4−4 風水害対策



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4−4 風水害対策

(1) 近年の風水害の特徴

a 豪雨,台風等の状況
 我が国では,毎年,5月上旬から7月中旬にかけての梅雨前線の活動や台風の影響により,各地で豪雨が発生している。年間では平均26.7個の台風が発生し,うち2.6個が北海道・本州・四国・九州のいずれかに上陸している(図2−4−69)。

クリックで拡大表示 図2−4−69 台風の日本への接近数の推移

平成18年は,7月15日から7月24日にかけて,梅雨前線は本州付近にあり,前線に向かって多量の水蒸気が流れ込んで前線の活動が活発となった。このため,九州地方,山陰地方,北陸地方と長野県の広い範囲で記録的な大雨となった。この影響により,人的被害として30名の死者・行方不明者が出たほか,住家被害では,床上・床下浸水家屋が9,997棟となる被害が発生した。
 平成18年の台風発生数は23個と平年を下回り,接近数が10個,上陸数が2個と平年並であった。10月4日から5日にかけては,台風第16号の北上に伴って,本州南岸に停滞した前線に向かって台風周辺の暖かく湿った空気が流れ込み,前線の活動が活発となった。前線上に発生した低気圧が6日に本州南岸を北東に進み,7日朝にかけて急速に発達しながら関東の東海上から三陸沖に進み,8日には北海道の東方海上に進んだ。このため,関東地方から北海道にかけての太平洋側で平均風速25m/sを超える暴風となり,海上では波の高さ9mを超える猛烈なしけとなり,沿岸では高潮となった。また,関東地方,東北地方の太平洋側,及び北海道のオホーツク海側で降り始めからの総雨量が250mmを超える大雨となり,特に,北海道網走支庁では7日から9日にかけての総雨量が10月の月間平均雨量の4倍を超える大雨となったところがあった。暴風,高波,高潮,大雨により関東地方から北海道にかけて,住宅損壊,浸水害,土砂災害が発生し,東北地方から北海道では,水稲等の冠水,果樹の落果,農業・水産施設の損壊等の被害が発生した。また,強風害,海難,山岳遭難により,合わせて死者29名,行方不明者19名など大きな被害が発生した(図2−4−70)。

クリックで拡大表示 図2−4−70 平成18年の主な台風の発生箇所とコース

b 水害の状況
 我が国においては治山・治水事業の推進等により,水害による浸水面積(水害面積)は,昭和61年〜平成2年の平均が68,406haであるのに対し,平成13年〜17年の平均は25,805haと大幅に減少している(図2−4−71)。しかしながら,河川氾濫区域内への資産の集中・増大に伴い,近年,浸水面積当たりの一般資産被害額(水害密度)が急増している(図2−4−72)。

クリックで拡大表示 図2−4−71 水害面積の推移

 
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図2−4−72 一般資産水害被害及び水害密度の推移(年平均・平成12年価格)
 

c 土砂災害の状況
 地すべり,土石流,がけ崩れといった土砂災害は,その原因となる土砂の移動が強大なエネルギーを持つとともに,突発的に発生することから,人的被害につながりやすく,また家屋等にも壊滅的な被害を与える場合が多い。
 一般に土砂災害は,土砂移動の発生形態により大きく,地すべり,土石流,がけ崩れに分類される。火砕流を除外すると昭和62年〜平成18年の20年間の平均で毎年約960件の土砂災害が発生している(図2−4−73)。

クリックで拡大表示 図2−4−73 土砂災害の発生状況の推移

発生件数の内訳は,がけ崩れが火砕流を除く全体の約67%を占め,死者・行方不明者もがけ崩れによるものが最も多い。一方で地すべり・土石流は,がけ崩れに比べ発生件数は少ないが,阪神・淡路大震災に伴う西宮市での地すべり(34名),蒲原沢土石流災害(14名),出水市の土石流災害(21名),水俣市の土石流災害(15名)など,多数の死者・行方不明者が発生する災害があった。平成18年は,平成18年7月豪雨による大雨,台風第13号などにより,全国で土砂災害が1,441件,死者・行方不明者が25名発生している。
 近年の状況は,表2−4−21のとおりである。

