200702:2007年(平成19年) 能登半島地震・輪島市

【概要】

(1)被害の概要
○市勢
震災前年の平成18年2月1日、隣接する旧門前町と合併し、新たに輪島市として市制施行。

表1 輪島市の概要
人口等

人口 34,062人、世帯数13,232世帯(平成19年3月1日現在)

高齢化率35.0%《門前地区47.1%、輪島地区31.4%》(平成17年10月1日国勢調査)

地 理能登半島の北西部に位置し、東部に連なる300~500m級の山々を源とする小河川が形成する沖積平野に市街地・農耕地が開けている。海岸線が優れた自然景観から能登半島国定公園に指定されている。
特産等古くから港町として栄えた海上交通の要衝。輪島塗などが盛ん。

○被害状況

表2 人的被害(平成19年5月1日現在)
地区名死者(人)負傷者(人)
重傷軽傷
輪島地区12457
門前地区227
その他5
14669

(出典)石川県輪島市『視察資料(能登半島地震について)』平成21年2月16日。

表3 建物被害(平成19年5月1日現在)
地区名世帯数住家(棟)非住家(棟)
全壊大規模半壊半壊一部損壊合 計全壊大規模半壊半壊その他
うち全半壊計
輪島地区9,883175453885,0166085,624381613781,781
(住家被災世帯比率)(1.77%)(0.46%)(3.93%)(50.75%)(6.15%)(56.91%)
門前地区3.349338705832,7109913,7011,1171088293,036
(住家被災世帯比率)(10.09%)(2.09%)(17.41%)(80.92%)(29.59%)(110.51%)
13.2325131159717,7261,5999,3251,4981691,2074,817
(住家被災世帯比率)(3.88%)(1.77%)(1.77%)(1.77%)(1.77%)(1.77%)

※義援金申請件数では、一部損壊は9,988件

(出典)石川県輪島市『視察資料(能登半島地震について)』平成21年2月16日。

・特に、門前地区(旧門前町)における建物被害が多く、全体の約3割が全半壊となった。
・市内の酒造業5軒が全て被災、輪島塗の漆器事業者も作業に不可欠な蔵・店舗の全半壊が多かった。
・神社仏閣、文化財被害も多く、観光施設である総持寺(門前地区)も大きく被災した。

(2)災害後の主な経過

表4 災害後の主な経過(政府、石川県、輪島市の取組状況)
月日■輪島市の対応  □石川県の対応  ◇政府等の対応
平成19年3月25日

地震発生【最大震度6強】

■災害対策本部設置
□災害対策本部設置(奥能登総合事務所に現地災害対策本部設置)
□災害救助法の公示(3市4町に適用)
◇災害救助法適用
◇政府調査団輪島市着,政府現地連絡対策室設置

16:50 電気が復旧救出・救助活動ほぼ終了

27日

◇平沢副大臣を現地に派遣(県・7市町)災害復旧に関する緊急要望

28日□現地災害対策本部を輪島市役所に移設
※県現地本部と輪島市災対本部の合同会議開催開始
29日◇被災者生活再建支援法に係る技術指導
30日□応急危険度判定調査完了
(県・市)緊急要望
31日□住宅相談窓口、営農相談窓口の設置
※この日より合同会議に穴水町参加
4月2日■地震災害対策広報発行(り災証明と支援策について)以降随時発行
◇被災者生活再建支援法適用(適用日3月25日)
□被災者生活再建支援法の公示、県の上乗せ、横出し制度の創設
3日□罹災証明に係る外観調査研修会を開催(奥能登総合事務所)
□総理大臣への被害等の説明及び要望
6日□被災者生活再建支援相談に係る市町職員説明会を開催(奥能登総合事務所)
7日

