災害対応資料集

・200003:2000年(平成12年) 東海豪雨

【概要】

(1)被害の概要
平成12年9月11日から12日にかけて、日本付近に停滞していた秋雨前線が台風14号からの暖かく湿った気流の流れ込みで活動が活発となり、東海地方は愛知県を中心に記録的な大雨となった。
このため、愛知県の西部を流れる一級河川新川では堤防が決壊したのをはじめ、県内各河川の破堤は45箇所に達した。浸水家屋は県内で約68,000棟を超え、伊勢湾台風に次ぐ浸水害となった。県内では300箇所を超えるがけ崩れが発生し、6名が犠牲となった(9月21日現在)ほか、農作物では、冠水により野菜・水稲などに大きな被害が出た。
今回の大雨で名古屋地方気象台が観測した、日最大1時間降水量97.0ミリ、最大日降水量428.0ミリ、最大24時間降水量534.5ミリは、いずれも統計開始以来で最も多い値である。

 

①市勢

人口等  ・総世897,877世帯

・総人口:2,173,867人

    (平成12年9月現在)
地理  ・面326.45km2 

・愛知県の西部に位置し、伊勢湾に南面しており、緩やかな東高西低の地勢である。市域の北か 

図1 名古屋市の位置

 

②被害の概要
・人的被害

表1 人的被害の状況(平成13年3月30日現在)

死者 行方不明者 負傷者 合計
重傷 軽傷
13  34  51 

・住家被害

表2 住家被害の状況(平成13年3月30日現在)

住家被害
全壊 半壊 一部破損 床上浸水 床下浸水
世帯 世帯 世帯 世帯 世帯
15  98  114  300  18  38  107  9,818  11,142  29,555  21,852  23,292  57,326 

 

写真1 新川破堤箇所(西区あし原町)
(出典)名古屋市消防局防災部防災室『東海豪雨水害に関する記録』平成13年3月

 

(2)災害後の主な経過

表3 災害後の主な経過(名古屋市の取組状況)

9月13日
月日 項目
平成12年 9月11日 1:45 大雨・雷・波浪・洪水注意報
      5:29 大雨・洪水警報、雷・波浪注意報
      災害警戒本部設置 第1非常配備 
      1540 災害対策本部設置 第2非常配備
      1615 第1回幹事会議
      1900 第3非常配備
      2110 第1回本部員会議
      2345 自衛隊派遣要請
   9月12日 0:00 第 
      2:30 愛知県から災害救助法適用決定の報告
      3:30頃 新川左岸破堤(西区あし原町)
      4:00頃 堤防仮復旧の後方支援(土のう調達)
      6:25 名古屋ヘリにより上空からの被災状況調査を実施
      9:00 り災証明取扱い各区へ周知市民相談室に相談窓口を設置 

被災者への公営住宅の提供 
      1300  
   災害義援金の受入、被災中小企業に対する災害復旧資金融資の実施
   1020 気象予警報全て解除
   9月14日 連休中におけるり災証明、市税減免申請の受付、相談対応の指示 

災害復旧に関する補正予算の専決処分(手続き) 

道路上の土砂、ゴミ撤去着手 

住宅の応急修理説明相談、受付、審査 
   9月20日 各区で、災害見舞金を贈呈(20日以降順次)
   9月25日 亡くなられた2名の方に対する災害弔慰金の支給を決定 
   1010日 1500 第 
   1120日 災害義援金、非住家見舞金を贈呈(20日以降順次)
   1130日 2100 市内避難所全て閉鎖
      2130 配備解除
   12  9:30 第 
      1000 災害対策本部廃止

【参考文献】
1) 名古屋市消防局防災部防災室『東海豪雨水害に関する記録』平成13年3月。

 

