表示段落: 第1部/第2章/4


表示段落: 第1部/第2章/4


4 震災対策

4-1 地震の発生と被害状況

(1) 我が国における地震の概要

 我が国は,海洋プレート(太平洋プレート,フィリピン海プレート)及び陸側のプレート(ユーラシアプレート・北米プレート)の境界部に位置し,日本周辺では,太平洋プレートが日本海溝及び小笠原海溝で陸側のプレートとフィリピン海プレートの各々の下に沈み込み,またフィリピン海プレートが南西諸島海溝,南海トラフとその延長である駿河トラフ及び相模トラフで陸側のプレートの下に沈み込んでいる( 図2-4-1 )。このような複雑な地殼構造の上に位置する我が国は,世界でも地震の発生の多い国であり,過去より頻繁に,大きな被害を生じるような地震に見舞われてきた( 表2-4-1 )。

  (図2-4-1) 日本列島とその周辺のプレート

  (表2-4-1) わが国の主な被害地震(明治以降)

 これまで大きな被害を及ぼしてきた地震を大別すると,以下のようになる。

 一つは,マグニチュード8クラスの海溝型巨大地震であり,大きな被害をもたらした関東大地震(大正12年(1923年))や南海地震(昭和21年(1946年))等が代表とされる。海溝型地震は,沈み込みに伴うプレートの変形として蓄積された巨大な歪エネルギーが,変形が限界に達した時に元の形に戻ろうとして急激に運動する際に発生する。このタイプの地震は,断層面が2つのプレートの境界面上にあるのが特徴であり,発生間隔は場所によっても異なるが,数百年程度と言われている。近い将来に発生が予想されている東海地震も,このタイプの地震と考えられている。

 次に,平成5年(1993年)釧路沖地震等のように,海洋プレートの内部で発生するタイプの地震があり,平成13年(2001年)芸予地震は,沈み込むフィリピン海プレートのプレート内部が破壊して起こったものと考えられている。南関東地域においては,陸側のプレートの下にフィリピン海プレートが沈み込み,さらにその下に太平洋プレートが沈み込むという非常に複雑な地殼構造となっている。また,相模トラフ沿いの巨大地震の発生に先立ちマグニチュード7程度の地震が数回発生すると考えられており,安政江戸地震(1855年)など過去にこのタイプの被害地震を多く経験している。

 さらに,プレートの沈み込みに伴って内陸のプレートに蓄積された歪エネルギーが解放されることにより発生するタイプの地震がある。濃尾地震(明治24年(1891年)),福井地震(昭和23年(1948年)),平成7年(1995年)兵庫県南部地震,平成12年(2000年)鳥取県西部地震等はこのタイプの地震である。このタイプの地震では,新たに断層を伴うものや,既存の断層が活動するものがある。最近の地質時代以降(約200万年前以降)に数千年から数万年程度の発生間隔で繰り返し活動していることから,将来も活動すると推定されている断層を活断層と呼んでいる。

 その他,我が国は多くの活動的な火山を有することから,火山活動に伴う地震も過去多く発生している。昨年3月31日の有珠山噴火に前後して山麓で最大震度5弱となる地震が3回発生した。また,昨年6月下旬から始まった三宅島から新島・神津島近海の地震活動も,地下のマグマ活動に関連していると推測されている。

(2) 津波の発生と災害の状況

 地震により海底に急激な上下変動や地形変化が発生し,海面上に波動を生ずるのが津波である。津波の規模は,通常,地震の規模(マグニチュード)に比例するが,震源の深さ,地震の起こり方にも影響される。

 津波は発生した場所から時速数百kmもの速さで伝播し,海岸に到達するまでに,地形による増幅効果等により何倍もの高さとなる。特に,津波が湾内に入る場合,湾奥では更に高くなる。また,第1波よりも後続の波の方が高くなることがある。

 津波により大きな被害を生じたものとして,三陸沖の地震(昭和8年,昭和三陸地震津波),東南海地震(昭和19年),南海地震(昭和21年),チリ地震(昭和35年),十勝沖地震(昭和43年),昭和58年(1983年)日本海中部地震,平成5年(1993年)北海道南西沖地震が挙げられる。昭和三陸地震津波では死者約3,000人,チリ地震津波では死者・行方不明者139人,日本海中部地震の津波では100人以上の死者が出るなど大きな被害が発生し,平成5年7月12日に発生した北海道南西沖地震では,死者・行方不明者230名の多くが津波によるものであるとされている。

(3) 平成12年度の主な被害地震

 平成12年度に発生した地震のうち被害が生じた主なものは次のとおりである。

a 千葉県北東部の地震

 平成12年6月3日,千葉県北東部の深さ48kmを震源とするM6.0の地震が発生し,千葉県多古町で震度5弱を観測した。この地震により負傷者1名,住家一部損壊35棟等の被害が発生した。

b 石川県西方沖の地震

 平成12年6月7日,石川県西方沖の深さ22kmを震源とするM6.1の地震が発生し,石川県小松市で震度5弱を観測した。この地震により負傷者3名,住家一部損壊1棟等の被害が発生した。

c 熊本県熊本地方の地震

 平成12年6月8日,熊本県熊本地方の深さ10kmを震源とするM4.8の地震が発生し,熊本県嘉島町,富合町で震度5弱を観測した。この地震により負傷者1名,住家一部損壊5棟等の被害が発生した。

d 三宅島から新島・神津島近海の地震

 平成12年6月26日から三宅島島内西部で地震が多発し,活動域はその後新島・神津島近海まで拡大した。震度5弱を超える地震は9月まで頻発し,最大震度6弱を6回,震度5強を7回,5弱を17回観測した。一連の地震活動により,死者1名(7月1日神津島でがけ崩れによる),負傷者15名,住家全壊15棟,土砂崩れ138カ所等の被害が発生した。

