3 課題と今後の方向



3 課題と今後の方向

これまでに概観した主な防災施策の進捗状況を踏まえ,それらの防災施策の推進における課題と今後の施策の方向について記述する。

具体的な目標値等は,主として,平成20年4月に策定された「自然災害の「犠牲者ゼロ」を目指すための総合プラン」に記載されている数値(その後,目標値の変更等があった場合には変更を反映後の数値)から抽出して掲げている。

(1)震災対策

震災対策としては,以下でみる個別分野ごとの取組に加えて,大規模地震対策について,地方自治体等と連携して,地震対策大綱等に基づき,対策を推進していく。

<1>耐震化

耐震化関連施策の目標値としては,様々な対象分野の目標値が設定されたところであるが,引き続き,関係省庁が連携して対象ごとの目標達成に向けた取組を推進する。

地震が発生した際に多くの尊い人命を守るためには,居住の場である住宅をはじめ,児童生徒の活動の場である学校や災害時における医療を提供する病院等の耐震化が急務である。現行の耐震基準は,中規模の地震(震度5強程度)に対してはほとんど損傷を生じず,極めて稀にしか発生しない大規模の地震(震度6強から震度7に達する程度)に対しては,人命に危害を及ぼすような倒壊等の被害を生じないことを目安としたものであるが,この現行の耐震基準の有効性については,前節にみたとおり,実際に発生した地震においても検証されたところである。

住宅・特定建築物(多数の者が利用する一定の建築物)の耐震化率については,平成27年までに90%とすることを目標とする。また,「新成長戦略(基本方針)」(平成21年12月30日閣議決定)においては,住宅の耐震化率を平成32年までに95%とすることを目標としている。

住宅・建築物の多くは民間が所有するものであり,耐震化の必要性について,詳細な地震防災マップの作成・公表等を通じて,広く周知を図ることが必要である。また,耐震診断・耐震改修に係る助成,税制,融資の活用促進により,住宅・建築物の耐震診断,耐震,建て替えを促進する。

また,公立小中学校については,耐震性の低い施設の耐震化を優先的に進め,できる限り早期に残る約2万5千棟(推計)の公立小中学校の耐震化を完了できるよう,地方公共団体の取組を支援していく。

さらに病院については,耐震化されていない災害拠点病院・救命救急センター(約38%)のうち,約5割程度の施設について平成26年度末までに耐震化を図り,同年度における耐震化率を81.2%とすることとしており,引き続き,災害拠点病院及び救命救急センター等の耐震化率の向上を図っていく。

図表1−3 住宅・公立小中学校・病院施設の耐震化の実績と今後の目標 図表1−3 住宅・公立小中学校・病院施設の耐震化の実績と今後の目標の図表

水道施設については,都道府県別に耐震適合性のある基幹管路の割合をみると4.5%から61.5%とばらつきが大きくなっている。平成22年度から耐震化推進に関する国庫補助事業についての補助率を引き上げるとともに,補助対象施設を拡大するなど制度の拡充を図っており,老朽管の布設替えによる耐震化対策事業を推進していく。また,水道施設の耐震化に対する技術的支援を実施していく。

その他の公共インフラ等についても,例えば,耐震強化岸壁については,平成22年度末までに概ね70%,主要な鉄道駅の耐震化工事の実施割合については,平成22年度末までに概ね100%などの目標の達成に向けて,耐震化を引き続き推進する。

<2> 密集市街地整備の促進

地震時等において大規模な火災の可能性があり,重点的に改善すべき密集市街地(約8,000ha)のうち最低限安全性が確保される市街地の割合は,平成23年度までに概ね100%とすることを目標としており,目標達成に向け,引き続き密集市街地の整備を推進する。

<3> 震度情報ネットワークシステムの一斉整備

震度観測点について,平成24年度を目標として市町村合併前の旧市区町村ごとに少なくとも1箇所の整備を目指して整備を進めてきたが,平成22年度末に完了の予定である。

(2)津波・高潮対策

<1> 施設整備等の推進

津波が到来した場合の防波堤の効果については,前節においてチリ中部沿岸を震源とする地震による津波に対する大船渡港などの例で述べたとおりであり,引き続き,海岸堤防の耐震化,津波防波堤の整備,水門等の整備,自動化等を実施し,津波・高潮による災害から一定の水準の安全性が確保されていない地域の面積を,平成24年度時点で約9万haとする。

<2> 津波・高潮ハザードマップ整備の支援等

避難の実態を十分に検証し,関係機関や市町村等と連携して,住民の確実な避難を促進するとともに,市町村におけるハザードマップの整備を促進していく。平成24年度末で約80%とすることとした目標は,既に平成21年度末で約81%と概ね達成しているが,引き続き促進を続ける。

なお,平成22年2月27日に発生したチリ中部沿岸を震源とする地震による津波災害の直後に内閣府と消防庁が実施した緊急住民アンケート調査から次のような結果が得られた。

(a) 避難しなかった人の半数以上が「高台など津波により浸水するおそれがない地域にいると思ったから」と回答しており,これは,ハザードマップを公表しているほとんどの市町村においては,過去最大級(高さ10mなど)の津波の浸水予想地域ないしは市内全域に避難指示等を発令しており,この対象地域が3mの警報に対しては広かったためと考えられること。

