3−1 震災対策 (7)首都直下地震対策



(7)首都直下地震対策

a 首都直下地震の姿

(a) 発生の可能性

首都地域では,大正12年(1923年)に関東地震(関東大震災)が発生し,未曾有の大災害を引き起こした。関東地震の地震のタイプは,いわゆる「海溝型」の地震であり,その規模はマグニチュード8クラスという巨大地震であった。首都地域では,このような海溝型の巨大地震は200〜300年間隔で発生するものと考えられている。現在は,1923年の関東地震から80年余りが経過したところであり,次のマグニチュード8クラスの地震が発生するのは,今後100年から200年程度先と考えられている。

一方,次の海溝型の地震に先立って,プレートの沈み込みによって蓄積された歪みの一部が,いくつかのマグニチュード7クラスの地震として放出される可能性が高く,次の海溝型の地震が発生するまでの間に,マグニチュード7クラスの「首都直下地震」が数回発生することが予想されており,その切迫性が指摘されている(図2−3−26)。

図2−3−26 首都直下地震の切迫性 首都直下地震の切迫性の図

(b) 被害想定

中央防災会議「首都直下地震対策専門調査会(平成15年5月〜平成17年7月)」では,近年,関東地域の地殻変動に関する定点観測網の充実により蓄積されてきた観測データやそれに伴い増大してきた知見を生かして首都直下で発生するマグニチュード7クラスの地震像を明確化するとともに,政治中枢,行政中枢,経済中枢といった首都中枢機能が極めて高度に集積し,かつ人口や建物が密集している首都地域の特性を踏まえて被害想定を実施した。

<1> 対象地震

首都地域の地殻構造をみると,一番上に北米プレートがあり,その下にフィリピン海プレートが沈み込み,更にその下に太平洋プレートが沈み込むという3層構造となっている。このため,首都地域で発生する地震のタイプは,図2−3−27に示すように,5つのタイプの地震が考えられる。しかしながら,震源の深い地震は,地表面での揺れが小さくなることから今回の検討対象から除外することとし,対象とする地震は,地殻内の浅い地震と,北米プレートとフィリピン海プレートとの境界の地震とした。

地殻内の浅い地震は,活断層で発生する地震と,活断層が地表に認められない場所でも発生するその他の地震がある。活断層で発生する地震についてはマグニチュード7.0以上の地震規模となる5つの断層による地震を(図2−3−28),その他の地震については,どこででも発生する可能性があることから,地震の規模をマグニチュード6.9として,都心部や県庁所在都市等の直下で発生する10の地震を想定した(図2−3−29)。

北米プレートとフィリピン海プレートとの境界の地震については,プレート境界の領域のうち,近年の地震学の調査研究から発生の可能性の低い領域を除いて3つの地震を想定した(図2−3−30)。地震の規模は,これまでのマグニチュード7クラスの地震の中で最大であったマグニチュード7.3とした。

以上,首都直下地震対策専門調査会では,合計18タイプの地震について,地震の揺れ,人的・物的被害等について被害想定を行った。このうち,北米プレートとフィリピン海プレートとの境界で発生する「東京湾北部地震」が,ある程度の切迫性が高い地震であると考えられること,都心部の揺れが強いこと,震度6弱以上の強い揺れの分布が広域的に広がっていることから,この地震を中心に被害想定及び対策の検討を行った(図2−3−31)。

図2−3−27 首都直下で発生する地震のタイプ 首都直下で発生する地震のタイプの図
図2−3−28 検討対象とした活断層 検討対象とした活断層の図
図2−3−29 検討対象としたM6.9の直下の地震 検討対象としたM6.9の直下の地震の図
図2−3−30 検討対象としたフィリピン海プレート上面付近の断層 検討対象としたフィリピン海プレート上面付近の断層の図
図2−3−31 東京湾北部地震(M7.3)の震度分布 東京湾北部地震(M7.3)の震度分布の図

<2> 被害想定結果

東京湾北部地震では,建物倒壊及び火災延焼による死者が膨大で,死者数は,18時・風速15m/sのケースで約11,000人,風速3m/sのケースで約7,300人を想定した(表2−3−10)。建物の全壊及び焼失は,揺れ及び火災によるものが膨大で,建物全壊・焼失棟数は,18時・風速15m/sのケースで約85万棟,風速3m/sのケースで約48万棟を想定した(表2−3−11)。風速15m/sのケースにおける都心部の揺れによる全壊棟数及び火災による焼失棟数の分布を概観すると,都心東側の荒川沿いの震度の大きい地域で揺れによる全壊が多く発生し,都心西側の環状6号〜環状7号沿いの木造家屋が密集し不燃領域率が低い地域で火災による焼失が多く発生している(図2−3−32)。

