次頁 （８）中部圏・近畿圏における地震対策
a 中部圏・近畿圏の内陸地震の姿
（a） 発生の可能性
中部圏・近畿圏の内陸には多くの活断層があり，次の東南海，南海地震の発生に向けて，中部圏及び近畿圏を含む広い範囲で地震活動が活発化する可能性が高い活動期に入ったと考えられるとの指摘もあり，実際，過去の事例によると，西日本の内陸では，東南海，南海地震の前後に地震活動が活発化する傾向が見られる（図２−３−４４）。この地域の市街地は府県境界を越えて広域化しており，大規模な地震が発生した場合，甚大かつ広範な被害が発生する可能性がある。これら，中部圏・近畿圏の内陸地震への防災対策については，「東南海，南海地震等に関する専門調査会」（ 参照ページ ）において，現在検討が進められている。
（b） 応急対策の対象とする地震
実際に地震が発生した場合のシナリオに基づいた“応急対策”等を具体的に検討するための地震として，名古屋，京都，大阪，神戸など大都市や工業地帯への影響，文化財保護等を考慮し，これらの地域に存在する活断層で発生する地震のうち１１のものを想定した。更に，名古屋市直下及び阪神地域直下には活断層は見られないが，これらの直下にM６．９の地震を想定し，検討することとした（図２−３−４５）。地盤構造モデル等を構築し，各地震について詳細な検討を進め，平成１８年１２月に想定される震度分布の公表を行った（図２−３−４６，４７の<１>）。得られた震度分布を基に，各地震による被害想定を進めている。
（c） 被害想定結果（建物被害，人的被害等）
各地震による被害想定項目のうち，建物被害や人的被害等の推計結果については，平成１９年１１月１日に取りまとめ，公表を行った。
近畿圏において最大の被害をもたらす上町（うえまち）断層帯の地震では，大阪府を中心に，冬の昼１２時・風速１５m/sのケースで最大建物全壊棟数約９７万棟，冬の朝５時・風速１５m/sのケースで最大死者数約４万２千人の被害が想定された（図２−３−４８，図２−３−４９）。この理由としては，活断層が大阪市の中心部を通っており，市街地の広い範囲が震度６強以上の領域となること，この地域の地盤が非常に軟弱であること，更に老朽家屋が密集している地区が多数存在していること，等が考えられる。また，震災廃棄物についても約１．２億トンという膨大な量が推定された。
また，中部圏において最大の被害をもたらす猿投−高浜（さなげ−たかはま）断層帯の地震では，愛知県を中心に建物全壊約３０万棟，死者数約１万１千人，震災廃棄物約３，６００万トンの被害が想定された（図２−３−５０）。
その他の地震についても同様に被害想定を行っている（図２−３−４８〜２−３−５０）。
（d） 文化遺産の被災可能性
中部圏・近畿圏の特徴として，文化遺産が多く集中している点が挙げられる。特に近畿圏には，京都や奈良を中心に，全国の重要文化財（建造物）の約半分，国宝（建造物）の約８割が集中し，また，多くの世界遺産が存在している。これら文化遺産の集積する地域に大きな被害を及ぼすと想定される６地震について，震度６強以上の揺れ又は一般の建物の焼失があるメッシュに所在する文化遺産を抽出し，被災可能性を評価した（図２−３−５１）。
京都市に大きな被害を及ぼす花折（はなおれ）断層帯の地震では，京都盆地のほぼ全域が震度６強以上となり，全国の国宝（建造物）の約１／４に相当する約５０件の建造物，重要文化財（建造物）の約１割に相当する約２６０件の建造物が，震度６強以上の揺れ又は一般の建物の焼失があるメッシュに所在する（図２−３−５２，２−３−５３）。
奈良県を中心に多くの文化遺産が被災する可能性がある生駒（いこま）断層帯の地震をはじめ，その他の地震によっても数多くの文化遺産が被災する可能性がある。
（e） 経済，ライフライン等の被害想定結果
中部圏・近畿圏の内陸地震に伴う経済被害やライフライン被害等の推計結果が，平成２０年５月１４日に公表された。
