5 民間と市場の力を活かした防災力向上 5−1 企業の防災活動の促進



5 民間と市場の力を活かした防災力向上

5−1 企業の防災活動の促進

(1)事業継続計画(BCP)策定促進に向けた取組の経緯

大規模災害が発生し,企業活動が滞ると,その影響は各企業にとどまらず,その地域の雇用・経済に打撃を与え,さらには,取引関係を通じて他の地域にも影響を与えることが懸念される。

このため,災害時における企業の事業活動の継続を図り,社会や経済の安定に貢献することは,大変重要な課題となっている。

この課題に対し,民間や市場の力の活用をテーマに,企業や地域の諸団体の活動を支援する方策の検討を行うため,平成15年に中央防災会議に「民間と市場の力を活かした防災力向上に関する専門調査会」が設置された。平成16年には,個人,地域諸団体,NPOや企業等の多様な主体による災害対策への参加の重要性を明確に位置づけ,必要な官民連携策を示した「民間と市場の力を活かした防災戦略の基本的提言」が取りまとめられたが,これに盛り込まれた,事業継続計画(以下BCPという。:Business Continuity Plan)の指針を盛り込んだ事業継続ガイドラインや企業の防災力の評価方法,防災まちづくりの支援策については,さらに具体化に向けた検討が必要とされた。平成17年には,事業継続ガイドライン(第一版)の策定や全国防災まちづくりフォーラムの開催等を経て,こうした成果も盛り込んだ同専門調査会報告書が取りまとめられ,現在に至る取組の方向付けがなされた。

また,国の防災に関する基本的な計画である「防災基本計画」において,平成17年には,企業がBCPを策定するよう努めるべき旨を明確に位置づけ,平成20年には,国及び地方公共団体が策定支援等に取組むべき旨を明確にするとともに,地域防災計画において重点をおくべき事項にも位置づけた。さらに,各地震防災戦略においてBCPに関する具体的目標を掲げ,その防災上の意義を明確にしてきた。

これらに平行して,策定支援に直結しうる具体的な措置を講じることとし,事業継続ガイドライン等の基本的図書の整備・充実に取組み,同ガイドラインの解説書の作成,事業継続ガイドライン(第二版)への改定により,これらの活用の促進を図るとともに,業種別の取組を働きかけるなど,BCPの策定促進に取り組んできたところである。平成20年度からは,平成20年1月に実施した実態調査によって認識されたBCP策定時の課題等について解決を図っていくため,学識者,企業の実務経験者及び地方公共団体の実務経験者で構成する「事業継続計画の策定促進方策に関する検討会」を開催し具体的な方策について検討しているところである。

http://www.bousai.go.jp//kyoiku/kigyou/keizoku/keizoku.html

(2)実態調査で把握された民間企業の現状

内閣府が平成21年11月に実施した「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」(以下「実態調査」)によれば,企業のBCPの策定状況については,大企業では28%が「策定済み」であり,また「策定中(31%)」を加えると58%となる。また,中堅企業では「策定済み」が13%であり,「策定中(15%)」を加えると,27%の水準にある。

また,平成20年1月に行った同様の調査との比較では,「策定済み」の大企業は19%から28%に増加している。中堅企業では12〜13%でほぼ同じである。また,「策定済み」に「策定中」を加えた数値で比較すると,大企業で35%から58%に増加しており,中堅企業で,16%から27%に増加している。

このように,BCPを「策定済み」の企業だけでなく,「策定中」の企業まで含めて考慮すると,大企業の6割弱,中堅企業では3割弱となり,大企業については相当程度策定が進んでいるものと考えられるが,中堅企業については,さらなる普及が望まれる状況である。

なお,「BCPを知らない」とする企業も,大企業では23%から12%,中堅企業では61%から45%と減少傾向にあるものの未だ半数近くに及んでいることから,専門的・実践的な内容に関わる施策のみならず,まずBCPについて「知る」といった観点を重視した普及啓発にも引き続き取組まなければならない。

こうしたことから,平成19年度と平成21年度の調査を比較すると,BCPの策定については,普及の初期段階から進行段階に入ったものと考えられる。

したがって,今後は,BCPを「拡げる」という普及の観点からの取組をさらに推進していくことが求められるとともに,各企業における取組状況を経営者が正しく認識し,取組の水準を維持しつつ継続することを含めて「深める」という観点からの取組も並行的に求められる状況にあるものと考えられる。

