・200301:2003年(平成15年) 水俣豪雨災害
【概要】
(1)被害の概要
平成15年7月18日から20日にかけ、九州北部の対馬海峡に停滞していた梅雨前線に向かって、九州南西海上から暖かい湿った空気が舌状に流れ込み(「湿舌」と呼ばれる現象)、九州各地に局地的な集中豪雨をもたらした。
①被害状況
この豪雨によって発生した土砂災害や洪水被害により、熊本県、鹿児島県、福岡県、長崎県の各県であわせて23名が犠牲になった。
特に、熊本県においては、20日未明、熊本県水俣市の深川新屋敷(ふかがわ・しんやしき)地区と宝川内集(ほうがわち・あつまり)地区の2つの地区で発生した土石流災害により19名が犠牲になり、また、物的被害の額も県南地域を中心に県下50市町村で176億円にのぼった。
表1 水俣豪雨災害の主な被害状況(熊本県)
人的被害 | 死者19名(水俣市) | 重軽傷者7名(水俣市) | |
住家被害 | 住宅全壊20棟(水俣市) | 住宅半壊5棟(水俣市) | 床上浸水149棟(水俣市20、津奈木町8) |
床下浸水354棟(水俣市68、津奈木町 | 家屋一部破損6棟(水俣市5、津奈木町1) | ||
非住家被害 | 公共施設16棟(水俣市 | その他35棟29、津奈木町6) | |
水道施設被害 | 上水道施設2施設(水俣市、芦北町) | 簡易水道等10施設(水俣市) | |
公共土木施設等 | 道路施設261箇所 | 橋りょう施設5箇所 | 砂防施設57箇所 |
河川施設314箇所 | その他12箇所 | ||
教育施設被害 | 浸水被害2施設 | 他の被害4施設 | |
農業被害 | 農地の流失、埋没等579箇所 | 農道、用排水路等の崩壊386箇所 | 農作物の被害16.7ha |
農業施設19箇所 | |||
林業被害 | 林道施設183箇所 | 山地崩壊141箇所 | 林産物(立木)121箇所 |
造林地5箇所 | 治山施設4箇所 |
②主な災害箇所(水俣市)
図1 水俣市の主な被害箇所
(出典)水俣市総務課防災危機管理室『平成15年水俣土石流災害記録誌~災害の教訓を伝えるために~』平成20年3月。
(2)災害後の主な経過(熊本県、水俣市)
・水俣市では、午前5時、水俣市災害対策本部を設置し、直ちに警察、消防本部等に対し協力要請するとともに、午前5時20分、水俣市長は水俣市全域に避難勧告を出した。また、午前5時57分、水俣市長は県に対し自衛隊の災害派遣要請の連絡を行った。
・熊本県は、水俣市長からの連絡を受け自衛隊に対し災害派遣要請の一報を行うととともに、警察本部等から水俣市で死者が発生しているとの情報を受け、午前6時30分、熊本県災害対策本部を設置した。
・熊本県は7月31日、それまでの「災害対策本部」を「災害情報連絡本部」に変更するとともに、地元の芦北地域振興局に「水俣芦北地域災害復旧対策本部」を設置した。また、水俣市では8月4日に「市災害対策本部」を解散し、「災害復旧本部」へと移行した。
表2 災害後の主な経過(熊本県、水俣市の取組状況)
年 | 月日 | 項目 |
415 水俣市で土石流災害発生 | ||
500 水俣市「災害対策本部」設置、避難所の開設開始 | ||
520 水俣市内全域に避難勧告 | ||
557 水俣市長から熊本県知事に自衛隊災害派遣要請の要求 | ||
630 熊本県「災害対策本部」設置 | ||
7月21日 | 水俣市に「災害救助法」の適用 | |
7月22日 | 政府調査団の現地視察 | |
7月25日 | 水俣市に「被災者生活再建支援法」の適用 | |
7月30日 | 仮設住宅の建設着工 | |
7月31日 | 「災害対策本部」を「災害情報連絡本部」に変更芦北地域振興局に「水俣芦北地域災害復旧対策本部」を設置熊本県本庁に「被災者支援対策連絡会議」、「災害復旧対策連絡会議」、「災害防止対策連絡会議」の設置水俣市避難所の閉鎖(避難者は一時的に、市営住宅・チッソ社宅へ) | |
8月1日 | 水俣市「危機管理室」の設置 | |
8月4日 | 水俣市「災害復旧本部」の設置 | |
8月21日 | 仮設住宅の入居開始 | |
9月2日 | 「激甚災害(本激)」の指定 | |
9月4日 | 水俣市土石流災害復旧計画検討会(第1回)の開催 | |
1017日 | 水俣市土石流災害検討委員会(第1回)の開催 | |
1024日 | 水俣市豪雨検証会の開催 | |
3月12日 | 「局地激甚災害」の指定 | |
3月18日 | 宝川内集地区及び深川新屋敷地区の災害復旧工事(本堤工事)の着工 | |
3月末 | 「水俣芦北地域災害復旧対策本部」「被災者支援対策連絡会議」「災害復旧対策連絡会議」「災害防止対策連絡会議」の解散 | |
4月1日 | 熊本県「防災危機管理室」の設置 | |
8月4日 | 水俣市「災害対策本部」解散、「災害復旧本部」へ移行 | |
3月末 | 水俣市砂防えん堤などの工事、土砂災害監視システムの運用が終了 | |
6月30日 | 通行止めが続いていた水俣市鶴田橋の復旧工事が終了 | |
1120日 | 集・川原地区復興まつりが開催(復興の碑建立) | |
平成18年 | 3月1日 | 水俣市「災害復旧本部」の解散 |
【参考文献】
1) 水俣市『2008年市勢要覧』平成20年3月。
