防災の動き

行政・NPO・ボランティアの三者連携を目指して

内閣府は、平成30年4月に「防災における行政のNPO・ボランティア等との連携・協働ガイドブック~三者連携を目指して~」を公表した。本稿では本ガイドブック作成の背景や概要、ガイドブックの主題である「三者連携」等について紹介する。

阪神・淡路大震災から新潟県中越地震へ

●「災害ボランティアセンター」の定着

「ボランティア元年」と呼ばれた平成7年の阪神・淡路大震災から23年が経過した。この間、平成23年の東日本大震災をはじめ、幾多の災害において、数多くのボランティアが被災地に駆けつけ、被災した住宅の片付け、救援物資の配布、避難所運営の支援、被災者の身の回りの手助けや話し相手などを通じた心のケア、復興まちづくりの支援など、行政の手の届きにくい分野を含めあらゆる分野で被災地・被災者の支援を担ってきた。こうした善意に基づいて行われるボランティア活動は被災地が復旧・復興を遂げていくために大きな力となってきたが、一方で過去にはコーディネーション機能の未整備や不十分さから、支援の偏りや抜け落ちなどが頻発し、また時には残念ながら被災地の混乱の一因となるケースも見られた。

近年の災害ボランティアの歴史を概観すると、阪神・淡路大震災の際には学生を中心に延べ138万人ものボランティアが熱意を持って被災地に入ったが、活動を調整する仕組みが事前に計画されていなかったため、大きな混乱が生じることになった。その2年後に日本海沿岸に大規模な油流出をもたらしたナホトカ号海難事故でも、延べ27万人によるボランティアが被災地で活動したが、神戸同様に調整機能の不足から被災地に混乱を引き起こすことになった。こうした反省をもとに、年に10個もの台風上陸により新潟、福井など北陸地方を中心に大きな被害をもたらし、加えて10月の新潟県中越地震が発生した平成16年には、それまでの教訓を踏まえ社会福祉協議会が災害ボランティアセンター(災害VC)を設置・運営する流れが定着することになった。


東日本大震災から熊本地震へ

●「情報共有会議」と「中間支援組織」

未曽有の被害をもたらした平成23年東日本大震災では、被害が大規模かつ広域的であったことから、NPO・NGO、企業など様々な主体が被災地で多数活動することとなった。多彩な専門性をもった支援主体による活動は被災者のニーズを幅広く掘り起こし、NPO・ボランティア等の活動も多様化することとなった。東日本大震災では、約550万人がボランティアとして活動したとされるが、その全てを災害VCで調整することには限界があり、実際災害VCを通じて活動した人数は150万人であった。このため、災害VCの外側でそれぞれの強み・専門性を活かして活動するNPO・ボランティアの活動調整を行う「中間支援機能」が注目されるようになった。

東日本大震災の後、米国でボランティアの活動調整を担う民間団体であるNVOAD(National Voluntary Organizations Active in Disaster)にヒントを得て、関係者がNPO 等のコーディネーションを担う「中間支援組織」としてJVOADの設立準備を進めている最中に発生したのが平成28年熊本地震であった。地震発生に際し、JVOAD準備会はただちに現地に入り、熊本県・内閣府等との調整の下、被災者支援を行うNPO等の情報共有・活動調整の場として、「熊本地震・支援団体火の国会議」を設立した。この「火の国会議」には延べ300団体ものNPO等が参加し、毎晩緊密な会議を通じてより効果的な被災者支援を目指すこととなった。さらに、この「火の国会議」を中心とするNPOの連携体が、行政(県・市町村)や災害VCを運営する社会福祉協議会とともに連携会議を開催することで、被災者支援に携わる各セクターが一同に会する場が形成された。これが行政・災害VC・NPO等の「三者連携」である(「NPO等」にはNPO・NGOのほか、企業や組合組織など多様な支援主体が含まれる)。こうした情報共有会議の仕組みは、翌年の九州北部豪雨の際にも採用され、円滑な情報共有・活動調整の一助となった。

被災地内・被災地外の多様な主体による連携モデル

各地域での事前の枠組み作りの必要性

熊本地震や九州北部豪雨の際の、「中間支援組織」による情報共有会議を通じた三者連携の仕組みは、事前に予定されていたものではなく、被災直後の混乱の中で関係者が手探り状態で調整を進め実現したものであり、事前に準備しておくことでより迅速・適切に機能することは言うまでもない。このため内閣府では、平成29年3月「広く防災に資するボランティア活動の促進に関する検討会」提言(本誌No.87平成29年夏号にて紹介)において、平時から行政とNPO・ボランティア等が顔の見える関係を構築し、より多くの国民がボランティア活動に参加できる環境整備を進めていく重要性が示されたことを受けて、平成29年度に「防災ボランティア活動の環境整備に関する検討会」(座長:室崎益輝兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科長)において、主に地方公共団体職員が三者連携の仕組みをはじめとするNPO・ボランティア等との連携・協働の枠組みを事前に構築できるよう検討を行った。この検討の成果が、「防災における行政のNPO・ボランティア等との連携・協働ガイドブック~三者連携を目指して~」として平成30年4月に公表された。

本ガイドブックでは、行政・災害VC(社会福祉協議会)、NPO等が三者連携を実現するための各地域での情報共有会議の枠組み作りを推奨しているほか、被災者支援における行政その他各主体の役割や、地域内での受援力と外部支援の関係、災害時のフェーズ毎の対応やそのための事前の準備など、地方公共団体がNPO・ボランティア等との連携・協働を図っていくためのノウハウやヒントが幅広く記載されている。

内閣府では、今後、本ガイドブックの活用を啓発し、各地での研修会等の開催を通して、多様な主体間の連携・協働方策について普及を図っていく予定であり、発生が想定されている南海トラフ地震や首都直下地震をはじめ各種の自然災害に備えるため、各地域において多様な主体の連携・協働の枠組みが形成されることが期待される。

〈内閣府(防災担当)普及啓発・連携担当〉

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内閣府政策統括官(防災担当)

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