e 鳥取県西部地震

 平成12年10月6日,鳥取県西部の深さ11kmを震源とするM7.3の地震が発生し,鳥取県境港市,日野町で震度6強,西伯町,会見町,岸本町,日吉津村,淀江町,溝口町で震度6弱を観測したほか,中国・近畿・四国地方の広い範囲で有感となった。この地震により鳥取県西部を中心に負傷者182名,住家全壊430棟,住家半壊3,065棟,住家一部破損17,155棟,がけ崩れ等の地震に関連した土砂災害27か所等の被害が発生した(H13.5.2現在)。

f 三重県中部の地震

 平成12年10月31日,三重県中部の深さ44kmを震源とするM5.5の地震が発生し,三重県紀伊長島町と愛知県碧南町で震度5弱を観測した。この地震により負傷者5名,住家一部損壊2棟等の被害が発生した。

g 芸予地震

 平成13年3月24日,安芸灘の深さ51kmを震源とするM6.7の地震が発生し,広島県の河内町,大崎町,熊野町で最大震度6弱を観測した。この地震により,広島県で1名(ビルの外壁崩壊による),愛媛県で1名(住家一部崩壊による)の死者が出たほか,広島県,愛媛県,山口県,島根県,岡山県,高知県,福岡県と広い範囲で負傷者が出て総数は288名となった。また,がけ崩れ等の土砂災害が53か所発生した。(H13.5.8現在)。

4-2 地震に関する調査研究・観測の推進

(1) 地震に関する調査研究の推進体制

a 地震調査研究推進本部

 地震調査研究推進本部(http://www.jishin.go.jp/main/welcome.htm)は,阪神・淡路大震災を契機に成立した地震防災対策特別措置法に基づいて文部科学省に設置され,地震に関する調査研究に関し,総合的かつ基本的な施策の立案,調整等を行っており,本部に政策委員会及び地震調査委員会が設置されている。

 地震調査委員会においては,各地域の地震活動について分析・評価を毎月実施しているほか,被害地震が発生した場合等には臨時に会合を開催し,分析・評価を行っている。また,長期的な観点から地震発生可能性の評価手法の検討及び評価を実施するとともに,活断層に関する活動の評価を順次実施しており,平成12年度には,鈴鹿東縁断層帯,元荒川断層帯,東京湾北縁断層,岐阜-一宮断層帯の評価結果のほか,宮城県沖地震の長期評価結果を公表した。( 表2-4-2 )にこれまでの評価結果の概要を示す。

  (表2-4-2) 地震調査研究推進本部地震調査委員会によるこれまでの長期評価結果の概要

b 地震予知連絡会

 地震予知連絡会(http://cais.gsi.go.jp/YOCHIREN/ccephome.html)は,測地学審議会建議「地震予知の推進に関する計画の実施について」(第2次地震予知計画)に基づき,昭和44年4月に発足した(事務局:国土地理院)。同連絡会は,関係機関等が提供する情報の交換や,これらの情報に基づく地震予知に関する学術的な総合判断を行うため開催されている。

c 科学技術学術審議会測地学分科会

 我が国における地震予知に関する計画的研究は,昭和39年の地震予知計画以来,測地学審議会(現在の文部科学省科学技術学術審議会測地学分科会)が建議する計画に基づき推進されてきた。

 平成10年8月には,第7次計画までの成果を引き継ぎさらに発展させるとともに,新たな考え方の導入を図るため,「地震予知のための新たな観測研究計画の推進について」を建議した。これには平成11年度から15年度までの5年間にわたる計画として,到達度の評価が可能な具体的目標を設定し,それに向かって段階的に計画を推進することとされている。

(2) 地震・地殼活動に関する観測体制等の整備

 地震・地殼活動に関する観測は,防災情報として緊急に情報を発表するために,また地震・地殼活動を詳細に把握,調査研究や活動評価等に資するために,各機関が目的に合わせて整備し,さらに関係機関とのデータ共有化,ネットワーク化等を図っている。

a 地震観測・監視体制

 気象庁(http://www.kishou.go.jp/)では,地震に関する情報や津波予報を迅速に発表するため,全国約180か所に地震計を配置した津波地震早期検知網を整備しているほか,全国約600地点に震度計を設置している。震度観測データについては,震度5弱以上を観測した場合や地上の通信系に障害が起きた場合には静止気象衛星による伝送ルートをバックアップとして運用するなどして,データの収集に万全を期している。

b 震度観測

 震度計は,気象庁が全国に設置しているもののほか,都道府県においても,平成8年度以降消防庁の補助事業等によりおよそ市区町村ごとに約3,800地点,平均して約10kmメッシュに1点震度計を設置しており,高密度な震度観測網が整備されている。

 気象庁では,平成9年10月以降これら地方公共団体の震度データの提供を受け,気象庁が発表する震度情報に含めて発表しており,平成13年4月現在,37都府県2政令指定都市の約2,100地点の震度データが活用されている。

c 地震に関する基盤的調査観測体制の整備

 地震調査研究推進本部は,平成9年6月に「地震に関する基盤的調査観測網等の計画」を決定し,関係省庁はこの計画に基づいて地震観測の体制整備を進めている。

(a)

 高感度地震計による地震観測

 微小な地震動を観測できる高感度地震計は,高密度な観測網とすることにより,地震の震源と発震機構(震源において,地震を引き起こした断層運動の様子)の決定精度を高めるとともに,破壊した断層の把握等に資する。文部科学省は,関係機関と調整しながら,当面水平距離で15〜20kmメッシュで全国に配置されるよう整備を進めており,平成12年度末現在520観測点の観測網が整備されている。

(b)

 広帯域地震計による地震観測

 広い範囲の周波数の地震波を検知する広帯域地震計は,大きな地震時に発生する周期の長い震動も捉えることができ,地震の規模と断層の破壊方向を高い精度で把握できる。文部科学省は,当面水平距離で100kmメッシュで全国に配置されるよう整備を進めており,平成12年度末現在45観測点の観測網が整備されている。

(c)

 強震動観測

 構造物に被害をもたらすような強い震動を観測する強震計による観測網は,地震動の強さ,周期及び継続時間を把握でき,被害の大きな地域を特定し,防災活動を有効に展開するための情報を与える。強震計は文部科学省防災科学技術研究所,国土交通省,気象庁,地方公共団体等により,全国に数千箇所設置されている。

