・200201:2002年(平成14年) 台風6号洪水
【概要】
(1)被害の概要
平成14(2002)年7月11日午前0時30分頃、台風6号は房総半島に上陸、三陸沖を北上したのち北海道に再上陸し、オホーツク海上へと抜けた。台風の接近に伴って活発化した梅雨前線と台風の強い雨雲の影響により、9日から11日にかけては東海地方から東北地方の広い範囲で大雨となった。
主な豪雨域は、岐阜県西部、静岡県東部~山梨県西部、群馬県北部~栃木県北部であり、この大雨により各地で河川が増水し、直轄河川では全国24水系58河川で警戒水位を超えた。このうち、阿武隈川、北上川、利根川水系思川の3河川は氾濫の恐れのある危険水位を超え、さらに木曽川水系の揖斐川と牧田川、那珂川の3河川は氾濫の危険性が最も高くなる計画高水位をも超えた。
○被害状況
・岐阜県では、長良川が増水して警戒水位を超え、濁流による堤防の崩落が相次いだ。群馬県では、竜巻とみられる突風や土石流が発生した。福島県では、阿武隈川が危険水位を超え浸水被害が発生し、宮城県では旧北上川、江合川が溢れて浸水被害が発生した。岩手県では北上川支川の氾濫などにより45市町村で浸水被害が発生した。
・記録的な大雨により、全国で死者・行方不明者7名、住家の全壊・半壊41棟、床上浸水2,533棟、床下浸水7,642棟など、各地で大きな被害をもたらした。
表1 台風6号の主な被害状況(平成14年10月25日作成)
(2)災害後の主な経過(東山町・川崎村)
・岩手県で最も被害が大きかったのは南部の東山町で、10日から11日にかけて大雨となり、町内を流れる北上川支川の砂鉄川では午前3時に警戒水位を超え、午前5時30分頃から氾濫した。午前7時8分には、長坂、松川の両地区合わせて900世帯2,100人に避難勧告が発令された。同日午前7時30分、町は災害対策本部を設置して対応した。
・砂鉄川支川の猿沢川も11日午前8時頃から急激に増水して氾濫。県は東山町に対し11日、災害救助法を適用した。
・砂鉄川が北上川と合流する地点に位置する岩手県川崎村では、午前7時には災害対策本部を設置して災害の対応に当たった。村を東西に流れる千厩川も増水、また、北上川も急激に増水し、同村の諏訪前地点で、12日午前1時に危険水位を大きく上回り、浸水被害や土砂災害が各所で発生した。孤立した住民も多く、水防団員が救助用ボートなどで救出に当たった。
表2 災害後の主な経過(岩手県・東山町・川崎村の取組状況)
5:30頃 砂鉄川の氾濫が始まる 7:08 東山町長坂、松川地区に避難勧告 7:00 川崎村災害対策本部設置 7:30 東山町災害対策本部設置 8:00頃 猿沢川の氾濫 8:20 東山町から県に対し、住民救助の自衛隊災害派遣の要請 東山町に災害救助法適用 1:00 川崎村諏訪前地点で、北上川の危険水位を上回る 岩手県知事が現場視察 岩手県が国に対し、激甚災害法の適用を要望 砂鉄川流域に災害対策関連事業(河川激甚災害対策特別緊急事業等)が採択 第1回生態系に配慮した砂鉄川河道計画検討委員会
【参考文献】
1)千厩地方振興局土木部『自然の驚異にさらされて~台風6号による被災状況とその復興に向けて~』平成15年3月。
2)岩手県ホームページ『一級河川砂鉄川河川激甚災害対策特別緊急事業における多自然川づくりの紹介』。
3)内閣府・災害情報一覧ホームページ『平成14年台風第6号に伴う大雨による被害状況について(第13報)平成14年11月5日』。
4)国土交通省河川局『災害列島2002災害の予知・予測への挑戦』平成15年。
○被害調査の方法
・区長(町内会長)の協力で、床上、床下の浸水状況を調査してもらい被害概要を把握した(1行政区20〜300世帯)。
・被害概要をもとに、詳細を町の建設、農林担当の職員が調査した。