(b) 避難した人が帰宅したきっかけは,「津波の第1波が小さかったから」が3割強で最も多かったこと。

このため,国としては,今後は予想される津波の高さに応じて市町村が適切に避難指示等を発令できるよう,2〜3段階の避難対象地域を示したハザードマップの作成や,住民への周知の徹底について検討するとともに,第2波,第3波以降の方が第1波より大きくなることがありうるなど,津波に関する知識の普及・啓発をさらに進めていく必要がある。

<3> 地震津波監視体制の強化

次世代地震津波監視システムを用いて適時適切に地震津波情報を提供するとともに,遠地地震の津波予測の精度向上に向けた検討など,情報内容を一層改善するための取り組みを進めていくこととし,地震発生後10分以内に津波が来襲することがある沿岸から100キロメートル以内で発生する地震に対して,地震発生から地震津波情報発表までの時間を,平成23年度で,3.0分以内とする。

(3)風水害対策

<1> 災害時における避難のあり方

避難勧告等の具体的な発令基準の策定については,引き続き,市町村による取組を支援していく。

また,災害時の避難については,平成21年に起こった大雨災害や土砂災害において,適切な避難行動が取られていないことや,災害情報が適切に伝達されていないなど避難に関する課題が指摘されたことから,内閣府では平成21年度に「大雨災害における避難のあり方等検討会」を設置した。検討会では,局地的大雨を含め,短時間の大雨による災害から「いのちを守る」という観点で,避難のあり方全般について検討を行い,「大雨災害における避難のあり方等検討会報告書〜「いのちを守る」ための避難に向けて〜」を取りまとめた。なお,本検討会において今後引き続き検討していくべきとされた事項については,「災害時の避難に関する専門調査会」を設置(平成22年4月21日中央防災会議決定)して,さらに検討を進める。

<2> 災害時要援護者の避難支援対策

平成21年11月1日現在で,要援護者の避難支援の取組方針等を示した計画を策定済み又は策定中の市町村の割合は,99.1%となり,災害時要援護者一人ひとりへの対応を定める個別計画についても約3分の2が策定中となるなど,市町村の取組は進展している。他方,<1>に述べた「大雨災害における避難のあり方等検討会」報告書においても,防災・災害情報の提供や避難所のあり方について要援護者支援の観点に基づき引き続き検討を重ねていくことが提言されており,さらに検討していくこととしている。

<3> 水害対策

治水施設の整備等による水害の未然防止や下水道施設の整備等による内水氾濫対策を引き続き推進する。下水道による都市浸水対策達成率目標は,平成24年度末に全体では約55%,重点地区においては,約60%を目標とする。また,主要な河川の浸水想定区域内であって,洪水ハザードマップを作成・公表し,防災訓練を実施した市町村の割合,重点地区内であって内水ハザードマップを作成・公表し,防災訓練を実施した市町村の割合を,平成24年度末にともに100%となることを目指す。

<4> 大規模水害対策

大規模水害対策に関する専門調査会報告(平成22年4月2日公表)を踏まえ,今後,広域避難対策や,公的機関,住民,企業等における防災力の向上など,大規模水害対策の計画的な推進を図るため,大規模水害対策に関する大綱等を策定し,対策を推進する。

<5> 土砂災害対策

砂防施設の整備や土砂災害特別警戒区域の指定を進めるとともに,土砂災害に関するハザードマップを作成・公表し,かつハザードマップを活用した防災訓練の実施を進めることにより,引き続き,土砂災害に対する警戒避難体制の強化に積極的に取り組んでいく。これらにより,土砂災害から保全される人口は,平成24年度末に300万人,土砂災害危険箇所がある市町村のうち,指定を行った市町村の割合は平成29年度末において100%となることを目標とする。

<6> 治山事業

平成25年度までに,周辺の森林の山地災害防止機能等が確保され,地域の安全性の向上が図られる集落数を,5万6千集落へと増加することを目指し,引き続き必要な施策を推進する。

<7> 農地防災事業

湛水被害等のおそれのある農用地の減少について,引き続き取組を推進し,平成24年度までに67万haに減少することを目指す。

<8> 防災気象情報の充実

市町村ごとに発表する警報・注意報や,突風等に関する短時間予測情報等の適切な発表に向けて,気象観測機能の強化や予測精度向上に向けた技術開発を推進するとともに,これらがより災害の軽減に資するよう,情報の特徴や利活用方法についての幅広い周知啓発に努める。具体的に,静止気象衛星については,防災に資する観測機能を大幅に向上させた後継衛星を平成26年に打ち上げ,衛星による観測業務を継続する。また,台風中心位置の72時間先の予報誤差を,平成22年度に260km以下とすることを目指す。

(4)雪害対策

平成24年度末には,特別豪雪地帯の201の全ての市町村において,高齢者が無理することなく除雪できる体制の整備を促進する。

(5)その他

消防団の充実強化

消防団員数の減少が続いているものの,新任団員確保・活動環境整備の取組が一定の成果を上げている(女性消防団員数の増加など)。消防団員数の減少に歯止めをかけ,更なる消防団員確保のための施策を推進し,消防団員数を全国で100万人以上(うち女性10万人以上)確保することを目指す。


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