(d)

 地殼変動観測(GPS連続観測)

 GPS連続観測網は,地殼歪みの時間的・空間的変化を広範囲で把握でき,地震発生に至るまでの過程の解明に資するものである。

 国土地理院は,平成5年度から全国の広域地殼変動を監視するため,全国に947点の電子基準点を整備しているほか,東海地域のプレート運動の3次元的な把握のため,当該地域に25の観測点を整備している。また,国土地理院,文部科学省は,活断層の地殼変動を捉える目的で,GPS地殼変動観測施設を全国の主な活断層周辺にそれぞれ19及び41箇所整備している。

d 活断層調査等

 文部科学省は,地震関係基礎調査交付金を交付し,都道府県及び政令指定都市において,全国の主要な98断層帯のうち,平成12年度末現在21断層帯について調査を実施しているところである。また,都市平野部を対象として地下構造調査を実施している。

 経済産業省産業技術総合研究所地質調査所では,今後百年間に地震が発生する可能性をできるだけ正確に見積もることを目的に,平成7年度から10箇年計画で,全国の主要な98断層帯について,必要に応じ他機関との連携の下調査するとともに,活断層及び古地震による地震発生予測の研究を行っている。

 国土地理院においては,平成7年度から,空中写真の判読等による地形学的手法により,都市周辺地域の活断層の位置を詳細に記した1/25,000「都市圏活断層図」を作成しており,平成12年度末までに89面の地図を作成した。

(3) 地震に関する情報の活用

a 気象庁が発表する地震情報

 気象庁の発表する震度の情報は,地震発生直後の防災関係機関における初動対応のきっかけとしての役割を果たし,震度3以上が観測された場合には,地震発生後2分程度でその観測地点を含む地域の名称を「震度速報」として発表している。

 震度計で震度1以上の地震が観測されると,気象庁は地震情報を発表する。地震情報には震源の位置と深さ,震央地名,地震の規模(マグニチュード),各地の震度が含まれる( 図2-4-2 )。

  (図2-4-2) 地震発生直後の震度情報の活用

b 地震発生直後のナウキャスト地震情報(地震発生直後の即時的情報)の実用化調査

 気象庁,消防庁及び国土庁は,平成9〜10年度に地震発生後に地中を伝播する比較的早く到達するP波(縦波:地殼の中では6〜7km/s)と遅れて到達して主要な破壊現象を引き起こすS波(横波:地殼の中では3.5〜4km/s)の時間差を利用して,地震発生のみならず規模や予想される揺れの大きさをS波が到達するよりも早く把握し,地震災害の軽減に活用するための方策や伝達のあり方について検討した。平成11年度に引き続き,気象庁は平成12年度にこの情報の実用化に向けて,情報発信の手法の確立,利用のための課題検討等の調査を行った。

c 地方公共団体,指定公共機関の取組み

 地方公共団体等においても地震に関する観測情報を活用するシステムを導入しており,例えば横浜市においては,地震発生直後に市域内の地震動の状況をきめ細かく把握し,災害応急対策を支援する「高密度強震計ネットワークシステム」の運用を平成8年5月から開始している。その他,地方公共団体の中には,出火危険や延焼危険等の消防活動に必要な被害状況を事前に予測するシステムの開発を行っているところもある。指定公共機関においても,海岸線等に配置した地震計により必要な警報や情報を列車運行システムに発信するシステムの運用を図ったり(JRの早期地震検知警報システム:ユレダス),ガス供給区域内のセンサー等からの情報とあらかじめデータベース化された地盤や導管情報などから被害推定を行い,インターネットのホームページを通じて一般公開する(東京ガスの地震時警報・遮断システム:シグナル)など,様々な取組みがなされている。

(4) 地震被害想定

 大規模地震が発生した際に効果的な対応を図るためには,想定される被害に対して国や地方公共団体などがあらかじめ共通の認識を持って,予防・応急対策に備えることが重要である。

 国土庁(現内閣府)では,関係地方公共団体における地震被害想定の作成を支援するため,「南関東地域直下の地震被害想定手法検討委員会」を開催し,地震被害想定の手法についての調査を行ってきた。その成果は,平成8年4月より運用を開始した「地震被害早期評価システム(EES)」にいかされ,地震直後の被害を推定するための手法として利用されている。この手法を全国の地方公共団体などが利用できるようにするため,平成9年8月に公開した「地震被害想定支援マニュアル」について引き続き検討を重ね,震源の位置や規模から地震動分布,建物被害,死傷者等をパソコン上で自動的に推計することができる「地震被害想定支援ツール」を開発し,平成11年1月にインターネットで公開した(http://www.bousai.go.jp/)。このツールは,地方公共団体の地域防災計画作成のための被害想定にも利用されるなど,有効に活用されているところである。

 また,消防庁においても,パソコンを用いて地震被害想定を行うことができる「簡易型地震被害想定システム」を開発し,都道府県等に配布した。このシステムでは,活断層データ,地震データ等を用いて,木造家屋被害,出火件数,死者数の推計を行うことができる。

 これらのシステムは,平常時においては防災に関する各種計画の見直しや住民の防災意識の啓発等に役立てることが可能であり,地震直後においては,地震被害の規模や被害の大きい地域を推定する際の参考資料として活用することができるものである。

4-3 震災対策の推進

 阪神・淡路大震災においては,昭和55年以前に建築された,いわゆる既存不適格住宅の倒壊等による人的被害が甚大となったことをはじめ,建築物,施設の倒壊により多くの被害が生じたほか,倒壊した建物が道路を遮断し,避難,救急救命,消火,緊急輸送等の活動に著しい支障をきたすことになった。また,老朽木造住宅密集市街地においては,建物の倒壊に加え延焼による大規模な火災が発生し被害が大きくなった。