・過去の被災経験から、区長の協力による被害調査という方法が浸透していた。
・今回の調査では、新しい被害認定基準を基にした調査を実施しなかった。
○アンケート調査
・役場が実施したものではないが、町の公民館で、被災者に対するアンケート調査を実施した。
・調査対象:被災地区の住民
○ゴミ・ガレキの収集
・町で建設業者のトラックを委託し各世帯から収集した。
・回収時に畳回収トラック、家電回収トラックのように回収物を限定して集めた。最初から分別して集めていたことが、後の処理に役立った。
・ゴミの分別は平常時から厳しく実施しており、住民に浸透していた。平常時からゴミに対する住民の意識が高かったので、災害時においても少々苦情があったが大きな問題にならなかった。
・災害ゴミの収集は、被災後約3週間後の8月2日まで実施した。
○仮置き場
・被災翌日からゴミの収集を開始した。当初は、平常時から委託している一部事務組合に持っていったが13日には一杯になってしまい、町有地に仮置きすることにしたが、すぐにそこも一杯になってしまい、2箇所に仮置き場を増やした。
・普段はゴミ処理を組合に委託しているため、急にゴミ処理の事務が発生した当初、どこに問い合わせるのか分からなかった。手続きも何をしていいのか分からない状態だった。近年水害にあった軽米町に行って情報を得た。
・ゴミの収集・運搬を委託するには、町の業者が最初に浮かぶ。ゴミを運ぶトラックがある業者といえば、建設業者である。しかし、道路復旧用にも使用するため台数に限りがある。今回は、被災前の事業として下水工事を大手建設業者に頼んでいたので、そこに支援を依頼した。
○最終的な処理
・燃えるゴミは大東町のゴミ処理センターで処理が可能だったので、センターに運んだ。
・畳、家具についても、細かくすればセンターで処理できるため、ゴミの粉砕業者を捜し、8月から処理を開始した(町負担で実施)。
○リサイクル法対象製品への対応
・リサイクル対象製品についても、トラックで収集し仮置場に山積みにした。
・リサイクル対象製品はすべてリサイクルに回した。泥だらけのものは、水で洗い流したりした。
・対象となる家電製品の中には、この際だから捨ててしまったというものも混ざっていた。
・一般ゴミを含め明らかに災害ゴミではないもの(まだ十分使えるような自転車)などが多くあった。
・そのまますべて収集していたが、国の査定では、補助は災害で発生したゴミが対象であるため、証明できなければ補助は認められないと言われた。
・被害調査で床上50cm以上の家屋からのものを浸水ゴミと認めることとした。公民館のアンケートで被害を受けた家電・家具の質問をしていたので、回答内容と浸水状況を照らし合わせ、被災ゴミを判断した。
・結局、4割弱がリサイクルゴミの補助を受けることができなかった。
○教訓
・ゴミを処理する業者との協定を結んでおいて、すぐに対応できる体制を事前から作っておく。
・県も業者を把握しておいて、すぐに被災地周辺の業者リストを市町村に提示する等の支援をして欲しい。
・他の処分場に持っていった場合に費用がかかる所もある。遠い場合には、高速代などさらに費用がかかる。ゴミ処理には補助が出るというが、1/2であり残りは町が負担するため、遠くに持っていくことで費用をかけるか、町内で長期間かけて処理するか選択が難しい。
・本災害では、全体的な復旧・復興体制は構築されていないが、岩手県では、平成14年10月11日、台風6号で甚大な被害を受けた砂鉄川流域について、抜本的な治水対策を目指した災害対策関連事業(河川激甚災害対策特別緊急事業等)が採択された。
・本事業は国土交通省、岩手県、東山町、川崎村が連携して行い、砂鉄川の猊鼻渓下流部から北上川合流部までの、およそ12kmの全区間で堤防が整備されることになった。【20020105】を参照。
