防災リーダーと地域の輪 第36回

高知市立南海中学校

防災リーダーと地域の輪 第36回

南海トラフ地震は、太平洋沖を震源とし、最大震度7の揺れと大津波によって、関東から九州にかけて大きな被害をもたらすと想定されています。この巨大地震によって深刻な被害を受ける可能性の高い県の一つである高知県では、揺れと津波で最大42,000人以上が被災すると予測されています。

その高知県で、住民との絆を深めることで地域の防災意識向上に取り組んでいるのが高知市立南海中学校(生徒数201名) です。同校は太平洋に面する土佐湾の海岸線から約800mに位置しており、南海トラフ地震が発生した場合には津波が30分~1時間で到達し、校区の60%以上が被害にあうと予測されています。

防災活動を本格的に始めるきっかけとなったのは、平成23年 (2011)の東日本大震災です。同地域にも大津波警報が発令されたにもかかわらず避難する人は少なく、一部の生徒や住民が津波を見物に海岸へ行くなど、防災意識の低さが明らかになりました。こうした状況に危機感を持った同校は、南海トラフ地震に備えた防災教育の一環としてNSP (Nankai Survival Project)を開始しました。

同校の隅田哲正教頭はその目標を次のように説明します。

「生徒が災害時に自分の命を守り、安全を確保できる力を身に付けるとともに、地域のために主体的に行動できるようになることを目指しています。そのために、生徒が中心となり、住民と協力しながら活動を進めています。」

主な活動の一つが、防災イベント「防災フェア」です。同フェアは3年生全員と約20名の生徒で構成されるNSP実行委員会が中心となり、平成24年以来、毎年開催されています。消防署、警察署、自衛隊、日本赤十字、自主防災組織など地域の関係機関の支援を受け、初期消火や応急手当の訓練、起震車体験、避難シミュレーションゲーム、炊き出し試食会、着衣水泳などが行われ、地域内外から毎年700人以上が参加します。

防災フェアでは、NSP実行委員会による「防災にわか」の上演も行っています。「にわか」とは、 江戸時代に大阪で生まれた即興の寸劇で、高知県室戸市の神社の奉納行事として上演される佐喜浜俄(さきはまにわか)は、国の無形民俗文化財にも指定されています。「防災にわか」は、この佐喜浜俄から着想を得て作られました。生徒たちが演じる「校長先生」「戦国大名の長宗我部元親」「坂本龍馬」によるユーモア溢れるやりとりで、防災の大切さを訴える話となっています。

「『防災にわか』を始めた当時の教職員は、住民の防災意識を高めるには、『笑い』を交えて、 防災を分かりやすく紹介するのが効果的ではと考えました。その狙い通り『防災にわか』は大好評で、地域内外の防災イベントやお祭りなどに引っ張りだことなっています」と隅田教頭は話します。

この他、平成27年から毎年実施されている「南海中学校区一斉津波避難訓練」も同校の重要な活動となっています。生徒が自主防災組織の代表者との打ち合わせや、住民への説明会を行って訓練にのぞみます。平成28年の訓練の前には、生徒が自主防災組織と協力して「津波避難マップ」の改善に取り組みました。以前のマップの地名には住民に馴染みのない公的な名称が使われており、「どこの場所か分からない」という指摘があったため、住民が聞き慣れた地域独自の呼び名へと修正し、より使いやすいマップとなりました。

「防災にわか」を上演する生徒たち

「防災にわか」を上演する生徒たち


(写真左)武者姿で「長宗我部祭り」に参加する 生徒たち
(右)「防災フェア」での炊き出し訓練
(写真左)武者姿で「長宗我部祭り」に参加する 生徒たち (右)「防災フェア」での炊き出し訓練

(写真左)「津波避難マップ」作成のために自主防災組織と現地調(右)地域住民への避難訓練説明会
(写真左)「津波避難マップ」作成のために自主防災組織と現地調(右)地域住民への避難訓練説明会

訓練当日は、生徒は住民と一 緒に避難するだけではなく、避難者受付名簿作成も担当します。 訓練後には反省会を開き、参加 者を増やすための改善点などを話し合います。訓練の参加者は毎 回800人程度にとどまっていますが、それを2000人に増やすこと が目標になっています。

南海中学校の生徒は防災活動以外にも地域のお祭りや福祉施 設の行事などに積極的に参加して、住民との信頼関係を築いています。

こうした地域に根ざした防災活動は高く評価され、南海中学校は平成28年度に防災教育チャレンジプランの「特別賞」を、平成29年度には、ぼうさい甲子園の 「ぼうさい大賞」を受賞しています。

「住民の方からも、『中学生が動くと、大人を動かすことができる。南海中は地域になくてはならない存在』という言葉をいただいています。また、中学生にとっても、自らの活躍の場を得られることで、大きな自信につながってい ます」と隅田教頭は話します。

今後も、「地域の絆は防災の力」 を合言葉に、南海中学校は前進し続けます。

(画像提供:すべて南海中学校)


〈内閣府( 防災担当) 普及啓発・連携担当〉

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.