上町断層帯の地震については，経済被害額約７４兆円，交通寸断による影響人流量約５，３００万人，影響物流量約３，７００万トン，影響額約３．４兆円，避難者約５５０万人，帰宅困難者約２００万人と想定された。また，ライフライン被害では，断水率約６７％，停電率約４１％，下水道機能支障率約３１％，不通回線率約２３％，ガス供給停止率約８２％（いずれも１日後の大阪府内の値）と想定された。
猿投−高浜断層帯の地震については，経済被害額約３３兆円，交通寸断による影響人流量約６，６００万人，影響物流量約４，０００万トン，影響額約３．９兆円，避難者約２５０万人，帰宅困難者約９６万人と想定した。また，ライフライン被害では，断水率約５６％，停電率約２４％，下水道機能支障率約２１％，不通回線率約１４％，ガス供給停止率約９９％（いずれも１日後の愛知県内の値）と想定された。
更に，中央構造線断層帯の地震では，大阪府，奈良県，和歌山県で計４７集落，約６，９００戸の孤立集落の発生が想定された。また，養老−桑名−四日市断層帯の地震では，四日市臨海地区の石油コンビナートで漏洩約５０施設，破損等約７００施設と想定された。
上記のほか，交通施設被害，建物倒壊による道路閉塞の発生，エレベータ内閉じ込め，地下街の被害，ターミナル駅の被害等の想定項目について推計を行ったところである。
専門調査会では，得られた被害想定結果を基に，具体的な被害軽減対策を盛り込んだ専門調査会報告書を取りまとめる予定である。
ｂ 京阪神都市圏における広域防災拠点の整備等に関する検討
都市再生本部による都市再生プロジェクト第一次決定において，京阪神都市圏においても基幹的広域防災拠点の必要性も含め，広域防災拠点の適正配置を検討することとされた。
これを受け，有識者，関係省庁と関係府県市による「京阪神都市圏広域防災拠点整備検討委員会」を開催し，基幹的広域防災拠点の必要性，広域防災拠点の適正配置等を含めた広域防災ネットワークの形成について検討を進め，平成１５年６月，「京阪神都市圏広域防災拠点整備基本構想」を策定した。
基本構想の概要は以下のとおりである。
- 大規模災害に対して府県境を越えた広域的な災害対策活動の核となる機能を併せ持つ基幹的広域防災拠点の整備が不可欠。
- 広域防災拠点及び基幹的広域防災拠点の配置ゾーンを提示（図２−３−５４，図２−３−５５）。
平成１６年３月から，国土交通省近畿地方整備局が事務局となり，関係省庁及び関係府県市等による「京阪神都市圏広域防災拠点整備協議会」を立ち上げ，基幹的広域防災拠点の具体的な整備に向けての検討を行っており，平成１９年７月の協議会で早急に整備することが合意された堺泉北港堺２区において平成２０年度より整備に着手する予定である。
ｃ 名古屋圏における広域防災ネットワーク整備・連携方策の検討
稠密な市街地が連たんしている名古屋圏において，広域あるいは甚大な災害が発生した場合，国・地方公共団体等が連携・協力して広域的な災害対策活動を行う必要がある。
このため，有識者，関係省庁と関係県市等による「名古屋圏広域防災ネットワーク整備・連携方策検討委員会」を開催し，中核的な広域防災拠点の必要性・広域防災拠点の適正配置等を含む広域防災ネットワークの整備・連携に向けた検討を行い，平成１６年７月，「名古屋圏広域防災ネットワーク整備基本構想」を策定した。
基本構想の概要は以下のとおりである。
- 大規模災害に対して，県境を越えた広域的な災害対策活動を行うための広域防災拠点及び中核的広域防災拠点が必要。
- 広域防災拠点及び中核的広域防災拠点の配置ゾーンを提示（図２−３−５６，図２−３−５７）。
今後，中核的広域防災拠点の整備については，整備の実現可能性の観点から基本構想における配置ゾーン周辺の土地利用，面整備事業等の動向等を見据えつつ，具体的整備に向けての検討，関係機関との調整を行うこととしている。
