特集 防災教育の試み

東日本大震災から10ヶ月。いつ来るかわからない災害に備えて日頃の防災教育の重要性があらたに見直されています。
今号では、学校や地域における防災教育の試みと、専門家にうかがう、企業における防災教育をご紹介します。
これから防災教育に取り組む方も、様々な事例や専門家のお話にチャレンジのヒントがみつかるかもしれません。

ミッション2 地震だ!避難せよ


ミッション7 配給されたパンをみんなでわけよ


ミッション8 地元の土砂災害を学べ!
(糸魚川市立根知小学校 提供)

第1回避難訓練(糸魚川市立根知小学校 提供)

防災教育の試み──1
学校や地域における防災教育

まず初めに、学校や地域における防災教育の事例を「次世代に繋ぐ活動」、「高校生や大人たちが地域貢献する活動」、「災害時要援護者支援を重視した活動」から紹介します。

次世代に繋ぐ活動
防災・宿泊体験をしながら10のミッションをクリア

災害発生時を具体的にシミュレーションした訓練を行う小学校の取り組みです。
「遠足の途中で震度6強の地震が発生し、交通手段が遮断された」という想定のもと、児童が近くの宿泊施設に避難して1泊2日の〈防災・宿泊体験学習〉を実施。
地震の影響で停電・断水(水道は夜間に復旧)が続き、宿泊施設のライフラインはガスしか使えません。子どもたちは保護者の迎えを待ちながら、遠足用に各自が持参した飲み水と非常食で一夜を明かすという設定で訓練を開始します。
最大のポイントは、体験学習中に防災にかかわる〈10のミッション〉をクリアしながら過ごすこと。災害が発生した緊急時の対応について理解を深め、思考力や判断力の育成を図るのが狙いです。
実践団体は、新潟県糸魚川市立根知小学校。同校は、日本で初めて世界ジオパークに認定された地域にあります。
ジオパーク特有の自然災害について理解を深めることを目的とした、専門家による〈ジオパークと自然災害学習会〉や、避難訓練を公開して改善点を検討する〈地域防災懇談会〉も実施。また、生徒とともに保護者や地域住民が参加する〈防災教室〉では、土石流が起こるしくみや、家庭内での災害対応も学び、「ジオパークの自然と向き合う防災教育」に地域ぐるみで取り組んでいます。

糸魚川市立根知小学校10 のミッション

高校生・住民による地域貢献
地域のために「自分たちができること」を実践

地域と学校が一体となり、防災教育の拠点をめざす高校の取り組みです。
海沿いに工場や石油コンビナートがある京葉工業地帯では、工業地帯特有の大規模災害発生が想定されます。そこで、高校が〈防災担当者連絡会議〉を開催。
教育委員会や地域の企業、病院、消防署などにも参加してもらい「高校生にできること」というテーマで生徒たちがプレゼンテーションを行います。
また、〈石油コンビナートの工場見学〉を行うほか、災害発生時に必要になることを学ぶため、〈防災について学ぶ学習会〉を実施。地域の防災センターを訪れて消火器、AED、緊急通報の体験を行ったり、〈炊き出し〉や〈避難所設営〉なども訓練します。
実践団体の千葉県立姉崎高等学校では、より実践的な避難訓練として、〈避難完了までのタイム〉も計測。1〜3年生の所要タイムが5分30秒〜6分のところ、今後は「3分で避難完了」を目指しています。

商業高校の特色を生かして防災商品を開発

商業教育と防災教育の両立をテーマとした高校の取り組みです。
地元企業の協力のもと、〈オリジナル防災グッズの企画・開発〉をすすめます。実践団体の愛知県立半田商業高等学校では、今年度中にオリジナル乾パンの商品化を目指しています。
また、地域貢献として、近隣の小中学校で〈出前授業〉を実施し、コンピューターグラフィックスによる〈デジタル紙芝居〉で防災クイズや防災グッズを紹介します。
東日本大震災を経て、今年度は、被災地から転校してきた生徒の生の声を紙芝居に取り入れたり、また、地元の農園の提案で、ハート型の実をつける「ハートツリー」を販売して〈売り上げを被災地に送る義援金活動〉も行っています。

夏祭りでの「ハートツリー」販売実習
(愛知県立半田商業高等学校 提供)

近隣の小中学校で実施した〈出前授業〉(愛知県立半田商業高等学校 提供)

