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語り部 平野啓子さん

●NHKのニュースのキャスターや大河ドラマの語りで知られる平野啓子さんは、名作や名文を暗唱する語り部として舞台やテレビで活躍中。日本国内だけではなく海外でも公演を行い、日本の文化や日本語の美しさを紹介しています。また、語りによる「稲むらの火」の上演といった災害教訓の継承に力を入れるだけではなく、自主的に防災訓練に参加するなど、日ごろから災害に備えた準備も怠りありません。

人と直接会って話すことで得られる情報は、とても多いのです

平野さんが語り部となるきっかけとなったのは、友人の一言であった。「OL時代、私は何か自分をもっと輝かせる場が欲しいと思って、いろんなことにチャレンジしましたが、どれも長続きしませんでした。それで友人に『私は何を趣味にしたらいい?』と電話で長々と相談したのですが、『趣味なんか人に教えてもらえるもんじゃないわよ。自分が毎日知らず知らずに好きでやっていることが趣味になるのよ!』と一喝されてしまいました(笑い)」

「毎日知らず知らずにやっていること」。考えてみると、思い当たることが一つあった。「私は子どもの頃から文字を見ると声を出して読み上げるという癖がありました。例えば、新聞の折り込み広告を『靴の大安売り、特価1980円!』などと声を上げて読んでいたのです」

文字を読むことが趣味になるかもしれないと思った平野さんは、さっそくその日から宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」の朗読を始めると、毎日欠かさず2時間以上続けることができたのだ。「これが、私の趣味だ」と平野さんは確信した。やがて、もっと朗読がうまくなりたいと思うようになり、朗読テープを借りたり、舞台を観に行くようになる。

そうした中、物語を暗唱する「語り」と出会う。

「ラジオドラマ『君の名は』のナレーションで有名な鎌田弥恵さんの『語り』の舞台を観た時、鎌田さんの言葉が、まるで鎌田さんの心の中にある言葉のように一言一言、私に伝わってきたのです。そして、その物語の中の風景までもが見えてきました。『これが私のやりたかったことだ!』とその時、思ったのです」

以来、平野さんは「語り」の世界に入り、20年にわたって、「源氏物語」から「走れメロス」まで様々な作品を語ってきた。そうした数多くの作品の中に、「稲むらの火」がある。「稲むらの火」は、史実をヒントに、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が津波の被害から村人を救った庄屋の奮闘を描いた物語だ。「人の心を豊かにする作品を私は選んできましたが、『稲むらの火』はまさしくそうした作品です」「日本には古くから、災害から身を守るために人々が必死になって語り継いできた言葉があると思います。そうした、命をかけて先人が残してきた言葉を伝えていきたいです」

災害教訓の継承にも熱意を燃やす平野さんは、防災意識も非常に高い。家には防災グッズの入ったリュックを備え、携帯電話は安否情報や地震災害情報が直ぐに確認できるよう設定している。さらに、防災訓練にも積極的に参加する。平野さんは、防災意識を高めるために、対面し伝え合うコミュニケーションの大切さを強調する。「小さい頃、海水浴に行くと、家族と津波の話をしたりするなど、日常生活の中で自然と防災のことを学んでいました」

「今はメールなど便利な方法もありますが、人と直接会って話すことで互いが得られる情報は、とても多いのです。日ごろから家族や地域の人と防災について自然と話せる機会を持つことが非常に重要ではないでしょうか」

平野啓子さん
平野啓子さん

Profile ひらの・けいこ
●語り部、大阪芸術大学教授、武蔵野大学非常勤講師。静岡県沼津市出身。「NHKニュースワイド」や「NHKニュースおはよう日本」のキャスター、大河ドラマ「毛利元就」、「義経(義経紀行)」の語り、伝統芸能等多くの番組を務める。また、「語り」芸術家としての舞台公演は高く評価され、文化庁芸術祭大賞、ギャラクシー賞奨励賞等を受賞。さらに、近著「兼好に恋して徒然草に学ぶ」(あすとろ出版)、語りCD「走れメロス」(ユニバーサル)、新刊DVD「平家物語」(ハゴロモ)等多数発表。6月から11月まで3回にわたって、かたり音らいぶ「わたしのおんなの一生」を銀座で公演。

平野啓子さん六義園で瀬戸内寂聴作の「しだれ桜」を語る

毎年、東京・六義園で瀬戸内寂聴作の「しだれ桜」を語る

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内閣府政策統括官(防災担当)

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