防災リーダーと地域の輪 第40回



日建設計ボランティア部
明治大学山本俊哉研究室
千葉大学木下勇研究室
(一社)子ども安全まちづくりパートナーズ
〈内閣府(防災担当)普及啓発・連携担当〉

防災リーダーと地域の輪 第40回

地震、津波、豪雨などの災害から命を守るには、どこに、どのような経路で逃げるかを知っておくことが大切です。そのために各自治体は、災害の被害が想定される地域や避難場所・避難経路などを地図上に表示したハザードマップを住民向けに作成・公表しています。今、このハザードマップを活用して、「避難地形時間地図」、通称「逃げ地図」を作成する活動が注目されています。

逃げ地図の描き方や、ワークショップで描き方を伝達し、話し合いの場とする基本形は、建築設計事務所である株式会社日建設計のボランティア部が、東日本大震災で被災した地域の復興計画策定を支援するために考案しました。

逃げ地図作成で必要なのは、白地図(2,000〜2,500分の1)、色鉛筆、紐です。まず、ハザードマップを参照し、土砂災害危険箇所などの避難障害地点や避難目標地点を白地図に書き込みます。次に、避難目標地点までの避難経路となる道路に色鉛筆で色を塗ります。この時に距離を測る物差しとして使うのが紐です。2,500分の1の地図の場合、足の悪い後期高齢者が3分間で移動できる距離129mに相当する5.16cmの長さの紐を用意します。紐を地図にあて、避難目標地点を起点に、3分ごとに緑、黄緑、黄、橙といった順に道路を色分けしていきます。そして、避難する方向を示す矢印を道路に沿って記せば、地図は完成となります。

「逃げ地図を作成すると、避難目標地点に到達するまでの時間と経路が一目で分かるようになります。また、新たに避難場所や避難経路をつくった場合の避難時間の短縮効果も確認することができます」と一般社団法人子ども安全まちづくりパートナーズの代表理事で明治大学理工学部教授の山本俊哉さんは言います。

山本さんは平成25年(2013年)に日建設計のボランティア部や千葉大学大学院園芸学研究科教授の木下勇さんと研究開発グループを立ち上げました。各地でワークショップを開催し、逃げ地図を防災教育のツールとして普及させる取組みを進めています。

岩手県陸前高田市では、平成25年9月に同市立高田東中学校で生徒と住民の計130名が参加して開催されたワークショップをきっかけに、逃げ地図作成が地域に広がっています。同市小友地区では小友小学校PTA、消防団員、住民の約30名が集まり逃げ地図を作成した結果、避難場所と避難経路が見直されました。その逃げ地図をもとに小友小学校の児童が避難訓練を実施すると、従来よりも避難時間を5分短縮できることが分かりました。

また、同市広田地区では逃げ地図を活用した子ども向けの防災学習プログラム「キツネを探せ in 陸前高田」が行われました。参加者は「キツネ」の面を被った人物を追って、逃げ地図に記された避難経路を高台の避難場所を目指して散策する中で、避難経路を確認します。途中、メンコなどの昔遊びや水運びゲームも体験し、楽しみながら防災を学びました。

「防災は楽しくないと続かないですし、広がりませんので、逃げ地図にゲームの要素を入れたり、IoTを活用したり、様々な工夫が行われています」と山本さんは話します。

逃げ地図は津波災害以外にも活用されています。埼玉県秩父市上白久地区では、地域の大半が土砂災害警戒区域に指定されているため、住民が「土砂災害からの逃げ地図」作成に取組みました。住民や市職員らが地区内を実際に歩き、避難障害地点などを確認した上で、大雨時の避難場所、避難経路、避難方法の留意事項などを明示した逃げ地図を作成し、全世帯に配布しています。

また、逃げ地図によって、これまでの避難計画の不合理な点も明らかになりました。上白久地区は3つの集落に分かれており、災害の危険が迫った時に住民はそれぞれの集落の避難場所に避難することになっていました。しかし、自分が住む集落よりも、隣の集落の避難場所が近い場合もあることが逃げ地図で一目瞭然となったのです。これを受け、集落の枠を超えて避難できることが集落の間で合意されました。さらに、逃げ地図をもとに地区防災計画を策定しました。

「逃げ地図は、色々な人が議論しながら一緒につくっていくことが大切です。その中で、高齢者の避難、危険箇所の位置など、様々な気づきを得られます。逃げ地図は世代間や地域間のリスクコミュニケーションを促進するツールになるのです」と山本さんは言います。

逃げ地図作成のワークショップは現在まで15都府県の約60カ所で開催されています。今年は日本青年会議所(JCI)と協力し、さらに全国へと展開される予定です。

南海トラフ地震での津波を想定して逃げ地図を作成する高知県黒潮町佐賀地区の住民。(左) 高知県黒潮町佐賀地区で作成した地図をPCで仕上げたもの。(右)

南海トラフ地震での津波を想定して逃げ地図を作成する高知県黒潮町佐賀地区の住民。(左) 高知県黒潮町佐賀地区で作成した地図をPCで仕上げたもの。(右)

宮城県気仙沼市津谷川流域地区で開催された逃げ地図のワークショップ。(左) 防災学習プログラム「キツネを探せ in 陸前高田」で、仮設住宅を逃げる「キツネ」(右)

宮城県気仙沼市津谷川流域地区で開催された逃げ地図のワークショップ。(左) 防災学習プログラム「キツネを探せ in 陸前高田」で、仮設住宅を逃げる「キツネ」(右)



「逃げ地図」作成マニュアル

▶http://www.nigechizu.com QRコード


(画像提供:すべて 明治大学山本俊哉研究室)



所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.