地域の大人が小学校のゲストティーチャーに

地域のマンパワーを活用し、自治会が学校を巻き込んで実践している取り組みです。
例えば、小学校の5〜6年生向けには、地域の大人たちが〈総合学習のゲストティーチャー〉となって防災教育をサポートし、様々な防災ツールを子どもたち自身が作成します。実践団体の奈良県の高塚台2丁目自治会は、子どもたちが防災を特別なことではなく日常としてとらえられるようになることを目指しています。
〈防災マップ〉、〈防災に関するすごろく〉、〈子どもたちがシナリオを考える寸劇〉、〈火災原因を学ぶ防災パズル〉の作成を行うほか、モデルハウスの模型を使用した〈地震を起こす実験〉で、木造建築の耐震化や家具転倒防止も学びます。

パズル作成中(高塚台2丁目自治会 提供)

小学校での耐震講座(高塚台2丁目自治会 提供)

災害時要援護者をサポートする
障害がある人と家族を対象に行う夜間避難所設営体験

災害時の対応を擬似体験する特別支援学校の取り組みです。
発達障害や知的障害がある児童生徒が保護者や支援者とともに夜間避難所設営体験を行う〈親子防災キャンプ〉を実施。
障害によっては、初めての場所が苦手な場合もあるため、日ごろから慣れ親しむ体育館を避難場所に使用します。体験時間は17時〜21時までの4時間ほど。〈ボトルキャップを散りばめた通路を歩く〉体験では、災害時に足の裏を守る重要性を実際に体で感じとります。災害時のトイレ不足を考慮して、ダンボールで〈簡易トイレ作り〉にもチャレンジします。また、大きな音や、まぶしい照明に敏感な児童生徒もあるため、聴覚や視覚に配慮する訓練が行われます。
実践団体の神奈川県立高津養護学校は、初めは地域との関わりが希薄だったそうですが、日中行う〈防災シミュレーション訓練〉に地域住民にも参加してもらったところ、防災教育や障害について、地域の人たちの理解を得るきっかけになったといいます。現在、災害時の支援者を育てる〈防災ボランティアの養成講座〉や〈保護者・支援者向け学習会〉も開催しています。

児童生徒が自主的に取り組む特別支援学校の防災活動

授業や生徒会活動を通して、知的障害のある児童生徒たちが防災に取り組んでいます。
例えば美術の授業では〈防災マルチパーテーションの作成〉、作業学習では〈防災リュックや節電対策製品の開発〉、調理実習では〈缶詰や保存食を活用した調理体験〉を行います。
生徒会活動では行政や他の団体と連携を深め、地元のボランティア部会とともに行う〈炊き出し訓練〉や地域の内外の団体と意見交換する〈防災シンポジウム〉を開催します。
また、併設されている寄宿舎では、大学生ボランティアと一緒に〈夜間の防災訓練〉を実施。その際、〈防災ゲーム〉を通じて「緊急時に持ち出す物」などを考える緊急時の対応訓練や〈暗闇体験〉も行われます。
実践団体の千葉県立東金特別支援学校では、現在〈防災安全マップ〉の作成に取り組んでいます。マップには生徒たちが地元の災害の歴史を調べて津波供養碑の場所を書き入れるなどの工夫があり、地域住民から配布を待ち望む声が聞かれています。

元禄地震の津波供養碑の見学

地域のボランティア部会と炊き出し交流
(千葉県立東金特別支援学校 提供)

言葉がわからない外国人も災害時要援護者です

在住外国人向けの防災教育の取り組みです。
災害時には日本語が母国語ではない外国人も要援護者となります。地震のない母国からきている外国人は、地震発生時の避難行動について知らない人が多いためです。また、災害時には「避難勧告」や「安否確認」など、日常生活では使わない言葉がたくさん登場します。
実践団体の「やさしい日本語有志の会」(京都)では、外国人のための〈防災ガイドブック〉を制作しています。災害時に使われる用語をわかりやすい日本語で説明したり、災害時にとるべき行動についてイラスト入りで説明しています。また、防災グッズの名前や目的、使い方などを覚える〈防災グッズカード〉などの教材も開発中です。
災害時に一人でも多くの外国人を支援するには、外国人に防災知識を得てもらうだけでなく、どうすれば彼らに必要な情報が伝えられるか日本人も理解する必要があります。そこで、「やさしい日本語」の普及活動として〈ワークショップの開催〉にも力を入れています。

防災グッズの名前や目的、使い方などを覚える「防災グッズカード」(「やさしい日本語」有志の会 提供)

これらの取り組みは、防災教育チャレンジプラン実行委員会と内閣府が主催する「防災教育チャレンジプラン」の2011年度実践団体が行っている試みの一例です。
「防災教育チャレンジプラン」は、応募の中から選ばれた団体が、防災教育チャレンジプランアドバイザーの支援も受けながら1年間かけて防災教育プランを実践します。去る10月15日、16日に開催された「防災教育交流フォーラム」(東京・立教大学池袋キャンパス)では、各団体から中間報告が行われました。
防災教育チャレンジプラン ../../../../tolink/out60.html

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.