クリックで拡大表示 表2−4−21 近年の主な土砂災害による死者・行方不明者の状況

d 風害の状況
 平成18年9月には,台風第13号の九州地方への接近に伴い,宮崎県延岡市において竜巻災害が発生し,死者3名など,甚大な被害が発生した。現地調査の結果,被害長さ7.5km,幅150〜300mにおよび,ほぼ連続的に建物の倒壊,屋根や壁の損傷,屋根瓦や窓ガラス等の破損等の大きな被害となった。さらに,竜巻の通過したコースが市街地であったことから,飛散物により被害が増大した。竜巻の強度は藤田スケールでF2と推定された。
 また,同年11月には,宗谷海峡付近にある低気圧からのびる寒冷前線の通過した北海道佐呂間町において,積乱雲の発達に伴い竜巻が発生し,道路工事現場の仮設建築物を吹き飛ばすなど,死者9名という我が国の竜巻観測史上最大の死者数のほか,負傷者31名,住宅全壊7棟に及ぶ被害がもたらされた。現地調査の結果,被害地域の形状は,長さ約1.4km,幅100〜300mの細長い帯状で,竜巻の強度は国内で観測された竜巻では最大級となる藤田スケールでF3と推定された。
 (参考:藤田スケール)
 被害の状況から見積もる竜巻の強さ(風速)の指標の一つ。竜巻研究の第一人者,シカゴ大学故藤田哲也教授が提唱したもの。スケールはF0からF5まであり,F2は風速50〜69m/s(約7秒間の平均),F3は風速70〜92m/s(約5秒間の平均)である。

e 高潮災害の状況
 高潮災害に対しては,海岸保全施設の整備や気象情報の精度向上等,積極的対策がなされてきたため,近年においては大きな被害は発生していなかった。
 しかしながら,平成11年9月に熊本県で,台風第18号により12名の死者が,瀬戸内地域の岡山県宇野港,香川県高松港などで記録的な潮位を観測した平成16年8月の台風第16号により3名の死者が出ている。昭和以降の主な高潮災害は表2−4−22のとおりである。

クリックで拡大表示 表2−4−22 昭和以降の主な高潮災害

(2) 風水害対策の概要

a 大規模水害対策
 平成17年8月のハリケーン・カトリーナ災害では,ニューオリンズ市域の約8割が浸水し,その期間は約1ヶ月半に及んだ。約30万棟の建物が被災し,約1,800名の方が亡くなるとともに,通信,電力をはじめとするライフライン,教育施設,医療機関など社会基盤の多くが被害を受け,災害から1年半が経過しても復興途上の段階である。
 国内では,近年,集中豪雨の発生頻度が増加傾向にあり,2月に公表されたIPCC第4次評価報告書第1作業部会報告書において,地球温暖化による大雨の頻度の増加,熱帯低気圧の強度が強まることによる最大風速や降雨強度の増加などが予測されている。
 また,治水施設の整備には時間がかかり,施設の整備途上で被災するといった状況が常に存在している。加えて,高齢化社会の到来により災害時要援護者の増加,旧来型の地域コミュニティーの衰退,水防団員の減少等,地域防災力が低下し,氾濫した場合の備えがますます重要になってきている。
 さらに,首都地域には,政治,行政,経済機能が集積し,東京湾周辺には116km 2 のゼロメートル地帯が広がり,176万人が生活していることから,首都地域において大河川の洪水氾濫や高潮災害が発生した場合には,甚大かつ広域的な被害の発生が想定される。
 我が国においては,中小洪水に対しては,ハード・ソフトともに一定の備えができているものの,カスリーン台風や伊勢湾台風級の大規模な水害に対しては,治水施設の整備状況は十分ではなく,特に,大都市部における大規模な氾濫に対する応急対策等については不十分な状況にある。このため,平成18年6月2日,中央防災会議に「大規模水害対策に関する専門調査会」を設置し,第1回専門調査会を平成18年8月29日に開催した。
 本専門調査会では,首都地域において甚大な被害の発生が想定される荒川,利根川の洪水及び東京湾の高潮による氾濫を対象とし,大規模水害時の被害像を想定し,①大規模水害が予想された場合の各機関の緊急的な体制・行動のあり方,②被害想定に基づいた応急・救援体制のあり方,③緊急的な復旧・復興対策の確立,④大規模水害発生時の対策の的確な実施のための事前の備えなど,災害事象の各段階において被害を最小限に食い止めるための対策等の検討を行い,大規模水害対策を取りまとめることとしている。
 国土交通省では,ハリケーン・カトリーナ災害を踏まえ,平成17年10月に「ゼロメートル地帯の高潮対策検討会」を発足させ,平成18年1月に提言を公表した。提言では,浸水を防止するための万全の対策,大規模浸水を想定した被害最小化対策,高潮防災知識の蓄積・普及の具体化を図るよう推進すべきとしている。この提言の施策を具体化するものとして,農林水産省及び国土交通省ではハード整備に併せてハザードマップ作成支援等のソフト対策をゼロメートル地帯の高潮対策へも拡充した「津波・高潮危機管理対策緊急事業」を創設し,高潮対策を推進している。

