4 防災ボランティア活動の環境整備



4 防災ボランティア活動の環境整備

(1)最近の防災ボランティア活動をめぐる状況

 災害救援,避難生活の支援,家屋の泥かきなどの復旧活動,被災地や被災者の活力を取り戻すための復興活動,災害を未然に防止し防災活動の啓発を行う予防活動など,近年,防災の様々な局面において,数多くのボランティアの方々が,自発的,自立的に,様々な主体と協働して,活発な活動を行っている。
 このような活動は,例えば,古くは関東大震災時,近年でも平成2年雲仙普賢岳噴火災害や平成5年北海道南西沖地震災害などの際にもみられたが,平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災では,のべ130万人以上の人々が各種のボランティア活動に参加したことにより,防災ボランティア活動の重要性を改めて広く認識させるきっかけとなった。
 そのため,同年7月,我が国の災害対策の基本となる防災基本計画の中に,「防災ボランティア活動の環境整備」及び「ボランティアの受入れ」に関する項目が設けられ,同年12月には,災害対策基本法が改正され,国及び地方公共団体が「ボランティアによる防災活動の環境の整備に関する事項」の実施に努めなければならないこと(同法第8条)が法律上明確に規定された(なお,「ボランティア」という言葉が,我が国の法律に明記されたのはこれが初めてのことである。)。
 また,同年12月には,国民が,災害時におけるボランティア活動及び自主的な防災活動についての認識を深めるとともに,災害への備えの充実強化を図ることを目的として,「防災とボランティアの日」(毎年1月17日)及び「防災とボランティア週間」(毎年1月15日〜21日)の創設が閣議了解された。これに基づき,「防災とボランティアのつどい」を開催する等,国や地方公共団体等は,全国各地で防災ボランティア活動に関する様々な普及・啓発活動を行っている。
 昨今の大災害においては,多数のボランティアが,被災地に設置された災害ボランティアセンターを拠点に地元の行政や社会福祉協議会等と協働して,避難所の物資配布や家屋の泥かき等の活動に参加し,被災地の大きな助けとなりつつある。
 一方で,これまで地震活動があまり活発でなかった地域における地震(福岡県西方沖を震源とする地震),風水害の経験が少ない地域での被害,市街地の大半が水没した例(平成16年台風第23号での豊岡市の被害)や,山間部における孤立集落の同時多発的発生(平成16年新潟県中越地震)等,近年における災害の多様多彩な発生パターンを見ると,全国どこでも,いつ災害が起きても不思議ではない。
 こうした意識のもと,防災ボランティア活動が,安全で真に被災地にとって有効な形で行われるよう活動環境を整えていくことが重要である。
 このため,内閣府では,平成17年3月より,各地の防災ボランティア関係者等からなる「防災ボランティア活動検討会」を開催し,環境整備のための検討を行うとともに,適宜,ホームページ等を通じて,防災ボランティア活動に関する情報提供を行っている。災害の多様多彩な発生パターンを見ると,全国どこでも,いつ災害が起きても不思議ではない。

(2)近年における防災ボランティア活動

 防災ボランティア活動は,個人の自由意志に基づく自主的・自発的な活動であり,その内容や形態は様々である。また,防災ボランティア活動は,被災地における公助だけではカバーしきれないきめ細かなニーズへの対応も可能であり,労力だけでなく被災地の心の支えにもなり得る存在としても大きな役割を果たしてきている。しかしながら,あまりに大量に,あるいは無秩序にボランティアが被災地に入ると,有効な活動につながらないばかりではなく,被災地の受入れ負担を増大させるおそれもある。刻々と変わりうる被災地のニーズを的確に把握し,被災地の負担増を招かずに安全に活動を持続させる仕組みづくりが重要である。また,ボランティア希望者の偏在や支援ニーズとの相互調整,運営側スタッフの確保,行政や各種機関との連携なども必要となってきており,防災ボランティア活動に関する総合的な調整の場が必要になる。
 このため,近年は,ボランティア希望者の受付の円滑化や情報発信,被災地の支援ニーズとの調整等,被災地におけるボランティア活動と情報発信の拠点となる災害ボランティアセンターが設置されたり,被災地外から円滑にボランティア活動に参加できるようなボランティアバスツアーが企画されるなど,ボランティアの意欲を尊重しつつ,自発性・自律性の確保と,ボランティア活動の有効性や安全性,被災地の受入れ負担軽減とを両立するような仕組みづくりや知恵の共有が進みつつある。
 平成17年度においては,平成17年9月の台風第14号災害等において,宮崎県宮崎市などで災害ボランティアセンターが設置され,活発な活動が展開された。また,新潟県中越地震災害等,前年度に発生した災害に対し,引き続き被災地における生活支援活動や復旧・復興の支援活動が行われるとともに,平成17年2月の三宅島の避難指示の解除に伴う,島民帰島支援のボランティア活動も行われた。さらに,近年相次いだ災害の教訓を踏まえ,ボランティア関係者と行政,社会福祉協議会,自治会の代表者等が意見交換するなど平時における備えについて具体的に検討を始めた地域も見うけられるなど災害時以外の局面における防災ボランティア活動の活発化が注目される。

