3 被災者生活支援等


3 被災者生活支援等

(1)被災者生活支援特別対策本部の設置

3月17日の第12回緊急災害対策本部会議において,被災者の生活支援が喫緊の課題であることにかんがみ,政府における体制の一層の強化を図るため,緊急災害対策本部の下に,内閣府特命担当大臣(防災)を本部長とする被災者生活支援特別対策本部の設置が決定された。その主な任務は,生活必需物資等の調達及び輸送,避難所の生活環境の改善,居住の安定化の推進,保健・医療・福祉・教育等のサービスの確保等,被災者の生活支援に関し,関係行政機関,地方公共団体,企業等関係団体等との調整を行うこととされた。

被災者生活支援特別対策本部は,被災地の復旧,災害廃棄物の処理,被災者等の就労支援や雇用創出,被災者向け住宅供給の促進等の課題について,それぞれ検討・推進会議を設置し,各府省間の調整を推進した。

その後,同本部の名称は5月9日に被災者生活支援チームに変更された。

(2)生活必需物資等の調達及び輸送

被災者生活支援特別対策本部においては,緊急災害対策本部において実施していた物資調達・輸送に引き続き,各被災県からの逐次の要請に基づいて,被災地のニーズの変化に応じた物資支援を継続した。発災後一週間を経過した後からは,各物資集積拠点において滞留が見られたことから,国土交通省は,宮城県,岩手県,福島県及び茨城県の県庁又は市町村に物流専門家の派遣について働きかけを行い,その結果13名が派遣され,物資集積拠点から避難所等への末端輸送の円滑化,効率化等を支援した。その後,4月に入り,被災県においても物資の調達が可能となったことから,4月末までに,本部による直接調達から各県等による調達に移行した(図1−2−1)。

図1−2−1 緊急輸送物資(食料)の到達状況 図1−2−1 緊急輸送物資(食料)の到達状況

緊急災害対策本部事案対処班及び被災者生活支援特別対策本部による主な物資調達の実績は,食料約2,621万食,飲料約794万本,毛布約41万枚,燃料約1.6万キロリットル,おむつ約40万枚,一般薬約24万箱及びパーテーション約6万6千枚であった。本部が調達したこれらの物資を輸送するため,全日本トラック協会を通じて手配したトラック延べ約1,900台,自衛隊航空機延べ約150機,警察・民間ヘリコプター5機及び船舶8隻が使われた。

国による被災県への物資支援に加えて,全国の地方公共団体や企業・団体等からも被災地に対して相当量の物資支援が行われ,自衛隊のほか,各運送事業者によって被災地へ輸送された。各運送事業者による輸送実績は,各都道府県トラック協会がトラック延べ約5,500台を手配したほか,JR 貨物による燃料輸送の貨物列車が延べ約150本,燃料輸送のタンカー等の船舶が延べ約990隻,自衛隊等の要員・車両を輸送するフェリーが約240便,航空機が約660便であった(5月30日現在)。

自衛隊による物資配給(岩手県大槌町) 自衛隊による物資配給(岩手県大槌町)
(3)避難所の生活環境改善等

(a) 避難者数の状況

被害の大きかった岩手県,宮城県及び福島県を中心に避難者数は増加し,3月14日時点で約47万名に上った。これは,平成7年の阪神・淡路大震災(最大時約32万名)と比較すると約1.5倍に上る。その後は減少し,5月30日時点で約10万名が避難している(緊急災害対策本部資料による)。

(b) 避難所における生活環境改善

発災直後,避難所においては,食料を含む物資の不足が深刻であったが,物資の調達・配送を国が直接開始した後,4月に入り著しい物資不足は解消された。

全避難所の生活環境に係る定期的な実態把握結果によると,第1回目(4月前半)に対し第3回目(4月後半)では,食事,下着・洗濯,プライバシー確保,入浴等の各項目について,物資支援や水道・電気等のライフラインの復旧の進展に合わせ,改善がみられた。一方で,避難所数が多い沿岸部の市町村では,生活環境の改善が遅れていたため,各県の避難所担当課と協力し,重点的な環境改善が可能となるよう市町村を支援した。

(c) 被災者支援のための情報提供

政府は,生活に役立つ情報等を被災者が身近なところで入手できるよう,「壁新聞」,「生活支援ハンドブック」及び「生活再建・事業再建ハンドブック」を避難所,スーパー,コンビニエンスストア等で掲示・配布したほか,ラジオ,地方新聞,首相官邸災害対策ページ等により各種情報の発信を行った。このほかに,各府省における相談会や電話相談,ガイドブックの作成・配布等の取組や,被災地における被災自治体による広報紙や臨時災害放送局等を通じた教育・子ども,交通,ごみ・し尿処理,ライフライン,医療・保健,各種支援制度等に関する生活支援情報の提供も行われた。所在が明らかでない被災者(県外避難者及び避難所以外にいる避難者等)については,避難者に避難前に居住していた県や市町村からの情報を提供する全国避難者情報システム等を通じて,避難者情報を把握し,各種の情報提供を行う試みが講じられた。

