3−4 風水害対策



3−4 風水害対策

(1)近年の風水害の特徴

a 豪雨,台風等の状況

我が国では,毎年,5月上旬から7月中旬にかけての梅雨前線の活動や台風の影響により,各地で豪雨が発生している。年間では平均26.7個(1971〜2000年の統計)の台風が発生し,うち2.6個が北海道・本州・四国・九州のいずれかに上陸している(図2−3−68)。平成19年の台風発生数は24個と平年を下回り,接近数が12個,上陸数が3個と平年並であった。

平成19年は,7月2日から17日にかけて日本付近の梅雨前線の活動が活発となり,7月13日から16日にかけては台風第4号が南西諸島付近から本州南岸に沿って進んだ。このため,宮崎県日南市油津で最大瞬間風速が55.9m/sと観測史上1位を更新するなど,沖縄・奄美,西日本から東日本の太平洋側では暴風となり,台風の周辺では波が高く猛烈なしけ,沖縄本島地方や瀬戸内海では高潮となった。また,沖縄地方から東北地方にかけての広い範囲で記録的な大雨となった。この期間の総雨量は九州の多いところで1,000ミリを超え,大雨となった各地で7月の月間平均雨量の2倍を超えた。この影響により,沖縄地方から東北南部にかけて,土砂災害,浸水害,住家損壊が発生し,大雨で増水した河川への転落などにより,人的被害として7名の死者・行方不明者が出たほか,住宅被害では床上・床下浸水家屋が約3,413棟となる被害が発生した(図2−3−69)。

図2−3−68 台風の日本への接近数の推移 台風の日本への接近数の推移の図
図2−3−69 平成19年の台風の発生箇所とコース 平成19年の台風の発生箇所とコースの図

b 水害の状況

我が国においては治山・治水事業の推進等により,水害による浸水面積(水害面積)は,昭和62年〜平成3年の平均が57,847haであるのに対し,平成14年〜18年の平均は26,358haと大幅に減少している(図2−3−70)。しかしながら,河川はん濫区域内への資産の集中・増大に伴い,近年,浸水面積当たりの一般資産被害額(水害密度)が急増している(図2−3−71)。

図2−3−70 水害面積の推移 水害面積の推移の図
図2−3−71 一般資産水害被害及び水害密度の推移(年平均・平成12年価格) 一般資産水害被害及び水害密度の推移(年平均・平成12年価格)の図

c 土砂災害の状況

地すべり,土石流,がけ崩れといった土砂災害は,その原因となる土砂の移動が強大なエネルギーを持つとともに,突発的に発生することから,人的被害につながりやすく,また家屋等にも壊滅的な被害を与える場合が多い。

一般に土砂災害は,土砂移動の発生形態により大きく,地すべり,土石流,がけ崩れに分類される。火砕流を除外すると昭和63年〜平成19年の20年間の平均で毎年約990件の土砂災害が発生している(図2−3−72)。

発生件数の内訳は,がけ崩れが火砕流を除く全体の約65%を占め,死者・行方不明者もがけ崩れによるものが最も多い。一方で地すべり・土石流は,がけ崩れに比べ発生件数は少ないが,阪神・淡路大震災に伴う西宮市での地すべり(34名),蒲原沢土石流災害(14名),出水市の土石流災害(21名),水俣市の土石流災害(15名)など,多数の死者・行方不明者が発生する災害があった。平成19年は,台風第4号及び梅雨前線による大雨などにより,香川県を除く全国46都道府県で966件の土砂災害が発生したが,死者・行方不明者は発生していない。

近年の状況は,表2−3−15のとおりである。

図2−3−72 土砂災害の発生状況の推移 土砂災害の発生状況の推移の図
表2−3−15 近年の主な土砂災害による死者・行方不明者の状況 近年の主な土砂災害による死者・行方不明者の状況の表

d 風害の状況

風害は,飛来物による被害,建物・施設の損壊,高波,樹林の倒壊,フェーン現象による火災延焼などの形態がある。

竜巻は,日本全国どこにおいても季節を問わず台風,寒冷前線,低気圧に伴って発生している(図2−3−73)。年間では,平均約19個(1991〜2007年の統計)の竜巻が発生している。

平成18年9月には,台風第13号の九州地方への接近に伴い,宮崎県延岡市において竜巻災害が発生し,死者3名など,甚大な被害が発生した。現地調査の結果,被害長さ7.5km,幅150〜300mに及び,ほぼ連続的に建物の倒壊,屋根や壁の損傷,屋根瓦や窓ガラス等の破損等の大きな被害となった。更に,竜巻の通過したコースが市街地であったことから,飛散物により被害が増大した。竜巻の強度は藤田スケールでF2と推定された。

