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平成30年版 防災白書|特集 第3章 第2節 過去の災害を踏まえた政府対応


第2節 過去の災害を踏まえた政府対応

我が国はその自然環境から風水害・土砂災害の多い国土であり、古くは2千名近い犠牲者を出したカスリーン台風を踏まえた昭和24年の水防法制定、5千名以上の犠牲者を出した伊勢湾台風の経験による昭和36年の災害対策基本法制定等により被害軽減のための取組がなされてきた。しかしながら近年でも、平成26年8月広島土砂災害、平成27年9月関東・東北豪雨、平成28年台風第10号、平成29年7月九州北部豪雨等と風水害・土砂災害の被害が頻発している。特に、平成29年の土砂災害発生件数は1,514件(前年比約1.4%増)で過去10年で最大件数(人家被害も701戸で最大)となり(附属資料21(附-36)参照)、4年ぶりに47都道府県全てにおいて土砂災害が発生した。

土砂災害発生件数
土砂災害発生件数

過去に発生したこれらの災害に対しては、検証結果等に基づき法改正をはじめとする各関係省庁等の対応により風水害・土砂災害時の国・自治体等の対応力の強化が図られてきた。以下、災害を教訓としてこれまで行われてきた災害対策関係法令やガイドライン等の制定(策定)・改正経緯について概説する。

<土砂災害防止法改正>

「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(平成12年法律第57号。以下「土砂災害防止法」という。)」は、平成11年の広島市での土砂災害を教訓に、平成12年に制定されたが、平成26年8月広島土砂災害において、再び近隣地域で平成11年を大きく上回る74人もの犠牲者など、甚大な被害が局所的に発生したこと等を踏まえ、平成26年11月に改正された。

この改正では、土砂災害警戒区域等の指定や基礎調査がなされていない地域が多く、住民等に土砂災害の危険性が十分に伝わっていなかったなどの課題を踏まえ、都道府県に対し基礎調査の結果の公表が義務付けられ、住民等に早期に土砂災害の危険性を周知することとなったほか、改正土砂災害防止法に係る土砂災害防止対策基本方針に基づき、全ての都道府県で平成31年度末までに基礎調査を完了させる目標が設定された。さらに、土砂災害警戒情報を法律上に明記するとともに、都道府県に対し市町村長への通知及び一般向け周知が義務づけられ、円滑な避難勧告等の発令に資する情報を確実に提供することとなった。また、土砂災害警戒区域の指定があった場合には、市町村地域防災計画において、避難場所・避難経路等に関する事項等を定めることとし、避難体制の充実・強化を図ることとなった。

また、平成28年台風第10号による水害では、死者・行方不明者27人が発生する等、東北・北海道の各地で甚大な被害が発生した。とりわけ、岩手県岩泉町の高齢者施設では、適切な避難行動がとられなかったことにより、入所者9名全員が亡くなるなどの深刻な人的被害が発生した。こうした教訓を踏まえ、要配慮者利用施設の避難体制の強化を図るため、平成29年5月に土砂災害防止法が改正された。改正後の土砂災害防止法では、土砂災害警戒区域内の要配慮者利用施設の所有者又は管理者に対し、避難確保計画の作成及び避難訓練の実施を義務付け、施設利用者の円滑かつ迅速な避難の確保を図ることとされた。

<水防法改正>

近年、洪水・内水・高潮により想定を超える浸水被害が多発したことを受け、平成27年5月に水防法(昭和24年法律第193号)が改正され、洪水・内水・高潮に係る想定しうる最大規模の浸水想定区域を公表するよう制度が拡充・創設されたほか、市町村地域防災計画に定める地下街等の対象に、地下に建設が予定されている施設又は建設中の施設であって不特定かつ多数の者が利用すると見込まれる施設を追加すること、避難確保・浸水防止計画の作成に当たって接続ビル等の所有者・管理者の意見を聴く努力義務が規定された。