(4)市町村への職員の派遣

被災地の市町村においては,庁舎や職員自身の被災等により,行政体制や行政機能に支障が生じている事例もみられた。そのため,総務省においては,全国市長会及び全国町村会の協力を得,全国の市町村から被災市町村に対する人的支援の体制を作り,被災市町村への職員の派遣を進めた。5月31日現在,既に53団体に対し,1,017名の派遣が決定されている。その他,姉妹都市提携等に基づくものや全国知事会のシステムにより,積極的に地方公共団体同士での人的支援が行われ,多数の職員が派遣されている。

また,国の職員の派遣については,各省庁が個別に被災地方公共団体と連絡を取って要望の把握を行い,職員を被災地域の地方公共団体に派遣した。これに加え,政府全体の取組として,国家公務員に対する派遣要望を調査した上で,要望に応じて各省庁の人材を派遣する仕組みを設けた。5月23日現在,延べ約38,000名の職員を派遣した。

(5)保健・医療・福祉・教育のサービスの確保

(a) 保健・医療・福祉

厚生労働省及び文部科学省は,各関係団体や大学に対して医療従事者等の派遣に係る協力を依頼し,保健・医療・福祉サービスが必要な被災者に対して,医師,歯科医師,看護師,薬剤師等の医療従事者累計12,000名以上,介護職員等累計1,089名等がそれぞれ派遣された。また,厚生労働省所管病院全体で約1,250名の被災地の患者を受け入れた。さらに,被災地以外での要援護者の受入れ調整を行い,これまでに1,785名を受け入れたほか,医療・介護における利用者負担の減免等を実施した。

また,被災者の二次的健康被害を未然に防止するため,保健師等延べ6,184名を派遣し,避難所を巡回するなどして健康相談を実施したほか,心のケアチームを延べ2,049名派遣し,保健師の活動等と連携を取って,避難所の巡回,被災者の自宅への訪問支援,行政職員等の支援等の心のケアを行っている(人数は5月末時点)。

(b) 教育

文部科学省は,各都道府県教育委員会等に対し,被災児童生徒等について学校への受入れを要請し,これまでに各都道府県で21,769名の受入れが行われた(5月1日現在,国公私立計)。また,被災児童生徒等に教科書の無償給与,就学援助等の弾力的な取扱・措置等を要請したほか,被災地等における教育活動の実態把握に努めつつ,学校運営の本格的な復旧に向け,必要な教職員を確保することが必要であることから,教職員の加配措置を実施している。

また,大学等に対して,被災学生等への修学上の配慮や授業時間の弾力的な扱いを周知するとともに,授業料減免や奨学金の活用等,学生等への経済的支援についても周知・配慮を行った。4月5日現在,国立大学及び高等専門学校のすべて,公立大学及び東北・関東・甲信越の私立大学のほぼすべてにおいて,授業料減免等の経済的支援を検討しているほか,東北・関東地方の国公私立大学,高等専門学校の一部で,入学式の延期及び中止,授業開始時期を遅らせる等の措置が講じられている。また,専修学校においても,授業料減免,入学金免除等の経済的支援が行われるとともに,授業開始時期を遅らせる等の措置が講じられている。

(6)生活の再建に向けて

(a) 被災者生活再建支援金の支給

住宅が全壊等の被害を受けるなど一定の要件に該当した場合に,被災者生活再建支援法に基づき,当該住宅に居住していた被災世帯に対し,住宅の被害状況に応じて,基礎支援金(最高額100万円)及び住宅の再建方法に応じた加算支援金(最高額200万円)が4月下旬から支給されている。また,被災者生活再建支援制度の運用にあたり,液状化等地盤被害の取扱に関する運用改善等が図られた(詳細は 第3章参照 )。

(b) 災害弔慰金の支給等

今回の災害により亡くなられたり重度の障害を受けた方に関して,災害弔慰金または災害障害見舞金を支給するとともに,被災者に災害援護資金の特例貸付(利率の引下げ(原則無利子),償還期間の延長等)が実施されている。また,被災世帯に対し,無利子の生活福祉資金(緊急小口資金)の貸付が実施されている。

(c) 雇用対策及び生業支援

<1> 被災者等の雇用対策

被災者の雇用対策として,ハローワークにおいて,震災特別相談窓口の設置,広域職業紹介の実施,避難所への出張相談の実施,求人の確保,合同求人面接会の実施等,被災者に対する就職支援が強化された。

事業者が災害を受けたことにより休止・廃止したために,休業を余儀なくされ,賃金が支払われない場合,実際に離職していなくても失業手当を支給できる雇用保険の特例が実施された。

今回の災害に伴う経済上の理由により,事業活動の縮小を余儀なくされ,休業等を行い雇用維持を図った場合は,雇用調整助成金の対象となるが,さらに,東京都を除く災害救助法適用地域に所在する事業所の事業主等に対する特例措置を講じた。