2)熊本県総務部危機管理、防災消防総室防災班『平成15年7月県南集中豪雨~水俣市土石流災害等~』平成17年4月。
3)水俣市総務課防災危機管理室『平成15年水俣土石流災害記録誌~災害の教訓を伝えるために~』平成20年3月。
・熊本県は7月31日、それまでの「災害対策本部」を「災害情報連絡本部」に変更するとともに、地元の芦北地域振興局に「水俣芦北地域災害復旧対策本部」を設置し、また、本庁には、「被災者支援対策連絡会議」「災害復旧対策連絡会議」「災害防止対策連絡会議」を設置して、災害復旧対策と災害防止対策に体制を移行させた。
・熊本県は、水俣市、学識経験者、地元住民による「水俣市土石流災害検討委員会」及び「水俣市土石流災害復旧計画検討会」を設置した。「水俣市土石流災害検討委員会」では土石流災害の発生と被害拡大の原因究明、復旧の方法や警戒避難体制等の検討を行い、「水俣市土石流災害復旧計画検討会」では、地元住民や行政等の意見集約と被害再発防止対策や早期復興の検討を行った。
・水俣市では8月4日に「市災害対策本部」を解散、市長を本部長とする「災害復旧本部」へ移行した。本格復旧に向けて復旧計画の住民説明会を実施し、順次着手した。
【参考文献】
1)国土交通省中部地方整備局富士砂防事務所『災害から明日を築く−土砂災害地域復興の教訓集−』平成20年2月。
○復旧・復興計画の策定経緯
・本災害では全体を統括した復興計画は立案されていないが、復旧計画の立案にあたっては、砂防担当部局がリーダーシップを発揮した。再被災の防止を前提とした砂防施設計画を早期にまとめ、保安林を担当する林務担当部局との調整を進めながら、災害の発生から約45日後にあたる9月4日の第1回復旧計画検討会に計画案を提示することができた。
○復旧・復興計画の基本方針
・特に大きな被害のあった宝川内集地区においては、熊本県による県営事業として治山事業、砂防事業、農地災害関連区画整備事業を組み合わせ、一体的な復興を図るという方針で、各機関が連携して復旧事業を行うこととなった。以下に、宝川内集地区復旧計画の基本方針を列挙する。
①効率よく、できるだけ早い復興を図るため、関係機関が連携して事業を行う。
②不安定な土砂に対して、治山事業と砂防事業が連携して対処する。
③崩壊地については山腹工で不安定な土砂を抑え、斜面の緑化を図る。山腹工の計画においては地下水の処理に留意する。
④渓流については、階段状に治山施設(谷止工)を設置し、山脚を固定するとともに、縦断勾配を緩和し、土砂等を緩やかに流す。
⑤農地復旧は、効果的な営農が図れるように、被災していないところまで含めた区画整理方式で行う。
⑥地区内にある転石等をなるべく有効利用し、自然景観に配慮する。
○主な復旧計画
・宝川内集地区の復旧、・林地復旧、道路復旧、・農地災害関連区画整備事業による宅地と農地の再生
○主な復旧・復興事業
・災害関連緊急治山事業、林地荒廃防止施設災害復旧事業、災害関連緊急砂防事業、農地災害関連区画整備事業
○住民への対応
・事業を実施するにあたって、事業説明会を通じて、県や市が地区住民とのコミュニケーションを早い段階から図っていたため、その後の対応を円滑に進めることができた。
写真 区画整理後の宝川内集地区
(出典)国土交通省中部地方整備局富士砂防事務所『災害から明日を築く−土砂災害地域復興の教訓集−』平成20年2月。
【参考文献】
1) 農林水産省農村振興局防災課災害対策室『災害復旧の円滑な実施のために(災害復旧の実務)』平成18年1月。
2)国土交通省中部地方整備局富士砂防事務所『災害から明日を築く−土砂災害地域復興の教訓集−』平成20年2月。
○復興事業の進捗状況と概要
・被害の大きかった宝川内集地区においては県施工の治山事業、砂防事業、農地災害関連区画整備事業を組み合わせて一体的な復興を図る方針で事業が進められている。
○教訓等
・農地については、単なる災害復旧方式ではなく、農地の効率的な集約と宅地の確保という観点から農地災害関連区画整備事業が実施された。農地だけの復旧という案もあったが、地区全体の復興をめざして被災していない農地・宅地も含めて集約するというやり方が地区の再建上は有効だと判断された。
・宝川内集地区では、地権者も各事業について重複していたため、まず全体の事業計画の説明が県主導で早期に行われ、その後、個別事業の説明を行うという方法をとった。説明会には県、市、関係機関、集落の人たちが集まり、計画事業の了解を得て進めた。
・当地区は、昔から人のまとまりの強い地区であるといわれ、県や市が事業に関して説明会等を通じて地区とのコミュニケーションを早い段階から図っていったことがその後の対応を円滑に進めることができた要因にもなった。
表 事業概要
事業種別 | 事業概要 | 用地買収等 | その後の見通し |
①災害関連緊急治山事業②林地荒廃防止施設災害復旧事業 | ①谷止工2基山腹工②谷止工3基 | 地権者名土地使用承諾請 | 平成年月工事完了予定平成年度以降措山激甚災害対策緊急事業で容止工基等施工予定 |
災害関連緊急砂防事業 | 124003工事用道路 | 地権者名完了 | 2163平成年月工事完成予定。 |
農地災害関連区画整備事業 | 受益面積対象面積 | 受益戸数戸同意徴収請 | 平成年月事業計画確定後、平成年月工事発在予定。平成年月工事完成予定。 |