多くの人が同じ意識をもって防災活動に取り組めるようにしていきたいです」と戸羽さんは言う。

(写真提供 気仙沼市立階上中学校)

気仙沼市立階上中学校の防災学習
自治体との合同避難訓練(上段左)、ショート避難訓練で教室の机の下に避難(上段右)、防災マップの作成(下段左)、体育館での避難所設営訓練(下段右)

防災リーダーの一言

防災学習は防災の知識を得ることだけが目的ではありません。マニュアルに書いてあるから、その通りに覚えて行動するのではなく、なぜ、そのように行動する必要があるのか、他にもっと良い方法はないかといったことを考えられる力を育てることが大切です。
また、生徒の「人間力」を伸ばすことも考えて防災学習を実行しています。人間力とは人生をより良く生きるための力です。その意味では、防災学習をきっかけに他の学校や団体と接する機会が増えたことで、生徒は自分の考えを他の人に伝えるというコミュニケーション能力を高められたと感じています。
本校の防災学習は今後も、「自助」、「自助・共助」、「自助・公助」というテーマを3年サイクルで行っていく予定です。過去の焼き直しとならないように工夫しながら継続していきたいと考えています。

戸羽康幸
とば・やすゆき
気仙沼市立階上中学校教諭

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内閣府政策統括官(防災担当)

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