さらに,被災者等の就労の支援や雇用創出を促進するため,「被災者等就労支援・雇用創出推進会議」が設置され,当面の緊急総合対策(「日本はひとつ」しごとプロジェクト・フェーズ1(第1段階)及び補正予算や法律措置による対策(フェーズ2))が取りまとめられた。

<2> 中小企業等への対策

経済産業省等では,震災直後から,金融機関に対し,既往債務の返済猶予等の条件変更に柔軟に対応するよう要請するとともに,信用保証協会による災害関係保証や,日本政策金融公庫や商工組合中央金庫等による長期・低利の災害復旧貸付を実施し,金融面から経営再開を支援してきた。さらに,23年度補正予算を活用し,金利の引き下げや貸付・据置期間の長期化,限度額の拡充,利差補給の拡充等を実施している。

工場等の施設復旧のため,資金・人材面での支援や被災地での仮設店舗・仮設工場等の整備等を地方公共団体と連携し,実施しているほか,被災した商店街に対しても,施設補修や障害物除去に関する資金支援を実施している。

また,中小企業支援策をまとめた広報資料を広く配布し支援策の周知を行うとともに,専門家による「中小企業電話相談ナビダイヤル」を活用し,経営再開を支援している。

<3> 農林業への対策

農林水産省では,農山漁村に被災者を受け入れられるよう被災地域に各種情報を提供している。特に耕作放棄地の利用による農業経営の希望者に対しては,営農等への支援を実施している。また,被災農家が災害復旧事業の作業員として積極的に雇用されるように指導を実施した。

農作物の作付けが困難な地域においては,営農再開に向けた復旧作業を共同で行う農業者に対して支援を実施する。また,経営再開を金融面から支援するため,災害復旧関係資金について,無担保・無保証人で一定期間実質無利子での貸付を措置するとともに,貸付限度額,償還期限,措置期間の延長等により,農業金融の充実を図っていく。被災食品製造業者販売業者等に対しては,立ち直りを支援するため,長期・低利の融資制度を措置するとともに,引き続き支援策について検討することとしている。

応急仮設住宅等の復旧資材については,今後の本格的な復興に必要な資材を安定的に供給するため,早期に稼働可能な合板工場等の復旧・整備等を支援するとともに,森林・林業再生の取組を強化する。

<4> 水産業への対策

幅広い地域で水産関係に壊滅的被害が生じたことから,早急な経営再建をめざし,漁業継続のある漁業者が自ら行う,がれきの回収処理等の取組や漁業協同組合が行う漁船・定置網の漁具の導入を支援する。

また,漁船保険の再保険金及び漁業共済の保険金の支払いに充てるための特別会計への繰り入れの実施や,被災した地域の漁船保険組合の保険金及び漁業共済組合の共済金の支払い財源を補助する。

漁業の再開等を金融面から支援するため,漁業近代化資金や日本政策金融公庫資金等の貸付金利を実質無利子化するとともに,無担保,無保証人融資が可能となる融資制度の構築や保証制度の充実について措置した。

(7)被災者の立場に立ったきめ細かな制度運用

各省庁により,次のような被災者の立場に立ったきめ細やかな措置が取られた。

<1> 「緊急物資の輸入手続の簡素化等」(財務省事務連絡)(3月11日及び12日)

被災者に無償で提供する救援物資の輸入手続の簡素化

<2> 「被保険者証が提示できない場合の取扱い等」(厚生労働省事務連絡)(3月12日及び4月2日)

被災者が医療保険や介護保険の被保険者証を提示できなくとも保健医療機関での受診や介護保険サービスの利用を可能とする措置

<3> 「住民基本台帳事務の取扱い」(総務省通知)(3月13日)

被災地域から転入した転出証明書を提出できない住民の転入届の受理

<4> 「国税・関税の申告・納付等の期限延長」(国税庁・財務省告示)(3月15日)

青森県,岩手県,宮城県,福島県及び茨城県に納税地を有する納税者につき,3月11日以後に到来するすべての国税に関する申告・納付等の期限を別途国税庁告示で定める期日まで延長。また,これらの県における被災者について,関税に関する法律に基づく申請等の期限の延長や証明書交付手数料等の軽減を実施

<5> 「外国人登録事務の取扱い上の措置」(法務省通知)(3月15日)

被災地域での外国人登録を行っていた外国人が避難先の市町村でも身分関係・居住関係に関する証明書の発行を受けられる措置等

<6> 「印鑑の証明書の発行停止に係る取扱い等」(法務省通達)(3月18日)

登記所の発行した印鑑カード及び登記所に提出した印鑑を紛失し,登記所から印鑑証明書の交付を受けることができない場合の特例等

<7> 「被災者の本人確認方法の特例」(警察庁,金融庁,総務省,法務省,財務省,厚生労働省,農林水産省,経済産業省及び国土交通省による命令)(3月25日)

本人確認書類を消失した被災者の口座開設等における暫定措置


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