8:00 水道が復旧

(県・市)生活再建相談窓口の設置
8日□自衛隊災害派遣撤収要請
9日◇応急修理説明(14:30-18:00)
10日(7市町)首長が官邸、各省庁へ訪問、緊急要望書の提出
□中小企業復興支援基金の創設を発表
13日■応急仮設住宅の正式受付(~19日)    ◇総理大臣現地視察
14日※第17回 合同会議(応急対策ほぼ終了。以後、月・水・金に開催)
17日■災害復興支援室設置,支援窓口を設置し、門前諸岡地区より相談、受付を開始
18日□石川県能登半島地震復旧・復興本部の設置
20日◇復旧・復興対策に関する関係省庁局長会議(第1回)◇激甚災害の指定(公布25日)
24日※合同会議 解散式  □現地災害対策本部を解散  ◇政府現地連絡対策室閉鎖
27日■第1回義援金配分委員会(受付は5月2日~)
28日■応急仮設住宅の入居説明(~5月3日)
5月2日■市議会に震災関係の緊急報告
7日■震災復興本部設置
11日■市議会に震災対策特別委員会設置
18日■震災復興委員会(第1回)
22日■第1回市議会震災対策特別委員会開催。同日、石川県知事への緊急要望活動
27日◇被災者生活再建支援制度に関する検討会が被災地視察
6月6日■市議会震災復興対策特別委員会・市震災復興委員会が新潟県被災地を視察研修(~7日)
19日◇復旧・復興対策に関する関係省庁局長会議(第2回)
7月3日□能登半島地震被災中小企業復興支援基金(300億円)を創設
6日■震災復興委員会(第2回)
9日■震災復興計画策定懇話会(第1回)
24日■震災復興計画策定懇話会(第2回)
30日■震災復興計画策定懇話会(第3回)⇒輪島市震災復興計画(素案)を市長に答申
8月20日□(財)能登半島地震復興基金を設立(8月31日「能登半島地震復興基金」500億円を創設)
9月21日■第2回義援金配分委員会
10月3日□能登半島地震復興プラン(第1次計画)策定
11月16日◇被災者生活再建支援法改正(12月14日施行,能登半島地震に遡及適用)
平成20年3月25日□能登半島地震復興シンポジウム開催
6月6日■輪島市災害対策本部解散(14:30)
8月26日■輪島市復興計画 策定
9月18日■市議会震災復興対策特別委員会の調査終了  ■輪島市災害対策基金の創設
24日■災害復興公営住宅の建設開始(門前町道下・市営松風台団地内)

【20070201】復旧・復興体制の構築(輪島市)

○震災復興本部
・平成19年5月7日、輪島市は「復興を総合的に推進するため、横断的な組織として」2)震災復興本部を設置し、7月中を目途とした復興計画の策定を決定した。石川県の災害復興基金創設という報道発表を受け、輪島市としてこの基金を活用して実施したい復興対策をとりまとめ、復興計画を策定することとしたものである。
・震災復興本部の本部員構成は、表のとおりである。

表 輪島市 震災復興本部の本部員構成
本部長市長本部の事務を総理し、本部を代表する。
副本部長副市長、教育長本部長を補佐し、本部長に事故があるときは、その職務を代理する。
本部員各部長、門前総合支所長、参与、総務課長、企画課長、財政課長本部長の定めるところにより本部の事務に従事する。
表 輪島市 震災復興委員会 専門部会構成
1生活専門部会
部会長/福祉環境部長, 副部会長/総務部長
災害復興支援室長、環境対策課長、福祉課長
健康推進課長、門前総務課長、門前健康福祉課長

防災体制の充実、コミュニティーの活性化、健康づくりの推進、社会福祉の充実

2都市基盤専門部会
部会長/建設部長, 副部会長/教育部長
都市整備課長、水道課長、下水道課長、文化課長
門前水道課長、門前下水道課長
都市住宅再建担当参事

住宅、歴史的建造物とまちなみの復興、ライフラインの復興

3産業専門部会
部会長/産業部長,副部会長/総合支所長
商工業課長、観光課長、門前商工観光課長

観光産業の復興、伝統産業(輪島塗、酒造り)の復興、農林水産業の復興、商店街の復興

※事案により、災害復興担当参与、交通防災担当参与、関係課長も参加。
※各専門部会の事務は、部会長担当課で行い、副部会長担当課はこれを補佐。

(出典)輪島市『能登半島地震 第1回震災復興委員会 資料』。


図 輪島市 震災復興本部の体制組織図

(出典)輪島市『能登半島地震 第1回震災復興委員会 資料』。

ヒアリングによると、組織体制の構築に当たっては、以下のような配慮等がなされた。
・下部組織として「生活専門部会」「都市基盤専門部会」「産業専門部会」を設置し、市の全部署が何らかの部会に入って検討する体制とした。
・門前総合支所(旧門前町役場)の関連課も専門部会の一員とし、門前地区の意見・要望等も反映できるよう配慮した。
・当初、委員会事務局は総務部総務課としていた。しかし、総務課は災害応急対応で忙殺されたこと、地震直前の平成19年3月19日に第1次総合計画が議会通過したばかりだったことなどから、この総合計画の担当でもあった総務部企画課が、事務局として資料作成・各部署調整等を行った。
・対外折衝(県とのやりとり等)、会議運営などは、総務部長が中心となって対応した。