また、全国各地で水害が頻発、激甚化する中、平成27年9月関東・東北豪雨による被害を受け、国土交通省では「施設では防ぎきれない大洪水は必ず発生するもの」との考えに立ち、社会全体でこれに備えるため、ハード・ソフト一体となった「水防災意識社会再構築ビジョン」の取組を国管理河川を中心に進める中、平成28年8月には台風第10号等の一連の台風によって県管理河川など中小河川で氾濫が発生し、逃げ遅れによる多数の死者や甚大な経済損失が発生した。

このような状況を踏まえ、「逃げ遅れゼロ」、「社会経済被害の最小化」の実現を図るため、平成29年5月に水防法が改正され、大規模氾濫減災協議会制度の創設、市町村長による水害リスク情報の周知制度の創設、市町村地域防災計画に定められた要配慮者利用施設における避難確保計画の作成等の義務化、民間を活用した水防活動の円滑化、浸水被害軽減地区の指定制度の創設が新たに規定された。

【コラム】
「土砂災害110番」

防災活動のための情報入手は、雨量計や地震計等の「物理センサ」が用いられているが、一方、人が感知することによって得られる情報である「ソーシャルセンサ」も注目されてきている。

地球温暖化に伴う気候変動により、熱帯低気圧の強度が増大するとともに、大雨の頻度も増加する可能性が高く、土砂災害の増加、激甚化が懸念されている。

「土砂災害110番」は、住民から土砂災害の前兆や発生を危惧する情報について、各地の土木事務所等の防災部局で電話等により情報を受け付けている。豪雨や地震の発生により、土石流、がけ崩れ、地すべり等が発生する恐れを感じた住民から、事前に相談・通報が行われることで、物理センサで得られない情報を各自治体や関係機関がキャッチし、迅速に対応することができる。

また、昭和57年の長崎県の豪雨災害を契機として、土砂災害防止に関する国民の理解と関心を深めるため、昭和58年から「土砂災害防止月間」(毎年6月1日~30日)が行われている。

国土交通省は、防災知識の普及、警戒・避難体制の整備等に関する各種運動を実施することにより、土砂災害による被害の軽減を図り、土砂災害による人命、財産の保全に資することを目的とし、土砂災害防止のために全国統一防災訓練や全国の集いなどさまざまな取組を実施して啓発に努めている。

土砂災害防止月間
土砂災害防止月間

<避難勧告等に関するガイドライン>

災害が発生し、または発生するおそれのある場合には、市町村長は災害対策基本法に基づき避難準備・高齢者等避難開始、避難勧告、避難指示(緊急)(以下「避難勧告等」という。)を発令することができる。各市町村が避難勧告等の発令基準や伝達方法、防災体制等を検討するために役立つよう、内閣府では平成17年に「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」を策定しており、その後設けられた新たな制度や、東日本大震災をはじめとする災害の教訓を踏まえて、数次にわたり改定がなされている。特に近年では風水害・土砂災害の教訓を踏まえた改正を行ってきており、その経緯は以下のとおりとなっている。

<1>平成26年4月改定

土砂災害警戒情報など新たな防災情報の運用が開始されたことや、平成25年10月に伊豆大島で発生した土砂災害などの教訓を踏まえ、平成26年4月に「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」を改定し、避難勧告等の判断基準を具体的な雨量や水位等を基準として設定することでわかりやすくするとともに、市町村が空振りをおそれず早めに避難勧告等を発令することとした。

<2>平成27年8月改定

平成26年8月広島土砂災害を受けて同年11月に改正された土砂災害防止法や、中央防災会議の防災対策実行会議の下に設置された「総合的な土砂災害対策検討ワーキンググループ」による平成27年6月の報告を踏まえ、避難準備情報の活用(自発的な避難の推奨、夜間避難回避のための早期発令)、風雨等の状況に応じた避難行動をとること、プッシュ型とプル型を組み合わせ多様化・多重化した伝達手段で避難勧告等を提供すること、指定緊急避難場所を避難準備情報の段階から開設し始め、開設情報を住民に周知すること等を追記した。

