1−5 防災情報体制



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1−5 防災情報体制

(1) 防災情報分野の施策

防災に関する情報は,平常時,災害時を問わずあらゆる防災活動の基礎であり,その共有化は防災協働社会の前提条件となる。

平成15年7月の中央防災会議の「防災情報の共有化に関する専門調査会」において,各種行政機関の防災情報システムの有機的な連携のあり方,行政と住民,住民等同士の間における防災情報の共有,科学的防災情報の提供についての報告を取りまとめている。

また,平成18年1月の「IT新改革戦略」(IT戦略本部決定)においては,防災コンテンツの国民への提供促進,防災・治安情報の基盤の高度化・堅牢化,防災情報共有プラットフォームの拡充などがうたわれている。さらに,平成18年7月の「重点計画2006」においては,世界に誇れる安全・安心な社会の構築を目指すために,ITによる防災情報基盤整備の推進が掲げられている。

これらを受け,引き続き,防災情報共有プラットフォームの整備,情報収集体制の高度化,信頼性の高い通信体系の整備と高度化などの施策を推進している。

(2) 防災情報共有プラットフォーム

防災情報共有プラットフォームは,防災機関が横断的に共有すべき防災情報の形式を標準化し,国,地方公共団体等の各機関や,住民等の情報を共通のシステムに集約し,その情報にいずれからもアクセスし,入手することが可能な共通基盤である(図2−1−3,図2−1−4)。

防災情報共有プラットフォームでは,地震による被害推計情報,気象情報,河川情報等を取り込み,災害現場における被災情報や各機関の活動情報を同一の地図上の情報として,わかりやすい形で共有することを可能としている。このような情報の共有の実現により,防災関係機関の情報の集約や伝達に係る労力を省力化するとともに,物資調達,緊急輸送ルート確保,医療搬送,救助などの基幹オペレーションの効率的な実施が可能となり,大規模災害に対する災害対応能力の向上につながると考えられる。

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図2−1−3 防災情報共有プラットフォームの構築
 
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図2−1−4 防災情報共有プラットフォームのイメージ(緊急輸送ルート選定支援の例)
 

内閣府では,国の防災関係機関との情報共有を可能とする防災情報共有プラットフォームの機能の拡張を平成19年度以降も継続する。

(3) 情報・通信体制の整備

a 情報収集・伝達システム
 大規模な災害が発生した際,政府として迅速な災害応急対策がとれるよう,気象庁からの地震・津波情報,関係省庁等からのヘリコプターによる被災映像,指定公共機関,地方自治体,その他防災関係機関からの被害情報など,災害に関する情報を総合的に収集し被害規模を把握するとともに,これらの情報を直ちに総理大臣官邸,指定行政機関等へ伝達するためのシステム整備が進められている。
 気象庁は全国約600地点に震度計と約180地点に津波地震観測施設を設置してオンラインで地震の観測データを収集し,地震活動等総合監視システム(EPOS),地震津波監視システム(ETOS)により処理・解析して,地震・津波情報を発表している。
 また,消防庁は,震度情報ネットワークシステム整備事業により全国の都道府県,市町村の約3,400地点に設置した震度計から観測される震度情報を消防庁へ即時に情報収集し,広域応援体制確立の迅速化等に利用している。
 一方,独立行政法人防災科学技術研究所は,全国約1,000ヶ所に強震計を設置し,地震情報を通信ネットワークで収集・配信するための設備の整備を図っており,地震発生時の初動対応等に活用されている。
 雨量・積雪等の情報については,気象庁が局地的な気象情報の観測を行う地域気象観測システム(AMeDAS)や,衛星を利用して雲の分布・高度などを観測する静止気象衛星を活用して観測データを収集し,気象資料総合処理システム(COSMETS)により解析,予測等が加えられている。
 気象庁で処理・解析により作成された情報は,気象庁本庁に設置された気象情報伝送処理システムを介して内閣府,防衛省, 消防庁,海上保安庁等の中央府省庁と共に,国土交通省地方整備局,地方公共団体に伝達されている。
 また,国土交通省が,一級河川等を対象として,雨量・水位テレメータ及びレーダ雨量計並びに情報処理設備からなる河川情報システムを整備して雨量・水位の情報を収集している。

b 防災無線通信網
 防災関係機関では,災害時に人命・財産に係わる重要な通信を確保するために,専用無線通信網を整備している。これらの無線通信網は,公衆通信網が途絶した場合であっても迅速かつ確実に災害情報を伝達し,また,商用電源が停電した場合であっても予備電源などにより機能を維持することを目指して整備がなされている。最近は,大規模地震などに多様な情報通信を行うため,通信回線のデジタル化が進められている。
 防災無線網のうち,中央防災無線網,消防防災無線網,都道府県防災行政無線網,市町村防災行政無線網,防災相互通信用無線等の概要は次のとおりである(図2−1−5)。

