1−2 バングラデシュ・サイクロン シドル



1−2 バングラデシュ・サイクロン シドル

(1)災害の発生と被害の概要

2007年11月11日にベンガル湾で発生し,同月15日午後6時30分頃(日本時間午後9時30分頃),バングラデシュ南部パタルガタ付近に上陸した「シドル」は,最大風速69m/秒相当と1970年に同国に死者30万人をもたらしたサイクロンの規模を超え,同国を襲ったサイクロンとしては最大級のものであった。

同サイクロンは同国を北東方向に縦断した後,16日に消滅したが,南部沿岸を中心に,被害が発生。同国は元来サイクロン災害に対し脆弱な国土条件(国土の50%以上が海抜7m以下)であるため,高潮等の影響もあり浸水被害が発生し,これらの原因により,死者・行方不明者4,234人,被災者892万3259人,被災家屋(全半壊)151万8942棟に及ぶ被害がもたらされた。また,農地(257万2,944エーカー),家畜(177万8,507頭死亡)の他,道路(8,075km),橋梁(1,687橋)や教育機関(1万6,954機関)など,生活基盤・インフラに著しい被害を受けた(バングラデシュ食糧防災省等情報による)。

(2)バングラデシュ政府の応急対応

バングラデシュ政府は,サイクロン上陸前から警戒警報を発し,警察,軍隊,保健職員等4万人を配置し,沿岸部を中心にサイクロンシェルターへの避難を行った。上陸後は,軍のヘリコプター,艦船による救援活動,緊急物資(テント,食料品等)の提供,住居建設に向けた資金提供,医療チームの派遣等が行われた。

また,15日,バングラデシュ政府と国連,ドナー国,NGOからなる災害緊急対応グループ会合が開催され,調整が行われた。

(3)国際社会の主な対応

カナダ,チェコ,エストニア,フランス,ドイツ,インド,イタリア,アイルランド,モナコ公国,ニュージーランド,クェート,サウジアラビア,アラブ首長国連邦,アメリカ等が,資金・物資協力,医療部隊派遣,救助隊派遣,輸送協力などを行った。

また,災害緊急対応グループにおける調整の後,国連より調査団が派遣された他,国際赤十字,赤新月社連盟,国連人道問題調整事務所,国連開発計画,国連児童基金,国連世界食料計画,世界保健機関,世界銀行等,石油輸出国機構の国際機関も資金・物資協力,要員派遣,物資輸送等の支援を行った。

(4)我が国の主な対応

a 無償資金協力

緊急支援として,国連世界食糧計画(WFP),国連児童基金(UNICEF)及び世界保健機関(WHO)を通じ,総額約4億2,600万円の緊急無償資金協力を実施した。

b 緊急援助物資の供与

約3,500万円相当の緊急援助物資(テント,毛布,簡易水槽,浄水器,ポリタンク,発電機,スリーピングマット)が,11月20日に供与された。

c 有償資金協力

日本政府は,2008年2月25日,「緊急災害被害復旧計画」として,69億6,000億円を限度とする円借款を供与した。本計画は,洪水及びサイクロンにより過去最大級の被害を受けた同国において,アジア開発銀行等と協調して,生計回復に必要不可欠な物資(米・小麦・肥料)を輸入するための資金供与及び道路・堤防等インフラの復旧事業を行うことにより,経済社会活動の早期回復を図り,バングラデシュの持続的な経済成長に貢献するものである。

d NGO等の活動

ジャパン・プラット・フォーム(JPF)が,初動対応ミッションの派遣,物資支援を行った。初動対応としてはNGO団体2団体が,12月2日から5日にかけ,現地状況の調査及び関係機関の意向聴取を行った。

e その他

アジア防災センターは,11月27日から12月3日までの期間,現地調査を行い,サイクロンによる被災状況(人的,物的被害)を把握するとともに,被害の特徴,過去のサイクロン災害被害との対比,今後の災害対応への課題,対応策について検討した。また,バングラデシュ政府当局者との協議を通じて,早急に対応すべき留意点,中長期的な防災体制等の構築・強化について助言を行った。

この調査は,防災の専門家によるサイクロン「シドル」に関する調査としては,我が国で最も早い時期に行われたものであり,帰国後,関係省庁,関係機関から多数の参加者をえて,報告会が行われた。更に,続いて現地に入る予定となっていたJICAニーズアセスメント調査団に対しても,被災直後に得られた貴重な現地情報の共有が図られた。

JICAは,被災状況を正確に把握し,今後の被災地の復興に必要な支援を検討するため,12月8日から18日の日程でニーズアセスメント調査団(JICA,国土交通省等から6人で構成)をバングラデシュに派遣した。

本調査団は,学校施設の復旧,安全な飲料水供給の措置,インフラ復旧,沿岸部の護岸,サイクロンシェルターの整備,防災能力・予警報体制強化などの支援ニーズを把握・検討を行った。南西部4県の被害は特に深刻で,もともと貧しい生活を送っていた人々は漁業や農業といった生活手段を失い,仮設住宅での生活を余儀なくされ,安全な水,基本的な生活インフラへのアクセスがない状況であった。

調査結果を踏まえ,よりよい復興に向けて短・中期的には防災・災害復興支援無償資金協力「サイクロン「シドル」被災地域多目的サイクロンシェルター建設計画」によるサイクロンシェルターの建設や,飲料水供給施設,道路などの一部地方インフラの復旧を行い,長期的には,青年海外協力隊を通じた住民への防災教育や,JICAの技術協力による気象予測能力の向上や,農村の防災能力強化をめざすことが決定された。


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