防災の動き

GLIDE 世界災害共通番号の可能性
— 仙台防災枠組推進のための災害情報インフラとして —

1.災害指標整備と GLIDE世界災害共通番号

仙台防災枠組(※1) の着実な推進、的確な災害対策の立案・推進のためには、災害に関する基礎的情報の整備が不可欠である。 災害指標については、日本政府の大きな貢献により、 本年2月の国連総会で「仙台防災枠組2015-2030におけるグローバルターゲットのためのグローバル指標及び指標フォローアップ及び運用に関する政府間専門家作業部会勧告」が採択され、 今後は各国が整備を進めていくこととなる。

そのためには、個々の「自然災害」について正しく把握・記録することが出発点となるため、アジア防災センター(※2) (Asian Disaster Reduction Center,ADRC、以下ADRCという。)が関係機関とともに提案・推奨してきたGLIDE「世界災害共通番号」に今一度着目することを提唱したい。

(※1)2015年から2030年までの15年間における防災行動に関する国際的指針。2015年3月に仙台市にて開催された第3回国連防災世界会議(WCDRR)において採択された。
(※2)阪神・淡路大震災を一つの契機に、日本政府の提案で1998年に発足したアジアにおける地域国際機関(本部は兵庫県神戸市)。現在30か国が加盟。

2.世界災害共通番号— GLIDE番号

ADRCでは、設立以来、加盟国等の災害情報整備・共有を活動の柱の一つとしてきた。災害情報については、各国防災関係機関・国際機関・研究機関等が、各々独自にデータベースを整備・蓄積してきていたため、例えば複数国に影響を及ぼした台風に関して、様々な機関が整備した情報を相互に関連づけることは容易ではなかった。

● GLIDE番号の仕組み

GLIDE number (GLobal unique disaster IDEntifier number)は、複数のデータベースにある災害記録と、例えばReliefWeb(※3) のような災害情報ウェブサイトの連携に資するため、2001年にADRCが提唱したものである。

一つの災害に付されるGLIDE番号は、災害の種類別コード、発災年、6桁の年別災害番号、被災国コードからなる(図1参照)。この番号を用いることにより、複数のデータベースにある災害情報を相互に関連づけることができる。

GLIDE番号の例
(図1)GLIDEの仕組み

図2は、GLIDEの利用例を示したものである。2004年に10カ国以上に影響を及ぼしたインド洋地震及び津波について、各国に被害をもたらした津波が同じ地震による一連の津波であることが、GLIDE番号を参照することにより明確にわかる。

Effective infomation sharing tool for multi-national disasters
(図2)インド洋大津波(2004)に係る津波のGLIDE番号の例

(※3)国際連合人道問題調整事務所(OCHA)による世界各国の人災、天災に関わるポータルサイト。

● GLIDE番号の経緯

ADRCは、2001年にGLIDEの前身であるDisaster Unique IDを提唱し、同年夏に、ベルギーのルーバン・カトリック大学疫学研究所(CRED)が、同研究所の災害データベースEM-DATに係るTechnical Advisory Group Meetingをブリュッセルにて開催した折に、多数の防災関係機関の参加のもと、 GLIDEという名称が決定され、2002年 より発行が始まった。2004年には、ADRCとReliefWebによるGLIDE番号の発行・管理システムが完成・稼働した。2005年国連防災世界会議においては、災害情報に係るテーマ別セッションにおいて、災害に関する国連共通言語としてGLIDEの利用推進を図っていくことが確認された。

● GLIDE番号活用の現状

2001年から2016年までの間に発行されたGLIDE番号は約5,200件(※4) に上り(2015年:約180件、2016年:約140件)、主要な災害が発生すると、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)、Reliefweb、ADRC等により発行されてきている。発行されたGLIDE番号は、多数の国際機関、研究機関等に参照・活用されてきている。また、ADRCは加盟 国におけるGLIDE普及を進めてきている中、ASEAN加盟10ケ国を対象に、GLIDE活用能力を強化する研修を実施した。

(※4)人的災害も含む。

3.災害指標整備とGLIDE番号活用の課題と展望

今後、国連の取組に基づき、各国における災害指標整備が進展していく中で、GLIDE番号が積極的に活用されることが期待される。そのためには、各国防災機関においてGLIDE番号を発行しデータベースを維持・更新できる人材を育成していくための研修等を継続的に実施していくことが不可欠である。ADRCでは様々な防災研修等の機会にGLIDEに関する研修を取り入れてきている。 また、日本においても、防災白書等をはじめ政府機関の防災情報、研究機関による過去の災害も含めた充実した災害情報等を、GLIDE番号を活用することにより結び付け、相互に活用することが可能となれば、災害対策のための基礎的な情報インフラの厚みが増す。

さらに、PCやスマートフォンを通じてリアルタイムの防災情報を誰もが双方向で活用できる時代を迎えている中、例えば報道機関やオンラインメディア、インターネット上のコンテンツに、GLIDE番号が付されるようになれば、確度の高い情報の照合が容易になり、災害情報の収集と活用が飛躍的に充実する。

3回の国連防災世界会議を開催し、特に災害指標の検討において強いイニシアティブを発揮した日本政府には、次世代の世界の防災情報インフラ整備に向けたさらなる貢献を期待する。


〈アジア防災センター〉

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