1−5 「総合的な防災政策」の推進



1−5 「総合的な防災政策」の推進

 防災のサイクルは,災害発生前の建築物の耐震化,ダム等防災施策の建設等の「減災」(Mitigation),防災訓練の実施,ハザードマップの住民への提供等の「事前準備」(Preparedness),災害直後の救急・救援等の「災害応急対応」(Response)及び「復旧・復興」(Rehabilitation)の4つのサイクルから構成される。
 災害後の応急的な対応のみにとどまらず,これらの防災の各サイクルにおいて適切な対処を行うことが重要である。特に,前述したとおり,被害が出ないように事前に備える「減災」が重要である。
 また,防災は中央政府,地方政府,コミュニティ,NPO,学会,学校,企業等の関係機関が個別に対応を行うのではなく,関係機関が連携して対応を行うことが必要である。
 このように防災サイクルのあらゆる局面において,関係機関が連携して「総合的な防災政策」を推進していくことが重要である。

コラム マングローブの植栽(ベトナム赤十字社,東京海上火災保険)
被害抑止(Prevention/Mitigation)の事例
(1)ベトナム赤十字社
 ベトナムは台風被害の多い国で,例えば1996年から2002年の間,台風によって6千人以上の住民が亡くなり,約23億ドルの経済的損失を被っている。このような背景の中,日本赤十字社の協力も得て,ベトナム赤十字社は1994年から台風による高潮対策と環境保護を目的にマングローブの植栽事業を進めている。プログラムの主な目的は,堤防の保護,住民の生命・財産の保護,海岸の環境改善,貧困者に対する雇用拡大,収入増加である。
 このプログラムにより,2003年12月現在,18千haの面積にマングローブが植栽され,100km以上の堤防が保護されることになった。これにより,海岸線の侵食に歯止めがかかり,年間の堤防の改修費用が1km当たり約6〜7億ベトナムドン(37千〜43千米ドル)節約された。
 北部の8州において,7,750世帯以上の貧困家庭がマングローブの植栽を行い,その結果,1世帯当たり,約20ドル以上の収益が確保された。また,約1万人の人々を対象に講習会が開催され,3千人の小学校教師も受講し,これら先生は約17万4千人の生徒に防災についての教育を実施した。さらに,マングローブ林には,動植物の多様化が見られるようになり,海岸線の自然環境の改善に繋がっている。マングローブ植栽事業とその関連事業のもたらす経済効果により,貧困地域であった沿岸住民の生活環境が改善された。特に台風に強い家屋つくりとして482軒の家屋が新しく建設された。 その他,マングローブの林で守られた池を利用して,カニやエビの養殖を行い,副収入を得ることが出来るようになった。
 2003年の7月と8月に2つの台風が次々と北部地区を襲ったが,死者は4人だけであった。洪水による田畑への被害も無く,マングローブの植栽事業が高潮に効果があることが実証された。 このように,マングローブの植栽事業の効果,地域にもたらされる恩恵は計り知れない。
(2)東京海上火災保険株式会社
 同様の取り組みは東京海上火災保険株式会社などでも行われ,同社と2つのNGOパートナーによるマングローブ植林プロジェクトでは,事業費の支援のみならず,ボランティア休暇制度を活用し,社員・有志が現地の人たちと一緒にマングローブの植林を体験する植林ボランティアツアーを年2回の頻度で実施している。1999年から2003年3月までにベトナムなど5カ国で約3千ヘクタールのマングローブ植林を進めている。
大きく育ったマングローブ林
大きく育ったマングローブ林
出典:ベトナム赤十字社,東京海上火災保険
事前準備(Preparedness)の事例
 バングラデシュでは1970年の巨大なサイクロンにより,50万人もの人々が亡くなった。この大災害を契機として,国際赤十字・赤新月社,バングラデシュ赤新月社と政府は,サイクロン被害軽減事業(CPP)を開始した。CPPのダッカ本部と143の無線局によりアジア最大の無線ネットワークを整備し,集落で活躍するボランティア3万3千人が,無線による警報をメガフォンや手動サイレンを使って村人に伝達する。これらのボランティアは,人々の救助や沿岸部に設けられた1,600のシェルターへの避難,救急手当,被害調査なども行えるよう訓練されている。平時には,ボランティアはシミュレーション訓練や防災意識の普及・啓発などを図る大会も実施している。
 1997年5月に1970年のサイクロンと同規模の風速60m/秒を超える巨大サイクロンがバングラデシュを襲った。この時には,CPPネットワークを通じて避難勧告がなされ,100万人がシェルターに事前に避難し,被害者は193人であった。事前準備により,このように劇的な被害軽減が可能なのである。
バングラデシュ・サイクロン被害軽減事業の訓練の模様
バングラデシュ・サイクロン被害軽減事業の訓練の模様
出典:世界災害報告:国際赤十字・赤新月社連盟
災害対応(Response)の事例
 2003年12月26日イランのバム市を襲った地震は,一般家屋及び公共建造物の約80%にあたる約2万5千戸が倒壊し,3万人を超える死者を出した。
 イラン政府はただちに国際社会に対し支援要請を出し,国連は翌日には外国チーム受け入れのための国連レセプションセンターをケルマン空港およびバム空港に設置した。国連災害評価調整チーム(UNDAC)が派遣されるとともに,1988年のアルメニア地震を契機としてできた国際捜査救助諮問グループ(INSARAG)の枠組みのもと,日本政府の国際緊急援助隊医療チームを始めとする各国の部隊や赤十字・赤新月社,NGOなどが速やかに救援活動を開始した。
 迅速な国際社会の対応は,国連人道問題調整部を中心に構築してきた国際社会の災害対応に対する協力体制の成果と言えよう。このように鮮やかな協力体制ではあったが,外国チームが救出や救援できる人の数には限りがある。
 トルコのマルマラ地震(1999年)では,瓦礫の下から5万人が救出されたが,その98%が地元コミュニティによってであった。公助には限界があり,自助・共助が災害対応において重要であることがわかる。
壊滅的な被害を受けたイラン・バム市街地
壊滅的な被害を受けたイラン・バム市街地
出典:国際協力機構(JICA),国連人道問題調整部,国際赤十字赤新月社連盟,人と防災未来センター
復旧・復興(Rehabilitation)の事例
 2001年1月インド・グジャラート州で起こった地震では,1万4千人の犠牲者が出た。その多くが脆弱な建物の下敷きになって亡くなった。復旧・復興にあたってグジャラート州は,2万6千人の石工をトレーニングし,政府,国際機関,NGOなどの支援のもと,伝統的な工法を活かしながら,もとの姿にもどすのではなく,地震に強い建物の復旧を進めている。このように復旧過程でも次の災害に備えることが将来の被害軽減につながる。
石工を対象とした既存建物,改良建物の震動台での破壊実験(インド・グジャラート州)
石工を対象とした既存建物,改良建物の震動台での破壊実験(インド・グジャラート州)
右側の耐震補強をしていない既存建物は崩壊するが,左側の改良建物は崩壊しない。
出典:インド国立防災研究所,国連地域開発センター兵庫事務所,地震防災フロンティアセンター


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