・り災証明発行の際に問題となった点は、当時の認定基準が、今の住宅に適用するには難しかったことであり、断熱材の被害など見えない部分については考慮しなかった。
・地震のように全壊、半壊など明かな被害と違って、水害は水が引くと、どこに被害があるのか分かりにくい。
・判断するためのプロがいない。職員が現地に出向いて判断していたが、明確な判断ができる基準がないため「隣の家は床上なのになぜうちは床下なのか」などの苦情が出たこともあった。
・東海豪雨後の対応として、外見の認定については、デジタルカメラにより撮影し認定の資料とするなどの対応策を考えた。
・平成13年に被害認定基準が見直されたため、愛知県が市町村担当者向けの勉強会実施している。新基準については一次判定、二次判定という判定区分に分かれており、まず外見から判断し、その後内部調査をするということになっているが、実際に内部調査が実施できるかどうか疑問である。今後、どのように対応すべきかについては市としても課題である。

 

・減免の対象となる「り災証明」「被災証明」の発行には区政協力委員が協力する。
・区政協力委員とは名古屋市の独自の町内会長のような位置づけの住民組織制度である。各町内会に区政協力委員を配備し、その上位にあたる小学校区毎に1名区政協力委員長をおいている。これは、伊勢湾台風後に整備された住民組織である。
・災害時には学区単位で「救助地区本部」を立ち上げ、避難所運営等の対応をする。区からも2名担当者を派遣し、学区の代表である区政協力委員長と区の担当者が中心になり、被災者の対応にあたる。
・区政協力委員長の活動の中で、被害の認定の補助を位置づけている。職員とともに現場に出向いて被害状況調査を実施した。

 

○事業所の災害ゴミの処理
・企業から出たものは産業廃棄物として処理していた。一般廃棄物とわけていたが、一部産業廃棄物が混ざっていた。一般世帯のゴミと合わせると災害ゴミは2万3千トン。通常時の4年分くらいのゴミが出た。
○ごみの仮置き場や処理方法
・仮置き場は公園に設置した。そこから知多沖で分別と廃棄を実施した。リサイクルできるものはここで業者が持っていった。
○リサイクル等
・畳は再生ゴミであるが,対応する業者が無かったため県外で対応した。燃えるゴミも大量にあったため、周辺のゴミ処分場数個所に運んだ。ただし処分場によって金額が異なったり,搬入業者が決まっていたりなど、柔軟に対応しにくい状態だった。
・特に問題となるのは町外への輸送手段であった。指定した業者以外ゴミを運搬することができないため全国120~130社と契約をした。業者が処分場に運んでいった際には、トラック毎にゴミの分量を計測しなければならなかったため、その計測待ちで道路が渋滞することもあった。
・そのほか,例外措置として自衛隊にも運搬を要請した。

 

・本災害における、愛知県の各部署の復旧体制と各対応について次頁に記載する。

表 愛知県の復旧体制

総務部  県民生活部 
部署  対応 
人事課  職員の派遣 
財政課  財政対策(災害関係予算措置等) 
税務課  被災者の税対策(地方税の減免・徴収猶予等) 
市町村課  市町村への財政支援等 
企画振興部  災害復旧に関する国への要望のとりまとめ、実施 
県民課  県民相談に関する対策等 
広報公聴課  報道機関等を通じての告知等 
国際課  外国公館等の連絡・折衝 
文化学事課  私立学校施設の復旧 
環境部  災害廃棄物処理のための被災市町村等の調整 
健康福祉部  医療救護、防疫活動、健康相談 

義援金・災害見舞金の支給等 
産業労働部  中小企業の災害復旧資金の融資等助成措置 
農林水産部  農地・農業用施設の復旧、林道・治山の復旧 
建設部  河川・道路・砂防等の復旧、住宅対策 
経理部  義援金品の受付 
企業部  県営水道施設の復旧 
文教部  文教施設の復旧 
警察部  被災地復旧に対する支援活動 

【参考文献】
2) 愛知県『平成12年9月11日からの大雨による災害の記録』平成13年3月。

 

