防災リーダーと地域の輪 第32回

東京都中央区「リガーレ日本橋人形町団地管理組合」

防災リーダーと地域の輪 第32回

平成19年10月に誕生した東京都中央区の「リガーレ日本橋人形町(以下、リガーレ)」は、39階建てのタワーと3階建てのアネックスという2つの建物からなり、335世帯の住居(うち上層階の247世帯はUR都市機構の賃貸住宅)と31軒の店舗・事務所が入居する複合型マンション。平成29年には東京都の「東京防災隣組」に認定されるなど、その先進的・効果的な防災への取り組みで高く評価されている。

何よりも特徴的なのは、消防署への提出が義務付けられている一般的な消防計画の他に、独自に「震災時活動マニュアル」を作成していることだ。5フロアごとに拠点階を定め、そこに館内の防災センター(24時間稼働)とつながる非常用電話を設置したほか、各戸の安否確認用シートを常備するなど、“いざという時に本当にできること”を強く意識したマニュアルとなっている。団地管理組合の鈴木健一理事長にお話を伺った。

「いつ起きるか分からない災害に対する備えは『公助』だけをあてにするのではなく、できることは自分たちで行う『自助・共助』が基本となります。そこで、防災担当の専門委員たちが当マンションならではの特徴や問題点を洗い出した後、ワークショップを開いて意見を出し合いながら、より実効性の高いマニュアルを作っていきました。」

冊子として完成するまでには1年半もの月日がかかったが、そこがゴールではない。重要な冊子であることを住民に印象付け、しっかりと内容を理解した上で活用してもらうために、郵便受けに入れて全戸に配布するのではなく、あえてマンション1階の受付まで取りに来てもらったという。こうした細やかな配慮も住民の防災意識を高める大きなポイントだろう。

リガーレがある中央区は、マンションなどの集合住宅に居住する世帯の割合が8割を超える地域ということもあり、後にこのマニュアルは、住居と店舗が併存する複合型マンションの先進事例として区内で初めて公表された。さらに、これがベースとなって『震災時活動マニュアル作成の手引き』という冊子が中央区から発行され、区内で活用されている。

「住民の構成などの特性は1棟ずつ異なるため、震災時活動マニュアルはマンションごとに独自で作成しなければ意味がありません。作成の過程で関係者たちの理解が進み、防災に対する意識が高まっていくという側面もあるので、ぜひ取り組んでいただきたいですね。」

  • 地元町会との合同防災訓練では「ベランダ仕切り板蹴破り体験」(写真左)
    地元町会との合同防災訓練では「ベランダ仕切り板蹴破り体験」
  • 「救急救命訓練」
    「救急救命訓練」

町会との合同防災訓練も実施

マンション単独の防災訓練(4月)の他に、地元の人形町一丁目町会と協力して合同防災訓練(10月)を実施しているのも特徴的だ。マンションを地域全体の防災の拠点として位置付け、街のために貢献していくことを目的に始まった取り組みで、起震車による地震体験やベランダ仕切り板の蹴破り体験など、できるだけ多くの参加者が実際に体験できるようなメニューが用意されている。昨年10月の実施時には関係者含めて約120名が参加したという。

「炊き出し訓練も行うのですが、祭り好きが多い人形町だからでしょうか、材料の仕入れから前日の仕込み、当日の煮炊きから配膳まで、住民の方々が楽しみながら協力してくださっています。メニューも、ある時は鴨汁が出たり、バイキング形式で選べるものだったりと、毎回工夫を凝らしていますよ。」

防災訓練以外のイベントも豊富だ。1月の七福神めぐり、2月の初午祭、5月の献茶祭と、マンション敷地内に鎮座する茶ノ木神社に関連したイベントの他、子供を中心にした七夕やクリスマスツリーの飾り付け会、落語会やヨガ講座、東京マラソンのランナー応援イベントなど、年間を通じて多彩な内容で人々を楽しませている。マンション設立当初に比べて一時は防災訓練への参加人数が減少傾向にあったものの、中央区の積極的なサポートなどもあり、こうしたイベント実施の効果によって近年は参加者も増えているという。

「住民の皆さんの間に防災の意識はだいぶ浸透してきたと思いますが、その浸透度を100%まで高めていく必要があります。しかし、それは大鉈を振るうような大胆な施策を行うのではなく、たとえば日々の努力や気配りなど“小さなことの積み重ね”でしかなし得ません。そうした地道な活動を続けていくうちに、ふと気付いたら大きな成果が出ているというのが『防災』のあり方なのではないでしょうか。」

防災の取り組みに近道などないという意識こそが、大きな推進力になっている。

  • 炊き出し
    合同防災訓練での「炊き出し訓練」の様子。
    訓練の枠を超え、地域の人々が楽しみながら参加できるイベントにもなっている。
  • 神社境内
    マンション敷地内に鎮座する茶ノ木神社。
    1月の「七福神めぐり」の時期には1週間で5万人ほどが訪れるという。
(写真提供:リガーレ日本橋人形町団地管理組合)

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