Disaster Report 海外災害レポート

ミャンマーにおけるサイクロン被害
アジア防災センター研究員 塩見有美

2008年5月2日から3日にかけて、ミャンマーにサイクロン「ナルギス(Nargis)」が上陸し、エヤワディデルタからヤンゴンに深刻な被害をもたらしました。

サイクロンによる被害の概要

 4月27日にベンガル湾で発生した熱帯低気圧は、翌28日にはサイクロンへと発達し、徐々に勢力を強めていきました。5月2日、ミャンマー沿岸部では最大風速秒速56m、カテゴリー4(5段階で2番目に大きい)に達して、同日上陸し、エヤワディデルタ地域を横断しました。暴風雨に加え、高さ約3.5mの高潮も発生したことから、低地の同地域の被害をいっそう拡大させました。
 ミャンマー政府、国連の発表によると、7月1日現在、死者8万4537人、行方不明者7万738人となり、被災地の人口470万のうち240万が被災しています。これを過去のミャンマーのサイクロンの被害と比較すると(下表)、サイクロン「ナルギス」が突出していることがわかります。また、ほかの自然災害を含めても、同国で発生した一件の災害としては20世紀以降最大であるといえます。
 多数の家屋が倒壊し、病院、学校などの公共施設や、水道、道路、橋梁、電気、通信設備などのインフラにも深刻な被害が及びました。その結果、救援活動、物資の輸送・供給が滞り、食料、飲料水、医療、衛生などの問題も生じました。
 被災地域は同国の農業(コメ)にとって重要な地域ですが、高潮、洪水の被害が深刻であり、復旧のスピードが遅れれば次期の収穫に影響が生じるため、食料生産の面でも懸念されています。

サイクロン「ナルギス」の経路および被災地域
ミャンマーの土地利用
ミャンマーにおける自然被害(20世紀以降)

ミャンマー政府と国際社会の対応

 ミャンマー政府は、エヤワディ管区およびヤンゴン管区を被災地域に指定し、救援活動や物資の分配に取り組んできました。テイン・セイン首相が率いる緊急委員会を通じ救援活動、国家災害管理計画の実施、国際機関、国内外の支援組織との調整を行っています。
 5月19日、シンガポールで東南アジア諸国連合(ASEAN)の緊急外相会議が開かれ、国外からの支援物資、支援要員の受け入れ調整機関がASEANに設置されることになりました。それを受け、ミャンマー政府、ASEANそして国連の三者がコアグループを形成し、合同で支援策を話し合う国際支援会議が5月25日にヤンゴンにて開催されました。テイン・セイン・ミャンマー首相、パン・ギムン国連事務総長等、51カ国の代表、関係国際機関・団体の代表が出席し、今後の支援、復興策等について話し合われました。
 また、国際機関、各国政府、国際赤十字・赤新月社連盟、企業、学界、NGOなど、国内外のさまざまなセクターが、災害発生直後より、人材、物資や資金の提供を表明し、活動を行っています。国連は5月9日、国際社会に向け緊急支援要請(フラッシュアピール)を発出しました。6月16日現在、2億200万ドルの要請に対して、国連、政府、NGOなどより65%の拠出が表明されています。
 日本からは3回にわたって緊急援助物資が供与されたほか、国連児童基金(UNICEF)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国連食糧計画(WFP)などを通じた1000万ドルを上限とする緊急支援、NGOを通じた支援を含め総額約1170万ドルの援助の実施が決定されています。また国際緊急援助隊医療チームをエヤワディ管区南部に派遣し、医療活動を行いました。

ミャンマーのエヤワディデルタ地帯にあるボガレで、大型サイクロン被災者への援助活動を行う国際赤十字職員。(写真提供:ロイター/アフロ)

今後に向けた課題

 今後の復興に向け、災害予防の観点からもいくつかの課題が指摘されます。
 第一に、早期警戒システムの整備が必要です。通信インフラおよび早期警戒システムを整備し、住民にサイクロンや高潮についての正確な警報を伝達することが、迅速で適確な避難行動につながります。
 第二に、本来避難所となるべき学校なども倒壊するなどの被害を受けていることから、サイクロンシェルターや公共施設の整備が重要となっています。
 第三に防災教育を実施し、警報発令後に住民が確実に避難行動をとるようにしなければなりません。そのために避難訓練を実施するなど、今後の災害予防に向けてはさまざまな課題が挙げられます。

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