4−3 火山災害対策



4−3 火山災害対策

(1)火山活動と火山災害
 我が国は環太平洋火山帯の一部に位置し,多数の火山を有する火山国である。我が国において現在も活動しているとされる火山,いわゆる活火山(気象庁で「過去およそ1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」と定義している)は108にのぼる。我が国は過去にも噴火等の活発な火山活動により,時として甚大な被害を受けてきた (表2−4−18)

我が国の火山災害事例
 噴火等の活発な火山活動により発生する現象はさまざまであり,例えば,噴火の際の噴出物(溶岩流,噴石,火砕流・火砕サージ,火山灰)や噴火等の活発な火山活動に伴い発生する現象(火山泥流,火山性地震,火山性地殻変動,山体崩壊,津波等),噴出物の堆積後に降雨等により発生する土石流,などがあげられる。このため,災害を引き起こす現象が多岐にわたっていることが火山災害の特徴である。主な現象の特徴は以下のとおりである。
a 降下火砕物(降灰等)
 火口から空中に噴出した火山灰等が降ってくる現象で,多くの火山に共通した現象である。火山のすぐ周辺では厚く堆積することで埋没等の被害が生じる場合がある他,噴火の規模によっては風にのって遠方に運ばれ堆積する。人的被害に結びつくことはまれであるが,火山活動が長期化すると周辺住民の生活に影響を与える。
b 溶岩流
 火口から流れ出た溶岩が流下する現象で,通過域では,破壊・焼失・埋没等の被害が生じる。流下速度は,溶岩の粘り気等によって異なるが,多くの場合,時速1km程度以下と遅いため徒歩による避難が可能である。まれに,溶岩の質や流下する地形によっては時速十数km程度になる場合もある。
c 噴石(火山弾等)
 噴火に伴い吹き飛ばされた岩石等が落ちてくる現象で,建物の破壊,死傷の被害が生じる。噴石は噴出後すぐに落下してくるため,噴火が発生してからの避難は困難である。
d 火砕流・火砕サージ
 高温の火山砕屑物(火山灰,軽石等)が,ガスと一体となり高速で流下する現象で,その運動エネルギー及び熱エネルギーにより,通過域では焼失,破壊等壊滅的な被害が生じる。流下速度は時速100kmを超える場合もあり,発生後に避難することは困難である。特に火山灰を含む高温のガスを主体としたものを火砕サージといい,火砕流よりも広範囲かつ高速に流下する。
e 火山泥流
 噴火による火口湖の決壊や急激な融雪等により発生した泥水が岩石や木を巻き込みながら流下する現象で,地形にもよるが,時速30km〜60kmになる。破壊力が大きく通過域では壊滅的な被害が生じる。我が国では冬期冠雪する火山も多く,噴火による融雪が泥流発生の引き金として懸念される。
f 火山ガス
 火山の活動に伴い火口や噴気口から大気中に火山ガスが放出される。火山ガスの大半は水蒸気であるが,その他に二酸化硫黄,硫化水素,塩化水素等の有毒な成分を含むことがある。

(2)火山災害対策の概要
a 火山情報の発表及び火山観測研究
(a)火山活動の監視と火山情報
 平成12年3月の有珠山噴火では噴火の2日前に「今後数日以内に噴火が発生する可能性が高い」旨の火山情報が気象庁から発表された。これを受けて,地元自治体による避難勧告・指示が発令され,噴火前に住民の避難が行われたため,人的被害が生じなかった。このように火山災害の軽減を図るには,火山噴火予知の確立とともに,火山現象の状況を正確かつ迅速に関係行政機関及び付近住民に伝達することが重要である。
 このため,気象庁では平成14年3月に火山監視・情報センターを設置し,関係機関と連携して火山周辺に設置された地震計や地殻変動の観測データを監視し,異常が認められた場合に,3種類の火山情報を発表している (表2−4−19)

火山情報
 火山情報は,速やかに関係省庁,関係地方公共団体等の関係機関や報道機関に伝達され,これらの機関を通じて,一般住民にも伝達されている (図2−4−32)

火山情報の流れ
(b)火山噴火予知計画
 我が国における総合的な火山観測研究体制の整備は,昭和49年からの第1次火山噴火予知計画(昭和48年文部省測地学審議会(現在の文部科学省科学技術・学術審議会測地学分科会)建議)以来,数次にわたる計画に基づき進められており,第3次計画以降,全国の活火山を「活動的で特に重点的に観測研究を行うべき火山」,「活動的火山及び潜在的爆発活力を有する火山」 (図2−4−33) に分類している。

我が国の活火山と,第6次火山噴火予知計画による対象火山の分類
 平成10年8月には,平成11年度から15年度までの5年間にわたる計画として「第6次火山噴火予知計画」を関係大臣に建議し,関係機関が連携した観測研究を進めているところであり,火山活動の監視や評価に必要な観測データや分析結果を気象庁や火山噴火予知連絡会と共有している。
(c)火山噴火予知連絡会
 火山噴火予知連絡会は,第1次火山噴火予知計画に基づき昭和49年6月に設置され,気象庁に事務局が置かれている。その主な任務は,関係諸機関の研究及び業務に関する成果及び情報の交換,火山噴火が起こった際における当該火山の噴火現象に関する総合判断,それらの火山情報の質の向上を図ることによる防災活動への寄与である。
 平成14年度においては,定例会3回を開催し,全国の火山の活動についての総合判断を行った。
 また,数千年と長期にわたって活動を休止したあと活動を再開した火山の事例等もあることから,平成15年1月に,これまで「過去およそ2000年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」とされてきた活火山の定義について,「概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」と改めるとともに,火山学的に評価された火山活動度によって3段階に活火山を分類した。この結果,我が国における活火山は従来の86火山から108火山となった (図2−4−33)

