防災の動き

インドネシアの防災政策と今後の協力の重要性

1.はじめに

インドネシアは、環太平洋火山帯に位置する島国であり熱帯の高温多湿な気候に覆われていることから、地震・津波や火山噴火、洪水、土砂災害など、日本と同様に大小多様な自然災害が頻発する国です。私は、2014年12月に国土交通省からJICAの長期個別専門家としてインドネシア国家防災庁(BNPB)に派遣され、本年3月までの2年4ヶ月間、BNPBが実施する防災政策に関する助言や、BNPBに対するODA技術協力案件の形成支援などを行ってきました。

本稿では、インドネシアの防災政策や課題のうち、特に地方自治体に関連するものの一部を紹介するとともに、日本としての今後の協力の重要性について私見を述べます。

2.組織体制

インドネシア政府の防災体制が本格的に見直され始めたのは、2004年のインド洋大津波による甚大な被害を受けて以降のことです。日本政府やJICAの支援もあり、2007年に『防災法』(日本の災対法に相当)が制定され、それを根拠として翌2008年にBNPBが設立されました。その後、全国34州、約500県・市において地方防災局(BPBD)が設立されました。BPBDはBNPBの地方支分部局ではなく、各自治体の中に設けられた組織であり、この点、日本における内閣府(防災担当)と各自治体内の防災部局との関係と類似した組織体制となっています。

県・市における地域防災計画の策定状況
県・市における地域防災計画の策定状況

3.BPBDやコミュニティの防災体制強化

BPBDが全国の自治体に設置され始めてまだ10年も経っておらず、その人員体制や職員の能力が不十分なケースも少なくありません。

各自治体の防災対策の一つの目安となるのが地域防災計画の策定の有無ですが、2016年6月時点で、全国497県市中91県市にとどまっています(図)。2011年から2015年にかけてJICAの技術協力プロジェクトの一環で、各種ハザードマップづくりから地域防災計画の策定にいたるプロセスを支援する技術ガイドラインを提供するなどしており、こうした成果も活用しながら、現在BNPBにおいて全国各地に出向く等によりBPBDの能力強化に取り組まれているところです。“Desa Tangguh”(デサ・タング)と呼ばれる取り組みも推進されています。直訳すると「強靱な村づくり」であり、基礎自治体である県・市よりも小さな村落(Desa)単位で、防災への対応能力を高めることを目的とした事業です。

インドネシアにおいては“gotong royong”(ゴトン・ロヨン)と呼ばれる地域コミュニティの相互扶助の慣習が根強く残っており、防災対策においてもその役割は大きいと考えられています。このため、各BPBDが主導しながら、村落毎のリスクの把握や防災計画づくり、市民団体等から構成される防災フォーラムの設置、官学民の連携によるリーダーの養成などに取り組むこととされています。

4.都市部における津波からの避難

2016年3月2日19時49分(現地時間)、スマトラ島の南西約600km沖合、深さ10kmを震源とするM7.8の地震が発生し、その約5分後には、同島インド洋沿岸の一部や沖合の島嶼部に対し、気象気候地球物理庁(BMKG=日本の気象庁に相当)から津波警報が発表されました。

警報は瞬時にテレビやラジオ、各地のサイレン等を通じて住民に伝えられたものの、西スマトラ州最大の都市であるパダン市等では、避難する自動車やバイクで大渋滞が発生し、身動きが取れない状況が生じたとのことです。(写真)

津波警報発令中、避難する自転車やバイクで混雑するバダン市内(撮影:Didi Aryadi)
津波警報発令中、避難する自転車やバイクで混雑するバダン市内(撮影:Didi Aryadi)
(写真提供:ジオハザードインターナショナル)

今回は結果的に津波による被害は報告されていませんが、人口が集中する都市部においてこのような状況が発生することは極めて深刻な問題です。2012年4月には、バンダ・アチェ市でも同様の事案が発生しています。

自動車による避難のあり方に関しては日本国内でも議論や対策が進められてきていますが、インドネシアにおいては、次のような状況にも考慮する必要があると考えます。

一つ目は、自動車やバイクそのものが自宅や生命と同じくらい重要な「資産」だと考える住民が多く、それを守りたいが故にこれらに乗って避難する人が多いということです。命を守ることを最優先に徒歩避難を呼び掛けるだけでは、なかなか浸透しないと考えられます。

二つ目は、家族や友人のことを非常に大切にする考えから、これらの人を探す、あるいは迎えに行くために、高台等の本来とは逆の方向に向かう人も多く、避難の流れを阻害する要因になっているということです。

「津波てんでんこ」の考え方を普及させることが日本以上に難しいと想像されますが、家族や友人等がいざという時にどう行動するのか、特に要援護者については時間帯等によって誰が避難を支援するのか、家族やコミュニティで予めの合意形成を地道に図っていく必要があると考えます。

5.今後の協力の重要性

日本は、防災対策に関し世界でもトップクラスの技術やインフラ、高い国民意識を有する国です。これは、私たちの先人がはるか昔から防災対策に取り組み、様々な災害を経験しながらも高度経済成長を成し遂げるなど、長年の経験やノウハウ、努力の積み重ねによるものです。

一方、インドネシアにおける本格的な事前防災対策はまだ始まったばかりです。加えて、気候の変化に伴い災害が頻発、激甚化するとともに、著しい経済成長に伴い守るべきものや配分できるリソースも急速に変化しており、インドネシアにおける防災対策には今後、スピードとダイナミズムが求められると考えます。そのような状況では、日本がもつような過去の災害の経験や教訓、それらに基づく防災対策のノウハウを活用することが非常に重要となります。

日本は、防災対策に関してインドネシアと類似点が多々あるほか、近年の災害や新たな被害想定で明らかとなった課題を克服すべく、現在進行形で地道な努力と様々な工夫を積み重ねている自治体も数多くあります。そうした取り組みも共有するなど、日本だからこそできる協力も多いのではないかと考えます。


〈元・JICA専門家 新屋孝文〉

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内閣府政策統括官(防災担当)

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