また,同年11月には,宗谷海峡付近にある低気圧からのびる寒冷前線の通過した北海道佐呂間町において,積乱雲の発達に伴い竜巻が発生し,道路工事現場の仮設建築物を吹き飛ばすなど,死者9名という我が国の竜巻観測史上最大の死者数のほか,負傷者31名,住宅全壊7棟に及ぶ被害がもたらされた。現地調査の結果,被害地域の形状は,長さ約1.4km,幅100〜300mの細長い帯状で,竜巻の強度は国内で観測された竜巻では最大級となる藤田スケールでF3と推定された。

(参考:藤田スケール)

被害の状況から見積もる竜巻の強さ(風速)の指標の一つ。竜巻研究の第一人者,シカゴ大学故藤田哲也教授が提唱したもの。スケールはF0からF5まであり,F2は風速50〜69m/s(約7秒間の平均),F3は風速70〜92m/s(約5秒間の平均)である。

図2−3−73 竜巻の発生位置の分布図 竜巻の発生位置の分布図の図

e 高潮災害の状況

高潮災害に対しては,海岸保全施設の整備や気象情報の精度向上等,積極的対策がなされてきたため,近年においては大きな被害は発生していなかった。

しかしながら,平成11年9月に熊本県で,台風第18号により12名の死者が,瀬戸内地域の岡山県宇野港,香川県高松港などで記録的な潮位を観測した平成16年8月の台風第16号により3名の死者が出ている。昭和以降の主な高潮災害は(表2−3−16)のとおりである。

表2−3−16 昭和以降の主な高潮災害 昭和以降の主な高潮災害の表
(2)風水害対策の概要

a 大規模水害対策

平成17年8月のハリケーン・カトリーナ災害では,ニューオーリンズ市域の約8割が浸水し,その期間は約1か月半に及んだ。約30万棟の建物が被災し,約1,800名の方が亡くなるとともに,通信,電力をはじめとするライフライン,教育施設,医療機関など社会基盤の多くが被害を受け,災害から1年半が経過しても復興途上の段階である。

国内では,集中豪雨の発生頻度が増加傾向にある一方で,治水施設の整備には時間がかかり,施設の整備途上で被災するといった状況が常に存在している。加えて,高齢化社会の到来により災害時要援護者の増加,旧来型の地域コミュニティの衰退,水防団員の減少等,地域防災力が低下し,はん濫した場合の備えがますます重要になってきている。

更に,首都地域には,政治,行政,経済機能が集積し,東京湾周辺にはゼロメートル地帯が広がっていることから,首都地域において大河川の洪水はん濫や高潮災害が発生した場合には,甚大かつ広域的な被害の発生が想定される。

我が国においては,中小洪水に対しては,ハード・ソフトともに一定の備えができているものの,カスリーン台風や伊勢湾台風級の大規模な水害に対しては,治水施設の整備状況は十分ではなく,特に,大都市部における大規模なはん濫に対する応急対策等については不十分な状況にある。このため,平成18年6月2日,中央防災会議に「大規模水害対策に関する専門調査会」を設置し,第1回専門調査会を平成18年8月29日に開催した。

本専門調査会では,首都地域において甚大な被害の発生が想定される荒川,利根川の洪水及び東京湾の高潮によるはん濫を対象とし,大規模水害時の被害像を想定し,<1>大規模広域避難対策,<2>多数の発生が想定される孤立者対策,<3>身体障害者,入院患者等災害時要援護者の避難支援対策など,災害事象の各段階において被害を最小限に食い止めるための対策等の検討を行い,大規模水害対策を取りまとめることとしている。

平成20年3月までに9回開催され,平成19年5月に利根川の洪水はん濫時の浸水想定を公表し,平成19年10月には荒川の洪水はん濫時の浸水想定を公表した(図2−3−74,図2−3−75)。

また,利根川の洪水はん濫時の浸水想定を受け,広域避難や孤立者の救助等の大規模水害発生時の応急対策等の検討に用いるため,国内では初めて,洪水はん濫による死者数,孤立者数,浸水継続時間に関する被害想定をとりまとめ,平成20年3月に公表した(図2−3−76〜図2−3−78)。

今後,大規模水害発生時のライフラインの支障,経済被害等の想定を実施し,被害軽減を図るため広域避難体制,孤立者の救助体制等の検討を行う予定である。

国土交通省では,ハリケーン・カトリーナ災害を踏まえ,平成17年10月に「ゼロメートル地帯の高潮対策検討会」を発足させ,平成18年1月に提言を公表した。提言では,浸水を防止するための万全の対策,大規模浸水を想定した被害最小化対策,高潮防災知識の蓄積・普及の具体化を図るよう推進すべきとしている。この提言の施策を具体化するものとして,農林水産省及び国土交通省ではハード整備に併せてハザードマップ作成支援等のソフト対策をゼロメートル地帯の高潮対策へも拡充した「津波・高潮危機管理対策緊急事業」を創設し,高潮対策を推進している。