クリックで拡大表示 図2−1−5 防災関係通信網の概念図

(a)中央防災無線網
 中央防災無線網は,大規模な災害が発生した場合においても,政府の非常災害対策本部,総理大臣官邸,指定行政機関,指定公共機関等との間で災害情報の収集・伝達を行うことを目的として整備されている。この防災無線網は,固定通信回線(画像伝送回線を含む。),衛星通信回線,移動通信回線から構成されており,相互に機能を補完して,いざという時に信頼しうる通信手段を提供している。さらに,デジタル化による大容量通信への対応,IP(インターネット・プロトコル)の導入による利便性の向上を図っている(図2−1−6)。

クリックで拡大表示 図2−1−6 中央防災無線概念図

① 固定通信回線
 固定通信回線は内閣府からの一斉指令をはじめ,電話,ファクシミリ,災害映像,地震防災情報システム等,各種防災情報を中継・伝送する基幹的な通信回線であり,総理大臣官邸などの在京の指定行政機関等(31機関),指定公共機関(19機関)及び立川広域防災基地内の機関(11機関)をマイクロ波による大容量の固定無線回線で結んでいる。
 この他,国土交通省の回線と相互接続し,都道府県の災害対策本部と総理大臣官邸及び国の災害対策本部を含む防災関係省庁との間で直接連絡がとれるように通信体制を確立している。

② 衛星通信回線
 内閣府から遠隔地にあるため,直接固定通信回線を結ぶことが困難な指定公共機関等40機関との間については衛星を利用した通信回線で結んでいる。
 また,首都直下の大規模な地震により,中央防災無線網を支える庁舎等が損壊して,固定通信回線が使用できなくなった場合のバックアップとして,総理大臣官邸をはじめ内閣府等の指定行政機関,都下に所在する指定公共機関等の42機関に可搬型の衛星通信装置を配備している。
 さらに,国の災害対策本部と現地災害対策本部との間で,迅速に通信回線が確保できるよう全国9拠点にあらかじめ可搬型の衛星通信装置を配備している。緊急時には,これを設置することで衛星による通信回線が確保される。
 この他,東海地震への対策として,警戒宣言の発出時に,早急に国の現地警戒本部を立ち上げるため,静岡県庁内にあらかじめ衛星通信装置を設置している。

③ 移動通信回線
 移動通信回線は,移動時あるいは未就業時においても,災害対策要員等との間で連絡することができるように整備しているもので,都内4箇所に基地局を設置し,車両,災害対策要員等の自宅等に無線電話装置を配備して通信の確保を図っている。
 さらに,気象庁からの警報発令に連動して緊急参集連絡を行う緊急情報連絡用携帯電話を災害対策要員等に配備している。

(b)消防防災無線網
 消防庁と都道府県との間を結ぶ無線網で,地上系及び衛星系で構成されている(図2−1−7)。

クリックで拡大表示 図2−1−7 消防防災無線概念図

① 地上系
 国土交通省の無線設備と設備を共用して通信回線を確保しており,消防庁から全都道府県に対し電話,ファクシミリによる一斉伝達を行うほか,災害情報の収集・伝達に活用されている。

② 衛星系(地域衛星通信ネットワーク)
 消防庁と各都道府県の間を結んでおり,通常の音声通信のほか,一斉伝達,データ通信,映像伝送等が可能で地上系を補完する無線通信網として位置づけられている。

(c)都道府県防災行政無線網
 都道府県とその出先機関,市町村,防災関係機関等との間を結ぶ無線通信網で,地域防災計画に基づき災害情報の収集・伝達を行うために,固定通信網を中心とする地上系,地域衛星通信ネットワークによる衛星系又は両方式により構成されている(図2−1−8)。