○輪島市震災復興計画懇話会
・上記の震災復興委員会・各専門部会で検討した「復興計画 骨子(案)」をもとに、市民等の意見を反映させて復興計画を検討する場として「震災復興計画懇話会」が設置された。構成員は、主要経済団体、社会福祉協議会、区長会長2名(輪島、門前)、建設組合、学識者である。
・通常、総合計画の策定に際しては検討メンバーに市民からの一般公募も行うが、復興計画に関しては、時間的余裕がないことから一般公募は実施されなかった。市民の声は、各地区(輪島10地区、門前8地区)で年1回実施する市政懇談会を通じて得ることとした。
・コンサルタントへの委託は行わず、各課での検討結果を吸い上げて事務局(企画課)が懇話会資料とした。

【20070202】復旧・復興計画の策定(輪島市)

・「復興計画(素案)」の取りまとめ経緯は、図のとおりである。
・ヒアリングによると、「復興計画(素案)」策定後の経過は、以下のようであったとされる。
・当初はこの「復興計画(素案)」をもとに、県の基金メニューと調整して修正し、最終的な「復興計画」とする予定であった。このため、「素案」発表から約1カ月以内(平成19年8月中)を目途に、「素案」に記載した事業メニューの一覧と、各事業予算の算出根拠等を記載した個票一式を作成し、県に提出した。
・しかし、県の基金による事業メニューが確定した時点で、新たに「素案」に追加する事項はなかった。一方で「素案」からの事業メニュー削減はできないことから、これらについては市単独予算で実施することとし、内容を変更せずに表題から「素案」をとる形で「復興計画」として、平成20年8月26日に確定、公表した。

図 輪島市における「復興計画(素案)」策定の取り組み経緯

(出典)輪島市『能登半島地震 第1回震災復興委員会 資料』、をもとに作成

○復興計画策定の考え方等
・復興計画の策定に当たっての基本的考え方、復興計画の策定目標、策定上の留意事項については、表のとおりである。

表 復興計画策定に当たっての基本的考え方・策定目標・留意事項
基本的な考え方

被災者、各分野にわたる有識者、市民団体等の意見、提案等を十分に配慮し、災害以前の状態を回復するだけでなく、“ピンチをチャンスに”新たな視点から地域を再生することを目指し、社会情勢等の状況に応じた復興計画とする。

80%の復旧より120%に再生

今、有る観光資源を生かす。そして新たな活用できる資源を創り出す。

・塗師のたたずまい、漆のにおいのする...................................鳳至上町通り

・禅文化、精神修行のまち...................................................総持寺の門前通り

・北前船とともに栄えた天領地のまちなみ.......................................黒島地区

・造り酒蔵が点在するまち...................................................................市内全域

・農漁村集落のふるさとの継承...............................................道下、鹿磯地区

復興計画の策定目標

被災地域の住民の一日も早い生活の安定と、被災地の速やかな復興を総合的に推進する。

石川県の復興計画との整合性を図る。

復興のための地元協議会、委員会組織などと協働しすみやかに対応する。

策定上の留意事項

市民が自分たちの生活は自分たちで守り創造していくという取組みが重要であり、行政は、市民、企業及び団体等の参画を得ながら相互に連携し、協働して復興を進めていく仕組みづくりに配慮する。

