Disaster Management NEWS— 防災の動き

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荒川堤防決壊時における地下鉄等の浸水被害想定の公表について

中央防災会議「大規模水害対策に関する専門調査会」(座長:秋草直之 富士通株式会社取締役相談役)では、大規模水害発生時の課題に関する検討の一環として、荒川堤防決壊時における地下鉄等の浸水想定について検討を進め、その結果をとりまとめました。

 検討の結果、現況程度の止水対策を前提とした場合には、17路線、97駅、延長約147kmが浸水するケースや、堤防決壊後3時間余の短時間で大手町駅などの都心部の地下の駅が浸水するケースがあることが確認されました。
 一方で、地下鉄駅等の出入口やトンネル坑口に止水対策を施せば、完全な止水でなくても、大幅に浸水区間を少なくすることが可能であることも確認されました。

【検討概要】

 専門調査会では、別図1のケースについて、検討を実施しましたが、ここでは「200年に1度の発生確率の洪水(注1)により、北区志茂地先で堤防が決壊した場合(注2)」の被害想定について紹介します。

【200年に1度の発生確率の洪水(注1)により、北区志茂地先で堤防が決壊した場合(注2)(別図2)】

1)トンネル坑口や地下鉄駅等の出入口の止水対策が現況程度(注3)の場合

  • 堤防決壊後約10分で南北線赤羽岩淵駅、約4時間で千代田線町屋駅、約8時間で日比谷線入谷駅から、はん濫した水が地下の線路部へ流れ込み始めます。
  • 堤防決壊後、6時間で西日暮里(注4)など6駅、9時間で上野(注5)など23駅、12時間で東京(注6)・大手町など66駅、15時間で銀座・霞ヶ関・赤坂・六本木(注7)など89駅が浸水するものと見込まれます。
  • 地表よりも早くトンネル経由ではん濫水が到達する駅は35駅。東京駅と銀座駅では約6時間、大手町駅では約7時間早く水が到達するものと見込まれます。
  • 霞ヶ関・赤坂・六本木など44駅では、地表のはん濫水は到達しませんが線路部は浸水するものと見込まれます。
  • 最終的には、17路線の97駅、延長約147kmが浸水するものと見込まれます(注8)。このとき、17路線の81駅、延長約121kmでトンネルや駅の改札フロア等の部分が水で一杯となる水没状態(注9)になるものと見込まれます。

2)トンネルの坑口や地下鉄駅等の出入口を高さ2mまで塞いだ場合

  • 出入口や坑口を高さ2mまで塞ぐことにより、防水対策が現況程度の場合と比較して、はん濫水の流入を押さえることができるため、地下鉄駅等の浸水速度が遅くなりますが、最終的な浸水区間(路線数、駅数、延長)はわずかしか変わりません(注10)。
  • 東京駅・大手町駅で約1時間半、銀座駅・霞ヶ関駅で約3時間、赤坂駅・六本木駅で約3時間半、浸水の開始時間が遅くなると見込まれます。

3)トンネルの坑口や地下鉄駅等の出入口を大部分塞いだ場合(注11)

  • はん濫水が地下に流入してくる場所の大部分を塞げば、東京、大手町、銀座、霞ヶ関など都心部の主要な地下鉄等の駅は浸水しないものと見込まれます。
  • 最終的な浸水区間は、9路線の14駅、延長約17kmと見込まれます(注12)。水没状態(注9)になる駅はないものと見込まれます。

【おわりに】

 この被害想定結果も踏まえて、今後、地下空間からの円滑な避難の実施方策、地下空間の水防対策、地下空間の機能の早期復旧方策など地下空間における被害軽減方策について、専門調査会で検討を進めていくこととしています。
 本被害想定の詳細及び専門調査会の検討状況については、下記のURLからご覧ください。
大規模水害対策に関する専門調査会
https://www.bousai.go.jp//kaigirep/chuobou/senmon/daikibosuigai/index.html

注1:
200年に1度の発生確率の降雨(流域平均雨量約550mm/3日)に伴う、荒川の岩淵地点(KP21.0km)での流量約14000m3/sの洪水
注2:
荒川右岸KP21.0kmが決壊し、荒川等の河川の排水施設(水門や排水ポンプ場等)が全く稼働せず、はん濫域内の隅田川、神田川、日本橋川が満杯状態になっている場合
注3:
止水板により浸水を防げる高さは場所によっても異なるが、一般的な箇所における路面から止水板の上端までの高さが概ね1m程度であることから、モデル上は止水板により浸水を防げる高さは1mとした。このほか、既設の防水扉、防水ゲート等は全て稼働し完全に遮水する機能を果たすものとした。地下鉄駅等に接続する地下街と一体となったビルの出入口等でモデルに反映できていないものがあるが、そこからの浸水は見込んでいない。
注4:
西日暮里駅で浸水するのは地下鉄千代田線の部分。
注5:
上野駅で決壊後9時間の時点で浸水するのは地下鉄日比谷線・銀座線の部分。
注6:
丸の内線及びJR横須賀線・総武本線、京葉線の部分。
注7:
六本木駅で浸水するのは都営・大江戸線のみ。日比谷線の六本木駅は浸水しない。
注8:
駅の全体数については、営業体・路線名は異なっていても同一の名称の駅については一つとして数えた。一方、構造的にはつながっていても名称が異なる駅については別のものとして数えた。なお、個別路線毎の駅数は以下の通り。また、延長は、モデル上の浸水区間の延長の合計である。
・東京メトロ 銀座線15駅、丸の内線6駅、東西線6駅、日比谷線15駅、千代田線13駅、有楽町線9駅、半蔵門線6駅、南北線15駅
・都営地下鉄 浅草線13駅、三田線10駅、新宿線6駅、大江戸線16駅
・JR東日本 横須賀線・総武本線4駅、京葉線2駅
・つくばエクスプレス4駅
・埼玉高速鉄道1駅
注9:
駅については、改札階等のフロアの天井に概ね相当する高さに水位が達するかどうかで「水没状態」の有無を判断した。
注10:
大江戸線牛込柳町駅が浸水しなくなる。永田町駅も有楽町線の部分は浸水しなくなる。最終的に、17路線の96駅、延長約146kmが浸水するものと見込まれる。
注11:
ここで、はん濫水が地下に流入してくる場所の大部分を塞いだ場合としては、トンネル坑口は完全に止水する一方で、駅の出入口では3mと設定している出入口高に対し、高さ2.9mまでの部分を塞いだ場合を想定した。
注12:
個別路線毎の駅数は以下の通り。駅数、延長に関する考え方については、注8を参照。
・東京メトロ 銀座線3駅、日比谷線2駅、千代田線1駅、半蔵門線1駅、南北線3駅
・都営地下鉄 新宿線1駅、大江戸線1駅
・つくばエクスプレス3駅
・埼玉高速鉄道1駅
図1:地下鉄等の浸水シミュレーションの検討ケース等
想定堤防決壊箇所

