特集 津波防災の日

阪神・淡路大震災の発生から今年で20年を迎えました。日本で初めて近代的な大都市を襲った直下型地震によって、多くの人が犠牲となりました。その後、日本では大震災の経験を活かし、様々な防災対策が進められました。大震災の教訓や記憶を継承し、将来発生する災害に備えましょう。

阪神・淡路大震災によって崩れた兵庫県神戸市のビル(神戸市 提供)

第3回国連防災世界会議に向けて

阪神・淡路大震災から20年を迎えた1月17日、山谷えり子内閣府特命担当大臣(防災)は兵庫県を訪問し、「人と防災未来センター」を視察した後、「阪神・淡路大震災20年追悼式典」に出席し、政府を代表して追悼の言葉を捧げました。
その後、第3回国連防災世界会議に向け、ワルストロム国連特別代表と会談を行いました。会談で山谷大臣は「日本においては、Build Back Betterと『防災の主流化』※が定着してきている。強靭化や事前防災の重要性の認識が広まり、防災事業はコストではなく投資との考えを持つようになってきた」と述べました。これに対して、ワルストロム特別代表は「国連防災会議では、(山谷大臣は)議長としてBuild Back Betterと『防災の主流化』をぜひ世界に広めてほしい。多くの国では、短期的な視点で判断することが多く、災害予防や災害リスク削減が優先事項とならない傾向がある。防災の主流化を進めるためには震災の記憶を風化させないことが重要である」と述べました。さらに、山谷大臣は「(世界会議の)各セッションの成果を防災行動につなげるものにしていきたい。セッション以外にも、防災グッズの展示会の開催、日本の文化や食を体験できるエクスカーションやスタディーツアーも企画している。頭、心、体、魂が共同して働き、防災の主流化に資するものとしたい」と述べました。
※「Build Back Better」は、災害発生前よりも、より災害に強い社会を目指すこと。「防災の主流化」は、政府が防災を国家の優先課題と位置付けること、防災の視点をあらゆる開発のセクターに取り入れること、防災への事前投資を拡大することなど。(国際協力機構「防災の主流化に向けて」パンフレットから)

人と防災未来センターを視察する山谷大臣

ワルストロム国連事務総長特別代表と会談する山谷大臣(兵庫県災害対策センター)

阪神・淡路大震災の記憶を継承

6400名を超える命が失われた阪神・淡路大震災の経験を踏まえ、建築物の耐震改修の促進、地震に強いまちづくり、住宅に被害を受けた被災者に対する支援策の充実など、政府は様々な災害対策を推進してきました。兵庫県が設置した「人と防災未来センター」の運営支援もその一つです。同センターは、防災、減災に関する研究、研修等のほか、阪神・淡路大震災に関する資料収集・保存・展示の取組を推進しています。
人と防災未来センターでは現在、特別企画展「1・17阪神・淡路大震災20年 伝えよう 未来へ 世界へ」が開催されています(平成27年6月28日まで)。
企画展のパート1の「あらためて振り返る1995・1・17」では、被災地の20年の歩みを見つめ直しています。ここでは、震災の経験と教訓を、震災を知らない世代にも伝えるために、資料や地図、3D映像、データ、年表など多様な切り口での展示が行われており、資料室所蔵の震災資料の実物や報告書から得られる知見も活かされています。
パート2の「1・17と3・11ふたつの災害の特性を知る」では、阪神・淡路大震災と東日本大震災の各種データがまとめられ、両震災の被害データ、特徴等を比較して紹介しています。
パート3の「20XX. X. X 将来の巨大地震に備える」では、将来の巨大地震への備えを考えるために、デジタルマッピングジオラマ模型による首都直下地震の被害想定、首都直下地震想像画、南海トラフ巨大地震の被害想定、防災・減災の先進的な取組事例等が紹介されています。

自助・共助の重要性

阪神・淡路大震災では多くの建物が倒壊しましたが、そうした建物から救出され、生き延びた人も少なくありませんでした。その約8割が家族や近隣住民等によって救出されています(図表1)。阪神・淡路大震災では、地震によって建物が倒壊するだけではなく、火災も発生しました。行政は建物に閉じ込められた人の救出とともに、消火活動を同時に行わなければなりませんでした。そのため、行政が被災者の救出活動を十分に行うことができず、被災者の自力での脱出、家族や近隣住民による救出の割合が多くなっています。(「平成26年度版防災白書」から)

図表1 阪神・淡路大震災における救助の主体と救出者数
出典:平成26年度版防災白書

阪神・淡路大震災や東日本大震災のような大規模広域災害が発生した時には、「公助」(国や地方公共団体による救援活動等)には限界があることが明らかとなっています。そのため、大規模災害による被害の拡大を防ぐためには、「自助」(自分自身で身の安全を守ること)や「共助」(地域で相互に助け合うこと)が極めて重要です。
阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、平成7年6月と12月に災害対策基本法が大幅に改正されました。その改正の一つとして、行政による「自主防災組織」の育成が明記されました。共助の中核を担う自主防災組織は、自治会等を中心に地域住民によって自主的に組織されます。平時は防災知識の普及・啓発、防災訓練の実施等の活動、災害時は情報の収集・伝達、初期消火、救出・救援活動等にあたります。兵庫県では、阪神・淡路大震災後、自主防災組織の活動カバー率(全世帯数のうち、自主防災組織の活動範囲に含まれている地域の世帯数の割合)が上昇し、現在は全国でトップレベルの96%に達しています。全国的にもその組織数、活動カバー率は年々伸びています(図表2)。