復興計画の推進は、長期にわたることから、社会情勢や市民の多様なニーズの変化に対応した、柔軟で機動的な計画の運用をおこなう。

(仮称)震災復興市民会議で新たな課題、運用について対応

・復旧・復興期と発展期に分けた推進を図る。

・長期的な展望にたった産業の復興、まちおこしを模索する。

(出典)輪島市『能登半島地震 第2回震災復興委員会 資料』、をもとに作成。

○第1次総合計画との関係(位置づけ)
・すでに述べたとおり、輪島市では震災直前の平成19年3月19日に、第1次総合計画(平成19~28年度)を策定・公表していた。ヒアリングによると、この総合計画と復興計画の関係については、以下のとおりである。
・第2回震災復興委員会(H19.7.6)でとりまとめた「復興計画骨子(案)」の策定時点では、総合計画についてはほとんど意識していなかった。
・「骨子(案)」の策定完了後、骨子の肉付け作業(=「復興計画(素案)」の策定作業)を始める時点では、検討に当たって総合計画を意識するようになっていた。
・震災復興委員会の3つの専門部会のうち、生活専門部会については総合計画はほとんど意識せずにさまざまな事業メニューを立案した。一方、都市基盤専門部会、産業専門部会では、総合計画で記載している事項について具体化する形で事業メニューを立案している。
・総合計画策定にあたって行ったアンケート調査で市民が第1位に挙げた事項は「安心して暮らせる」であり、総合計画でも「安全・安心」を主要課題に第1項目に挙げるようになっていた。偶然ではあるが、震災後の復興計画の策定は、この総合計画の基本路線に合致していた。このため、総合計画の変更は必要なしと判断された。
・細かい点では、一部に総合計画の方針を変更した点もある。例えば、公営住宅については、従来は「今後は増やさない」という方針となっていたが、地震により「災害復興公営住宅」を新たに建設することとなった。
○復興計画の概要
・復興計画では、「震災を克服し総合計画に定めた都市像を実現」するために、復興にあたってのテーマと基本的視点が次頁のように定められている。

・復興計画の目標年次及び計画の進行管理に関しては、下記のように記載されている。しかしながら、平成21年2月に実施したヒアリングの時点では、「(仮称)輪島市復興推進市民会議」は設置されていない。

○県基金事業の窓口対応
この地震災害では、石川県により「能登半島地震復興基金」「能登半島地震被災中小企業復興支援基金」という2種類の基金が設置された。基金による各事業の窓口対応は市町村により行われているが、ヒアリング等によると、輪島市における対応で苦労した点等は以下のとおりである。
・基金事業について、その詳細(具体的手続き、要綱等)が確定する前に広く報道されたことから、窓口での住民対応、市議会への対応に苦労する面があった。
・「能登半島地震被災中小企業復興支援基金」については、比較的自由度が高かったことから、非常に利用しやすい事業メニューであったと評価されている。一方、「能登半島地震復興基金」については、一定期間を経て事業メニューが確定した後は、対象要件の緩和や新規事業メニューの追加などが行われず、窓口となった市町村から見ると、柔軟性にやや欠ける面があったとされる。
・政教分離の原則があるため、地域コミュニティの核となっていた神社・仏閣の被害に対する公的支援は難しく、例えばお寺の住居部分に対しても基金による住宅支援事業は適用できなかった。
○高齢化の進んだ地域における住宅再建
・輪島市内でも特に被害が集中した門前地区(旧門前町)は、従前から高齢化率47%と非常に高い地域であり、このため、復興に当たっては以下のような点が課題となった。
①過疎地域であり高齢化率も高く、活発な自力再建活動が期待できない
②地震をきっかけとして、過疎化が促進し、集落が存続できなくなる恐れがある
③歴史的なまちなみが形成されている地区においても多大な被害をうけている
④市の財政力が脆弱であり、積極的な支援活動が難しい
・このような課題を踏まえ、輪島市では以下の表に示す復興方針を定めた。ヒアリングによると、この考え方は、以下のとおりである。
・市の財政状況では、災害復興公営住宅などの形で積極的に支援を行うことは難しく、一方で被災者にも従来の居住場所に戻りたいという意向が強かった。
・このため、基本的にはできるだけ従来の場所での自力再建を目指した。

表 輪島市 住まいとまちづくり復興方針
輪島市復興方針(都市基盤)1できるだけ現在地で自力再建2自力再建できない方には従前居住地に近いところで戸建や小規模戸数の公的賃貸住宅を供給3賑わいや景観に配慮した街なみの復興や空地・空き家の活用を検討
活用制度イメージ応急修理制度
被災者生活再建支援制度
被災住宅再建利子補給制度
能登ふるさと住まい・まちづくり支援事業 等
災害公営住宅整備事業街なみ環境整備事業
復興まちづくり総合支援事業
伝統的建造物群保存地区の指定
空家住宅活用事業  等