 このため,防災基本計画において,国及び地方公共団体は,避難路,避難地,延焼遮断帯,防災活動拠点ともなる幹線道路,都市公園,河川,港湾など骨格的な都市基盤施設及び安全な市街地の整備,老朽木造住宅密集市街地の解消等を図るための土地区画整理事業,市街地再開発事業等による市街地の面的な整備,建築物や公共施設の耐震・不燃化,水面・緑地帯の計画的確保,防災に配慮した土地利用への誘導等により,地震に強い国土の形成を図ることとし,これに沿った施策を推進している。

 また,地方公共団体は,地震防災対策特別措置法に基づく地震防災緊急事業五箇年計画等を積極的に作成し,それに基づく事業の推進を図っている。

 このように地震に強い国土を形成するためには,国及び地方公共団体の取組みのみならず,個人住宅をはじめ住民や企業等が所有・管理する建築物の耐震性・安全性の確保や,防災上危険な老朽木造住宅密集市街地の解消など,住民や企業等が主体的かつ積極的に対策に取り組むことが必要であり,国や地方公共団体等においては,その促進のための各種支援を講じているが,今後さらなる取組みが必要である。

(1) 耐震基準の見直しと既存施設の改修

 構造物・施設等の耐震性の確保については,供用期間中に1〜2度程度発生する確率をもつ一般的な地震動(いわゆる「レベル1地震動」)及び発生確率は低いが直下型地震又は海溝型巨大地震に起因するさらに高レベルの地震動(いわゆる「レベル2地震動」)をともに考慮し,前者に対しては機能に重大な支障が生じず,かつ後者に対しても人命に重大な影響を与えないことを基本的な目標とすること等の考え方が防災基本計画に定められている。これに基づいて施設ごとに耐震基準の見直しが行われ,既存施設のうち耐震性の十分でないものについては耐震改修が進められている( 表2-4-3 )。

  (表2-4-3) 主な施設・構造物についての耐震基準と耐震改修の現状

(2) 地震防災緊急事業五箇年計画の推進

 地震による災害から国民の生命,身体及び財産を保護するため,平成7年7月に「地震防災対策特別措置法」が施行された。この法律により都道府県知事は人口,産業の集積等の社会的条件や地勢等の自然的条件等を総合的に勘案して,地震により著しい被害が生じるおそれがある地域について,「地震防災緊急事業五箇年計画」を作成することができることとなり,全都道府県において平成8年度から12年度の計画が策定され,総合的な地震防災対策の推進が図られた( 表2-4-4 )。

  (表2-4-4) 第1次地震防災緊急事業五箇年計画の概要

 「地震防災緊急事業五箇年計画」は,避難地,避難路,消防用施設,地域防災拠点施設等の地震防災上緊急に整備すべき施設等に関する五箇年間の計画で,平成12年度(第1次五箇年計画終了時)までに74%の事業費が全国で執行される見込みである( 表2-4-5 )。

  (表2-4-5) 第1次地震防災緊急事業五箇年計画の推進状況

a 地震防災対策特別措置法の改正

 五箇年計画により実施される事業のうち,特に住民の生命・身体の保護,災害応急対策の充実,被災者の生活の早期安定化に資する事業のうち,補助率が比較的低いものについては,同法に基づいて第一次計画についてのみ財政上の特別措置が設けられていたが,現状の整備状況や対策の重要性から,これらの事業をさらに強力に推進する必要があるために,平成17年度末まで特別措置を継続するよう同法が改正された。

b 第2次五箇年計画の作成

 同法の改正により,全都道府県においては,平成13年度を初年度とする第2次五箇年計画を早急に作成し,さらなる地震防災対策の積極的な推進を図ることとしている。

(3) 都市の不燃化等の推進

 人口の集中する市街地において大規模な火災を防止するためには,建築物の不燃化や防火帯の創設,適切なオープンスペースの確保等による延焼防止対策の推進が必要である。

 阪神・淡路大震災以降,密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律を施行するとともに,都市防災推進事業を創設するなど施策の充実を図っている。

(4) 防災拠点施設の整備の推進

a 広域防災拠点の整備

 大規模災害時において,広域的に連携し,応急対策,復旧・復興活動を迅速・円滑に進めるためには,情報収集や指揮,物資の集配機能等を備えた中核的施設の整備と,緊急輸送ネットワークの形成が必要である。

 内閣府では,立川広域防災基地内に災害対策本部予備施設を有しており,首都直下地震等の発生で首相官邸,内閣府,防衛庁(中央指揮所)が被災により使用不能である場合等の緊急時において,速やかに政府の緊急災害対策本部の設置・運営ができ,約500人に及ぶ参集要員が1週間執務できる体制に整備している。さらに,災害対策本部が設置される場合に直ちに準備を行えるよう,休日を含め24時間体制で要員を配置している。なお,平常時においては,職員の研修・訓練等のほか,展示,情報提供等を通じて防災知識の普及等を図る場として活用している。

 阪神・淡路大震災において,港湾が緊急物資の海上輸送や仮設住宅用地など,市民生活の復興に大きな役割を果たしたことにかんがみ,国土交通省においては,港湾において多目的な利用が可能なオープンスペース等に防災拠点を新たに整備することとしている。また,災害復旧活動の後方支援拠点等となる都市公園の積極的な整備推進を図ることとしているほか,内陸部において河川舟運等を活用した広域避難地,救援活動,資材運搬拠点等のため,道の駅等を活用し,地方公共団体,関係機関等の事業と連携し,総合的に実施することとしている。

b 地域防災拠点の整備

 平成11年度に国土庁(当時)・消防庁で行った調査によると,全国に防災センターは428施設設置されているが,地域的な偏りや各施設間の連携不足等が指摘されているところである。

 国土庁(現内閣府)では,平成8年度に地域防災拠点施設整備モデル事業を創設し,優良な防災拠点施設整備の例を示すことにより,広域的な災害にも対応できる施設の整備を質的量的に推進しているところである。平成12年度までに東京都目黒区など18箇所において施設が完成し,このほか神奈川県横須賀市等において事業を実施しているところである( 表2-4-6 )。