・「砂鉄川治水懇談会」「生態系に配慮した砂鉄川河道計画検討委員会」から、砂鉄川整備方法の提言が行われ、また、地元住民による「親しみのある砂鉄川を語り合う会」などが開催された。
・岩手県では、以下の復旧事業が行われた。
○治水関連事業
○農作物被害に対する対策
○農作物災害復旧対策事業
○農地・農業用施設被害に対する対策
○林業施設被害に対する対策
○森林被害に対する対策
○水産業被害に対する対策
【参考文献】
1)岩手県『平成14年農林水産業気象災害年報』平成15年4月。
○概要:
・平成14年7月の台風6号の接近により災害を受けた砂鉄川において、再度災害の防止と抜本的な治水対策を図るための「河川災害復旧等関連緊急事業」、「河川激甚災害対策特別緊急事業」、「河川等災害関連事業」が採択された。これまでの「床上浸水対策特別緊急事業」などと併せて総合的な治水対策が実施されることになった。
・これらの事業は、「連携」「上下流一貫」「短期集中」をキーワードに東北地方整備局・岩手県が実施するもので、14年度より緊急に着手することになった。(次頁参照)
表 砂鉄川総合的・緊急治水対策の概要(国、岩手県)
平成年月洪水による洪水被害を契機に、浸水被害の解消を図るため、平成11年度より抜本的な築壌の整備などを進めている。
図 砂鉄川総合的・緊急治水対策の概要(国、岩手県)
○治水関連事業の採択が迅速に行われた要因
・発災からおよそ3ヶ月で事業の採択が決定された。
・当該地域は、これまでにも水害を経験しており、地元の東山町、川崎村では砂鉄川改修促進委員会を設置するなど対策の必要性が叫ばれていた。
・治水対策の第一段階として、川崎村での床上事業や、東山町の一部区間の広域一般改修事業が実施されてきた。床上事業等が推進されている区間は浸水被害が解消されるものの、未改修部の浸水被害の危険性は残されており、砂鉄川全体の治水事業実施の必要性について国、県も認識していた。
・今回の被災により、国、県、町、住民全体が早急に砂鉄川全域の総合的治水対策を実施しなければならないという共通認識をつよくもつことになり、中でも地元住民の賛同が早くから得られたことが事業の採択が迅速に行われた大きな要因である。
・また、国、県との連携がうまく図られ、計画の検討では何度も協議を重ね、「砂鉄川緊急治水対策」の計画骨子が国によってとりまとめられた。
○事業採択への取り組みの体制
[岩手工事事務所]
・事業採択に向け、発災後すぐに工事事務所内でチームを作り計画の検討をはじめた。
・これまでは、国、県ともにそれぞれが管理する区間のみの施策を考えていたが、管理区間以外も含めた1つの河川として総合的な治水対策の必要性を認識し県と協議を重ね施策を検討した。
[県土整備部]
・砂鉄川は千厩地方振興局が担当しているが、今回の災害は、県全体で3,000件の被害のうち、千厩地方振興局1,000件の公共土木施設に被害が発生し、局内の職員だけでは対応が困難な状況にあった。
・さらに激特採択に向けた調査も必要になり、他の振興局より応援の職員を派遣した。
・この事業開始にあわせ、平成15年4月より災害復旧対策課を新設する。
○事業実施に向けた住民への対応
・国、県それぞれが説明会を実施した。住民からも、治水対策への要望は強く、説明会の際には、拍手が起こった。
・地域全体で治水対策を盛り上げていこうという目的で、東山町、川崎村が主催で、国、県が後援という形で、「砂鉄川の集い」を開催した。集いは、住民1,300名ほどが参加した。知事、国交省事務次官も参加し、事業の説明も行った。
○その他の取り組み
・「次世代の北上川を考える流域懇談会」の開催
・「砂鉄川治水懇談会」の開催
・「生態系に配慮した砂鉄川河道計画検討委員会」の開催