Disaster Report 海外災害レポート

中国四川大地震現地調査報告
アジア防災センター主任研究員 小鹿健平

2008年5月12日14時28分(現地時間)に中国四川省●(さんずいに文)川県を震源地とするマグニチュード7.9の強い地震が発生。被害の概況と被災者の状況、今後の復旧・復興についてお伝えします。

 アジア防災センターは、5月25日から5月30日までの日程で、現地の状況や課題を把握し、被災地の復旧・復興において阪神・淡路大震災の経験と教訓に基づいた協力、貢献の可能性を調査するために、人と防災未来センターと協力して現地調査を実施しました。調査にあたっては、被災地の都江堰市、綿竹市等を訪れ、被害状況の調査や被災者からの聞き取りを行うとともに、四川省人民政府、中国地震局、民政部国家減災中心等の防災関係機関を訪問して情報収集・意見交換を行いました。

被害の概況

 7月1日現在の新華社通信の発表によると、死者は6万9195人、行方不明者は1万8392人、負傷者は37万4177人にのぼります。今回の震源付近では、1933年茂●(さんずいに文)北迭渓地震(M7.5)、76年松潘・平武地震(M7.2)など歴史上M7以上の地震が数回発生しましたが(中国地震情報網より)、今回発生した地震はこの地域で最大の地震となりました。
 四川省の省都である成都市は、建築物等に物的被害は見られず、商店なども通常どおり営業しており、地震発生2週間後にもかかわらず平穏な市民生活が営まれていました。しかしながら、成都市から約60km離れた、有名な観光地である都江堰市においては、多くの建築物に被害があり、商店施設は閉鎖されていました。一方、成都市の北約100kmに位置し、地震の断層に近接していると考えられている綿竹市漢旺鎮および遵道鎮では、漢旺鎮政府庁舎も完全に倒壊するなど多くの建築物が倒壊し、街は大きな被害を受けました。

被災地調査箇所(都江堰、綿竹)位置図。

被災者の状況

 調査時には公的なテント村や大規模な仮設住宅の建設が急ピッチで進められていました。住民の多くは、建築物の被害などにより避難生活を強いられていましたが、現地では日本のように事前に震災時の避難場所が指定されているわけではなく、また避難場所となりうる学校などの公共施設には相当の被害があったため、被災者は公共広場などに集合していたり、自宅近くの路上などに個別に避難しているケースが多く見られました。また、自宅が居住可能であるものの、余震への恐怖などから、住居に戻るのを嫌がってテント等で生活する住民も見られました。
 避難生活においては、風呂やトイレ、清潔な水の確保が必要とされ、毛布、薬などの不足など衛生面に課題がありました。また、昼間の気温が30℃を超えるため、感染症防止のために行政機関により消毒等の防疫策が行われていました。応急対応期から復旧・復興期へと移行する中で、被災者の生活の再建が大きな課題となりますが、生活基盤や職を失った被災者は、とりわけ長期的な視点での心のケアが必要だと思われました。

被災者への支援

 被災者には、地震から3カ月の間、1人につき1カ月あたり15kgのコメと300元の現金が政府から支給されることとなりました。また、企業の支援やボランティア活動など地域の助け合いにより、水や食料、生活物資の配布などが行われ、被災者の支援には一定の役割を果たしました。農村部においては、震災以前に借り入れた営農資金の返済を全額免除する救済策が実施。綿竹市では、レントゲン施設を備えた仮救護所や仮設の小学校も開設していました。
 四川省人民政府外事弁公室によると、5月28日(訪問時)現在、世界中のおよそ40カ国から届いた2000トン以上の支援物資を、公正な管理の下に被災者へ順次届けているとのことでした。また、我が国政府に対して、四川省政府として、他国に先駆けて活躍した日本の国際緊急援助隊救助チームと医療チームの活動や、兵庫県などからの毛布等の支援に対する感謝が表明されました。

復旧・復興計画

 震災の復旧・復興においては、「●(さんずいに文)川地震災後復旧・復興条例」が中国国務院により、6月8日に施行。復旧・復興計画の策定にあたっては、阪神・淡路大震災や新潟県中越地震の復興経験を参考としたいとする要望がありました。計画の期間は2015年までの8年間。2008〜10年は計画の第1段階とし、当面講ずべき措置を中心に被災者の震災前の生活水準への回復を目標に掲げ、2011〜15年は第2段階として、さらに進んで復興の完了期と位置づけ、策定に向けて検討されました。被災地では、建築物の設計耐震基準を定めるための震度分布図の見直しにも着手しており、中国地震局が被災地の中から特徴的な被害を受けた1000棟以上の建築物を抽出し、その被害状況等について詳細に調査を進めていました。また、中国政府は被災地の復旧・復興を進めるにあたり、沿海部の経済的に豊かな省に対して担当する被災地域を割り振り、分担して支援に当たらせることとしていました。
 住宅や産業などの復興にあたっては、将来の災害に耐えうる災害に強い都市づくりの視点を取り入れるとともに、今回得られた教訓・経験を生かし、国や地方行政機関の防災能力の強化や一般住民の防災意識の向上の機会として、防災対策に取り組むことも重要であると思われます。

まとめ

 今回調査した地域では、公的避難所や救護施設、仮設小学校、仮設住宅の建設、医療、防疫、さらには耐震基準の見直しなど多方面で対応が進められていました。今後の復旧・復興にあたっての日本の支援については、震災復興計画策定に対する助言や仮設住宅の運営とコミュニティの維持、被災者の心のケア、産業の復興、文化財の修復など阪神・淡路大震災の経験と教訓が生かせる分野であると考えられました。また、被災地の速やかな復興計画が急ピッチで作成されていることから、アジア防災センターとしては、計画策定後、復興計画の妥当性検証や進捗状況の評価について、中国からの求めに対応していきたいと考えております。

階段を残して倒壊した校舎(都江堰市聚源鎮)。
階段を残して倒壊した校舎(都江堰市聚源鎮)。
自主的に集合した被災者(都江堰市)。
自主的に集合した被災者(都江堰市)。写真提供:アジア防災センター(左右写真ともに)

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.