第3章 今後の災害対策
本章では、第1章で論じた関東大震災から得られる教訓及び第2章で論じた我が国を取り巻く環境の変化を踏まえ、今後の災害対策の方向性を示す。
第1節 首都直下地震等の切迫する大規模地震への対策の推進
関東大震災や阪神・淡路大震災、東日本大震災など、過去に発生した大規模地震では、建物の倒壊・火災による被害や、地震によって引き起こされた巨大津波による被害が突出している。
まず、地震の揺れによる建物の倒壊を防ぐためには、建物の耐震化を推し進めていくことが重要であるが、特に昭和56年(1981年)以前に建築された建物は、「建築基準法」に定める耐震基準が強化される前の「旧耐震基準」によって建築され、耐震性が不十分なものが多く存在する。政府は、耐震性が不十分な住宅の令和12年までのおおむね解消を目標に設定するなどし、耐震診断による耐震性の把握、耐震性が不十分な場合の耐震改修や建替えの励行、またそれらに係る費用の支援等の取組を進めており、その結果、我が国の建物の耐震化率は着実に上昇している。今後も、建物の所有者一人一人が耐震化の重要性を認識し、自らの問題として意識して対策に取り組むことが重要である。
また、東日本大震災では、東北地方の太平洋側を中心に、巨大な津波により壊滅的な被害が発生した。東日本大震災の教訓として、ハード対策だけでは災害は防ぎきれず、命を守るためには何よりも避難することが大切であることが広く認識された。そのためには、こどもからお年寄りに至るまで、災害を自分のこととして捉え、災害時には自らの判断で適切な防災行動が取れるよう、日頃から防災意識の向上に向けた取組を実践することが大切である。
さらに、関東大震災では、内務省等の庁舎が焼失するなど、政府自身が被災者となったことが初動の遅れを招いた。来るべき首都直下地震に備えて、政府業務継続計画等に基づき、迅速な初動体制の確立、非常時優先業務の実施等により、首都中枢機能の維持を図らなければならない。また、警察や消防、自衛隊の救助部隊の活動拠点や進出ルート等をあらかじめ明確にし、具体的な応急対策に関する計画を定めておくことや、首都直下地震の際に緊急災害対策本部の代替となる拠点を確保しておくことも重要な取組である。加えて、東京圏への人口の一極集中が進む中、首都直下地震により、道路交通の麻痺、膨大な数の避難者や帰宅困難者の発生、深刻な物資の不足等も想定される。このため、避難所における食料・飲料水等の備蓄の確保、一斉帰宅の抑制等の帰宅困難者対策、サプライチェーンの確保等にも取り組む必要がある。
今後発生が懸念されている首都直下地震、南海トラフ地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震など、地震による被害の程度は、地震の発生時期や時間帯の前提条件により大きく異なるものの、甚大なものになると想定されている。一方で、災害対策を徹底し、適切な避難行動を取ることにより、地震による被害を最小化できることも併せて指摘されている。我々一人一人が対策の重要性を今一度認識し、建物の耐震化はもとより、適切な避難行動、自動車の利用の自粛、必要な水・食料等の備蓄といった防災対策に取り組む必要がある。