特集 オフィスの防災

社会人が一日の大半をすごすオフィスで被災する可能性は少なくありません。オフィスの防災は、「自助」の意識を持って、社員自ら取り組むことが必要です。
オフィスで働くひとりひとりが防災の取り組みを積み重ねていくことは、企業全体の防災につながります。オフィスで机の周囲を見回して、気づいたことから始めてみましょう。

2011年9月に行われた帰宅困難者対応訓練の様子。ブルーシートを設置した帰宅困難者向けの待避スペースの確保、サバイバルシートなどの備蓄品の運搬訓練等を実施(三菱地所株式会社 提供)

パソコンの転倒防止と データのバックアップ
オフィスの防災で、比較的簡単に、すぐ取り組めるもののひとつが「パソコンの転倒防止」です。転倒防止ベルトで机に固定したり、粘着マットを使うなど、早速対策を講じておきましょう。
さらに、パソコンの固定とあわせて、データやシステムのバックアップも定期的かつ頻繁に行うようにしましょう。重要なデータ等は、遠隔地でのバックアップも有効な手段です。

避難経路を確保
出口や廊下、階段等の避難経路に物が置かれていると、避難の障害になります。例えば、2001年に東京・新宿歌舞伎町で発生した雑居ビル火災は、避難路となるはずの階段が各フロアの物置代わりに使われ、荷物でふさがれていたため、44人の死亡者を出す惨事となりました。
日ごろからオフィスの整理整頓に努めることも大事な防災対策です。

オフィス家具の固定
建物に被害がない場合でも、オフィス家具類の転倒・落下・移動が発生します。まず身の回りの什器・備品から、耐震確認をはじめてみましょう。
階層別の発生率は、高層階で高くなる傾向が確認されています(図1)。これは、長周期地震動が一因と考えられます。長周期地震動は、建物や地域により異なりますが、高い建物の高層階が被害を受けやすい特徴があります。
オフィスにある背の高い大型キャビネットは、壁等に確実に固定し、コピー機等の事務機器や店舗用の機械設備も、地震で床を滑ったりしないように対策を講じましょう。その他、ガラス飛散防止や家具扉に止め金を付けるなど、家庭で行っている「安全空間」づくりの対策がオフィスでも活用できるでしょう(本誌「やってみよう防災対策」参照)

1時間降水量50mm以上の年間発生回数

危険物の安全確認と消火器の準備
灯油や塗料の入った容器の転倒・落下防止、火を使用する設備の安全確認を行いましょう。
地震の際は、まず身の安全を図り、揺れがおさまってから消火にあたります。屋内消火栓やスプリンクラー設備が破損する場合もあります。職場ごとに消火器等で初期消火が出来るように準備・訓練しておくことが必要です。

非常用物品や救出用資器材等を備蓄
飲料水、食料、担架や工具等の救出用資器材、包帯、三角巾等の救急セット、医薬品などを準備しましょう。取り出しやすく、耐震上問題がない場所に保管し、定期的な点検も行いましょう。
水や食料の備蓄は、地震による断水などに備えて、3日分程度。飲料水は、一人あたり一日3リットルが目安です。社員用の水や食料、毛布などは、各自で管理するようにしてもよいでしょう。

帰宅困難者対策
自宅までの距離が20km以上の人は帰宅困難と想定されています。東日本大震災の当日は、交通機能が停止し、首都圏全体で約515万人の帰宅困難者が発生しました(内閣府推計)。
首都直下地震帰宅困難者等対策協議会では、混乱防止のため、首都直下地震発生時には、社員を一定期間社内に待機させる「一斉帰宅抑制」を企業に推進しています。
なお、社員各自は、待機後の徒歩帰宅に備え、簡易食料や運動靴、帰宅経路の確認等の準備を行っておくことも大切です。

任務分担を決める
日ごろの防災と、地震等の災害発生時の任務分担があります。
日ごろの防災は、防災責任者、火元責任者、建物・施設、消火器、防災訓練等の担当を決めて、日常の点検などを実行します。自衛消防組織(一定の大規模・高層の建築物には消防法に基づき設置される)や労働災害防止の組織等、社内の既存の体制を活用しましょう。
発災時の任務分担は、責任者であるリーダー、初期消火、情報連絡、避難誘導、救出・救護等、「誰が何をするのか」を明確にし、不測の事態にも対応できる柔軟な組織づくりをすることが重要です。

情報収集・伝達方法を確認
被害状況の把握、情報の収集、伝達のため、複数の方法を考えておくことが必要です。ラジオ、テレビ、インターネットなどで正しい情報を入手できるようにしておきましょう。
入手した情報は、情報の混乱をさけるために「情報連絡担当者」が取りまとめて社員に伝達します。災害時は電話回線の大混雑も予想されます。伝達手段は、衛星回線、無線、トランシーバーや拡声器などを用意し、日常業務でも使用して慣れておきましょう。場合によっては、バイクや自転車で人が直接出向く情報伝達も有効です。