最近の主要な防災ボランティア活動参加のべ人数

(3)防災ボランティアの活動を広める場としての「防災とボランティアのつどい」の開催

 平成7年12月の閣議了解により,「防災とボランティアの日」及び「防災とボランティア週間」が設置されたのを受け,内閣府(平成12年までは旧国土庁防災局)では,平成8年1月より,原則として毎年1月に「防災とボランティアのつどい」等,防災ボランティアの理解促進のための催事を開催し,防災ボランティア活動や自主的な防災活動の重要性を広める機会を提供している。
 平成17年度の「防災とボランティアのつどい」は,平成18年1月22日に,東京都墨田区で開催し,全国各地の被災地関係者,ボランティア関係者,一般市民等,約190名が参加し,終日熱心な対話が行われた。

 


 まずはじめに,主催者として沓掛防災担当大臣から挨拶があり,その後,近年の被災地からの報告として,愛媛県新居浜市,兵庫県豊岡市,山口県美川町,宮崎県宮崎市の各被災地のボランティア関係者から被災地の状況と活動の内容について発表があり,参加者との意見交換が行われた。
 その後,「被災地が主役の防災ボランティア活動」,「若者と防災ボランティア活動」,「地域のたすけあいと防災ボランティア活動」,「地域のネットワークづくりと防災ボランティア活動」の4つの分科会に分かれ,模造紙が広げられたテーブルの上で,班に分かれ,参加者の知見や気づきを反映するなど参加者全員が作業すること等を通じて,防災ボランティアの問題意識や,防災ボランティア活動全般についての幅広い意見の交換が行われた。
 最後にまとめの全体会では,模造紙等を活用して各分科会それぞれの成果を報告しあった後,全体で意見交換を行った。
 会場前では,近年の被災地の状況を写した写真や子ども達が作成した防災マップの展示や,各災害におけるボランティア活動などのパネル展示も行われるなど,終日,一般市民とボランティア関係者との交流が深められた。

(4)防災ボランティア活動を深める場としての「防災ボランティア活動検討会」の開催

 各地の防災ボランティア関係者が,ボランティア活動における課題や成果を持ち寄り,知識を共有化するため,内閣府は,「防災ボランティア活動検討会」を開催している。平成16年3月に東京都内で2度開催した。平成17年度においては,6月に前年に水害にあった福井県福井市で,10月には前年に新潟県中越地震があった新潟県長岡市で,地元ボランティア団体のイベントと連携して開催し,災害ボランティアセンターの立ち上げ運営の円滑化,ボランティアの活動資金の確保,ボランティアの業務の範囲・安全衛生確保など,近年の防災ボランティア活動において共有すべき知恵や課題について意見交換を行った。
 その成果として,各回議事録等を公開するとともに,検討成果は,防災ボランティア活動の情報・ヒント集,お作法集,資料集等として内閣府の「みんなで防災」のホームページ(http://www.bousai.go.jp/minna/)に掲載され,平時からの各地の防災ボランティア活動の検討の参考とされている。

 