  (表2-4-6) 地域防災拠点施設整備モデル事業実施状況

 なお,昭和53年から平成7年度まで,主に大都市圏において防災基地建設モデル事業を実施し,大阪市など10か所の施設整備を行ってきた。

 今後,地域の中核的な市町村ごとに整備された広域的な防災センターと地域に密着したコミュニティー防災センター等との連携によって,より効果的な防災対策を講ずることができるよう研究していくこととしている。

c 防災まちづくり事業及び緊急防災基盤整備事業による防災施設等の整備

 総務省及び消防庁においては,防災まちづくり事業及び緊急防災基盤整備事業により,地方公共団体の行う防災センター,大型拠点避難施設,コミュニティ防災拠点,ヘリポート,備蓄倉庫,物資搬送拠点施設等の整備の推進を図っている。

(5) 電気・ガス・上下水道・通信網等の機能の確保

 阪神・淡路大震災においては,電気・ガス・上下水道・通信網等の施設が大きな被害を受け,その後の被災者の生活等に大きな影響を与えた。

 そこで,共同収容施設として共同溝等の整備を進めるとともに,代替性を確保するための系統多重化,拠点の分散,代替施設等の整備を図っており,さらに,被害が発生した場合に,これを最小限にするとともに迅速な復旧を可能とする体制の整備,資機材の備蓄を行っている。

(6) 液状化対策

 我が国における大規模地震では,たびたび地盤の液状化が発生しており,平成12年に発生した鳥取県西部地震においても,港湾施設等において大きな液状化の被害が見られた。液状化に対しては,民間・公共の建築物のほか,道路や電気・ガス・上下水道・通信網等について,施設の種類ごとにそれぞれ設計・施工指針の策定などが進められている。

 国土庁では,平成10年度に地方公共団体等が液状化マップを作成するための方法について解説した「液状化地域ゾーニングマニュアル」を作成し,都道府県等に配布することにより,液状化対策を推進しているところである。

(7) 津波対策の推進

 津波は,地域特性によって津波の高さや津波到達時間,被害の形態等が異なるため,地域防災計画等に基づき,地域の特性に応じて,海岸堤防や避難路等の施設整備,津波警報伝達の迅速化による避難の的確な実施等の対策が必要である。

a 津波予報の発表・伝達の迅速化

 地震を観測した場合,気象庁は震源や規模等から津波の有無及びその規模を判定して,津波の発生が予想される場合には津波予報を地震観測後3分程度で発表することとしている。津波予測に際しては,津波の数値シミュレーション技術を利用した予測技術に基づき,府県単位程度の66の予報区( 図2-4-3 )に対して,津波の高さ・到達予想時刻を具体的な数値で発表することとしている。

  (図2-4-3) 津波予報区

 発表された津波予報は,予警報一斉伝達装置やオンラインのほか,緊急防災情報ネットワークや静止気象衛星(ひまわり)を活用して,ただちに地方気象台,測候所等へ伝えられるとともに,受信端末を設置している防災関係機関や報道機関にも提供されている。また,それぞれの機関から住民,船舶などに伝達される( 図2-4-4 )。

  (図2-4-4) 気象業務法に基づく津波予報の法定伝達ルート

 海外で発生した大きな津波が日本沿岸まで伝搬し,大きな被害を及ぼすことがある。日本から遠く離れた太平洋沿岸で発生した大地震に伴う津波に対しては,気象庁は米国海洋大気庁の太平洋津波警報センターと密接な連携を取りながら,我が国沿岸に対する津波の影響を予測し,その情報を発表している。

b 総合的な津波対策の推進

 平成11年の津波対策関係省庁連絡会議(国土庁・内閣官房・警察庁・防衛庁・農林水産省・運輸省・海上保安庁・気象庁・郵政省・建設省・消防庁)において,国民の防災意識を向上させ,津波災害を軽減させるための重要課題として,

[1]

 地域に応じた津波防災対策の推進(津波浸水予測図の活用推進)

[2]

 津波予報伝達の迅速化・確実化の推進

[3]

 被害情報の早期評価・把握と防災機関の連携強化

 を確認し,申し合わせを行った。

 このため,平成10年3月に国土庁,農林水産省,水産庁,運輸省,気象庁,建設省及び消防庁が共同して,「地域防災計画における津波対策強化の手引き」を取りまとめ,津波対策強化の基本的考え方,津波に対する防災計画の基本方針及びその策定手順等を示した。

 さらに,平成11年度以降の新しい津波予報を効果的に活用し,事前に地域の津波による危険性を把握するためには,津波により浸水すると予測される区域を事前に地図上に表示することが有効であるため,同手引きの別冊として,国土庁,気象庁及び消防庁が共同して,津波浸水予測図( 図2-4-5 )の作成方法等を示す「津波災害予測マニュアル」を平成10年3月に取りまとめた。

  (図2-4-5) 津波浸水予測図の例

 国土庁(内閣府)では,当マニュアルに基づいた「津波防災マップ」の作成・普及を促進するため,津波浸水予測図の提供を行うとともに,気象庁,消防庁及び都道府県と協力して,防災担当者に対して津波対策に関する講習会を開催した。

 また,国土庁(現内閣府)では,平成11年度から運用された新しい津波予報に対応して,個々の海岸における津波浸水域を予測するためのデータベースの整備を行い,地震被害早期評価システム(EES)により個々の海岸における津波被害を早期に把握するための推計システムを開発し,平成11年度から運用している。

c 海岸堤防等の整備

 沿岸地域の住家等を津波から守るための海岸堤防(防潮堤),防潮水門,湾口防波堤等の施設が海岸保全施設整備事業として整備されており,これらを所管する農林水産省,国土交通省により「海岸保全行政事務中央連絡協議会」が設けられ,事業実施等の調整が図られている。

 また,平成9年度より,津波等による壊滅的な被害を防止するため,これら水門等の一元的な遠隔操作や地震・津波高等の情報の収集監視を行う施設やシステムの整備を行っている。

4-4 東海地震対策の実施状況

(1) 東海地震発生の可能性と予知

a 発生の可能性

(a)

 発生のメカニズム

 日本列島の太平洋側沖合では,陸側のプレートの下に海側の太平洋プレート及びフィリピン海プレートがもぐり込んでおり,その境界に当たる日本海溝,南海トラフ等の地域では,プレートのもぐり込みに伴って地殼の歪が蓄積され,これが急激に解放される際に海溝型の大地震が発生する。

