特集 大雨です、あなたはどうしますか?

今年の梅雨も、都市部や山間部を襲う集中豪雨による被害が発生している。これからの台風の季節、大雨に対する一層の警戒が必要だ。
一口に大雨による災害と言ってもその種類はさまざまであり、場所によっても発生する被害は大きく異なる。
日頃から備えておけば減災につながる。大雨に対する正しい認識を持ち、どう備えるかを考える——。

写真:(財)消防科学総合センター災害写真データベースから

  日本の年平均降水量は1690mmと、世界の年平均降水量約810mmの2倍を超える。この豊富な降水量が、日本の豊かな自然環境や日本人の暮らしを支えてきた。
しかし、雨は時として深刻な災害をもたらす。特に、梅雨前線と台風によって集中的に雨が降る6月から10月にかけては、全国的にその危険性が高まる。
また、日本で一日に100mm以上の雨が降る日数が増加傾向にある。最近30年間(1980〜2009年)と20世紀初頭の30年間(1901〜1930年)を比較すると、その日数は約1.2倍に増えているのだ。
  100mmというとわずか10cmであるが、1m2に降る量に換算すると、100リットル、重さにすると100kgにもなる。わずか1m2でこれだけの量の水となるのであるから、100mmという雨が広範囲に降り続けば、いかに膨大な量となり、危険が高まるかが容易に想像できるだろう。

大雨による災害の数々
 そもそも、大雨とはどのくらい雨が降ることを指すのであろうか。気象庁では、雨の強さと降り方を「やや強い雨」から「猛烈な雨」まで5段階に分けている。大雨により災害が予想される場合、気象庁は大雨注意報や大雨警報を発表する。この大雨注意報以上の雨を「大雨」というのだ。大雨警報や注意報の発表基準は市町村等毎に設定されている。そしてこれらの基準は後に述べる災害の種類によっても分けられている。浸水害を対象とした大雨警報・注意報の基準は1時間もしくは3時間で降る雨量で、また、土砂災害を対象とした基準は、降った雨がどれだけ土壌中に貯まっているかを示す土壌雨量指数によって定められている。
 こうした大雨によって引き起こされる主な災害の種類は次の通りだ。
◇洪水害…大雨や融雪などにより、河川の流量が異常増加して起こる災害。堤防の決壊や河川の水が堤防を越えて起こる氾濫を洪水と呼ぶ。
◇浸水害…大雨などによる地表水の増加に排水が追いつかず、用水溝や下水溝などがあふれて氾濫したり河川の増水や高潮で排水が阻まれて起こる災害。内水氾濫と呼ぶことも。
◇山崩れ害…大雨や融雪が原因で山の斜面が急激に崩れ落ちて起こる災害。
◇がけ崩れ害…自然の急傾斜のがけ、人工的な切り取りや造成による急斜面が崩壊して起こる災害。
◇土石流害…渓流地帯に崩落堆積していた土砂や岩石が洪水で一気に下流方向へ押し流されたり、斜面を滑落する土砂や岩石が多量の水分を含んで流下し起こる災害。

近年の豪雨災害
 大雨による被害は1950年代後半までと比べ、大幅に減少している。それは、
 ・災害の軽減を目的とする治山・治水などの防災対策が進み、河川の氾濫などによる水害が起こりにくくなったこと
 ・災害をもたらすような気象現象を予測する情報の精度が向上し、伝達手段も普及・発達したことなどから、避難等により災害を回避する防災体制が充実してきたこと
 等が大きく寄与している。
 しかし近年、豪雨は毎年のように発生し、人命や財産に多大な影響を及ぼす災害が起きている。例えば、昨年7月19日から26日にかけて発生した「平成21年7月中国・九州北部豪雨」では、大分県日田市椿ヶ鼻で702mm、福岡県太宰府で636.5mm、山口県防府市で549mm、山口県山口市で546.5mmなどの総雨量を記録し、7月の平均降水量の2倍近くに及ぶ地域もあった。特に被害の大きかった防府市では、土砂災害で特別養護老人ホームなどを中心に22名の死者が生じた。この豪雨全体の被害は死者35名、負傷者59名に及んだ他、住家全壊52棟、住家半壊99棟、435件の土砂災害、さらに延べ約4万4千戸で停電、鉄道では32区間が運転中止となった。