更に,これに伴う経済被害は,建物・構造物の物理的な損失額である直接被害と,建物被害及び労働力の喪失等によって生じる経済活動の低下や交通寸断の影響による機会損失・時間損失による間接被害を併せて,18時・風速15m/sのケースで約112兆円(直接被害約66.6兆円,生産額の低下による間接被害約39.0兆円,機会損失・時間損失による間接被害約6.2兆円),風速3m/sのケースで約94兆円(直接被害約50.1兆円,生産額の低下による間接被害約37.5兆円,機会損失・時間損失による間接被害約6.2兆円)と膨大な被害額を想定した(図2−3−33)。

ライフライン被害については,18時・風速15m/sのケースでは,発災後一日目で,断水人口約1,100万人(約450万軒),停電軒数約160万軒,ガス供給停止軒数約120万軒を想定した。

避難者数については,一日後の避難者数を最大で約700万人,このうち親戚,知人宅に避難する人等を除いて実際に避難所で生活する人は,最大で約460万人と想定した。阪神・淡路大震災のピークで約30万人,新潟県中越地震で約10万人だったことと比較すると,桁違いに多くの避難者が発生する。

昼間に発災した場合,交通機関がストップすることにより,多くの人が自宅に帰れなくなり,帰宅困難者となる。特に首都地域では,遠方から来ている昼間滞留者の数が膨大であり,昼12時に地震が発生した場合,帰宅困難者は約650万人にも上るものと想定した。

表2−3−10 人的被害の概要(東京湾北部地震,M7.3) 人的被害の概要(東京湾北部地震,M7.3)の表
表2−3−11 建物被害等の概要(東京湾北部地震,M7.3) 建物被害等の概要(東京湾北部地震,M7.3)の表
図2−3−32 東京湾北部地震(M7.3)による全壊棟数(揺れ)分布及び焼失棟数分布 東京湾北部地震(M7.3)による全壊棟数(揺れ)分布及び焼失棟数分布の図
図2−3−33 東京湾北部地震(M7.3)による経済被害 東京湾北部地震(M7.3)による経済被害の図

b 首都直下地震対策の概要

(a) 取組みの経緯

首都地域の地震対策については,これまで中央防災会議において,昭和63年に関東地震と同じタイプのマグニチュード8クラスの地震について被害想定を行い,その成果を踏まえた「南関東地域震災応急対策活動要領」を,平成4年には,南関東地域直下で発生するマグニチュード7クラスの地震を対象とした「南関東地域直下の地震対策に関する大綱」を策定するなど,各般にわたる南関東地域の地震対策を推進してきた。しかしながら,マグニチュード7クラスの直下の地震が発生した場合の被害想定は行っておらず,具体の被害像に基づく対策が明確でなかったこと,首都機能維持や企業防災対策といった観点からの対策強化が必要であること等から,中央防災会議では,平成15年9月から「首都直下地震対策専門調査会」において,首都直下で発生するマグニチュード7クラスの地震像を明確化するとともに,被害想定を実施し,我が国の政治,行政,経済の中枢機能が集積するエリアとしての首都地域の特性を踏まえた新たな視点から首都直下地震対策を検討してきた。そして,平成17年7月に,首都直下地震対策専門調査会報告書をとりまとめた。

(b) 首都直下地震対策大綱

この報告を受けて,平成17年9月の中央防災会議において,対策のマスタープランとなる「首都直下地震対策大綱(以下,「大綱」という。)」を決定した。大綱では,「首都中枢機能の継続性確保」と「膨大な被害への対応」を対策の柱としている。

<1> 首都中枢機能の継続性確保

首都中枢機能の継続性確保に当たっては,首都中枢機能を構成する首都中枢施設だけでなく,それらの機能を支えるヒト・モノ・金・情報とライフライン・インフラについても継続性の確保が求められる。発災直後(特に3日間程度の応急対策活動期)においても,首都中枢機能の継続性を確保できるよう,発災時間経過ごとに最低限維持すべき目標を設定し,同目標を達成すべき対策を実施することが必要である(図2−3−34)。

例えば,中央省庁においては,発災直後から被害状況の把握や被災地への救援のための調整,広域的な応急対策活動のオペレーションを行う必要がある。このため,庁舎の耐震化や災害時にも途絶しない通信連絡基盤を確保し,万が一施設が被災した場合でも対応可能となるよう,ライフライン系統の多重化やバックアップ機能の充実を図ることや,交通機関が途絶する中でも職員が緊急に参集できるよう徒歩圏内に居住することなどが必要である。更に,発災時にも必要な業務が継続されるよう,あらかじめ業務継続計画を策定し,計画に基づいて定められた活動が的確に実施できるよう定期的に訓練を行うことや,各施設に係わる電力・通信が被災した場合には優先的に復旧するなどの応急対策を行うことが必要である。