ニューオーリンズ市内の浸水状況 ニューオーリンズ市内の浸水状況の写真
図2−3−74 利根川右岸136.0kで堤防が決壊した場合の浸水想定 利根川右岸136.0kで堤防が決壊した場合の浸水想定の図
図2−3−75 荒川右岸21.0kで堤防が決壊した場合の浸水想定 荒川右岸21.0kで堤防が決壊した場合の浸水想定の図
図2−3−76 市区町村別死者数(ケース1:首都圏広域氾濫) 市区町村別死者数(ケース1:首都圏広域氾濫)の図
図2−3−77 救助活動後の孤立者数の推移(避難率40%:首都圏広域氾濫) 救助活動後の孤立者数の推移(避難率40%:首都圏広域氾濫)の図
図2−3−78 排水施設の稼動による浸水状況の違い(首都圏広域氾濫) 排水施設の稼動による浸水状況の違い(首都圏広域氾濫)の図

b 洪水ハザードマップの公表状況

防災能力の向上や災害時の被害軽減を図る有効な方法の一つとして,防災情報の公表,提供があげられる。最近では各自治体で,自然災害による被害の可能性を示すハザードマップや被害想定などの防災情報が数多く提供されるようになった。水害においては,特にハザードマップが有効で,洪水時等の影響範囲及び避難所等を示すことで,被害の予防や軽減に対する日頃の活動や備えの必要性を啓発できる。

また,平成16年の水害において洪水予報の難しい中小河川において被害が多発したことから,平成17年に水防法が改正され,洪水予報を行う大河川以外の主要な中小河川を,避難勧告発令の目安となる特別警戒水位への到達情報の周知等を行う河川(水位情報周知河川)として指定した。洪水予報河川は320河川,水位周知河川は1,135河川(平成20年3月現在)が指定され,両河川とも浸水想定区域の指定・公表が義務づけられている。1,019河川(平成20年3月末現在)で指定・公表がされており,円滑かつ迅速な避難を行うことができるように市町村による洪水ハザードマップの作成推進等が行われ,727市町村で洪水ハザードマップの作成が完了している(平成20年3月末現在)。

更に,各地方自治体において,行政窓口での閲覧,配布,各戸への配布,公民館,病院等での閲覧,広報誌,ホームページ,電話帳への掲載,ハザードマップを使った避難訓練,小中学校の総合学習教材としての活用,配布にあたっての住民説明会の実施などにより,洪水ハザードマップの普及の取組みを行っている。河川はんらん時の浸水深や洪水時の避難所といった“地域の洪水に関する情報の普及”を目的として,これらの情報を洪水関連標識として表示する「まるごとまちごとハザードマップ」の取組みを平成18年より実施してきている。この取組みにおいて作成した「洪水」「堤防」「避難所(建物)」の3種類の図記号について,平成19年1月,日本工業規格(JIS)の案内用図記号として新たに定められた(日本工業規格JIS Z8210:2007(案内用図記号(追補1))。

c 竜巻等突風災害対策

竜巻等の突風災害については,平成18年9月の宮崎県延岡市や同年11月の北海道佐呂間町でも見られたとおり,突発的な破壊力が大きく,人命のみならず,住家,交通,ライフラインなどに甚大な被害をもたらす。こうした局地的な突風災害は,これまでは予測が困難であり,事前の避難等の対策が取りづらいものと考えられていたが,今般の甚大な被害を踏まえ,政府では平成18年11月に関係省庁による「竜巻等突風対策検討会」を設置し,平成19年6月に検討の結果を公表した。

検討会では,過去の突風災害のデータ収集や分析を行いつつ,竜巻等突風対策の取組状況を整理するとともに,有識者からのヒアリングを実施した。更に,竜巻対策が進んでいる米国における予警報体制,情報伝達・避難誘導体制,教育・意識啓発等の取組みの現状を調査し,その結果を共有した。

これらを踏まえ,突風災害の特徴や竜巻に遭遇した場合の身の守り方をまとめたパンフレットを作成するとともに関係省庁の今後の取組みを取りまとめた。気象庁では,平成20年3月から新たな府県気象情報として「竜巻注意情報」の提供を開始し,更に平成22年度から,より精度の高い突風等に対する短時間予測情報の提供を開始する予定である。


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