局地的大雨と都市型水害
 近年は災害の発生する様相も変わってきた。急激に進んだ都市化などによって中小河川の氾濫や土砂災害が増え、それによる死傷者も発生している。
 もう一つの変化は、マスコミ等でゲリラ豪雨などと呼ばれている大雨の発生だ。大雨注意報や大雨警報の発表基準に達しない雨量でも、単独の積乱雲によって数十分の短時間に狭い範囲で数10mmに及ぶ「局地的大雨」が降り、それによる災害が注目されている。また、前線や低気圧などの影響や地形の影響で積乱雲がごく狭い範囲で発生・発達を繰り返して起きる「集中豪雨」にも注意が必要である。舗装の普及した都市部では、大量の雨が一気に低い地域に流れ込み浸水を引き起こしやすい。特に地下街は雨水流入による水没の危険にさらされる。都市部は人口やさまざまな機能の中枢が集まっており、ひとたび災害が起きればその被害も大きくなりやすい。

気象情報をキャッチする
 気象庁では、さまざまな方法によって気象を観測・監視している。例えば、天気予報などでよく耳にするアメダス(AMeDAS)だ。全国約1300カ所に配置されており、降水量、風向・風速、気温、日照時間などを自動的に観測し、そのデータを10分おきに気象庁に自動送信している。
 また、全国約160カ所の気象台などでは、アメダスが観測していない気圧や湿度などの観測も行っている。
 さらに、気象庁は気象レーダーによって、半径300〜400kmの範囲内の降雨の状況を5分ごとに観測している。気象レーダーは全国に20基配置されており、ほぼ全国をカバーしている。そのため、雨量計のない場所でも、降雨の状況を捉えることが出来るのだ。
 また、局地的大雨等による浸水被害が頻発していることを受け、国土交通省は、このような水害に対し、適切な水防活動や河川管理を行うため、平成22年3月末までに3大都市圏等関東、北陸、中部、近畿に11基の高性能レーダー「X バンドMPレーダ」を設置し試験運用を開始した。これにより、従来のCバンドレーダーではとらえることができなかった降雨についても、詳細かつリアルタイムでの観測が可能となった。
 この他にも、気象庁では静止気象衛星「ひまわり」による宇宙からの雲の観測や、気球を上げて、地上から約30km上 空までの気圧や気温などを鉛直的に観測する高層気象観測なども行われている。気象庁ではこのような手段を活用して24時間体制で気象状況の観測・監視を行っている。

気象庁は、大雨や洪水などの警報・注意報を細かく市町村単位で発表している(平成22年5月27日より)。
情報は、同庁のホームページでも閲覧可能。
http://www.jma.go.jp/jma/index.html(気象庁ホームページ)別ウインドウで開きます

局地的大雨の情報を得る
 大雨に備える予報として、気象庁は降水短時間予報と降水ナウキャストという予報も提供している。降水短時間予報とは、6時間先までの各1時間雨量の分布を予報するもので、30分ごとに新しい予報を発表する。降水ナウキャストは1時間先までの各10分間雨量の分布を予想するもので、10分ごとに新しい予報を発表する。
 降水短時間予報は、地形の影響によって降水が発達、衰弱する効果を計算しているので、高い雨量予報精度を持っているが、雨雲の急激な発生、発達は予想が難しい。一方、降水ナウキャストは、計算時間の節約のため地形の影響等の計算を省略しているので、降水の強度の変化を予測できないが、10分ごとに新しい予報を発表するので、急速に発達した雨雲による雨量の予測には力を発揮する。
  局地的大雨や集中豪雨発生のおそれが高まった場合には、河川、渓流、下水管、用水路などの危険な場所からは避難しなければならない。都市部では、浸水の危険性が高い地下街や地下空間への避難も避けなければならない。自動車を運転中の場合は、アンダーパスや地下道路の通行はなるべく控える必要がある。自動車の排気口から水が流入したり、運転を制御するコンピュータが冠水したりして運転が不能になる場合があるからだ。