[防災ボランティア活動検討会」の開催経緯

(5)近年の災害ボランティアセンターの設置に関する状況等

 平成17年度において,水害に伴い災害ボランティアセンターが設置されたのは14市町であった。
 これらの災害ボランティアセンターの設置場所をみると,社会福祉協議会内が最も多いが,他にもボランティアセンター,福祉センターに置かれたもの,また,深刻な被災現場に近い場所に設置した市町もあった。
 災害ボランティアセンター(以下本節において「センター」という。)の設置形態をみると,ボランティア団体と連携して設置したところが8市町で,そのうち1市では,ボランティア団体と行政と社会福祉協議会の3者が連携して設置した。一方,ボランティア団体と連携せずに設置したところが6市町で,その内訳は,被災地の町社会福祉協議会単独が2町,近隣社会福祉協議会や県社会福祉協議会との共同が2市町,行政と社会福祉協議会との共同が1町,社会福祉協議会と区長,民生委員の共同が1市であった。
 センターからは,センターの活動の際には地域住民のニーズの収集などの面で地元自治会や民生委員等の協力が不可欠であるとの指摘もあり,ボランティア希望者と被災者からの支援ニーズを円滑に調整するためには,ボランティア団体,社会福祉協議会,行政が密に連携して,センターを設置していくことが期待されている。
 また,多くのセンターで,行政と,被災者ニーズ等について情報交換を行っている一方,平時から行政との定期な情報交換のための連携の場を設置しているところは1市しかなかった。センターからは,円滑な活動開始のためには平時から連携の場を設置しておくことが重要であり,災害を機に地元のボランティア団体等との情報交換が日常的に行われるようになったというところもあった。
 センターの設置日数は,平均では約14日間であり,最短で3日間,最長で78日間であった。内訳では1週間以内が5市町,1週間超2週間以内が7市町,2週間超が2市であった。
 水害の際のボランティアの主な活動としては,被災家屋の土砂の撤去,後片づけ,清掃,荷物の運び出し,ゴミ処理など,短期間に多くの人手が必要な作業で,作業の性質上もまた安全衛生管理上もチームごとに段取りよく作業を行う必要があるものが多く,作業の管理のためにもセンターの設置の必要性が高いとされた。
 センターを円滑かつ速やかに設置するためには,センター設置のための知見や仕組みの整備,センター運営に必要な機材,用具等を常備しておける設置場所,必要な物品を購入するためセンターの裁量で使える資金の存在が重要である。
 センターを設置した際に,既存のマニュアルを参考にするケースは少なくないが,必ずしも直面する状況に合致したものとなっていないとの指摘もあり,地域の現状に合わせ,災害の種別毎に,センター設置,運営マニュアルを整備することが重要である。
 また,センター設置の際に必要な金額は,平成17年度に設置されたセンターでは数10万円から100万円という規模であったが,小規模な市町村でも円滑にセンターが設置されるためには,平時から防災ボランティア活動支援のための基金を設置したり,資金に関する取決めを行っておくことが重要である。また,センター運用開始後の様々な経費を賄うためには,センター開設直後から,防災ボランティア活動のための口座を開設しておくことが有効である。
 また,1市であったが,地域防災計画の中にセンターやボランティアについての記述がない地方公共団体も見うけられた。災害時にはボランティア希望者がかけつけ,また被災地の行政のみでは手の回らないこともありえることや被災者への細やかな対応ができることから,災害時のボランティア活動は今や当然のものとして考え,受入や調整,資金等につき,平時に様々な準備をしておくことが必要である。
 数十年やそれ以上の長い間隔をもつ災害は,多くの市町村住民にとって不慣れか初めての経験であり,災害に即座に対処できる経験を有している人材を常に有しているわけではない。一方でセンターでは,各地から災害経験が豊富な人材も集まってくる。よって,平時より過去の被災地のセンターの運営を学び,地域に見合ったマニュアルを作成するとともに,関係者が一堂に会した図上訓練の実施や,各地のボランティア関係者や各団体と顔の見える関係づくりを行っておくことが重要である。このため,内閣府では近年被災地で活躍した方の経験や知恵などを共有化した「情報・ヒント集」等をインターネット上で公開するとともに,出会いの場を創出することを目的に「防災とボランティアのつどい」等を開催している。各地域においても様々な主体が参加して,その地域ならではのマニュアルづくり,学びや交流の場づくりを進めることが期待される。
 地域防災計画に記載があっても,定期的な連絡会を開催しない,センターの設置主体や設置場所,設置のための資金,機材等をどこから確保するか等につき定めがなければ,円滑かつ速やかにセンターを開設することは難しい。また,地域防災計画にボランティアの記載をしていても,ボランティアの受付や実際の活動拠点が明示されていなければ,有効にボランティア活動を展開させることは困難である。実効性のある防災ボランティア活動の展開のためには地域防災計画やそれに基づく協定,防災訓練等に,センターの運営を位置づけ,センターを運営する人材を育成あるいは確保してていくことが重要である。
 また,被災地域が複数市町村にわたる等の場合には,情報の共有や各市町村センターの支援や代行のため,また,東海地震,東南海・南海地震,首都直下地震,日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震など,県境を越える規模の災害の発生も想定されている中では,広域的なボランティア活動の調整の在り方について引き続き検討する必要がある。
 一方で,市町村合併により,全国各地で市町村面積が広がっている中では,市町村内に複数の現地センターを置くことなども考えられ,実際,平成17年度においても2市において複数のセンターが設置された。このような中で,市町村内各センターの間の調整や情報の一元化など,より高次かつきめ細やかな対応を実現する体制づくりが求められてきている。被災地のニーズに的確かつ迅速に対処でき,かつ,安全な環境の中で,ボランティアの意欲や能力が十分に発揮できる環境を整えるために,地域におけるこのような多様な支援態勢の確立も重要である。
 また,センターは,センターを経由しないボランティア活動についても情報収集し,被災地全体の活動情報の共有化と連携の場づくりなどの機能も期待される。
 さらには,センターを支援する動きとして,センターや活動現場の運営の助言や情報提供,ボランティア活動基金等への協力,ボランティアバスツアーや,被災地の情報の整理・発信の支援等,被災地外から被災地の負担を軽減しようという様々な取組も広がりを見せつつある。現地の受入れ不安を解消し,ボランティア初心者も気軽に活動に参加できることなどから,このような被災地外からできる有効な活動がより一層広がっていくことが期待される。

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