○本災害では、事業全体を統括した復旧・復興計画は立案されていない。
○本災害における主な復旧事業は下記の通りである。
  ・河川激甚災害対策特別緊急事業
  ・公共土木施設災害復旧事業
  ・農林水産施設災害復旧事業
  ・災害廃棄物処理対策事業
  ・保育所等社会福祉施設災害復旧事業
  ・公立学校施設災害復旧事業
【参考文献】
2) 愛知県『平成12年9月11日からの大雨による災害の記録』平成13年3月。

 

○今回の災害では、名古屋市を始め愛知県、都市基盤整備公団等が公的住宅を提供した。
○住家被害は、全壊4棟、半壊100棟、一部破損18棟、床上浸水9,817棟、床下浸水22,525棟であり、こうした被害状況のもと公的住宅597戸の提供を行った。

 

○名古屋市では、自動車の被害に対して被災証明書を発行し、自動車を家財扱いとして、「災害援護資金の貸付」を適用した。
○証明を受けるためには、被災した自動車の写真、ディーラー等の証明などが必要であったが、申請数が多かったため、実質的には確認が不十分のまま証明書を発行するような弾力引用が認められていた。
○その結果、被害がないのに融資を受けるなど悪用される例もあった。

 

○上下水道の減免を申請なしで対処した。
○西枇杷島町など他市町村の上下水道も名古屋市の管轄であり、他市町村の罹災台帳の提供を受けて減免を実施した。

 

○名古屋市は床上浸水等の住宅約13,400棟を対象に家屋資産評価額の評価替えを実施。独自のシミュレーションで得たデータを基に、対象住宅の経過年数を一律水害でさらに3年分古くなったものとみなし家屋評価額を減額した。

 

○減免措置は、床上浸水世帯が対象となった。
○市立の幼稚園児、高校生は授業料を半額減免、私立は一定額の補助を行った。小中学校の児童生徒は、既存の就学援助制度 の中で学習に必要な費用の補助を行った。

 

○県下全体に被害が広がっており、都市部では破堤・浸水が多く、公共土木施設の被害よりも、広範囲で民家被害が多かった。公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法にもとづく「災害復旧事業」は1,333箇所にも上った。これは、経験したことがない作業量であり、事業費は201億5千万円に達した。
○災害査定
・スケジュールはかなりハードで、被災後3か月以内で査定を行うこととなっているため、1,333箇所について、査定の班編制を検討し、査定官及び立会官の日程調整にすぐ入った。今回は4回に分けて実施することにした。最初は簡単なものを査定し、大変なものは後にまわした。
・国に対して災害査定を簡素化するように岐阜県と一緒に要望し、次のような措置がとられた。
1) 机上査定 通常300万円以下の申請が対象 → 600万円以下を対象
2) 査定前工事 1,500万円以上の査定前の応急工事は国と協議が必要
        → 3,000万円以上を対象
3) 総合単価の適用 1,000万円以下の工事では、査定設計書を作成する際の積算について総合単価(材料、手間、諸経費まで含んだ単価)の利用が認められる。
    → 2,000万以下まで総合単価の利用が認められた。
・被害1,333箇所のうち479箇所が市町村災で、県職員2名を派遣して資料作成・指導・助言した。

 

○愛知県と名古屋市は豪雨被害を受けた商店街に復旧補助金を交付
○愛知県の復旧補助金の条件等
名称:「商業団体当事業費補助金」
対象:災害救助法を適用された名古屋市、師勝町など9市12町の商店街振興組合、
商工会など。
補助額:被災した共同施設の復旧に必要な経費の原則20%以内、一団体1,000万が限度。
○名古屋市の復旧補助金の条件等
対象:名古屋市内の被災した商店街振興組合や商工会、事業協同組合。共同店舗、
組合事務所、放送設備、 街路灯、アーチ、アーケードなど被災した共同施設。
補助額:復旧費用の20%(街路灯、アーチ、アーケードの建て替えは40%)。
限度額は750万円

 

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