記者の眼

新たなメディア環境の活用を

 「ジャスコなう! 飲料、インスタント食品、肉、野菜、寿司、はあります。米飯は品薄状態」。「国道431号線、相変わらず立往生する車で進みません」。この年末年始、記録的な大雪に見舞われた山陰地方では、国道で1千台もの車が立往生したほか、停電が続いたり、店から食料品がなくなったりするなど、市民生活に深刻な影響が出た。冒頭の情報は、まさにこの最中、インターネットの短文投稿サイト「ツイッター」に“#sanin_snow”という符号のもとに書き込まれたものだ。市民からの生の情報に、地元の自治体からの情報も加わり、投稿は数日間で1万件を超えた。
 この間、私は、東京・渋谷の放送センターで、大雪への警戒を呼びかけるニュース原稿を書いていた。鳥取県は5年間過ごした初任地。投稿されている情報が住民にとってどれほど重要であるかは、実感としてよくわかった。増え続ける投稿を見ながら、私たち既存のメディアが対応できていない情報を伝える新たな媒体として、頼もしさすら感じた。ネットメディアの発達で、災害情報を伝える手段は、今後も間違いなく広がっていくだろう。
 一方、課題もある。情報が一気に拡散する現在のネット空間では、誤った情報が流された場合、検証や軌道修正が難しい。今回、悪意ある投稿はほとんど見られなかったが、災害と無関係な投稿も含まれていた。ネットメディアへのアクセスが難しい人たちの存在、いわゆる「情報格差」の問題も無視できない。こうした課題を解消するためにも、NHKを含めた既存メディアは、正確で迅速な情報をあまねく発信していかなければならない。その責任はネットメディア隆盛の時代にあって、むしろ一層重くなっていると考える。
 災害時に必要な情報をどうすれば有効に伝えることができるか。ネット空間の書き込みには、過去から続くこの課題を克服するヒントが隠されているように感じる。新たなメディアの可能性や活用策について、私たちマスメディアはもちろん、国や自治体などの防災機関ももっと目を向けて良いのではないだろうか。市民とともに新たなメディア環境を構築し、より良い災害情報の伝達について考えていくべき時代が始まっている。

森野 周さん
NHK報道局社会部
森野 周

もりの・しゅう
2004年NHK入局。鳥取放送局を経て、2009年から社会部で災害の取材を担当。

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内閣府政策統括官(防災担当)

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