第5節 その後の大災害を契機とした災害対策の充実・強化
5-1 伊勢湾台風を契機とした総合的な防災体制の確立
(伊勢湾台風の概要)
関東大震災の後も、大規模災害の発生を契機として災害対策の充実・強化が進められてきた。
戦後の災害対策を大きく前進させる契機となったのが、昭和34年(1959年)の伊勢湾台風である。伊勢湾台風は、同年9月26日に和歌山県潮岬に上陸し、満潮に近い潮位や強風による高波も相まって、名古屋港のそれまでの最高潮位を1m近く上回る高潮を発生させた。この台風は、東海地方を中心に広範囲にわたって死者・行方不明者を5,098人も出すなど、大きな被害をもたらした。
(災害対策基本法の制定)
伊勢湾台風による被害の発生を受け、昭和36年(1961年)には、我が国の災害対策に関する基本法制となる「災害対策基本法」(昭和36年法律第223号)が制定された。この法律では、二つの政策転換が行われた。一点目は、災害発生後の応急対策に重点が置かれていたそれまでの災害対策を見直し、災害の予防から応急対策、復旧・復興まで一貫した災害対策を実施していくこととした点である。二点目は、総合的な防災対策の推進のため、各分野の取組を総合調整する仕組みを構築した点である。
第2節で見たとおり、関東大震災発生時の災害対策は、災害発生後の事後的な対策が中心であった。また、政府の体制としても、臨時震災救護事務局が内務省に設置されたように、内務省を中心として対策が講じられてきた。
「災害対策基本法」が成立したことにより、「災害を未然に防止し、災害が発生した場合における被害の拡大を防ぎ、及び災害の復旧を図る」と、初めて防災の概念が明確にされた。また、防災に関する各主体の責任を明確にし、具体的な対策・措置を明記するとともに、中央防災会議を始めとする防災会議の設置、防災基本計画を始めとする防災計画の策定等が規定され、総合的かつ体系的な防災の推進体制が確立した。