年末年始豪雪の記憶

境港市の漁船転覆−鳥取県境港漁業関係者

係留中のイカ釣り船

雪の重みで転覆した漁船


大晦日の明け方には、船に20センチ程の雪が積もっていました。それをかき出して一旦家に戻り、夕方5時頃にふたたび雪を下ろしに港に来ました。

その頃にはもう先が見えないくらいの雪がバッタバッタ降っとってね。船の操縦室の上にも降った分だけの雪が積もるし、イカ釣り船は頭の上の位置に電球が横にずらっと下がっているでしょ、そこに雪が積もって1つの物体みたいにつながっていました。

で、雪かきはしたけれど、雪が激しく降っていて全部は取り切れんし、もう暗くなるしということで、みんなも家に戻ったわけです。

ところが、それから3時間ぐらいの間にもう30センチぐらい雪が降りました。夜の7時を過ぎた頃から、友達同士電話で連絡を取り合っていて、「ちょっと危ないでー」ということで家を出て、午後9時半頃に雪の中をやっとの思いで港にたどり着いた時は、うちの船はもう半分沈んでおりました。

イカ船は、電気もレーダーもあって頭でっかちだから、その雪の重みがどっときて、船が少しずつ傾いていって、水ヌキ穴から船に海水が入り、それが機関まで入って沈んだのだと思います。沈むところを見ていませんから、これは私の想像ですけどね。

夕方に雪かきをして帰る時には、「まあ、いいけ、このぐらい大丈夫だろう」って誰でもそう思っとったと思うんですよ。船は自分の財産だから、雪かきをして船を大事にするのは当たり前なんですが、こんなに集中的に降るとは誰も思わなかった。それが本当に悔やまれます。

【有識者からの一言コメント】

  • 普段と違う雪の状態や降り方には注意が必要です。
    気象庁が発表した「湿った雪」とは、積もった雪が物体のように繋がってしまうような雪と解釈しなければなりません。
    「湿った雪」が船に積もると、その重みで船が傾いたり沈むことがあるので、頻繁に雪かきをしなければならないことがわかりました。
  • 船が沈むほどの雪が積もるというのは私も聞いたことがありません。
    新雪の比重は0.1くらいですから、相当量の雪が積もっても船が沈むほどの重さにはならないでしょう。
    たぶん風の具合か何かで偏って積もり船が傾いてしまったでしょう。
    船が傾かないような固定をするか、テント状にシートを張れると良かったのかもしれません。
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港に着いたのは午後9時半ごろ、私が一番早いほうだったかなと思います。雪で車が全然走れない状況だったので、牡丹雪が降り続く中、60センチほどの雪に何度も足をとられながら、自宅から約1.5キロの道のりを歩いて港にやってきました。40メートルぐらい歩くのに15分もかかるとやけん、それはもう大変でした。

とにかく水気を多く含んだ雪でね。電線とかに付着した雪が団子状態になっていたから、「あー、船も同じ状態になっているだろうな」と思ってはいました。

沈みかけた自分の船を見た時は、愕然としました。船は陸とロープでくくられているから完全には沈まずに、先だけ浮いた状態で後の部分が傾いて斜めに沈んでいたのです。

船が45度傾いたら魚漕の中にも水が入って、だんだん沈んでいくのは分かっていましたからね。もう、自分ではどうすることもできないとあきらめました。

新潟なんかの豪雪地帯で、雪が降ると瓦の外側に雪がせり出すようになっとるでしょ。よその船も上の部分はそんな状態でした。そのうち組長さんのおいごさんが来て、2、3人の若い衆に連絡をとり、危ない船の雪下ろしをしてくれました。そのお陰で沈まなかった船もおったと思います。

船の中は全部電気製品ですからね。沈んだらもう何もかんも駄目になってしまいます。機械物はすぐに引き上げて洗浄すればかなり修理もできますが、何日も水の中だとさびが発生してしまいます。大晦日から正月にかけての出来事で、引き上げようにも業者は休み。最悪のタイミングでした。

【有識者からの一言コメント】

  • 今回は年末年始という最悪のタイミングで起きた雪害でした。
    漁師さんの高齢化を考えると、災害時要援護者対策のように「船の雪下ろしマップ」を事前に作っておく必要があります。
    A船は若い衆の○さんと△さんが、B船は□さんと☆さんが雪おろしをするというように、あらかじめマップに記入して 誰が見ても分かるようにしておく方法や業者に頼むということも考慮に入れておかなければならないと思います。
  • 気温が高い状態でのドカ雪だったのですね。
    0℃に近い雪はとても付着しやすく、電線や電話線にリング状に巻き付いて切ってしまうこともあります。
    船の上部の構造に着雪したり、船の横からせり出した雪(雪庇)が重量バランスを崩してしまったのでしょう。
    着雪問題は未だ決め手となる解決策がありません。
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私は大晦日の午後2時ごろに港に来ていて、娘婿に電話をしたけれど、米子に孫を連れて行っとるとかで連絡がつかず、しばらく婿が来るのを待ってから雪かきをして、4時過ぎに引き上げました。

「雪かきしたから、もう大丈夫」ということで帰ったでしょう。大みそかの晩で紅白歌合戦やら見ていて、窓の外の雪なんて全く気にせなんだ。

元旦の朝に、仲間の話から「船がどうもおかしい」ってことで、港に行くことにしましたが、頼んだ車も途中でエンコして来られないというし、ハイヤー呼んでもいつになるか分からないというので、仕方なく歩いて行くことにしました。