 駿河トラフ沿いについてみると,1854年に南海トラフ沿いに発生した安政東海地震の際,駿河トラフ沿いの破壊も同時に起こったと考えられているが,1944年の東南海地震では未破壊のままとり残されており,安政東海地震以来既に140年以上経過していることや,駿河湾周辺の明治以降の地殼歪の蓄積状況を考え合せると,駿河トラフ沿いに大規模な地震が発生する可能性が高いと考えられる。この予想される地震が「東海地震」である。

 なお,平成13年1月26日に開催された中央防災会議で,過去23年間における観測体制の高密度化・高精度化や観測データの蓄積,新たな学術的見地等を踏まえて,東海地震対策の強化について検討するよう会長(内閣総理大臣)から指示されたことを踏まえ,「東海地震に関する専門調査会」を設置した。第1回の専門調査会が同年3月14日に開催され,東海地震対策に関する今後の方針等について検討された。

(b)

 発生の可能性

 東海地震については,予知体制の整備が図られている。

 現在までの観測結果によると,長期的前兆の重要な指標となると考えられる駿河湾西岸の沈降速度の変化に関しては,内陸部を基準とした御前崎の沈降が近年も依然として続いており,東海地震発生の可能性の高さを引き続き裏付けたものとなっている。

b 東海地震の予知

 気象庁では,東海地震の直前予知に有効と考えられる観測データを,地震活動等総合監視システム(EPOS)によりリアルタイムで処理し,総合的に監視を行っている( 図2-4-6 )。

  (図2-4-6) 東海地域等における地震常時監視網(2001年4月現在)

 観測データに異常が認められ,大規模な地震が発生するおそれがあると認めるときは,気象庁長官は,気象業務法の規定により,地震予知情報を内閣総理大臣に報告することになっている。また,その異常な観測データが東海地震の前兆であるかどうかを判定するために,昭和54年8月から気象庁長官の私的諮問機関として地震防災対策強化地域判定会(以下,「判定会」という。)が開催されることとなっている。

 判定会は,地殼変動の観測データにある基準以上の異常な変化が現われたとき,気象庁長官からの要請等に基づいて招集されることになっている。また,平常時の地震活動及び地殼変動等を把握しておくことが重要であることから,判定会委員打合会を定期的に開催し,観測データ等の検討を行っている。

 なお,気象庁では,判定会招集には至らないが,東海地域の監視を通じて地震活動や観測データにあるレベル以上の変化を観測した場合に,その原因等の評価を行い,結果を発表することとしているが,その際,発生した現象の状況に応じて,「解説情報」(東海地震の前兆現象とは直接関係ないと判断した現象及び長期的な視点等から評価・解析した地震・地殼活動等に関する解説)と「観測情報」(判定会招集には至っていないが,観測データの推移を見守らなければその原因等の評価が行えない現象が発生した場合の情報であり,原因等の評価が行えるまで継続して発表する。)に区分することとしている。

 なお,これまで観測情報が発表されたことはないが,解説情報は平成13年3月までに2回発表されている。

(2) 大規模地震対策特別措置法の実施状況

a 法律の目的

 昭和53年6月に成立した(同年12月施行)大規模地震対策特別措置法(以下「大震法」という。)では,地震防災対策強化地域(大規模な地震によって著しい被害を受けるおそれがあり,地震防災対策を強化する必要がある地域。以下「強化地域」という。)の指定を行ったうえで,同地域に係る地震観測体制の強化を図るとともに,大規模な地震の予知情報が出された場合の地震防災体制を整備しておき,地震による被害の軽減を図ることを目的としている( 図2-4-7 )。

  (図2-4-7) 大規模地震対策特別措置法による主な措置

b 地震防災対策強化地域における防災対策

(a)

 地震防災対策強化地域の指定

 東海地震発生の事前予知が可能であることを前提として,大震法第3条の規定に基づき,現在,神奈川県,山梨県,長野県,岐阜県,静岡県及び愛知県の6県167市町村の区域が地震防災対策強化地域として指定されている( 図2-4-8 )。

  (図2-4-8) 地震防災対策強化地域(6県167市町村)

 東海地震が発生した場合,強化地域では震度6弱以上の地震動を受け,伊豆半島南部から駿河湾内部に大津波が発生するおそれがあると考えられている。

(b)

 警戒宣言等の伝達

 強化地域の観測データに異常が発見され,気象庁長官が大規模な地震が発生するおそれがあると認めるときは,気象業務法の規定により地震予知情報を内閣総理大臣に報告し,内閣総理大臣は,地震防災応急対策を実施する緊急の必要があると認めるときは,閣議にかけて,警戒宣言を発することになっている( 図2-4-9 )。

  (図2-4-9) 東海地震の警戒宣言まで

(c)

 地震防災計画の作成

 強化地域の指定が行われると,地震予知がなされた場合に備えて,事前に地震災害及び二次災害の発生を防止し,災害の拡大を防ぐための具体的な行動計画(地震防災計画)として,国においては地震防災基本計画を,地方公共団体や指定公共機関においては地震防災強化計画を,民間事業所においては地震防災応急計画をそれぞれ作成している。

(d)

 地震防災基本計画の修正

 平成7年1月に発生した阪神・淡路大震災の教訓等を踏まえ,平成11年7月に地震防災基本計画を修正した。これにより,警戒宣言時の迅速かつ的確な初動対応や東海地震に係る情報を活用した準備的対応などを実施し,また,災害弱者に配慮するなど避難対策等を充実することとされた。

 また,今回の修正を踏まえ,地方公共団体においては,地域ごとの実情に応じた車両避難の適否の検討や屋内避難のための対応等の具体化を進めている。

c 地震対策緊急整備事業の推進

 昭和55年5月に制定された「地震防災対策強化地域における地震対策緊急整備事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律」(地震財特法)では,関係地方公共団体等が実施する地震対策緊急整備事業(地震防災強化計画に基づく地震防災上緊急に整備すべき施設等の整備事業)の一部について国の財政上の特別措置が講じられることとなっている。