(出典)輪島市都市整備課『2007.3.25能登半島地震復興対策』平成21年2月、をもとに作成。

・また、住宅の再建に関する被災者の意向調査等については、以下のように行われた。
1住宅再建アンケート(平成19年6月):住宅半壊以上の1,261世帯を対象に実施。「公営住宅入居希望」「再建に向けて不安あり」「自力再建可能」の3区分で世帯数を把握。
2住宅再建ヒアリング(同年10月):上記のアンケートで「公営住宅入居希望」「再建に向けて不安あり」と回答した世帯、及び「自力再建可能」と回答した世帯のうち応急仮設住宅に入居した世帯を対象に実施。この時点で「公営住宅入居希望」「自力再建可能」の2区分で世帯数を把握。
3入居条件等確認(同年11月、復興基金等による住宅再建支援策の提示後):上記ヒアリングで「公営住宅入居希望」と回答した世帯、及び市広報紙11月号の広報を受けて新たに申込を行った世帯に対し、入居条件等の説明及びヒアリング。
・実際の住宅再建状況は、ヒアリングによると以下のとおりである。
・6月の住宅再建アンケート調査では、公営住宅を希望する世帯は78世帯だった。その後、住宅再建支援法の改正(及びその遡及適用)が発表され、さらに、能登ふるさと住まい・まちづくり支援事業が提示されるなど、支援策が充実したことから、11月に行った入居条件等確認(72世帯対象)では、公営住宅希望者は49世帯にまで減少した。
・支援策が充実したことに加え、高齢者のみの世帯などでは従前より小さな住宅でも十分であること、一部の補修により(従来の母屋でない建物でも)住宅として利用できるケースがあったことなどから、自力再建が進んだと考えられる。

○地域経済の復興
・特に大きな被害を受けた輪島漆器(輪島塗)、輪島市酒造業、商店街の3業種を対象に、石川県の「能登半島地震被災中小企業復興支援基金」による支援対策が実施された。
・ヒアリングによると、被害及び復興状況は、以下のとおりである。
・輪島塗職人が多く居住する鳳至上町(ふげしかみまち)地区では、作業場である土蔵が被災して取り壊しが進み、作業ができないという状況となった。NPO法人の輪島土蔵文化研究会が地域に入り、取り壊しを引き留めて修復を提言したり、再建支援などを行った。
・酒造業については、従前は土蔵が多かったが、被災後は土蔵以外で再建しているところがある。
・中小企業復興支援基金の事業により、商店街の再建がかなり進んだ。これらの多くは店舗併用住宅であり、住宅再建支援とは別に、中小企業基金からの支援もあったためと考えられる。
・平成21年3月現在の、復旧・復興状況は、以下のとおりである。
・輪島漆器:全半壊した事業所78件(全壊46件、半壊32件)中51件(65.4%)が復旧工事着手、うち42件(53.8%)が工事完了。
・酒造:全壊の5事業所すべてが復旧工事を概ね完了、自社での酒造り本格化。
・商店街:4商店街で全半壊した51件のうち45件が工事完了(平成21年1月末現在)。

【20070203】寄付された私有地への災害復興公営住宅建設(輪島市)

○制度の概要
・被災者が自らの所有する土地を市に寄付した場合、その土地に戸建ての災害復興公営住宅を建設し、元の土地所有者である被災者が入居する。一定期間(10年)後には、希望がある場合、適正価格で建物を入居者へ譲渡するとともに、当初寄付された土地については無償で譲渡する。


図 自己所有地・戸建型公営住宅のスキーム

(出典)輪島市都市整備課『2007.3.25能登半島地震復興対策』平成21年2月。

○制度考案の背景(ヒアリングより)
・被災者に従来の居住場所に戻りたいという意向が強かったこともあり、市長は当初から「元の場所に帰ってもらう」という基本方針を掲げていた。
・既存の災害復興公営住宅制度の規定では、土地は市有地であること、建設から一定期間を経なければ売却できないことなどが定められているが、これらの規定を読み替えることで対応し、特に新たな要綱等は作成しなかった。
・基本的に従来の公営住宅法の枠組みを超えてはいないので大きな問題は生じなかった。
・このような制度検討は、ちょうど県(建築住宅課)から市都市整備課に出向していた職員がおり、公営住宅の制度を熟知していたために行うことができた。
○制度の利用状況
・平成20年2月4日~29日の公募期間中、8戸の応募があった。しかし、その後、被災者生活再建支援制度、義援金、県基金事業である能登ふるさと住まい・まちづくり支援事業により、住宅再建に最大770万円の支援を受けられる制度が整ったこともあり、最終的な希望は4戸となった。

【20070204】歴史的・伝統的街並みの復興(輪島市)

