3−1 震災対策 (5)東南海・南海地震対策



(5)東南海・南海地震対策

a 東南海・南海地震の姿

(a) 発生の可能性

東南海・南海地震とは,南海トラフ沿いの遠州灘西部から紀伊半島沖を経て土佐湾までの地域で,フィリピン海プレートが陸側のプレートに潜り込み,陸側のプレートの変形が限界に達したとき,元に戻ろうとして発生する海溝型地震である。歴史的に見て100〜150年間隔でマグニチュード8クラスの地震が発生し,最近では昭和19年及び21年にそれぞれ発生していることから,今世紀前半にも発生するおそれがあるとされている。

(b) 被害想定

東南海・南海地震や中部圏,近畿圏の内陸地震への防災対策を検討するため,平成13年6月に開催された中央防災会議において「東南海,南海地震等に関する専門調査会」の設置が決定された。

この専門調査会は平成13年10月に第1回が開催されて以降,平成15年12月までに16回審議が行われ,学術的知見を踏まえて東南海・南海地震の震源域等について検討を進め,東南海・南海地震が発生した場合の地震の揺れの強さ(図2−3−18),津波の高さ分布(図2−3−19)等から,地震による揺れや津波,火災等による人的被害や建物被害,経済被害等の被害想定をとりまとめ公表した(平成15年9月)(図2−3−20,表2−3−7)。これにより東海から九州の震源域に近い太平洋沿岸を中心に,地震の揺れや津波により広域かつ甚大な被害になると予想されることがわかった。更に,これらを踏まえた東南海・南海地震防災対策について検討を行い,平成15年12月に専門調査会における審議結果である「東南海,南海地震に関する報告」をとりまとめた。

図2−3−18 東南海・南海地震の強震動波形計算による震度分布 東南海・南海地震の強震動波形計算による震度分布の図
図2−3−19 東南海・南海地震による海岸の津波の高さ(満潮時) 東南海・南海地震による海岸の津波の高さ(満潮時)の図
図2−3−20 東南海・南海地震による建物被害の分布(揺れ,液状化,津波,火災,斜面) 東南海・南海地震による建物被害の分布(揺れ,液状化,津波,火災,斜面)の図
表2−3−7 東南海・南海地震(同時に発生した場合)に係る被害想定結果 東南海・南海地震(同時に発生した場合)に係る被害想定結果の表

b 東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法

(a) 法律の目的

東南海・南海地震では,地震による強い揺れや津波により,極めて広域で甚大な被害が予想されることから,事前に計画的かつ着実に事前の防災対策を進める必要があるとして,議員立法により平成14年7月に「東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」が制定され,平成15年7月に施行された。

この特別措置法においては,東南海・南海地震で著しい被害が予想される地域を「東南海・南海地震防災対策推進地域」として指定し,この推進地域内の地方公共団体,指定公共機関及び事業者等に対して津波からの避難対策等必要な防災対策に関する計画の策定を義務付けるとともに,国及び地方公共団体に地震防災上緊急に整備すべき施設の整備等を求めている。また,観測施設等の整備や科学技術水準の向上により,東南海・南海地震の予知体制が確立された場合には,東海地震と同様に大規模地震対策特別措置法を適用することとされている。

(b) 東南海・南海地震防災対策推進地域の指定

専門調査会において,推進地域の指定基準について検討が行われ,地震の揺れについては建物の全壊が生じるとされる「震度6弱以上が想定される地域」,津波については「大津波(3m以上)若しくは満潮時に陸上の浸水深が2m以上の津波が予想される地域のうち,これらの水位よりも高い海岸堤防がない地域」を対象とすることとし,これらに加え,市町村が連携して防災体制をとる必要がある地域についても,防災体制の観点から基準に含めることとした。関係都府県知事への意見照会の結果を踏まえ,平成15年12月,1都2府18県652市町村が推進地域として初めて指定された。

その後,市町村合併や,人口集中地区や重要港湾等における津波の指定基準を浸水深1.2m以上に見直したこと等を踏まえ,随時推進地域の再指定を行っている。(平成20年4月1日現在,1都2府18県425市町村)(図2−3−21, 附属資料15 )。

図2−3−21 東南海・南海地震防災対策推進地域 東南海・南海地震防災対策推進地域の図

c 東南海・南海地震対策の概要

(a) 東南海・南海地震対策大綱

専門調査会の「東南海,南海地震に関する報告」を受けて,中央防災会議は,推進地域外も含め全国的な視野から総合的な東南海・南海地震対策を実施するための「予防対策から発災時の応急対策,復旧・復興対策までを視野に入れたマスタープラン」としての「東南海・南海地震対策大綱」を平成15年12月に決定した。

この大綱では,専門調査会での検討に加え,東南海・南海地震の特徴を踏まえ,<1>津波防災体制の確立,<2>広域防災体制の確立,<3>計画的かつ早急な予防対策の推進,<4>東南海,南海地震の時間差発生による災害拡大の防止等のポイントから対策をとりまとめた。

(b) 東南海・南海地震防災対策推進基本計画

推進地域が指定されたことを受け,中央防災会議では,特別措置法の規定に基づき,「東南海・南海地震防災対策推進基本計画」を平成16年3月に決定した。この基本計画は,東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する基本的方針や,重要事項について定めたものである。その後,津波による推進地域指定基準の見直しや市町村合併に伴う推進地域の拡大を受け,基本計画の対象とする区域について平成19年3月に修正した。

(c) 東南海・南海地震応急対策活動要領

大綱を受け,東南海・南海地震による発災後の広域の応急対策活動を的確に実施するため,防災関係機関がとるべき行動内容について規定した「東南海・南海地震応急対策活動要領」が,平成18年4月の中央防災会議で決定された。

(主な項目)

・現地対策本部の設置(設置場所は,原則として愛知県,大阪府,香川県)

・東南海・南海地震発生時の救助・救急・医療活動及び消火活動の基本方針

・東南海・南海地震発生時の交通の確保・緊急輸送活動の基本方針

・物資の調達,供給等に関する活動の基本方針

(d) 「東南海・南海地震応急対策活動要領」に基づく具体的な活動内容に係る計画

平成19年3月の中央防災会議幹事会において,『「東南海・南海地震応急対策活動要領」に基づく具体的な活動内容に係る計画』を申し合わせた。この計画は,東南海・南海地震応急対策活動要領において別に定めるとされた,救助活動,消火活動,医療活動,物資調達,輸送活動に従事する各部隊について,被害想定に基づく具体的な活動内容を計画したものである。

(e) 東南海・南海地震の地震防災戦略

東海地震とともに,平成17年3月の中央防災会議において,東南海・南海地震を対象とする地震防災戦略が決定された(図2−3−22)。

東南海・南海地震の地震防災戦略においては,減災目標として,死者数約17,800人を約9,100人に,経済被害額約57兆円を約31兆円にすることとしている。

特に,東南海・南海地震の場合には津波による死者数が多いことが特徴であり,住宅の耐震化と並んで,「住民の津波避難意識の向上」による津波被害の減災効果が期待される。津波避難意識の向上及びその保持を促すため,津波ハザードマップの作成・周知,津波防災訓練の実施のほか,防災計画の充実,防災教育等を推進することとしている。

図2−3−22 東南海・南海地震の地震防災戦略 東南海・南海地震の地震防災戦略の図

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