多くの防災パンフレットに、「グラッときたら火の始末」と記載されていますが、これは間違いです。激しい揺れの最中に火の始末をすることはとても困難ですし、火傷等の危険性も高くなります。さらに都市ガスをはじめ、地震時に危険性の高い機器の多くは、おおむね震度5以上の強い揺れを感じたら、自動的に停止するようになっています。揺れの最中は自分の安全を確保し、揺れがおさまってから落ち着いて対応することが大切です。グラッときた時に、やらなくてはいけないことをなるべく少なくする事前の準備に心がけてください。
緊急地震速報を最大限に活用
緊急地震速報は、どのようにすれば最大限活用できるでしょうか。緊急地震速報は、予想される地震動の強さと猶予時間を迅速・確実に利用者に伝え、利用者は事前の周到な準備と訓練に基づいて速報を正しく使い、被害軽減に努めることが理想です。
そのためには、個々の利用者が季節・天候・曜日別に、自分の生活スタイルのなかで、どの時間帯であれば、どこで何をしているので、「○○秒の猶予時間があれば、△△ができる」などのシミュレーションと、それを実際に実施できるようにする訓練を徹底的に進める環境づくりがポイントです。
さまざまな時間帯や場所にいるときの緊急地震速報の活用法を考えると、耐震補強や家具の転倒防止策を含めた事前準備の重要性に気づくはずです。
「目黒メソッド」で地震被害を具体的にイメージ
表1は、地震被害を具体的にイメージできるように考えて利用している表です。「目黒メソッド」と呼ばれていますが、この表の縦軸は一日の時間と各時間帯の行動パターンです。何時に起床して、どんな交通手段で通勤して、会社ではどんな仕事をして…、そして何時に床につく、という具合に一日の行動パターンを詳細に記載します。
各行動パターンの時間帯に、地震が発生したことを仮定し、発災からの経過時間「三秒後、一分後、○日後、○週間後、○ヵ月後、○年後、一〇年後」にそって、それぞれのマス(A1 あ、B1 あ、…とか)に、自分の周辺で起こると考えられる事柄を一つひとつ書き出していきます。最初はなかなか書けません。しかしいつも考えていると少しずつイメージできるようになります。
表1に地震後の状況が書けたらば、今度は→の向きが逆の時間軸を用意して考えます(表2)。
○年、○ヶ月、○日、○時間、○分、三秒」と地震発生までの時間が与えられた際に、それぞれの時間をどう活用すれば、自分が将来直面する地震の影響を最小化できるかを考えるのです。
地震発生までの時間と、地震直後の時間では、前者のほうが余裕があります。この余裕時間を有効に活用して事前対策を講じ、事後にやらなくてはいけないことをなるべく少なくしておくことが基本なのです。
災害イマジネーションのある人は、現在の自分の問題がわかります。そしてその問題を、地震発生までの時間を利用して解決してくことができるのです。
東京大学生産技術研究所都市基盤安全工学国際研究センター長・大学院情報学環総合防災情報センター教授
目黒 公郎
めぐろ・きみろう
1991年東大大学院博士修了、2004年より現職。「現場を見る、実践的な研究、最重要課題からタックル」をモットーに、ハードとソフトの両面からの防災戦略研究に従事。