2、3歩ですぐに雪に入り込むしまつでね。雪が深いけん、ズボっと入ったら、80に近い年寄りじゃ足が上がらんとです。数は数えてなかったけど、おそらく20回は転んだと思いますよ。転んだまま雪に埋まったら、もう船どころじゃない。「自分の方が死ぬわ」って思いましたね。

最後は、知り合いが私の体を抱えるようにして船の見えるところまで連れていってくれたけれど、既に午前10時を回っていて、自分の船は先だけ残して、水の中に沈んでいました。

今まで何十年ここにおってもあんな雪はみたことないきね。何年か前に細い船が1隻、雪で沈んだことがあっただけで、その後は1回もない。だから油断してた、私たちもね。

【有識者からの一言コメント】

  • 車道の雪かきをしない限り 車を使うのは無理で、自分の足で船の雪かきに行くしか頼るものはありませんでした。
    ただ、単独行動は大変危険なので、必ず複数で行動することが大切です。
  • 雪の上を歩くのは重労働です。
    普段の冬なら歩くことなどないでしょうから、なおのことですね。
    豪雪地帯にいくと「かんじき」という古来の輪状の道具が未だに広く活用されています。
    これを長靴に装着するだけで雪の上でもそれなりに歩くことができます。
    いくつか備えてみてはいかがでしょうか。
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嵐が来る前に船を陸に揚げるところもありますが、ここ境港は優良な港だからそんなことは必要なくて、そういう作りにもなっていないんですよ。島根半島という天然の防波堤があって、沖合にも2つ、3つ人工の防波堤もあるので、波にやられることなんてまずありませんからね。

船で航行中なら、船の重心が上がったらすぐに帰るし、いつでも船の重心を真ん中に置くように、危なくないように気をつけてやるんだけど、今回は係留中の船の頭の部分に雪がたくさん積もって重心が高くなり傾いてしまったケース。港の中だから、そう簡単に転覆したりしないという思いは誰にもあったと思いますね。

昭和38年の大雪は、何日も時間をかけて降り積もった雪でした。今回は17時間ぐらいの間に72センチですから、まさに集中豪雨の雪版ですよ。

気象衛星を見ていたら、大陸のところからずっと雲が筋状に連なって、この山陰に集中していました。だから、気象庁さんでも正月にかけてほとんど連続して降るというのは分っていたと思います。

さらさらの雪ならいくら降っても全然つかないけれど、湿った雪は送電線でも何にでもくっついてしまうから被害につながるのです。

当時、大雪注意報、大雪警報は出ていたんですけどね。欲しかったのは着雪に対する注意喚起の情報。メディアの方でも、「着雪注意報」を速報みたいなもので流してくれたら良かったのにという気がします。

【有識者からの一言コメント】

  • 港の中なので そう簡単に転覆したりしないと思っていたことが、今回は裏目に出てしまいました。
    「湿った雪」は送電線のように細いものにも くっついて被害に繋がるということを市民は覚えておかなければなりません。
  • 気象庁は着雪注意報も出しています。
    ただ、頻繁に注意報が出ているとマヒしてしまいますよね。
    特に海岸部では、これまで関係のなかったことでしょうから十分に伝わらなかったのでしょう。
    現実は、着雪注意報と大雪警報の両方が出るほどの気象でしたから、その深刻さの伝わるよう警報の出し方に工夫が必要でしょう。
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昔は木船でしたけど、最近の漁船はFRP(強化プラスチック)製だったり、鋼鉄船であったり、アルミの船だったりいろいろです。

今回、鉄製の船はあれだけの雪でもびくともしていません。ところが、FRPの船で100トン近くある大きな船が、30度ぐらい傾いていたんです。やっぱりFRPは軽いんですね。

船の重みが少ないっていうことは、普段走るのには軽くてスピードが出て良い反面、積雪などで船の重心が高くなると、下に重みがないために支えきれずにひっくり返りやすくなります。

船の後ろにエンジンが付いている船外機も同じことで、この大雪で船外機が何百隻も転覆しちゃったのは、船の底に重みがないからなんだと納得しました。ひっくり返った船の中に、最近ドックして、きれいにペンキが塗られてカキなんかも付いていないものが多かったのは、カキなどの付着物があるだけで重さが違いますから、それも少しは関係があるかもしれません。

イカ釣り船は電球の球がたくさん付いて頭でっかちですからね。大型船などは、グラグラしないように船のキール(Keel)*に19トンぐらいの鉛を流し込んでいるものが多いんです。だけど、重くすると今度は船が走らんし、油もそれだけ食うことになるから、仲間のなかには一旦船底に入れた鉛を引き上げた人もいます。

わしらの船、一番小さい3トンクラスになると、そういうこともしないですからね。今度同じような雪になったら、休まず雪かきをするしかないと思います。


*キールとは、竜骨(船首から底を通って船尾まで貫通し船を支える材)のこと。

【有識者からの一言コメント】

  • 重い鉄製の船は「湿った雪」にもびくともしませんでしたが重い分スピードは出ないし、油もそれだけ食うことになります。
    一方、最近の強化プラスチックやアルミの船は軽いのでスピードは出ますが、積雪などで船の重心が高くなるとひっくり返りやすくなります。
    従って雪害対策として、軽い船は事前に重いものを船底に置くということも考えられます。
    それができなければ、休まず雪かきをするしかないということです。
  • なるほど、と思いながら拝読しました。
    やはり雪の重さの問題でなく、重さのバランスが崩れたことが原因だったのですね。
    そう考えると、大雪警報が出たら船底におもりを置いて重心を下げるというのも一つのアイデアかも知れません。

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