第3章 国民の防災活動
1 災害被害を軽減する国民運動の推進
(1)「災害被害を軽減する国民運動の推進に関する基本方針」の概要
災害から安全・安心を確保するためには,行政による「公助」だけでなく,国民一人一人や企業の発意に基づく「自助」,地域や多様な主体による「共助」の取組,さらにはこれらの連携が不可欠である。平成17年版防災白書では,災害被害を軽減するために,社会全体で生命,身体,財産を守るための具体的な行動を実践する国民運動を展開することを呼びかけた。
国民運動の展開においては,国民一人一人の防災意識の向上,家庭や職場における備えの実践,さらには地域コミュニティ等の防災力の向上が必要である。家具や備品の固定,食料や水の備蓄といった災害対策のみならず,住宅・建築物の耐震化,ハザードマップの確認,企業の事業継続計画(BCP)の策定,防災ボランティアの活動環境の整備,商店街やNPO等の活動による防災に強いまちづくり等の具体的な行動を実践していかなければならない。そのため,社会の各界各層に向け,これまで以上に広く呼びかけるとともに,新たな手法を開発していく必要がある。
新たに国民運動の基本方針を立案し,当該方針の下で各界各層の防災に関する取組を連携させて国民運動を展開していくために,平成17年7月,中央防災会議に「災害被害を軽減する国民運動の推進に関する専門調査会」(座長:樋口公啓 東京海上日動火災保険(株)相談役)が設置された。
同専門調査会では,委員からの先進事例の紹介のほか,「災害被害を軽減する国民運動の推進に関する基本方針」策定に向けて議論を進めて基本方針案を取りまとめ,これが平成18年4月21日の第17回中央防災会議において基本方針として決定された。
この基本方針は,「安全・安心に価値を見いだし行動へ」をキャッチフレーズに5つの柱から成っている。
序章では,自然災害からの安全・安心を得るためには「自助」「共助」「公助」の取組が必要であり,個人や家庭,地域,企業,団体等が日常的に減災のための行動と投資を息長く行う国民運動が必要であることについて述べている。
第1の柱は「防災(減災)活動へのより広い層の参加(マスの拡大)」である。環境,福祉,防犯などの地域に根ざした活動に防災の要素を加え,従来防災に関心を持ってこなかった人々に関心を持ってもらうということや,防災訓練において家具の固定など予防的取組を取り入れること,防災教育を充実させることなどを掲げている。
第2の柱は「正しい知識を魅力的な形で分かりやすく提供(良いコンテンツを開発)」である。絵本や写真集,紙芝居,ゲーム等多様な媒体の活用,生活に密着した切実な体験談の収集等災害をイメージする能力を高めるようなコンテンツの開発などを掲げている。
第3の柱は「企業や家庭等における安全への投資の促進(投資のインセンティブ)」である。ビジネス街や商店街が防災によってまちの魅力を高め,言わば「守る防災から攻める防災へ」の意識を醸成することや,事業継続計画(BCP)への取組の促進などを掲げている
第4の柱は「より幅広い連携の促進(様々な組織が参加するネットワーク)」である。国の機関,自治体,学校,公民館,PTA,企業,ボランティア団体等,地域において,様々な組織が参加するネットワークを作っていくことなどを掲げている。
第5の柱は「国民一人一人,各界各層における具体的行動の継続的な実践(息の長い活動)」である。国民運動の継続的な推進のための枠組み作りを全国,都道府県及び市町村のレベルで促進することや,様々な防災活動の優良事例を継続的に表彰することにより応募者の活動を促進することなどを掲げている。
(2) 専門調査会報告書「災害被害を軽減する国民運動の具体化に向けた取組について」
基本方針の決定後,専門調査会は国民運動を展開するための具体策の検討に入り,全国から数多くの先進的な取組事例の報告を受けながら,テーマ別に①地域社会における幅広い連携と参加の拡大,②安全への投資や防災活動のインセンティブづくり,③災害をイメージする能力を高めるコンテンツの充実,④これらテーマを横断的に取り扱う事項,について検討を進め,同年12月13日に専門調査会報告書として「災害被害を軽減する国民運動の具体化に向けた取組について」を取りまとめ,平成19年3月20日の第19回中央防災会議に報告した。
報告書では,国民運動の輪を広げていくため,次の7つの取組を進めるべきであるとしている。
今後の国民運動の展開としては,個人や家庭,地域,企業,団体等において,家具や備品の固定,ガラスの飛散防止,建物の耐震診断と必要な補強,ハザードマップの確認,家族の安否の確認方法の共有といった,災害被害を少なくするための具体的な行動に着手することが日常的なこととなるような社会の実現を目指し,幅広い層が連携・参加し,自らの身の回りの安全について考える機会となるような取組を推進することとしている。