令和2年版 防災白書|第1部 第1章 第1節 1-1 国民の防災意識の向上


第1部 我が国の災害対策の取組の状況等

我が国は、その自然的条件から、各種の災害が発生しやすい特性を有しており、令和元年度の1年間でも、9月に発生した「令和元年房総半島台風」や10月に発生した「令和元年東日本台風」をはじめとした災害が発生した。第1部では、最近の災害対策の施策、特に令和元年度に重点的に実施した施策の取組状況を中心に記載する。

第1章 災害対策に関する施策の取組状況

第1節 自助・共助による事前防災と多様な主体の連携による防災活動の推進

1-1 国民の防災意識の向上

我が国は自然災害が多いことから、平常時には堤防等のハード整備やハザードマップの作成等のソフト対策を実施し、災害時には救急救命、職員の現地派遣による人的支援、被災府県からの要請を待たずに避難所避難者へ必要不可欠と見込まれる物資を緊急輸送するプッシュ型物資支援、激甚災害指定や被災者生活再建支援法等による資金的支援等、「公助」による取組を絶え間なく続けているところである。

しかし、現在想定されている南海トラフ地震のような広域的な大規模災害が発生した場合には、公助の限界についての懸念も指摘されている。事実、阪神・淡路大震災では、家族も含む「自助」や近隣住民等の「共助」により約8割が救出されており、「公助」である救助隊による救出は約2割程度に過ぎなかったという調査結果がある(図表1-1-1)。市町村合併による市町村エリアの広域化、地方公共団体の公務員数の減少など、地方行政を取り巻く環境が厳しさを増す中、高齢社会の下で災害時に配慮を要する高齢者等は増加傾向にあり、国民一人一人が災害を「他人事」ではなく「自分事」として捉え、防災・減災のための具体的な行動を起こすことにより、「自らの命は自らが守る」「地域住民で助け合う」という防災意識が醸成された地域社会を構築することが重要である。

図表1-1-1 阪神・淡路大震災における救助の主体と救出者数
図表1-1-1 阪神・淡路大震災における救助の主体と救出者数

防災・減災のための具体的な行動とは、地域の災害リスクを理解し、避難経路の確認や食料の備蓄等による事前の「備え」を行うことなどが考えられる。多発する水害等から身を守るためには、ハザードマップ等により地域の災害リスクを適切に理解したうえで、自治体から発令される避難勧告等の情報を踏まえて、早期に避難することが重要である。

令和元年度東日本台風等により人的被害が生じた市町村のウェブモニターに対して行ったアンケート調査(図表1-1-2)によると、ハザードマップ等の災害リスクを示した資料を見たことがあり、避難の参考にしていると答えた方の割合は約半数(51.3%)であり、半数(45.9%)はこれら資料を見たことがない又は見たことはあっても避難の参考としていない。

ハザードマップを見たことがあり、かつ自宅が洪水の危険又は土砂災害の危険がある区域(浸水想定区域、土砂災害警戒区域等)に入っていると回答した方のうち、4割強(43.5%)の方が何らかの避難行動を取っているのに対し、ハザードマップ等を見たことがないと答えた方のうち、何らかの避難行動を取った方は1割強(16.4%)と避難行動に大きな差があった。(図表1-1-2)

図表1-1-2 令和元年台風第19号等により人的被害が生じた市町村住民におけるハザードマップの認知度と、実際に取った避難行動の種類等
図表1-1-2 令和元年台風第19号等により人的被害が生じた市町村住民におけるハザードマップの認知度と、実際に取った避難行動の種類等

このように、災害時に適切な避難行動がなされるよう、平時より災害リスクととるべき行動について理解しておくことが重要である。しかしながら、同調査によると、ハザードマップ等について、ハザードマップ等を見ただけでは災害リスクは把握できてもとるべき行動がわからないと回答した人が約3割、災害リスクがわからないと回答した人が約2割、縮尺や色遣いがわかりづらいと回答した人が約3割等、ハザードマップ等に何らかの課題があると回答した人が7割程度いた。

自分が避難する必要があるのか、また、避難する必要がある場合いつ避難するのかの判断に際しては、自治体から発令される避難情報を正確に理解しておくことが重要である。令和元年の出水期から運用が始まった5段階の警戒レベルは、平成30年7月豪雨の教訓を踏まえ、住民がとるべき行動を直感的に理解しやすいよう、防災情報をわかりやすく提供するものである。警戒レベル3で避難に時間のかかる方は避難開始、レベル4で災害の危険があるところにいる方は全員避難、レベル5はすでに災害が発生している状況であり、指定緊急避難場所等へ向かうなどの屋外移動は危険かもしれないので、たとえばより安全な上階や山から離れた側の部屋等への避難など、命を守るための最善の行動をとるというものである。

この警戒レベル情報の認知度について調査したところ、「理解している」と答えた方の割合は17.5%である。「聞いたことはある」「知っている」を加えると、約9割(90.9%)の方が警戒レベルについて認知しているものの、必ずしも避難等のとるべき行動と結び付けて理解しているわけではないことから、警戒レベルの意味について、より一層の普及が必要である。(図表1-1-3)

図表1-1-3 令和元年台風第19号の被災地域における5段階の警戒レベルの認知度
図表1-1-3 令和元年台風第19号の被災地域における5段階の警戒レベルの認知度

風水害をはじめとする自然災害から身を守るためには、ハザードマップや自治体から発令される情報、安全な避難経路等を理解したうえで、安全な場所に適切なタイミングで避難する必要がある。そのためには、必要な知識を獲得し、避難訓練に参加するなど、いざという時に行動するための「事前防災」が必要である。

