(4)被災者支援の充実


(4)被災者支援の充実

東日本大震災においては,地域全体が大きな打撃を受け,住まいのみならず,生業や就労の場を喪失し,多くの被災者が,長期間,避難所等での生活を送らざるを得なかった。また,被災者の生活再建に関しても,住まいの確保,生活資金等の支給やその迅速な処理のための仕組みに加え,生活全般についての支援が必要とされたところである。

これを踏まえ,今後,被災者行政の分野において,以下のような課題に取り組むべきである。

<1> 体系的な被災者支援制度の構築

被災者の支援に関しては,応急期においては,「災害救助法」により,避難所の設置,炊き出しその他による食品の給与,飲料水の供給等がなされている。

また,生活再建支援については,「被災者生活再建支援法」に基づく支援金の支給により,居住する家を失った被災者の当面の生活費や住居の再建費用等が手当されている。

この他,様々な府省庁において,それぞれの法律や予算措置に基づき,多くの施策が講じられており,さらに,東日本大震災においては,多くの新施策,特例措置も講じられた。

しかしながら,こうした被災者支援施策が,個別的に講じられてきた結果,被災者にとっては,被災後の状況に応じた支援の全体像が分かりにくく,生活再建や自立に向け将来の見通しが立ちにくいとの指摘もある。

国において,被災者に必要な支援を,救難・救護から生活再建に至るまでの過程を一貫して抜け落ちなく,効率的に提供するよう,地方公共団体等関係機関への働きかけを徹底するためにも,また,地方公共団体において,被災者支援を遅滞なく行うよう,十分な準備を進めるためにも,「災害対策基本法」に,被災者支援についての理念や基本的事項を明記するとともに,「災害救助法」と「被災者生活再建支援法」の関係等について,整理していく必要がある。

<2> 避難生活の環境の整備

巨大災害が発生した場合には,避難所に一時的に避難をすればよいというものではなく,市場が麻痺し,ライフラインの回復に時間がかかる中で,前述したとおり,多くの被災者が,長期間,避難所等での生活を送らざるを得ない事態が発生する。

避難により助かった命を失わせないためにも,食糧の供給や避難所の寒暖対策,衛生対策等に万全を期する必要がある。

そのため,「災害対策基本法」において,避難生活についても,一時的に難を逃れる純粋な避難と峻別した上で,避難生活の環境整備の必要性について規定する必要がある。

また,関係府省庁が協力,連携し,避難所における良好な生活環境確保のための取組の指針を作成し,それを周知することで,長期間にわたる避難所生活にも対応できる体制を構築することが必要である。

さらに,東日本大震災においては,避難所に避難した者のみならず,在宅での生活を余儀なくされた者に対しても,困難な状況をもたらした。

食糧等の支援物資は,避難所までしか到達せず,また,そうした支援物資の到着や分配に係る情報等必要な情報も在宅者には知らされないことが多かった。

災害時には,在宅者は支援物資を避難所に受け取りに来るのが原則であるのは,防災関係者の常識である。

しかしながら,そうした原則は,避難所にいる一般住民の知るところではなく,避難所側が在宅者に支援物資を渡さず,在宅者が食糧等に窮するという事態も生じた。

また,道路事情等から在宅者が受け取りに来るのが困難であるという状況も少なくない。

障害を有していること等により,避難所にとどまることができず,電気,ガス,水道等のライフラインが止まる中,暑さや寒さの中で,食糧や情報も不足し,生命等が危険にさらされるという事態も生じかねない。

こうした事態は,地方公共団体が,1)災害時要援護者等在宅者の安否確認を行い,在宅者も含めた情報伝達のルールを定める,2)避難所に,支援物資が当該避難所のみならず地域全体に向けられたものであることを徹底する,3)在宅者が支援物資を受け取りに来ることが困難な場合は,ボランティアや自衛隊の協力を得て届ける等の措置をとることで避けることができる。

こうした在宅者への支援についても,適切な対応がとられるよう,法的に位置付けることが必要である。

<3> 被災者の多様性への配慮

災害発生後においては,多くの者について,短期間の間に避難させなければならず,また,生活環境の整備も図らなければならないが,そのことは,被災者の多様性に配慮しないことを正当化するものではない。

災害時要援護者については,災害発生後,1)避難所に避難するまでの過程,及び,2)その後,避難生活を送る過程の両面において,一般被災者にも増して,様々な困難に直面する。

一般被災者にも増して,災害時要援護者には適切な支援を行うことが必要であり,そのためには,地方公共団体において,事前に準備を行っておくことが不可欠である。例えば,情報伝達や安否確認を適切に行うためには,災害時要援護者名簿を作成しておくことが不可欠であるし,一人一人の障害者について,どのように避難させるのか検討しておかなければならない。また,その検討を机上のものとしないためにも,災害時要援護者も含めた避難訓練を実施しておかなければならない。

国においては,これまで「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」(平成17年3月)等により,地方公共団体に,取組を促してきたところであるが,地方公共団体によって取組に差異がある状況である。

今後は,災害時要援護者への支援について,事前の準備も含め,地方公共団体においてしっかりと取り組まれるよう,国においても,災害時要援護者への支援や,その具体的取組である災害時要援護者名簿について法的に位置付けていくことが適当である。

また,災害要援護者名簿の作成が進まない要因として,個人情報保護法制が挙げられることが多い。災害法制の見直しに当たっては,個人情報保護法制との関係も整理する必要がある。

多様な被災者への配慮は,避難後においても重要である。

避難所においては,多様な被災者の刻々と変化するニーズを吸い上げ,市町村等に伝えるため,被災者自身により自治組織を立ち上げ,責任者等の役割分担を決めて対応することが適切である。

自治組織を形成し,被災者が自ら役割をもって担務を果たすことは,被災者の自立に向けた一歩となる。また,被災者同士が相互に話し合い,協力することで,避難所における良質なコミュニティの形成にもつながるものである。

今年度作成する,避難所における良好な生活環境確保のための取組の指針においても,これらについて盛り込んでいく必要がある。

<4> 被災者を支える基盤づくり

被災者支援を適切に行っていくためには,まず,被災者とその被害を特定することが必要であり,り災証明は,被災者の生活再建の第一歩となる重要なものである。

しかしながら,被災者支援上,重要な業務であるにもかかわらず,現行法上は,り災証明について,法的位置付けがなく,地方公共団体に迅速かつ確実な事務処理を求める法的根拠がない。また,他の法令との関係を整理するうえでも,り災証明に法的位置付けがないことは支障となる。したがって,り災証明を法的に位置付けることが適切である。

また,り災証明を迅速に発行し福祉サービス等を必要とする被災者に漏れなく提供するためには,発災前からあらかじめ被災者支援のための総合的な台帳の整備に向け準備を進めておくことが有効である。

今後,被災者台帳についても,法的に位置付けて,他の法令との関係を整理していく必要がある。


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