○被害をうけた歴史的・伝統的街並み
・輪島市では、たとえば以下のような歴史的・伝統的街並みが被災し、復興の上で課題となった。
・鳳至上町通り:塗師屋の町としての歴史があり、格子戸の多い黒板塀の街並み。従来より「まちづくり協議会」を立ち上げて街並み整備を行ってきた地域。
・門前町総持寺通り商店街:曹洞宗大本山総持寺祖院に連なる商店街として発展。上記と同様に、従来より「まちづくり協議会」を立ち上げていた地域。
・門前町黒島地区:北前船の船主、船員の居住地として発展した街並みで、黒色釉薬瓦の屋根、横板張りで覆われた下見板張りの外壁が特徴。従来より「重要伝統的建造物群保存地区」の指定を目指した活動が続けられていた。

○復興に向けた各種事業等の活用
・これら歴史的・伝統的街並みの復興のために、以下のようなさまざまな手法が組み合わせて活用された。
①住まい・まちづくり協議会活動支援事業(石川県「復興基金」事業)
・震災復興のためのまちづくり活動を行う協議会の設置、協議会による「まちなみ保全」ルールの策定を支援する事業であることから、歴史的・伝統的街並みの復興まちづくり活動に活用。
・例えば、上記3地区のうち、従前は「まちづくり協議会」のなかった門前町黒島地区は、震災後、この事業を活用して協議会を設立した。
②能登ふるさと住まい・まちづくり支援事業(石川県「復興基金」事業)
・上記の「協議会」が定める「まちなみ保全」のルールに従って住宅を再建する場合、200万円を上限に再建資金を支援する事業であることから、これを用いて歴史的・伝統的街並みのための配慮基準に従った住宅の再建を推進。
③被災地における復興まちづくり総合支援事業(国土交通省事業)
・平成20年度に創設された本事業を活用し、輪島市全体の計画である「輪島市住まい・まちづくり復興計画」と、市内5地区を対象とした「地区別計画」の策定を実施。これら5地区の中に、鳳至地区、総持寺周辺地区、黒島地区が含まれている。
・具体的な進め方としては、各地区の「まちづくり協議会」に設置してもらった部会において、学識経験者のアドバイザー、まちづくりコンサルタントの支援を受けつつ「地区別計画」の検討が進められた。
④街なみ環境整備事業(国土交通省事業)
・鳳至地区、総持寺周辺地区で、地区別計画に基づいた修景施設整備を行う際に活用。
⑤地域住宅交付金(国土交通省事業)
・黒島地区で、空き家活用を行う際に活用。

表 輪島市住まいづくり基準

基本的・全体的事項

1地元材を使用した在来工法による木造住宅としましょう。

2自然材料の利用に努めましょう。

3地元産の能登ひば、杉を使用し、拭漆仕上げとしましょう。

住宅の形態・デザインに関する事項

4屋根は勾配屋根とし、黒色系の日本瓦葺きとしましょう。

5建築物の外壁は、作見板、下見板などの木材で仕上げましょう。

6格子戸の設置や木製の窓格子を設けるなど修景を図りましょう。

7玄関などの出入り口は、「門口(かどぐち)」を設けましょう。

8玄関などの出入り口には屋根又は庇を設けましょう。

9建物の外壁は、隣接敷地境界から50cm以上離して建てましょう。

街並み・風景に関する事項

10周辺の街なみや景観に調和した形態、色彩としましょう。

11軒の出は深くしましょう。

12バランスのとれた外観に配慮しましょう。

13塀を設ける場合は、できる限り生け垣、板塀等圧迫感の無い材料、形態としましょう。

生活環境に関する事項

14コミュニティを大切にしましょう。

15良好な敷地の整備に努めましょう。

16地区生活の環境を維持しましょう。

17防災、防犯に配慮しましょう。

(出典)輪島市都市整備課『2007.3.25能登半島地震復興対策』平成21年2月。


図 輪島市総持寺周辺地区の街なみ環境整備事業

(出典)石川県『能登半島地震からの復興の取組状況・今後の計画』

【参考文献】
1)石川県輪島市『視察資料(能登半島地震について)』平成21年2月16日。
2)輪島市『能登半島地震第1回震災復興委員会 資料』。
3)輪島市『能登半島地震第2回震災復興委員会 資料』。
4)輪島市『輪島市復興計画』平成20年8月26日。
5)石川県『平成19年能登半島地震災害記録誌』平成21年3月25日。
6)輪島市都市整備課『2007.3.25能登半島地震復興対策』平成21年2月。
7)石川県『能登半島地震からの復興の取組状況・今後の計画』。

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