図2−3−34 首都中枢機能継続性確保 首都中枢機能継続性確保の図

<2> 膨大な被害への対応

膨大な被害への対応については,発災後の応急対策には自ずから限界があるため,今のうちから出来る限り地震時の被害量を軽減するためのミティゲーション策(減災対策)に計画的に取り組むことが重要である。

建築物の被害は,倒壊により直接的に多数の死傷者を発生させるばかりでなく,その後の火災被害拡大の原因にもなり,また住宅の全壊等により避難者の多数発生につながり,更には,膨大な量の震災廃棄物も発生するなど,被害の拡大要因ともなる。このため,建築物の耐震化は,重点的に取り組むべき最重要課題である。

建築物の多くは,民間が所有するものであり,耐震化の必要性については広く周知を図ることが必要である。そのため,個々の居住地が認識可能となる程度に詳細な地震防災マップを作成・公表し,耐震化の必要性について広く周知を図る。

また,補助制度,税制度の活用促進により,住宅などの建築物の耐震診断,耐震補強,建て替えを促進する。特に,密集市街地や緊急輸送道路沿いの住宅などについては,倒壊すると応急対策活動等に支障が生じるおそれがあることから,耐震化を緊急に推進する。

更に耐震化を促進するための環境整備として,住みながら耐震改修できる手法やローコストの耐震改修手法などの開発,建築物の取引時における耐震診断の有無等に関する情報提供等に取り組む。この他,大綱では,耐震化に向けた定量的な目標の設定,建築物への耐震改修の指示に従わない場合の公表等について制度を整備することとされ,平成17年11月にこれらを内容とする建築物の耐震改修の促進に関する法律の改正が行われた(図2−3−35)。

首都地域には,密集市街地が多く存在するため,火災による被害は,全体の被害の中でも非常に大きな割合を占める。特に,同時に火災が多発した場合,消防機関による消火が極めて困難となり,市街地の延焼が拡大する危険性が高い状況となる。

このため,建築物の不燃化,火気器具の安全対策等による出火防止対策を講じるほか,市街地の面的整備,道路・公園などによる延焼遮断帯の整備等の延焼被害軽減策が必要である。

また,密集市街地では消防車が入れない狭い路地が多いことから,被害を拡大させないようにするためには,炎上に至るまでの地域住民による初期消火が重要になる。このため,平常時からの地域コミュニティの再構築や自主防災組織の育成・充実等が必要である(図2−3−36)。

阪神・淡路大震災や新潟県中越地震と比較しても桁違いに多い避難者への対策としては,通常の災害時に開設される避難所の確保のほか,避難所への避難者の数そのものを減らす工夫が必要である。このため,一時期の間,被災地の外に避難する疎開・帰省の奨励や,ホテル・空き家等の既存ストックを有効に活用して避難所生活者の収容能力を増強するなどの多様なメニューを提示し,対策を講じていく必要がある(図2−3−37)。

発災直後に,多数の帰宅困難者が一斉に徒歩で郊外に向かって帰宅しようとすると,周辺地域から被害の大きな地域に進入しようとする救助部隊との間で混乱が生じる等のおそれがある。更に,帰宅困難者が正確な被害情報や交通情報を把握していなければ,その行動が更に混乱することも予想される。このような混乱を避けるためには,すぐには徒歩帰宅行動に移らず,しばらく都心にとどまって冷静に行動することも必要であり,「むやみに移動を開始しない」という基本原則の徹底が求められる。平日昼間の帰宅困難者の内訳を見てみると,多くは,企業,学校という組織に属している人であり,このような人たちは,一定の期間,企業や学校に留まっておくことが被害の拡大を防ぐことになると考えられる。更に,帰宅困難者の中には負傷していない人も多くいると考えられる。このような人々は被災者とは捉えず,被災地域での救援活動の担い手,貴重な地域の防災力として捉えていくことも必要と考える。

このように帰宅困難者に都心に留まってもらうために最も重要なことは,郊外の自宅にいる家族の安否確認である。災害用伝言ダイヤル「171」や災害用伝言板サービスなどを利用し,すぐに家族の安否が確認できる体制の充実が求められる。

企業や学校に属さず,買い物等で都心に来ている人などに対しては,徒歩帰宅行動の支援を行う必要があるため,交通情報の提供,飲食やトイレ,仮眠等の休憩場所の提供なども必要である(図2−3−38)。