また、高齢者、障がい者、幼児など、避難行動に時間を要する方や、避難を一人でできない方の避難をいかに支援していくかも大きな課題である。

平成30年7月豪雨では、岡山県、広島県、愛媛県において199人の方がお亡くなりになったが、そのうち60代以上の方が約7割(131人)であった。また、岡山県によると、県内の同災害による死者のうち、障がい者が全体の四分の三とのことであった。令和元年東日本台風においても、約8割(67人)が60代以上であった。(図表1-1-4、図表1-1-5)

図表1-1-4 平成30年7月豪雨における年代別の死者数
図表1-1-4 平成30年7月豪雨における年代別の死者数
図表1-1-5 平成30年7月豪雨の死者における要介護認定割合
図表1-1-5 平成30年7月豪雨の死者における要介護認定割合

長野県長野市長沼地区は、令和元年東日本台風において、千曲川の堤防が決壊したことにより大きな被害を受けた地区であるが、地区防災計画を作成する取組の中で、地域の災害リスクについて認識を深め、住民らが独自の避難ルールを定めた「長沼地区避難ルールブック」を作成し、要配慮者への避難の呼びかけについても、名簿をもとに民生委員がよびかけるなど予め対応策を決めていたことにより、多くの方が避難を行った。災害から身を守るための共助の重要性が改めて認識されたところである。

今後、内閣府や関係省庁においては、こうした調査データや災害からの教訓を踏まえて、安全な避難行動等を通じた防災・減災を進めるため、国民一人ひとりが、災害リスクやとるべき行動についての「知識」を身につけ、知識を活かして「行動」するための力を向上させるよう、そして、お互いを支えあう「助け合い」の地域社会が確立されるよう、啓発や訓練の機会を絶えず提供して国民や地域社会を支援するとともに、福祉関係者や学校関係者など多様な主体の参加を確保するために有効な地区防災計画や個別避難計画などの取組を推進していく。

本節では、このような観点から、自助・共助による「事前防災」に焦点を当て、多様な主体による連携を促進するための様々な施策を紹介する。

【コラム】
「ハザードマップポータルサイト」

国土交通省及び国土地理院では、住民等に対して災害リスク情報を分かりやすく提供するとともに、全国の市町村が災害種別ごとに作成しているハザードマップを簡単に検索できるよう「ハザードマップポータルサイト」を平成19年4月から運用している。

コンテンツの一つである「重ねるハザードマップ」では、防災に役立つ様々な災害リスク情報を地図に重ねて表示できる。例えば大雨が降ったときに危険な場所を知るために、「浸水のおそれがある場所」、「土砂災害の危険がある場所」、「通行止めになるおそれがある道路」等を1つの地図上で知ることができ、避難ルートの検討などに役立てることができる。

大雨が降ったときに危険な場所を知る
大雨が降ったときに危険な場所を知る

「重ねるハザードマップ」の活用方法の紹介

中央防災会議防災対策実行会議の「令和元年台風第19号等による災害からの避難に関するワーキンググループ」報告書では、詳細な地形分類情報について、災害リスクを示すのに極めて有効であるが未整備の地域も多いため、中小河川等の地域についても整備を進めることとされた。これらの地形分類情報も今後ハザードマップポータルサイトに掲載し、さらに地域の災害リスクを知るために有用なサイトとしていく予定である。

【コラム】
「災害関連死の定義について」

地震による建物の倒壊や津波などによる直接的・物理的な原因ではなく、災害による負傷の悪化や避難生活等の身体的負担による疾病により死亡する、いわゆる「災害関連死」については、平成7年に発生した阪神・淡路大震災、平成23年に発生した東日本大震災、平成28年に発生した熊本地震など、大規模な災害が発生するたびに、報道等において大きく取り上げられ、広く国民に知られるところとなったが、政府における明確な定義はなかった。

消防庁においては、死者の定義を、「当該災害が原因で死亡し、死体を確認したもの又は死体は確認できないが、死亡したことが確実な者」とした上で、「当該災害による負傷の悪化又は避難生活等における身体的負担による疾病により死亡し、災害弔慰金の支給等に関する法律(昭和48年法律第82号)に基づき災害が原因で死亡したものと認められたもの」についても、死者として取り扱ってきた。また、東日本大震災における「震災関連死」については、復興庁において、「東日本大震災による負傷の悪化等により亡くなられた方で、災害弔慰金の支給等に関する法律に基づき、当該災害弔慰金の支給対象となった方」と定義付けを行いその数等について把握してきた。

政府においては、従来から、災害時において避難生活等が原因で亡くなる、いわゆる災害関連死を少しでも減らすよう、政府全体として避難所の生活環境の改善に取り組んできたところであるが、災害関連死を減らすためには、まずはその数を把握することが重要であるという認識の下で、平成31年4月に災害関連死の定義を定め、関係省庁と共有するとともに自治体への周知を行った。

今後、東日本大震災や熊本地震等の過去の災害関連死の認定例、判例等の事例を収集・分析し、整理した上で公表する予定としている。

〇災害関連死:当該災害による負傷の悪化又は避難生活等における身体的負担による疾病により死亡し、災害弔慰金の支給等に関する法律(昭和48年法律第82号)に基づき災害が原因で死亡したものと認められたもの(実際には災害弔慰金が支給されていないものも含めるが、当該災害が原因で所在が不明なもの(行方不明者)は除く。)

災害関連死
災害関連死

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内閣府政策統括官(防災担当)

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