安否確認方法を検討する
外出先で被災した場合の会社との連絡方法を確認しておきましょう。また、家族とも、事前にお互いの安否確認方法について話し合っておくことが必要です。
安否確認手段も、状況に応じた対応ができるように複数確保しておきましょう。電話、メールのほか、「災害用伝言ダイヤル(171)」、携帯電話やPHS等による「災害用伝言板」、インターネットによる「災害用ブロードバンド伝言板(web171)」などがあります。年に数回の体験利用期間中に実際に使ってみましょう。

防災教育・防災訓練の実施
防災教育は、災害時の企業の対策計画や社員の行動基準などを理解するための研修です。防災教育は、通常業務と切り離して考えるのではなく、管理者研修、新入社員研修、実務者研修などの人材育成研修の中に組み込んで実施することが必要です。
これらの研修で習得した知識が実際に使えるかどうかを試すのが防災訓練です。防災訓練で重要なことは、定期的に実施することです。訓練内容は、身を守る防護、初期消火、救出・救助、応急救護、避難、情報収集や、災害シナリオに基づいたシミュレーショントレーニングを行う図上訓練などがあります。共同ビルの場合には、管理会社とテナント各社で消防計画や防災計画などの情報交換や災害時の役割分担をしておくとよいでしょう。

周辺企業や地域住民との連携
企業も地域コミュニティーの一員です。災害時には、被害が広範囲に及ぶため、周辺企業や住民との「共助」が重要となります。機会があれば、地域の防災訓練へ参加しましょう。イザという時の周辺地域との連携・協力活動にも役立ちます。
実際に、阪神・淡路大震災など過去の災害で、多くの働き手や資器材をもつ企業や事業所が、災害直後の人命救助や地域の復旧活動に大きな力を発揮しています。日ごろから、地域住民や周辺企業、事業所と協力体制について話し合っておきましょう。
業種によっては、社員以外の訪問客、あるいは商業施設等の観光客、買い物客への対策も考える必要があるでしょう。オフィスの防災の基本には、生命の安全確保、二次災害の防止、地域との共生があります。業種、地域、オフィスや建物の規模、テナントや自社ビルの違い等、状況に応じて必要な対策を考えてみましょう。


企業と地域の防災活動1
広い敷地を活用した合同防災訓練

ダイキン工業株式会社 草加事業所(埼玉県)のケース
空調機器メーカーのダイキン工業株式会社の草加事業所は、1965年の事業所開設以来、地域と積極的な交流を続けています。2000年には、所有するグラウンド(約1万m2 )の開放や重機等の資器材の提供を含む災害時における自助・共助・公助を一体化した「地域防災協定」を周辺5町会および草加市との三者で締結。その後、この協定に基づく訓練も実際に始まり、2010年以降は、消防署とも連携した、三者合同による大規模な防災訓練を毎年実施しています。
2010、2011年は、事業所グラウンドを利用した避難訓練、屋外バーベキューコーナーでの炊き出し、起震車や煙体験等が行われました。東日本大震災発生時は、グラウンド開放等の対応を行う事態には至りませんでしたが、震災後の昨年と今年の訓練は参加者も増え、それぞれ600人以上が集まりました。今年の訓練では、救出・搬送訓練や、事業所の貯水槽の水と町会所有のポンプを使った初期消火訓練なども新たに盛り込まれました。草加事業所では、今後も地域と連携した“イザという時に役立つ”防災訓練の継続を考えています。

地域と合同で実施した防災訓練の様子(2012年5月)。放水による初期消火訓練(左)、がれきの中からの救出・搬送訓練(右)(ダイキン工業株式会社 提供)
地域と合同で実施した防災訓練の様子(2012年5月)。放水による初期消火訓練(左)、がれきの中からの救出・搬送訓練(右)
(ダイキン工業株式会社 提供)

企業と地域の防災活動2
首都圏で帰宅困難者対応

三菱地所株式会社(東京都)のケース
オフィスビル、商業施設等の開発や運営管理を行う三菱地所株式会社は、1923年に発生した関東大震災が契機となり、3 年後の1926年から、毎年9月に全社員参加による総合防災訓練を実施しています。また、東京駅・有楽町駅周辺町会を母体とした「東京駅周辺防災隣組」(2004年設立)の一員として、共助による地域防災力の向上に取り組んでおり、自治体と連携した帰宅困難者対応訓練も行っています。
東日本大震災当日、首都圏は大量の帰宅困難者が街にあふれました。三菱地所株式会社は、東京駅前の丸の内エリアや横浜などに保有するビルのロビーフロアや商業施設の空きスペースを開放して、3,500人を超す帰宅困難者を受け入れました。またこの時、丸の内エリアでは、グループ会社が運営する大型情報ビジョン(平時はエリア情報等を発信)を活用し、地震発生直後からテレビの災害情報の放映も行いました。

2011年3月11日東日本大震災当日の東京・丸の内の様子。帰宅困難者に待機スペースを提供(左)、大型情報ビジョンで災害情報を提供(右)
2011年3月11日東日本大震災当日の東京・丸の内の様子。帰宅困難者に待機スペースを提供(左)、大型情報ビジョンで災害情報を提供(右)
(三菱地所株式会社 提供)

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

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