 同法では,強化地域の指定があったときは,関係都道府県知事は関係市町村長の意見を聴いたうえで,避難地,避難路,消防用施設等の17施設等の整備に関する地震対策緊急整備事業計画を作成し,内閣総理大臣の同意を受けることとなっている。このうち消防用施設の整備,木造の社会福祉施設の改築,公立の小・中学校の危険校舎の改築・非木造校舎の補強については国庫補助率等の嵩上げが行われている。

 地震対策緊急整備事業計画については,平成12年3月に地震財特法の有効期限が平成17年3月31日まで5年間延長されたことに伴い,平成13年3月に計画の変更がなされた(計画総事業費約1兆3,361億円)。

d 地震防災訓練の実施

 防災週間の主たる行事として,9月1日の「防災の日」を中心に,東海地震を想定し,大震法及び同法に基づく地震防災基本計画に規定する一連の手続,措置等を重点とした総合防災訓練が実施されている。

4-5 大都市震災対策の推進

(1) 大都市震災対策の必要性

 我が国の大都市地域は,地震による揺れが大きい沖積平野に人口や諸機能が集積しているため,その直下又は周辺で大規模な地震が発生した場合には,極めて大きな被害が発生しやすい状況にある。

 このため,大都市における大規模震災の特有の課題に対応した震災対策を推進し,特に,我が国の大都市直下を襲った戦後初めての大規模震災である阪神・淡路大震災の様々な教訓を活かしていく必要がある。

(2) 大都市震災対策専門委員会提言

 大都市地域において震災対策を推進するにあたっては,発生した際の被害の甚大性・広範性を踏まえ,複数の関係機関が高度な連携をとった実践的・実効的対策を講ずることが重要である。このため,平成10年1月に中央防災会議に学識経験者で構成される「大都市震災対策専門委員会」を開催,同年6月に大都市における震災対策についての政府全体の取組みの前提となる基本的な考え方や検討の方向を示した提言が取りまとめられた。これを受けて,「南関東地域直下の地震対策に関する大綱」等についても見直しが行われた(詳細は 本章4-6 参照)。

 なお,平成13年1月26日に開催された中央防災会議で,これまで行われてきた震災対策について再点検を行い,地方公共団体や関係機関等との連携を一層密にして実効性のある広域的防災体制を確立するよう,会長(内閣総理大臣)より指示を受けた。この再点検の結果を踏まえ,今後必要に応じて防災施設整備等の一層の促進を図るとともに,広域連携をさらに強化するよう対策を講じていくこととしている。

(3) 阪神・淡路地域の防災関係情報の活用

 内閣府では,阪神・淡路大震災に関して作成された行政機関及び学会の調査報告書,マスコミ情報等を収集した結果や,行政機関の担当者,現場対策の当事者からのヒアリング結果を体系的に整理・分析し,今後の防災対策の検討に活用するため「阪神・淡路地域の防災関係情報の分析・活用事業」に取り組んでいる。その成果である「阪神・淡路大震災教訓情報資料集」は,インターネットを活用して幅広く情報発信を行っているほか,本教訓情報資料集の英訳作業にも取り組んでおり,海外へも阪神・淡路大震災より得られた貴重な教訓情報を発信することとしている。

4-6 南関東地域の地震対策

(1) 南関東地域直下の地震の切迫性

 昭和63年6月,中央防災会議地震防災対策強化地域指定専門委員会で,1923年の関東大地震タイプの海溝型巨大地震が相模トラフ沿いで発生する可能性は100年か200年先とされる一方で,南関東地域直下における地震の発生についてはある程度の切迫性を有していることを報告している。さらに,平成4年8月の同専門委員会報告においては,特に重点的に地震防災対策を講じる必要のある震度6相当以上になる可能性のある地域の範囲( 図2-4-10 )は1都6県にわたることが明らかにされている。

  (図2-4-10) 南関東直下の地震により著しい被害を生じるおそれのある震度VI相当以上になると推定される地域の範囲(大網の対象地域)

 また,この2つの報告により,直下の地震は,現状ではその予知は非常に難しいこと,想定される震源域を一つに特定することができないことなどの特徴を有していることが明らかにされている( 表2-4-7 )。

  (表2-4-7) 南関東地域における地震発生の切迫性について

(2) これまでの取組みの経緯

 南関東地域においては,地震の規模や震源地によっては,震災時に多数の人命,財産の損失を招く危険が大きく,さらに,都市機能の阻害等による二次的な影響が国民生活や経済の混乱となって被災地域を越えて著しく広域に波及するおそれがあるなど,都市型の地震災害が発生・拡大するおそれがある。

 このため,南関東地域における地震対策としては,防災基本計画(震災対策編)や防災業務計画,地域防災計画(震災対策編)等に基づき各般の対策を講じているほか,中央防災会議において,国,関係地方公共団体,関係指定行政機関等が一体となって緊密な連携のもとに講じるべき対策を決定し,その具体化及び推進を図っており,応急対策については,昭和63年12月に「南関東地域震災応急対策活動要領」を,応急対策以外の施策も含む広範な震災対策について,平成4年8月に「南関東地域直下の地震対策に関する大綱」をそれぞれ決定した。

(3) 「南関東地域震災応急対策活動要領」及び「南関東地域直下の地震対策に関する大綱」の改訂

 阪神・淡路大震災の教訓とその後の新たな施策の進展や,大都市震災対策専門委員会提言で指摘された関係機関の実践的連携の一層の推進を図るため,平成10年6月に「南関東地域直下の地震対策に関する大綱」及び「南関東地域震災応急対策活動要領」の改訂を行った( 図2-4-11 )。

  (図2-4-11) 南関東地域の地震対策の体系

 この改訂においては,情報の共有化について内容を充実するとともに,密集市街地や地下街対策,行政・経済機能の被災対策,帰宅困難者対策など,南関東地域特有の課題に対する対策のほか,二次災害の防止,自発的支援の受入れなど新たな分野が追加された。また,関係機関が多岐にわたる応急対策活動について,平常時から実践的な備え(アクションプラン)を講じておくことが位置付けられた。