北区志茂地先(荒川右岸KP21.0km)、足立区千住地先(荒川右岸KP12.5km)、墨田区墨田地先(荒川右岸KP10.0km) 計3箇所

地上の氾濫ケース
地上の氾濫ケース
注1:
浸水位が運転可能な浸水深を上回った場合に運転停止する。ただし破堤開始〜水位が破堤敷高を下回るまでは、破堤地点上流のポンプ場排水は停止する。
  • 国、都県管理の排水ポンプ場は、浸水深が各施設ごとの運転停止する水位に達した場合に運転停止
  • 市区町村管理の排水ポンプ場は、機能停止高が不明な施設については浸水深が50cmに達した場合に運転停止
注2:
燃料補給が「できない」場合には、備蓄の燃料が無くなれば運転停止する
  • 国管理の排水ポンプ場は、各施設ごとの燃料備蓄量に基づく運転継続可能時間を超えた場合に運転停止
  • 都県管理の排水ポンプ場は、連続運転時間が不明な施設は運転継続時間が1日を超えた場合に運転停止
  • 市区町村管理の排水ポンプ場は、連続運転時間が不明な施設は運転継続時間が2日を超えた場合に運転停止
注3:
水門等が操作「できない」場合には、水門が閉じたまま開扉できない設定。水門等が操作「できる」場合には、河川の水位が堤内側の水位を下回った瞬間に開扉する理想的な操作を実施。
注4:
排水ポンプ車については、3日後から配置するものとし、関東地整内の全ポンプ車の排水能力に相当する16.83m3/sを全ての浸水メッシュに分配して排水することとした。
注5:
資料中、200年に1回の確率で発生する洪水流量は「1/200年」と記載し、1000年に1回の確率で発生する洪水流量は「1/1000年」と記載した。
防水対策の検討ケース

止水板等(注6)の条件  計4ケース

(1)出入口(注7):高さ1m(現況程度)
坑口部(注8):なし(現況程度)

(2)出入口(注7):高さ2m
坑口部(注8):高さ2m

(3)出入口(注7):上部隙間10cm(注9)
坑口部(注8):上部隙間10cm(注9)

(4)出入口(注7):上部隙間10cm(注9)
坑口部(注8):完全遮水(注10)

※ 地下鉄駅等出入口の防水扉(注11)及びトンネル坑内の防水ゲート(注12)の設置箇所において、氾濫水は流入及び移動しないこととしている。また、トンネル坑口部に接続する部分に設置されている防水壁等については、現況をモデル化している。
注6:
地下鉄出入口においては止水板+ステップ、トンネル坑口においては止水板や防水ゲートを示す。
注7:
防水扉がない全ての地下鉄駅等出入口に設置されていると仮定。
注8:
千代田線(北千住−綾瀬駅間)、日比谷線(三ノ輪−南千住駅間)、つくばエクスプレス(南千住−北千住駅間)、京成押上線(押上−京成曳舟駅間)、東武伊勢崎線(押上−曳舟駅間)の計5つを設定。
注9:
はん濫水の流入を完全に防げず、若干水が漏れて流入する場合を想定し、地下鉄出入口(高さ3m)及びトンネル坑口(高さ5m)において、上部の10cmの隙間が空いている場合を設定。
注10:
はん濫水の流入を完全に防ぐ対策を実施する場合を設定。
注11:
地下鉄駅等の出入口に設置されている防水用の扉。防水扉が設置されている出入口は完全遮水と仮定。
注12:
地下鉄等のトンネル坑内に設置さている防水用のゲート。防水ゲート設置箇所において水の流入を完全に遮断すると仮定。
留意事項
  • 地下鉄駅等の出入口等は、事業者への確認や現地調査により把握可能なものを設定しているが、地下鉄駅等に接続するビルの出入口等でモデルに反映できていないものが存在する。
  • 上部隙間10cmのケースは、応急的な止水対策を実施した場合の効果の程度を確認する目的で、一つの例として取り上げたものであり、その数値が防水対策の技術的限界を意味するものではない。
  • 地上と地下との間での水の流出入により生じる地上のはん濫水の水位・流量等の変化については考慮していない。
  • 駅の形状及び通路は実際は複雑な形状であるが、モデル上は単純な矩形断面として設定している。
図2:止水板等の高さの違いによる地下鉄等の浸水状況の比較

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