記者の眼

新避難を促す情報発信

2月末に南米チリの大地震による津波が日本に押し寄せた際の避難者の少なさが問題になった。内閣府などの調査では、最大3メートルの津波が来るとして大津波警報が出された青森、岩手、宮城県の約2千人のうち、避難した人は37.5%。避難しなかった人の半数余りは「浸水する恐れがないと思った」と答えた。

大津波警報や避難指示・勧告など危険な情報から目を背け、「大したことはない」と自分に都合のいい情報だけを信じる傾向は「正常化の偏見」と呼ばれる。今回の調査でもその傾向が現れている。

私は昨年9月に防災担当になり、民間気象会社の個人向け緊急地震速報をパソコンで受信し始めた。夜中に地震が起きた時に素早く対応するのが目的で、今はパソコンを立ち上げたまま寝ている。

緊急地震速報を受信しました――。夜中にけたたましいサイレンのような音を聞くと、震源や震度を確かめるより先に「まず避難」という気になる。きっと私個人に情報が発信されているため、緊張が高まるのだと思う。その点からすると、行政側が、切迫した危険を感じられる情報を住民一人一人に伝達することが避難を促すカギになる。

例えば「○○市に避難勧告」ではピンと来なくても「あなたの家が危ない」と言われて逃げない人はまずいない。パソコンや携帯電話の発達で、個人に情報を伝える環境は出来つつある。一部の自治体は、災害時に不特定多数の人の携帯に防災情報を配信できる「エリアメール」を導入している。気象庁も、大雨などの警報や注意報を市町村単位の発表に改善するなど、国でも情報をさらに個人向けに細分化する取り組みは進んでいる。

国の中央防災会議は、年内に避難のあり方を検討する専門調査会を設ける方針だ。その中で、民間事業者のサービスを参考に、携帯電話を使った住民個人への情報伝達の方法を検討してはどうだろうか。もちろん、大災害の時に携帯電話等の通信インフラが実際に使えるかどうかも詳細に調べる必要がある。

災害時に的確な情報発信を求められるのは国だけではない。新聞社のニュースはインターネットでも配信されている。紙面や画面の向こうにいる読者が必要とする防災情報は何か、ということを考えながら日々の記事を書いていきたい。

宋 光祐さん

朝日新聞東京本社社会グループ
宋 光祐
そう・こうすけ
2004年入社。松江総局、神戸総局を経て、09年4月から東京本社社会グループ勤務。

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

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