さらに、平成27年5月の水防法改正の内容を反映し、災害規模に応じた浸水想定範囲への避難勧告等の発令、地下街等の避難に関する記載の充実、水位周知下水道による内水氾濫を避難勧告発令対象への追加する場合の内水氾濫危険情報の活用方法の追加、水位周知海岸に係る高潮について避難勧告等発令への高潮氾濫危険情報の活用方法の追加等を行った。

<3>平成29年1月改定

平成28年台風第10号による水害では、死者・行方不明者27人が発生する等、東北・北海道の各地で甚大な被害が発生した。とりわけ、岩手県岩泉町の高齢者施設では、適切な避難行動がとられなかったことにより、入所者9名全員が亡くなるなどの深刻な人的被害が発生した。

このような事態を踏まえ、内閣府では、関係省庁や防災・福祉等の関連分野の有識者等から成る「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドラインに関する検討会」を開催し、避難に関する情報提供の改善方策等について検討を行い、平成28年12月に報告をとりまとめた。(参照:https://www.bousai.go.jp/oukyu/hinankankoku/h28_hinankankoku_guideline/index.html

本報告においては、高齢者施設において避難準備情報の意味するところが伝わっておらず、適切な避難行動がとられなかったことなどが課題とされた。これを受け、内閣府では「避難準備情報」の名称について、高齢者等が避難を開始する段階であることを明確にするなどの理由から、「避難準備・高齢者等避難開始」に、また、避難勧告と避難指示の差異が明確となるよう、「避難指示」の名称を「避難指示(緊急)」に変更した。

さらに、内閣府では本報告を踏まえ、居住者及び高齢者施設の管理者が適切な避難行動をとれるよう、平成29年1月に「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」を改定し、合わせてガイドラインの名称を「避難勧告等に関するガイドライン」に変更した。ガイドラインの主な変更点としては、前述の避難情報の名称変更のほか、「避難勧告等を受け取る立場にたった情報提供の在り方」、「要配慮者の避難の実効性を高める方法」、「躊躇なく避難勧告等を発令するための市町村の体制構築」についての記載を充実させ、各種参考事例の紹介などを行った。

避難勧告等により住民に対して求める行動
避難勧告等により住民に対して求める行動

<広域避難に関する検討>

近年の地球温暖化による気候変動に伴い、既存想定を超える水害の激甚化への備えが必要となっている。海外では多数の米国・ニューオーリンズ市民が避難を余儀なくされた2005年のハリケーン・カトリーナや、ミャンマーで13万人以上の犠牲者を出した2008年のサイクロン・ナルギス、チャオプラヤー川流域で600万ha(ヘクタール)以上が浸水し、大きな経済的被害を発生させた2011年のタイ水害、2017年ハリケーン・ハーヴィーによる米国テキサス州等を中心とする洪水など、世界各地で水害による被害が広域に広がる場合が発生している。我が国でも、三大都市圏に広く存在する「ゼロメートル地帯」において、万が一、堤防の決壊等により大規模水害が発生した場合には、多数の住民が避難することによる大混雑の発生や、逃げ遅れによる多数の孤立者の発生が予想される。また、平成27年9月関東・東北豪雨を受けて中央防災会議防災対策実行会議の下に設置された「水害時の避難・応急対策検討ワーキンググループ」報告(平成28年3月)においても、大規模水害対策を進める上での課題のひとつとして、広域避難オペレーションの具体的な検討が必要とされたところである。

このことから、内閣府では、平成28年6月に中央防災会議防災対策実行会議の下に設置された「洪水・高潮氾濫からの大規模・広域避難検討ワーキンググループ」において、三大都市圏における洪水や高潮氾濫からの大規模かつ広域的な避難の在り方等について検討を行い、平成30年3月に「洪水・高潮氾濫からの大規模・広域避難に関する基本的な考え方」(報告)をとりまとめた。同報告では、大規模・広域避難の具体的な検討手順、実効性のある広域避難計画とするための検討、広域避難計画に基づいた適確な避難行動等の実施等について示されている(第1部第1章第3節3-3参照)。


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