第3章 「気候変動×防災」の取組
1-1 「気候変動×防災」の検討の状況
令和元年の房総半島台風や東日本台風等をはじめ、平成27年9月関東・東北豪雨、平成28年8月に北海道・東北地方で相次いだ台風、平成29年7月の九州北部豪雨、平成30年7月豪雨など、近年、豪雨や台風による激甚な洪水氾濫、土砂災害が頻発している。
気象庁の観測によれば、わが国の日降水量200mm以上の大雨の年間発生日数は増加しており、最近30年間(1990~2019年)と統計開始の30年間(1901~1930年)で比較すると約1.7倍となっているなど大雨の頻度は強度と共に増加している。このような気候変動には地球温暖化が影響しており、大雨の頻度や強度の増加の背景には気温の上昇に伴う大気中の水蒸気量の増加があると考えられている。世界の平均気温は上昇傾向にあり、IPCC第5次評価報告書によれば、1880年から2012年の間に0.85℃上昇している。また、気象庁の観測によれば、わが国の平均気温は1898年から2019年で100年あたり1.24℃の割合で上昇している。
パリ協定では、世界共通の長期目標として、工業化以前からの世界全体の平均気温の上昇を2℃より十分下方に保持することとされているが、例えばわが国で平均気温が2℃上昇した場合、国土交通省の試算(国土交通省気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会「気候変動を踏まえた治水計画のあり方 提言 令和元年10月」)によれば、降雨量は1.1倍に、現在の河川計画で目標としている降雨量や流量の規模での洪水の発生頻度は約2倍になるとされる。世界レベルでも、気候変動により洪水や海面上昇による高潮のほか、熱波、寒波、干ばつ等による被害が懸念されている。
今後、気候変動の影響により、わが国及び世界で気象災害のリスクは一層高まるおそれがある。こうした中、国民一人ひとりが、気候変動は日々の生活にどう関わってくるのかを身近に意識し、自助、共助などの防災意識を高めて災害に備えるとともに、公助を中心とした防災対策では、気候変動による災害の頻発化、激甚化を織り込んだ態勢を整備していく必要がある。
すべての国民が、これまでより更に一段、気候変動と防災に関して危機意識を高め、気候変動に適応する防災はどうあるべきか、抜本的な防災・減災対策、気候変動対策の方向性を示し、国民に分かりやすく発信していくため、武田内閣府特命担当大臣(防災)と小泉環境大臣のイニシアチブの下、令和2年2月より内閣府(防災担当)と環境省が連携し、有識者を交え、「気候変動×防災」という視点に立った政策に関する検討を進めている。
気候変動対策と防災対策は、国際政治においても連携して対応することが重視されつつある。気候変動対策として温室効果ガス排出抑制(緩和策)を進める間にも、気候変動の影響による災害の頻発化、激甚化は顕著になっている。このため気候変動対策において適応策への注目度が増している。気候変動の適応策と防災対策とは、政策目的や政策手段を共通にするところがあり、両者が縦割りになることなく連携して政策を進めることの重要性は国連でも指摘されている。今般の内閣府(防災担当)と環境省の連携した取組は、こうした国際的な流れにも対応するものであり、検討においては、水鳥国連事務総長特別代表(防災担当)及び国連防災機関ヘッドにも参加をいただいた。
また、この気候変動対策と防災対策は、持続可能な開発目標(SDGs)の一部とも政策目標が共通している。例えば、災害の被災者が貧困層に陥ったり(SDG1(貧困の撲滅)関係)、水関連災害の防止(SDG6(水と衛生)関係)、災害により経済的損失が発生したりする(SDG8(経済成長)関係)、災害・気候変動がインフラ・産業・都市に影響を与える(SDG9(強靱なインフラ、産業)関係、SDG11(包摂的・安全・強靱・持続可能な都市、SDG13(災害に対する強靱性及び適応能力の強化)関係)といったことから、災害リスク・気候変動リスクを軽減することなく持続可能な開発目標を達成することは難しいと言える。気候変動対策(パリ協定)、防災・減災対策(仙台防災枠組)、SDGs(アジェンダ2030)の一体的な達成を追求していくことは国際的にも重視されている。