図表2 全国の自主防災組織の組織数と活動カバー率の推移
出典:消防庁

地域コミュニティにおける共助による防災活動をさらに推進するために、平成25年6月に改正された災害対策基本法では「地区防災計画制度」が創設されました。これまで、国レベル、都道府県及び市町村レベルでの防災計画が定められていましたが、地区防災計画制度によって、新たに地域レベルで、市町村内の一定の地区の居住者及び事業者が防災計画を策定できるようになりました。地域に詳しい居住者等が策定することで、災害時に、地域コミュニティごとに効果的な防災活動ができるようにすることが目的です。地区防災計画制度の詳しい内容については、以下のホームページをご覧下さい。(https://www.bousai.go.jp/kyoiku/chikubousai/

ボランティア元年

兵庫県の調査によると、阪神・淡路大震災の発生直後から1年間で、被災者を支援するために全国から延べ約138万人のボランティアが集まりました。また、被災者を支援する非営利組織(NPO)も数多く生まれました。このため、平成7年は「ボランティア元年」と呼ばれています。しかし、阪神・淡路大震災では、行政側のボランティア受入体制が十分に整っていなかったという問題もありました。そこで、平成7年の災害対策基本法の改正では、災害時のボランティアによる活動を円滑に進めるために、国と地方公共団体がボランティアによる防災活動の環境整備の実施に努めるべきということが加えられました。また、平成7年12月には、阪神・淡路大震災が発生した1月17日を「防災とボランティアの日」とし、1月15日から21日までを「防災とボランティア週間」とすることが閣議了解されました。さらに、平成10年には、ボランティア活動等、市民が行う社会貢献を促進するために「特定非営利活動促進法」(NPO法)が制定されました。
阪神・淡路大震災以降、地震や豪雨等の災害時には、数多くのボランティアが被災地の支援に駆けつけるようになりました。ボランティアの受入体制として、災害時には市町村の社会福祉協議会が中心となり、災害ボランティアセンターを開設し、支援ニーズの把握を行うとともに、ボランティア受入の調整やマッチング等を行うようになっています。全国社会福祉協議会によれば、東日本大震災では、84カ所の災害ボランティアセンターを開設して、平成25年3月までに、約117万人を超えるボランティア活動の支援を行いました。

建物の耐震化

阪神・淡路大震災の犠牲者の死因は、7割以上が建物の倒壊等による窒息・圧死でした(図表3)。そして、倒壊等の被害が集中したのが、昭和56年に定められた耐震基準(新耐震基準)を満たさない建物でした(図表4)。こうした背景から「建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)」が平成7年12月に施行され、新耐震基準を満たさない建物の耐震診断や改修を進めることが定められました。また、東日本大震災の発生を受けて、平成25年11月に耐震改修促進法が改正施行され、病院、学校、ホテル、大型店舗等の不特定多数の人が利用する大規模建築物等に対する耐震診断の実施と結果報告が義務づけられました。

図表3 阪神・淡路大震災の死亡原因
出典:厚生省大臣官房統計情報部
「人口動態統計からみた阪神・淡路大震災による死亡の状況」

図表4 建築年別の被害状況(建築物)
出典:平成7 年阪神淡路大震災建築震災調査委員会中間報告

国土交通省の調査によると、平成20年度時点で、住宅と多数の人が利用する建築物の耐震化率は8割程度で、約1050万戸の住宅と、約8万棟の多数の人が利用する建築物が、耐震性のない状態でした。仮にこの状況で首都直下地震や南海トラフ巨大地震が発生した場合、平成25年に中央防災会議が発表した被害想定では、建物の倒壊などによる死者数は、首都直下地震が最大約11000人、南海トラフ巨大地震では最大約38000人とされています。しかし、耐震化率が90%であればその約4割、100%であればその8割以上も死者数が減少すると想定されています(図表5)。

図表5 首都直下地震および南海トラフ巨大地震の被害想定と耐震化による効果
出典:首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)/南海トラフ巨大地震の被害想定について(第一次報告)

住宅と建築物の耐震化を進めるために、国や地方公共団体は補助制度、税制上の優遇制度、融資制度による支援を行っています。

家具の固定

阪神・淡路大震災は、早朝に発生したため、多くの人が自宅で就寝中に被害にあっています。阪神・淡路大震災後に神戸市が行った調査によると、けがの原因の約半数が家具等の転倒でした(図表6)。阪神・淡路大震災以降に発生した地震でも、けがの原因の約3割から5割が、家具類の転倒落下等となっています。

図表6 阪神・淡路大震災のけがの原因
出典:神戸市

こうしたけがを防ぐためには、家具の固定が最も有効です。家具・家電等の固定を行っている人の割合は、阪神・淡路大震災以降に徐々に増え、東日本大震災の後には、約40%へと急増しました(図表7)。しかし、まだ半数以上の人が家具・家電等の固定を行っていません。大地震では家具は凶器となります。特にタンス、食器棚、冷蔵庫、テレビ等の大型の家具・家電は、転倒防止器具を使ってしっかり固定しましょう。

図表7 家具・家電等の固定率
出典:防災に関する世論調査(内閣府)

また、家具・家電等の転倒防止のための器具費用や取り付け費用の助成を行っている地方自治体も多いので、お住まいの自治体に確認してみてはいかがでしょうか。
今年1月17日の「阪神・淡路大震災20年追悼式典」で井戸敏三兵庫県知事は「時間の経過とともに、震災の記憶の風化が懸念されています」と述べ、「今こそ、私たちの経験と教訓を未来へと伝え、被害を最小化する減災社会を実現していかねばなりません」と強調しました。
阪神・淡路大震災を過去の災害として振り返るのではなく、私たちひとり一人が、自分のこととして捉えて、災害への備えを進めて行きましょう。

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