クリックで拡大表示 図2−1−8 都道府県防災行政無線概念図

(d)市町村防災行政無線網
 市町村が災害情報を収集し,また,地域住民に対し災害情報を周知するために整備している無線通信網で,市町村庁舎と屋外拡声子局や家庭内の戸別受信機を結ぶ同報系,市町村庁舎(基地局)と車載型・可搬型の無線電話装置又は無線電話装置相互間や市町村庁舎,学校,病院等の防災関係機関・生活関連機関間をネットワークする移動系無線網から構成されており,これまでも豪雨等の災害の発生時における住民への情報伝達手段として,その重要性が認識されてきた(図2−1−9)。また,消防庁においては,津波警報や緊急地震速報,緊急火山情報などの緊急情報を,人工衛星を用いて送信し,同報系の市町村防災行政無線を自動起動することにより,住民に瞬時に伝達する全国瞬時警報システム(J-ALERT)の整備に向けて取り組んでいるところである。平成19年2月には,J-ALERTによる津波警報等の一部の情報の送信が開始されている。

クリックで拡大表示 図2−1−9 市町村防災行政無線概念図

(e)防災相互通信用無線
 地震災害,コンビナート災害等の大規模災害に備え,災害現場において警察庁,消防庁,国土交通省,海上保安庁等の各防災関係機関との間で,被害情報等を迅速に交換し,防災活動を円滑に進めることを目的とした無線通信であり,国,地方公共団体,電力会社,鉄道会社等に導入されている。

(f)その他
 総務省においては,地方公共団体等における被害情報の収集や災害応急対策の実施に必要な通信手段の不足に備え,全国の総合通信局等に衛星携帯電話,携帯電話,簡易無線等の無線設備を配備し,要請に応じ貸与できる体制を整備している。

c 映像情報の活用
 ヘリコプター等による災害現地の映像情報は,災害の全容を的確に把握する上で極めて有効であることから,ヘリコプター映像伝送設備等の整備を進める警察庁,防衛省,消防庁,国土交通省及び海上保安庁の協力を得て,ヘリコプター災害映像を全国のどこからでも内閣府に伝送できる映像伝送システムの充実・強化を図っている。
 さらに,送られてきた現地災害映像情報を総理大臣官邸及び各省庁に配信するための映像伝送回線を整備するとともに,あわせて被害箇所を適切に特定できるようにヘリコプターの位置情報を集配信するためのヘリコプター位置情報システムを導入している。
 また,政府の緊急災害対策本部と現地対策本部との間を結ぶテレビ会議システムを導入し,その模様を防災関係機関に伝送することにより,災害現地との情報共有を図っている。

d 放送による情報伝達
 災害情報を住民に周知するためには,防災無線網のほか放送の活用が有効であることから,日本放送協会及び一般放送事業者との間で災害時における放送要請に関する協定を結び,災害対応に関する協力体制を築いている。

e 安否確認の情報伝達
 災害が発生したときは,多くの人が家族や知人の安否を確認するが,迅速な安否情報の提供はその後の救援活動,復旧活動を円滑に進める上で極めて重要となる。こういった要請に応えるものとして「災害用伝言ダイヤル」や「災害用伝言板サービス」が提供されている。

f 情報・通信体制の整備に係る今後の課題等
 阪神・淡路大震災及び新潟県中越地震等の教訓を踏まえ,各防災関係機関においては,大地震に耐え得るよう通信施設の耐震・免震対策,商用電源の停電等に備えた非常用電源の確保,通信回線の多ルート化及び映像伝送等の機能拡充などを一層推進するとともに,最近のIT技術を導入することにより無線通信回線等の広帯域化,大容量化を図る。
 首都直下地震に備えるため,東京湾臨海部基幹的広域防災拠点整備基本計画に基づき合同現地対策本部の設置される有明の丘と物流コントロールセンターとなる東扇島地区において,非常時における現地対策本部の運用を支える情報通信基盤の整備を進めている。
 また,各防災関係機関の通信網相互の連携,防災情報の共有化・標準化の推進,中央防災無線網を使用した災害映像の効果的な活用のために,各省庁との一層の連携と運用方法・活用の周知の徹底及びこれに基づく訓練の実施等を強力に行う必要がある。


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