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南海トラフの巨大地震
被害想定(第一次報告および第二次報告概要)

中央防災会議防災対策推進検討会議の下に設けられた南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループでは、今後発生が予測される南海トラフ巨大地震の被害想定手法等について検討を進め、平成24年8月29日に、被害想定の第一次報告として、建物被害・人的被害等の推計結果をとりまとめ、平成25年3月18日に、被害想定の第二次報告として、施設等の被害及び経済的な被害をとりまとめた。以下、これらの概要について紹介する。

1.被害想定の性格(巨大地震・津波と被害想定をどう捉えるべきか)○想定した南海トラフ巨大地震は、最新の科学的知見に基づく最大クラスの地震である。明確な記録が残る時代の中ではその発生が確認されていない地震であることから、一般的に言われている「百年に一度」というような発生頻度や発生確率は算定できず、千年に一度あるいはそれよりもっと低い頻度で発生する地震である。
○このように発生頻度が極めて低い地震ではあるが、東日本大震災の教訓を踏まえ、「何としても命を守る」ことを主眼として、防災・減災対策を検討するために想定したものである。
○最大クラスの地震は、発生頻度は極めて低いものの、仮に発生すれば、被害も甚大なものとなるが、地震の規模に関係なく、耐震化等の防災・減災対策を講じれば、被害量は確実に減じることができる。
○むしろ、巨大地震・津波が発生した際に起こり得る事象を冷静に受け止め、「冷静に正しく恐れ、備える」ことが重要である。すなわち、行政のみならず、インフラ・ライフライン等の施設管理者、企業、地域及び個人が対応できることを見極め、備えることによって、防災先進国として、世界で最も地震に対するリスクマネジメントがなされ、安全への意識が高い国であることを世界に示す必要がある。
○なお、南海トラフにおいて次に発生する地震・津波が、「最大クラスの地震・津波」であるというものではない。

2.被害想定(第一次報告)について

(1)被害想定の設定と項目
1 想定する地震動・津波
被害想定を行う地震動は、「南海トラフの巨大地震モデル検討会」(以下「モデル検討会」という。)で検討された地震動5ケースのうち「基本ケース」と揺れによる被害が最大となると想定される「陸側ケース」について実施した。また、津波はモデル検討会で検討された「基本的な検討ケース」(計5ケース)のうち、東海地方、近畿地方、四国地方、九州地方のそれぞれで大きな被害が想定される4ケースについて、それぞれ地震動と津波を組み合わせて被害想定を実施した。
2 想定するシーン
想定される被害が異なる3種類の特徴的シーン(冬・深夜、夏・昼、冬・夕)を設定した。火災による被害は、平均風速と風速8m/秒の2ケースを設定し、上記の時間帯3シーンと合わせて6つのケースで推計した。
3 被害想定項目
建物被害は、揺れ、液状化、津波、急傾斜地崩壊、地震火災について全壊棟数を推計した。また、その他にブロック塀等転倒数、自動販売機転倒数、屋外落下物が発生する建物数についても推計した。
人的被害は、死者数として、建物倒壊、津波、急傾斜地崩壊、地震火災、ブロック塀の転倒等について推計した。また、その他に負傷者数、揺れによる建物被害に伴う要救助者、津波被害に伴う要救助者についても推計した。

(2)主な被害想定結果
東海地方が大きく被災するケースで、今回の想定の組合せで推計される被害想定の大きさは下記のとおりである。
○東海地方が大きく被災するケース
全壊及び焼失棟数
約954千棟~約2,382千棟
死者数 約80千人~約323千人

(3)防災・減災対策の効果
○建物の現状の耐震化率(約8割)を約9割まで上げることによって、揺れによる全壊棟数は、約62万7千棟から約36万1千棟に約4割減少すると推計される。(地震動が基本ケースの場合)
○早期避難率が低く津波避難ビルが活用されない場合と、全員が発災後すぐに避難を開始し、かつ、津波避難ビルが効果的に活用された場合を比較すると、津波による死者数は最大で約9割減少すると推計される。(地震動が基本ケースで、夏・昼に発災の場合)

建物の耐震化率の向上に伴う被害軽減効果

津波避難の向上に伴う被害軽減効果(東海地方が大きく被災するケースの場合)

3.被害想定(第二次報告)について

(1)被害想定(第二次報告)の構成
被害想定(第二次報告)は、南海トラフ巨大地震が発生した場合の被害の全体像を俯瞰するとともに、可能な限り詳細な被害状況を明らかにする観点から、「施設等の被害」と「経済的な被害」に分類した上で、地震時に発生する可能性のある事象を幅広く想定した「被害の様相」をそれぞれ作成するとともに、定量化が可能な一部の項目について「定量的な被害量」をそれぞれ推計した。