クリックで拡大表示 図2−4−74 大規模水害対策の検討の進め方

クリックで拡大表示 写真 (ニューオリンズ市内の浸水状況)

b 洪水ハザードマップの公表状況
 防災能力の向上や災害時の被害軽減を図る有効な方法の一つとして,防災情報の公表,提供があげられる。最近では各自治体で,自然災害による被害の可能性を示すハザードマップや被害想定などの防災情報が数多く提供されるようになった。水害においては,特にハザードマップが有効で,洪水時等の影響範囲及び避難所等を示すことで,被害の予防や軽減に対する日頃の活動や備えの必要性を啓発できる。
 また,平成16年の水害において洪水予報の難しい中小河川において被害が多発したことから,平成17年に水防法が改正され,洪水予報を行う大河川以外の主要な中小河川を,避難勧告発令の目安となる特別警戒水位への到達情報の周知等を行う河川(水位情報周知河川)として指定した。洪水予報河川は296河川,水位情報周知河川は1,027河川(平成19年3月末現在)が指定され,両河川とも浸水想定区域の指定・公表が義務づけられている。645河川(平成19年3月末現在)で指定・公表がされており,円滑かつ迅速な避難を行うことができるように市町村による洪水ハザードマップの作成推進等が行われ,552市町村で洪水ハザードマップの作成が完了している(平成19年3月末現在)。
 さらに,各地方自治体において,行政窓口での閲覧,配布,各戸への配布,公民館,病院等での閲覧,広報誌,ホームページ,電話帳への掲載,ハザードマップを使った避難訓練,小中学校の総合学習教材としての活用,配布にあたっての住民説明会の実施などにより,洪水ハザードマップの普及の取組を行っている。河川はんらん時の浸水深や洪水時の避難所といった“地域の洪水に関する情報の普及”を目的として,これらの情報を洪水関連標識として表示する「まるごとまちごとハザードマップ」の取り組みを平成18年より実施してきている。この取り組みにおいて作成した「洪水」「堤防」「避難所(建物)」の3種類の図記号について,平成19年1月,日本工業規格(JIS)の案内用図記号として新たに定められた(日本工業規格 JIS Z 8210:2007(案内用図記号(追補1))。

c 竜巻等突風災害対策
 竜巻等の突風災害については,平成18年9月の宮崎県延岡市や同年11月の北海道佐呂間町でも見られたとおり,突発的な破壊力が大きく,人命のみならず,住家,交通,ライフラインなどに甚大な被害をもたらす。こうした局地的な突風災害は,これまでは予測が困難であり,事前の避難等の対策が取りづらいものと考えられていたが,今般の甚大な被害を踏まえ,政府では,平成18年11月に,関係省庁の課長級で構成される「竜巻等突風対策検討会」を設置した。
 検討会では,観測・予測技術の高度化,わかりやすい情報伝達,個人レベルあるいは,交通やライフライン等の分野ごとに取りうる対策について検討を行なった。具体的には,

① 過去の突風災害のデータの収集・分析

② 当面実施すべき事項や中長期的な課題について,いつまでにどのようなことに取り組むかを示す工程表の取りまとめ

③ 竜巻等の突風に際してどのように行動すればよいかをわかりやすく伝える意識啓発パンフレットの作成

について検討した。また,検討会では,竜巻等突風に関する各種研究,調査の概要について有識者からのヒアリングを行なったほか,竜巻対策の先進国である米国における予報警戒体制,情報伝達・避難誘導体制,教育・意識啓発等の取り組みの実情についての現地調査を行なった。


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