図2−3−35 建築物の耐震化 建築物の耐震化の図
図2−3−36 火災対策 火災対策の図
図2−3−37 避難者対策 避難者対策の図
図2−3−38 帰宅困難者対策 帰宅困難者対策の図

(c) 東京湾臨海部における基幹的広域防災拠点の整備等

都市再生本部による都市再生プロジェクト第一次決定(平成13年6月)において,「東京圏において大規模かつ広域的な災害が発生した際,広域的な救助活動や全国や世界からの物資等の支援の受け入れといった災害対策活動の核となる現地対策本部機能を確保するため,水上輸送等と連携した基幹的広域防災拠点を東京湾臨海部に整備する」こととされた。

これを受け,平成13年7月に関係省庁及び関係都県市による「首都圏広域防災拠点整備協議会」を設置し,協議が進められている。

平成14年7月には,協議会において具体的な整備箇所や整備手法等を決定し,有明の丘地区(東京都江東区)及び東扇島地区(神奈川県川崎市川崎区)において,平成14年度より整備に着手した。

また,平成17年11月の協議会において,「東京湾臨海部基幹的広域防災拠点整備基本計画」(平成16年1月決定,同年8月変更)に基づいた本部棟(有明の丘地区)及び施設棟(東扇島地区)の基本的な設計を発表した(図2−3−39,図2−3−40)。

更に,「首都直下地震応急対策活動要領」(平成18年4月中央防災会議決定)では,有明の丘地区に建設中の基幹的広域防災拠点施設の供用後は,原則として当該施設を緊急災害現地対策本部の設置場所としているほか,東扇島地区の基幹的広域防災拠点において緊急輸送活動の支援を行うこととしている。

平成19年度に東扇島地区の全整備が完了,平成20年夏に有明の丘地区の本部棟(防災機能を備えた施設部分)が整備完了する予定である。今後,当該拠点を中核とした広域防災ネットワークの整備・連携等について具体的な検討・調整を図り,被災時の首都圏全体の運用体制等を整備して首都圏の広域防災体制を確立することとしている。

図2−3−39 有明の丘地区・東扇島地区の概要 有明の丘地区・東扇島地区の概要の図
図2−3−40 有明の丘地区・東扇島地区の整備イメージ 有明の丘地区・東扇島地区の整備イメージの図

(d) 首都直下地震応急対策活動要領

大綱を踏まえ,平成18年4月の中央防災会議において,「首都直下地震応急対策活動要領」が決定された。これは,首都直下地震に対し,防災関係機関や首都中枢機能を有する機関が効果的な連携をとって迅速かつ的確な応急対策活動を実施するため,災害発生時に,各機関が行うべき行動内容を定めたものである。

緊急災害対策本部及び緊急災害現地対策本部の設置場所については,首都直下地震時には,災害応急対策の司令塔たる中央省庁自身が被災し,支障が生じる可能性もあることから,代替施設を設定している。

緊急災害対策本部の設置場所の優先順位は,<1>官邸,<2>中央合同庁舎5号館,<3>防衛省,<4>立川広域防災基地としている。

緊急災害現地対策本部の設置場所は,東京湾臨海部基幹的広域防災拠点施設(有明の丘地区)としているが,当該施設の供用前等は,東京都庁としている。

(e) 首都直下地震の地震防災戦略

大綱を踏まえ,平成18年4月の中央防災会議において,首都直下地震の地震防災戦略が決定された(図2−3−41)。

首都直下地震の地震防災戦略においては,減災目標として,「今後10年間で死者数を半減,経済被害額を4割減させる」ことを掲げ,最大被害をもたらす風速15m/sの場合で死者数約11,000人を約5,600人に,経済被害額約112兆円を約70兆円に,風速3m/sの場合で死者数約7,300人を約4,300人に(約4割減),経済被害額約94兆円を約60兆円にすることとした。

死者数の減少においては,特に火災による死者数の減災効果が大きい。その具体目標としては,

  • 住宅・建築物の耐震化:耐震化率 75%→90%
  • 密集市街地の整備:不燃領域率 40%以上
  • 初期消火率の向上:自主防災組織率 72.5%→96%