(2)施設等の被害の様相
施設等の被害の様相は、東日本大震災の被災状況や復旧推移等をもとに、ライフラインや交通施設等の被害状況や被災者の生活への影響等に関して、南海トラフ巨大地震で発生する可能性のある事象を、幅広く想定した。
具体的には、「ライフライン被害」、「交通施設被害」等について、東日本大震災の被害状況をベースとした時系列的に想定される様相をとりまとめ、さらに、それよりも過酷な「更に厳しい被害様相」について、「人的・物的資源の不足」、「より厳しいハザードの発生」等の要因別にとりまとめるとともに、被害様相に対応する「主な防災・減災対策」について、「予防対策」、「応急・復旧対策」及び「過酷事象対策」の対策別にとりまとめた。

(3)経済的な被害の様相
経済的な被害の様相は、東日本大震災をはじめとする既往地震の被害事象等を参考に、南海トラフ巨大地震が発生した場合に、建物や資産等の被害、生産・サービス低下等による被害が時間的・空間的に波及拡大する状況をとりまとめた。
具体的には、各項目を「民間部門」、「準公共・公共部門」に分類した上で、「被災地」と「全国への波及」の様相について、それぞれ、「直後~数週間後」、「数週間後~数か月後」及び「数か月~数年後」を基本として、時系列的に想定される様相をとりまとめた。

(4)定量的な被害量
1 施設等の被害(ライフライン被害、交通施設被害等)
ⅰ 地震動・津波の設定
・地震動5ケースのうち、「基本ケース」と「陸側ケース」の2ケース
・津波の「基本的な検討ケース」(計5ケース)のうち、東海地方、近畿地方、四国地方、九州地方のそれぞれで大きな被害が想定される4ケース
ⅱ 季節、気象条件等の設定
基本ケースでは冬・深夜、平均風速を、陸側ケースでは冬・夕方、風速8m/秒を基本として設定した。
ⅲ 主な推計結果
①ライフライン
○上水道 被災直後で、最大約3,440万人が断水
○電力 被災直後で、最大約2,710万軒が停電
○通信 固定電話は、被災直後に最大約930万回線が通話できなくなる
②交通施設被害
○道路 陸側ケースにおいて、道路施設被害は約4万~4万1千箇所で発生
○鉄道 陸側ケースにおいて、鉄道施設被害は約1万9千箇所で発生
③生活への影響
○避難者 避難者は断水の影響を受けて1週間後に最大で約950万人が発生
○物資 食料の不足量は、発災後3日間の合計が最大で約3,200万食
④災害廃棄物等
○災害廃棄物等
 建物の全壊・焼失等により発生する災害廃棄物が最大で約2億5千万トン
2 経済的な被害(被害額等)
ⅰ 地震動・津波の設定
・地震動5ケースのうち、「基本ケース」と「陸側ケース」の2ケース
・津波の「基本的な検討ケース」(計5ケース)のうち、東海地方で大きな被害が想定される1ケース
ⅱ 季節、気象条件等の設定
地震動にかかわらず、季節、発災時間帯、風速、津波避難を冬・夕方、風速8m/秒、早期避難者比率が低い場合に設定した。
ⅲ 被害額の推計結果

ⅵ 防災・減災対策の効果
○建物の現状の耐震化率(約79%)を100%まで向上させるとともに、出火防止対策等を併せて講ずることによって、資産等の被害額は約170兆円から約80兆円と、ほぼ半減するものと試算される(地震動が陸側ケースの場合)。
○右記対策に加えて、津波避難の迅速化等を行うことによって、生産・サービス低下による被害額は約45兆円から約32兆円と、3割程度減少するものと試算される(地震動が陸側ケースの場合)。

耐震化、火災対策等を推進することによる減災効果の試算

4.おわりに
今後は、これらの被害想定結果等によりとりまとめられたワーキンググループの最終報告を踏まえ、地震対策大綱、地震防災戦略等を策定し、防災対策を推進していく予定である。東日本大震災を経験し、この日本に住む限り、「巨大な地震・津波が起こる可能性がある」ということは、避けられない。これを厳しいからと言って諦めることなく、各主体が対応できることを冷静に見極め、備えることにより、国家をあげて、防災・減災対策を進めていくことが必要である。

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内閣府政策統括官(防災担当)

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