我が国の活火山と,第6次火山噴火予知計画による対象火山の分類
b 活動火山対策特別措置法等に基づく対策
(a)対策の概要
 昭和47年以降,桜島の火山活動が活発になり,周辺地域の農作物等に大きな被害が生じたこと,また,昭和48年に浅間山が11年ぶりに噴火したことなどを契機として,昭和48年7月,住民等の生命・身体の安全並びに農林漁業の経営の安定を図ることを目的とする「活動火山周辺地域における避難施設等の整備等に関する法律」が制定された。その後同法は,昭和52年の有珠山噴火等を契機として全面的な見直しがなされ,翌年4月,現行の「活動火山対策特別措置法」に改められた (図2−4−34) 。同法に基づき,桜島,阿蘇山,有珠山,伊豆大島,十勝岳及び雲仙岳周辺地域において,避難施設,防災営農施設,降灰防除施設の整備,降灰除去等の事業が実施されている。平成14年7月には,火山活動が続く三宅島を避難施設緊急整備地域に指定した。これを受け,同年8月に東京都が火山ガス対策を施した退避施設として,脱硫装置を備えたクリーンハウスの建設を盛り込んだ避難施設緊急整備計画を策定し,同計画に基づき三宅村が消防庁による財政上の支援を受けて整備を進め,平成15年3月31日に完成した。

活動火山対策特別措置法の体系
(b)桜島火山対策
 桜島は昭和30年以降噴火活動が恒常化しており,平成14年においては噴火回数76回,鹿児島地方気象台における年間降灰量は60g/m 2 を記録した。
 桜島及びその周辺地域は活動火山対策特別措置法に基づく避難施設緊急整備地域,降灰防除地域に指定されており,同法に基づき,これまでに避難施設緊急整備事業(昭和48〜57年度),防災営農施設整備事業等(昭和48年度〜),降灰除去事業(昭和53年度〜),降灰防除施設整備事業(昭和53年度〜)等の事業が実施されてきた。
c 火山ハザードマップの作成
 火山周辺住民等の防災意識の高揚,地元自治体による適切な防災計画の策定,適正な土地利用の誘導等のためには,各火山の活動様式や特徴的な災害要因を考慮した,いわゆるハザードマップ(火山噴火災害危険区域予測図)の整備を推進することが必要である。
 国土庁(現内閣府)では平成4年に火山噴火災害危険区域予測図作成指針を作成し,地方公共団体に利用してもらうとともに,平成5〜7年度には火山噴火災害危険区域予測図緊急整備事業を行い,これに基づき地方公共団体により有珠山,三宅島等10火山でハザードマップが作成された。また,地方公共団体に対して,消防庁からの作成の要請や国土交通省による技術的支援・協力の実施などにより,全国のハザードマップの作成を推進してきたところである。
 なお,平成12年の有珠山噴火に際しては,ハザードマップが事前に住民に周知され,避難の必要性が理解されており,またハザードマップを参考に避難の範囲を決めて避難指示が出されたために,事前の円滑な住民避難につながった。
 平成15年2月現在,「活動的で特に重点的に観測研究を行うべき火山」と分類される13火山のうち海底火山である伊豆東部火山群を除く12火山を含む,全国の32火山についてハザードマップが作成されている。
d 富士山における火山ハザードマップ作成の取り組み
 平成12年10月から12月にかけて,また平成13年4月末から5月にかけて,富士山の地下約15kmを震源として何らかのマグマ活動に関係があるとされる低周波地震が多発した。異常な地殻変動や震源の浅い地震活動が観測されていないことから,ただちに噴火に結びつくものではないとされているが,このことにより富士山が活火山であることが再認識された。加えて平成12年の有珠山及び三宅島噴火災害では,観測に基づく火山情報の発表や火山ハザードマップの整備等事前の備えがあったため,人的被害がなかったことから,地元地方公共団体が富士山噴火を想定した防災訓練を行うなど,地元においても防災意識の高まりが見られている。
 仮に富士山が噴火した場合には,首都圏にまで被害が及ぶおそれがあることなどから,広域的な防災対策を確立することが必要である。そこで,山梨,静岡,神奈川,東京の各都県,地元市町村,内閣府,国土交通省,消防庁,気象庁により「富士山火山防災協議会」を開催し,連携を取りつつ富士山火山防災対策の検討やその基本となる火山ハザードマップの作成を進めている。
 ハザードマップの作成にあたっては,学識経験者等からなる「富士山ハザードマップ検討委員会」において,噴火した場合に発生するおそれがある被害とそれが生ずる範囲,想定すべき噴火の様式や各機関が連携した効果的な防災対策等,これらを踏まえたハザードマップ作成等の検討を進めている。


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