また,これらを各地震防災戦略に係る地域別(各地震防災戦略の範囲に本社等が所在している企業)にみると,「策定済み」の割合は,大企業については,東海地震の地域で31%,東南海・南海地震の地域で28%,首都直下地震の地域で37%となっている。中堅企業については,東海地震の地域で19%,東南海・南海地震の地域で20%,首都直下地震の地域で14%となっている。また,BCPを「策定済み」及び「策定中」の合計値でみると平成19年度から平成21年度に向けて順調に増加していると考えられる。

これを特に「地震」に関するBCPについて平成21年度実態調査でみると,「策定済み」の割合は,大企業については,東海地震の地域で31%,東南海・南海地震の地域で27%,首都直下地震の地域で34%となっている。中堅企業については,東海地震の地域で18%,東南海・南海地震の地域で16%,首都直下地震の地域で20%となっている。また,「策定済み」及び「策定中」の合計値で見ると,大企業については,東海地震に係る地域では62%,東南海・南海地震に係る地域では53%,首都直下地震に係る地域では64%となっており,中堅企業については,東海地震に係る地域では37%,東南海・南海地震に係る地域では30%,首都直下地震に係る地域では34%となっている。こうしたことから,地震防災戦略で定めている目標は策定後10年間のものであるが,平成21年11月が概ねその中間段階にあることを考慮すると,目標達成までほぼ半ばにきているものと考えられる。

図3−5−1 平成21年度 企業規模別(大企業,中堅企業) 図3−5−1 平成21年度 企業規模別(大企業,中堅企業)の図

(参考)本調査の「大企業」及び「中堅企業」の抽出区分は,中小企業基本法第2条における中小企業の区分及び日本銀行調査統計局の「業種別貸出金における法人の企業規模区分に関する定義」を援用している。例えば,製造業についてみると,大企業は資本金10億円以上かつ常用雇用者数301人以上,中堅企業は資本金3億円超10億円未満かつ常用雇用者数301人以上である。

図3−5−2 平成19年度 企業規模別(大企業,中堅企業) 図3−5−2 平成19年度 企業規模別(大企業,中堅企業)の図
図3−5−3 平成21年度 「地震」に関する地域別・企業規模別(大企業,中堅企業) 図3−5−3 平成21年度 「地震」に関する地域別・企業規模別(大企業,中堅企業)の図

(参考)地震防災戦略においては,「東海地震」(平成17年3月策定),「東南海・南海地震」(平成17年3月策定),「首都直下地震」(平成18年4月策定)及び「日本海溝・千島海溝型地震」において,策定から10年後の年度末の目標として,「事業継続計画を策定している企業の割合を,大企業でほぼ全て,中堅企業において過半数を目指す」と定められている。

また,防災・事業継続の取組の公表状況については,「公表している」の値は,平成19年度の実態調査と平成21年度の実態調査を比較した場合,上場企業で16%から22%に増加した。

(参考)地震防災戦略に共通する目標になっている「防災に関する取組を評価・公表している企業(上場企業)の割合が5割程度」となっている。

図3−5−4 防災・事業継続の取組の公表について 図3−5−4 防災・事業継続の取組の公表についての図
(3)BCPの策定・運用の促進方策に関する今後の方向性

企業が,BCP策定に関する専門的・実践的なスキル・ノウハウを獲得し,BCPの策定を円滑に進めるためには,策定の際に必要な情報を具体的かつわかりやすい形で提供することが求められている。

そのためには,事業継続ガイドライン,主として自己評価のためのチェックリスト等の基本的図書に関して,状況の変化に応じた整備・充実を図ることや,参考となる業種・規模の事業者の策定事例や実務者向けの具体的な取組事例などを幅広く集め効果的に提供する仕組を検討する必要があると考えられる。

また,BCPの策定が普及の初期段階から進行段階に入ったという状況からみて,BCP策定済みの企業に対して,BCPの定着・発展を促すとともに,BCPを策定中または策定予定の企業に理解を深めてもらうために,各社でのBCPに係る訓練の実施を促すとともに,公的機関や中小企業を含めた地域における異業種間での連携訓練の方法や実施効果に関する情報の提供を行うことが重要と考えられる。


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