を掲げ,その減災効果は,風速15m/sの場合で約4,000人減,風速3m/sの場合で約1,500人減が見込めるとした。

経済被害額の減少においては,特に復旧費用軽減額の減災効果が大きい。その具体目標としては,

  • 住宅・建築物の耐震化:耐震化率 75%→90%
  • 緊急輸送道路の橋梁の耐震補強を概ね完了
  • 耐震強化岸壁の整備:整備率 約55%→約70%

を掲げ,その減災効果は,風速15m/sの場合で約26兆円減,風速3m/sの場合で約19兆円減が見込めるとした。

更に首都直下地震においては間接被害が大きいことから,その具体目標として,

  • BCP策定企業の割合:大企業 ほぼ全て

等を掲げ,生産活動停止による被害に対する減災効果について,風速15m/s,3m/sの場合いずれも約4兆円減が見込めるとした。

図2−3−41 首都直下地震の地震防災戦略 首都直下地震の地震防災戦略の図

(f) 中央省庁業務継続ガイドライン

中央省庁は,地震発生後における国家的判断や広域的調整の中心的役割を果たす組織であり,発災後,直ちに災害応急対策業務を開始するとともに,被災状況に応じて速やかな実施が必要となる他の緊急業務に着手することが必要である。また,被災した場合でも,一定範囲の通常業務はその継続が強く求められる。そのため,大綱において,首都中枢機関は発災時に機能継続性を確保するための計画として業務継続計画を策定することが施策として位置づけられ,内閣府(防災担当)は,中央省庁の業務継続計画策定作業を支援するため,平成19年6月に,その計画に盛り込むべき標準的な内容や計画策定の標準的手法等を示した「中央省庁業務継続ガイドライン第1版」を策定した。

本ガイドラインに基づく業務継続計画とは,首都直下地震のように中央省庁自体も被災により機能低下し,ヒト,モノ,情報及びライフライン等利用できる資源に制約がある状況下において,優先実施すべき業務(非常時優先業務)を特定する(図2−3−42)とともに,業務実施に必要な資源の確保・配分や,そのための手続きの簡素化,指揮命令系統の明確化等について必要な措置を講じることにより,図2−3−43に示すように,業務立ち上げ時間の短縮や発災直後の業務レベルの向上を図り,適切な業務執行を行うことを目的とした計画である。

また,計画策定の対象となる非常時優先業務について,非常事態下で,業務実施に際して必要となる資源や,業務実施の前提条件となる外部のサービス等について,その不足や遅れによって支障が生じるおそれがないかをチェックし,ボトルネックとなる部分が確認されれば,改善対策を検討・実施すること,更に,年々点検・是正を重ねながら持続的に業務継続力を高めていくことが重要である。

これらを踏まえ,平成20年4月現在,各省庁において,それぞれ業務継続計画の策定を進めている。

図2−3−42 非常時優先業務 非常時優先業務の図
図2−3−43 発災後の業務レベル推移イメージ 発災後の業務レベル推移イメージの図

(g) 首都直下地震避難対策等専門調査会

首都直下地震の発生により,最大で避難者約700万人(うち避難所生活者約460万人),帰宅困難者約650万人の発生が想定されているところであり,中央防災会議は,平成18年8月より避難者及び帰宅困難者対策の具体化を目的として「首都直下地震避難対策等専門調査会」を開催し,検討を行っている。

避難者対策については,膨大な数になると予測される避難者へ対応するため,避難所に依拠する者そのものを減らす疎開・帰省の奨励・斡旋や,避難所全体としての収容力を増強するためのホテル,空き家等,既存ストックの活用等について具体化を図ることとしている。

帰宅困難者対策については,帰宅困難者が駅周辺や路上に滞留し混乱が生じることを防ぐため,「むやみに移動を開始しない」という基本原則の周知・徹底,企業・学校等への従業員・児童生徒等の一定期間の収容,徒歩帰宅者に対する情報や一時休憩施設の提供等について具体化を図ることとしている。

平成20年4月には,帰宅行動に関して,首都直下地震発生後に生じる道路の混雑状況やそれに対する対策の効果をシミュレーションした結果をとりまとめた。現況で特段の対策を講じなかった場合を摸したケースでは,都心部や火災延焼部を中心に大混雑が発生し,満員電車状態(1m 2 あたり6人以上の密度)に3時間以上巻き込まれる人が全域で約200万人にのぼるなど,困難な状況の発生が想定されることが明らかになった。一方で,例えば半分の人が翌日帰宅すればその人数が1/4に減少するなど,翌日帰宅や時差帰宅の促進による一斉帰宅の抑制等の対策を行うことにより,そのような状況が大幅に緩和されることもわかった。今後はこの結果も踏まえ,更に検討を進めていく予定である。

(h) 首都直下地震の復興対策

内閣府は,平成18年度に「首都直下地震の復興対策のあり方に関する検討会」を開催し,首都直下地震における国の復興対策に関する検討課題について整理した。また,平成19年度には,平成19年度の国等における取組み状況を確認するとともに,復興対策の推進のための検討を行った。


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