降水ナウキャストによる予測例(平成18年5月24日の神奈川県の強雨)
上段:観測値、下段:18:50を初期値とした降水ナウキャストによる予測

局地的大雨への対応
 しかし局地的大雨の被害が発生しやすい場所で活動する場合もある。そのような場合、活動の一日前から数時間前には、「大気の状態が不安定」「天気が急変するおそれ」といった天気予報の解説がされていないかを、あるいは「所によって雷を伴い」といった予報が出ていないかを、テレビ、ラジオ、インターネットを利用して確認することが重要だ。さらに活動中も、携帯電話などを利用して、雷注意報や大雨注意報が発表されていないかを、あるいは、気象レーダー、降水短時間予報、降水ナウキャストによる予報を、随時チェックすることも必要だ。地方公共団体や民間予報事業者等が大雨に関する情報をメールで提供するサービスも行っており、そうしたサービスを事前に登録しておくのも良いであろう。
 携帯電話を利用出来ない場合は、空の変化に注意を払い、天気の急変に備えなければならない。例えば、真っ黒い雲が近づき、周囲が急に暗くなる、雷鳴が聞こえたり、雷光が見える、冷たい風が吹き出す、大粒の雨やひょうが降り出すといったことは、発達した積乱雲が近づく兆しだ。

状況に応じた行動が重要
 大雨による大規模な土砂災害や水害の危険がいよいよ迫ってきたら、適切な避難行動が必要になる。この際、具体的にどのような事に注意して避難すればよいのか。今年3月に発表された「大雨災害における避難のあり方等検討会報告書」によると、近年、避難の時期、方法、場所が適切でなかったなど、状況に応じた適切な避難行動が選択されなかったことで被災した事例が数多く発生している。
 住民にとっての避難のイメージは、自宅から避難所として指定されている小中学校などの公的施設へ移動する「立退き避難」を前提として捉えられている場合が多い。そのため、行政が指定する避難所に移動することが最善だという固定観念で、夜間や降雨時あるいは道路が浸水しているような悪条件のなかを避難して被災したという事例も多くあるのだ。
 例えば、大雨時に自宅にいた場合、見通しの悪い夜間や、道路の冠水などの危険な状況下での避難はできるだけ避けなければならない。自宅や隣接する建物の2階などへ一時避難し救助を待つことも選択肢に含まれると考えるべきである。また、避難所へ避難する場合は、がけ崩れのおそれがある斜面や土石流発生のおそれがある渓流の通過は避ける必要がある。土石流発生のおそれがある場所では流れに対して直角方向にできるだけ離れる、渓流を渡って対岸に避難することは避ける、といったことも大切だ。

大雨に対する対応
局地的大雨や集中豪雨の危険性

日頃からの備えが身を守る
 こうした、いざという時の行動は、私たち一人ひとりが、日頃から大雨時には身の回りのどのような場所に危険性が潜んでいるのかについて、自治体などが公表している洪水ハザードマップ、土砂災害危険箇所マップなどによりあらかじめ確認し、把握しておくことが重要だ。このような災害に備える自助努力こそが、大雨災害から自分の身を守るための最善の対応策である。
 例えば、居住地域を大雨が襲ったことがあれば、そのときの状況を思い起こしておくことも有効である。近隣に河川があれば、溢れたときにどう逃げるかをイメージしておくこと、一人ひとりが身の回りで想定される事態を想像し、ハザードマップでの避難場所や避難経路を確認し、実際に自分の目で確認しておくことが大切だ。さらには住家に災害保険をかけておくことも災害対策の重要な手段のひとつになる。
  もしも大雨に見舞われたときには、日頃の備えを充分に活かして適切な判断を行うこと、それを可能にするために情報収集と「いざというとき」の想像力を身につけておくことである。

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