 なお,本年1月の中央防災会議における,これまでの対策の再点検及び広域体制の確立を行う旨の会長(内閣総理大臣)指示に基づき,今後他の大都市圏も含め一層の地震対策の強化を図ることとしている。

(4) アクションプランの作成

 応急対策の具体化を推進するために,大規模震災時の医療と搬送について検討を行い,平成10年8月に中央防災会議主事会議において,「南関東地域の大規模震災時における広域医療搬送活動アクションプラン第1次申し合わせ」を行った。

 また,広域輸送活動,帰宅困難者対策についても,アクションプランの策定に向けた検討を進めている。

4-7 地震防災情報システムの整備

(1) システムの概要

 阪神・淡路大震災に際しては,発災時における応急対策活動を円滑に行うための課題として,特に被災地の状況を迅速に把握するとともに,事前対策,応急対策及び復旧・復興対策の各段階における情報を統合化し,総合的な意思決定を行うことの重要性が改めて指摘された。

 内閣府(旧国土庁)ではこうした経験にかんがみ,地形,地盤状況,人口,建築物,防災施設などの情報をコンピュータ上の数値地図と関連づけて管理する,地理情報システム(GIS)を活用した「地震防災情報システム(DIS:Disaster Information Systems)」の整備を進めている( 図2-4-12 )。

  (図2-4-12) 地震防災情報システム(DIS)の概要

 DISは,地盤・地形,道路,行政機関,防災施設などに関する情報を必要に応じあらかじめデータベースとして登録し,この防災情報データベースを基礎として,震災対策に求められる各種の分析や発災後の被害情報の管理を行うものである。DISにあらかじめ登録する防災情報の例としては,次に掲げるようなものがある。

 基本地図 1/25,000地形図,1/2,500詳細地図

 自然条件 地質,活断層

 社会条件 人口・世帯数,高層建築物,地下街

 公共土木施設 道路,鉄道・駅,港湾,空港,ヘリポート

 防災施設 行政機関,病院,避難施設,備蓄施設

 また,防災情報データベースをもとに,GISの機能を活用することにより,事前対策,応急対策,復旧・復興の各段階に応じて,[1]地震発生時の被害の想定の実施や被害想定に基づいた地震に強いまちづくり計画の作成等の支援,[2]地震発生後に送られてくる震度情報に基づく被害推計による被害規模のおおまかな把握や被災地の被害情報に基づいた緊急輸送,救助・医療,避難,ライフライン,ボランティアなどの各種応急対策計画の策定の支援,[3]公共施設や輸送機関などの復旧・復興に有用な情報の提供や復旧・復興計画の進捗状況の適切な管理等が可能となり,情報の統合的な活用による各種震災対策の充実が可能となる。

(2) 地震被害早期評価システム

a システムの概要

 DISを構成するシステムのうち,地震発生直後に被害のおおまかな規模を把握するための「地震被害早期評価システム(EES:Early Estimation System)」については,平成8年4月から稼動している( 図2-4-13 )。

  (図2-4-13) 地震被害早期評価システム(EES)

 このシステムは,地震災害の規模が大きいほど緊急の対応が必要となるにもかかわらず,地震発生直後にはその判断に必要な情報が極めて限られたものとなることに対応して,地震による被害規模の概要を地震発生から概ね30分以内に推計し,国の迅速かつ的確な初動対応のための判断に活用するものである。

 具体的には,地震発生直後に気象庁から送られてくる震度情報と,あらかじめ全国の各市区町村ごとに整備された地盤,建築物(築年・構造別),人口(時間帯別)等のデータベースに基づいて,震度4以上の地震が発生した直後に建築物倒壊棟数と建築物の倒壊に伴う人的被害の状況の概要を推計するものである。

 また,平成11年度から気象庁が津波の高さを数値化した新しい津波予報を発表したことに対応して,個々の海岸における津波浸水域を予測するシステムを整備し,運用している。

b 地震被害に関する検討委員会

 震度6弱を観測した新島・神津島近海地震や,震度6強を観測した鳥取県西部地震では,観測された震度やEESの被害推計に比べて実際の被害は小さく,特に阪神・淡路大震災後初めて震度6強を観測した鳥取県西部地震においては,EESの被害推計の建物倒壊約8,000戸,死者約200人に対し,実際の被害は全壊戸数約400戸,死者0人と大きな誤差が生じた。被害が小さいことは幸いであったが,これらの情報が政府の非常参集や応急対策等の防災行政上の判断等に活用されていることを踏まえ,地震挙動と被害との関係について再度検証し,必要な見直し等を行うこととし,学識経験者や防災行政関係者で構成される地震被害に関する検討委員会を開催し,検討を行った。

(3) 応急対策支援システム

 DISを構成するシステムとしては,先述のEESのほかGISを活用して各種応急対策活動を支援する「応急対策支援システム(EMS:Emergency Measures Support System)」の整備を行っている。このシステムは,あらかじめ整備しておく防災関連施設等のデータベースと,実際の被害情報や応急対策の状況等について関係省庁から提供される情報を集約・整理し,関係省庁間で共有することにより,各種応急対策活動を支援するものである。このうち,広域医療搬送活動については,「南関東地域の大規模震災時における広域医療搬送活動アクションプラン」に対応した機能の整備を行い,平成11年度から稼動している。

(4) 地図・防災情報データベースの整備

 平成7年度からこれまで,DISの基礎となる数値地図や防災情報のデータベースとして,1/25,000の数値地図を全国的に整備するとともに,各種都市機能が集中し,かつ,直下の地震の発生がある程度の切迫性を有していると指摘されている南関東地域については,1/2,500の数値地図を整備しており,引き続き全国にわたる詳細な防災情報の整備を進めている。

(5) ネットワーク化の推進

 防災情報の共有化等を図るため,関係省庁にDISの端末を設置するなどネットワーク化を推進しており,平成13年3月現在,総理官邸をはじめとする関係7省庁とネットワークを構築している。

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.