災害対応資料集

・199901:1999年(平成11年) 高潮災害:熊本県不知火町

【概要】

(1)被害の概要
①松合地区の概要
・松合地区は、熊本県のほぼ中央に位置する宇土半島南岸に位置する不知火町(現:宇城市、以下同じ)にあり、果樹園芸栽培農業と沿岸漁業・海苔養殖などを基幹産業とする集落である。また、古くは江戸時代から海産物の集積地として栄えてきた歴史を物語る白壁土蔵が有名であり、歴史的町並みの保全が図られてきた地区である。
・松合地区の被災箇所は、昭和47年に開通した国道266号線と弓状に国道とつながる県道に挟まれたすり鉢状の地域であり、約80戸の家屋が点在していた。この集落内には係留機能を持った3箇所の船溜まりがあり、漁船は国道の橋梁部を利用して不知火海に出入りしていた。

図1 不知火町位置図

②高潮被害の概要
・平成11年9月24日の早朝、台風18号が天草下島付近から島原半島の南端を通過し、湾奥に位置する松合地区周辺を高潮が襲った。高潮は、地区内の船溜りの護岸(DL+5.5m)を越水し、護岸に囲まれ護岸天端より約2.5m程も低い位置にあった集落に浸水し、家屋の水没で12名(うち1名は近隣の老人福祉施設におけるもの)が犠牲となった。
・地盤高は、海岸堤防が+7.0m(橋梁区間は+8.0m~+8.9m)、船溜まり護岸が+5.3m~+5.5m、住宅地は+2.7m~+3.4m(一部個人埋立て区域は+5.3m~+6.5m)となっていた。なお、推定最高水位は、被災後のオガクズ等の湿潤水位痕跡跡より、+6.7mと推測され、この高さは、平屋家屋の屋根裏の高さに達している。


図2 不知火町松合の高潮被害区域

表1 台風18号による不知火町の被害

 
人 

・死  者             12名・軽  傷              4名  

  

 

  

・健康福祉部              144,000(千円)・環境生活部                     な  し・商工観光労働部            190,000(〃)・農  政  部          4,257,509(〃)・林務水産部                370,000(〃)・土  木  部             95,000(〃)・企  業  局                 な  し・教  育  庁             22,646(〃)・そ  の  他              3,800(〃)  

 合     計        5,082,955(千円)  

  

・全  壊             47棟・半  壊             26棟・床上浸水            164棟・床下浸水             96棟・一部破損            745棟  

・公共建物              4棟・その他               62棟

写真1 被害状況

 

(2)災害後の主な経過
・被害発生の前日9月23日午後9時、災害対策本部が設置されている。
・松合地区の復旧・復興対策は、「松合漁港高潮対策検討会(H11.12〜H12.3、計3回開催)」「松合漁港高潮対策実施検討会(H12.6〜H13.2、計3回開催)」「高潮災害復興促進委員会(H13.4〜、H20.9までに計20回以上開催)」が設置され策定された。

【参考文献】
1)熊本県不知火町『不知火高潮災害誌−1999年台風18号の記録−』平成14年3月。

 

松合漁港高潮対策検討会 

H11.12~ 

計3回開催) 

県が設置した会議体。学識経験者(座長:熊本大・滝川教授)、国(水産庁)、県(林務水産部、土木部)、町(建設課、総務課)がメンバー。 

* 11年12月 

* 12年23日に検討委員会の中間報告会(地権者向け説明会)として、松合・救の浦地区住民懇談会を実施するなど、検討会の結果は住民懇談会を通じて地域住民に報告。

検討会の結果、高潮対策の基本的な方針(防潮水門建設、嵩上げ等)が提言された。 

松合漁港高潮対策実施検討会 

H12.6~ 

計3回開催) 

上記「検討会」と同様に、県が設置・主催し、水産庁の強力なサポートを得て実施。 

メンバーとして、学識経験者、国、県はほぼ「検討会」と同様だが、町からは新たに助役、企画課長が参画。また、地区住民代表者3名も加わった。 

住民代表3名は、文化財保護委員、地元漁師で被災者の方、活性化グループの中心人物という顔ぶれ。 

* 13年2月 

高潮災害復興促進委員会 

H13.4~ 

20回以上開催)

町が設置、メンバーは、被災した3地区(西、仲、山村)を中心に、地元区長と被災者の代表、計13名。

設置の目的は、地元への情報周知と、交渉等に関する情報提供。 

(出典)熊本県不知火町・財団法人漁港漁村建設技術研究所『平成12年度 松合漁港漁業集落環境整備事業基本計画調査報告書』平成13年3月

 

災害後の復旧・復興、被災者支援などに関する取り組みの主な経緯は、以下の表のとおりである。

表 復興への取り組み経緯

H11..24  高潮災害発生  11.23  松合・救の浦地区住民懇談会、松合漁協組合役員聞き取り調査  12.  松合被災地区・周辺住民アンケート調査実施  12.17  第1回松合漁港高潮対策検討委員会  H12..23  松合・救の浦地区住民懇談会(検討会中間報告、被災者アンケート調査報告会)  .23  第2回松合漁港高潮対策検討委員会 .12  松合・救の浦地区住民懇談会(住民意向調査結果の報告、高潮災害中間報告会)  .29  第3回松合漁港高潮対策検討委員会(提言とりまとめ)  .23  松合・救の浦地区住民懇談会(検討委員会の最終報告会、地元説明会)  .22  第1回松合漁港高潮対策実施検討委員会  .5 第2回松合漁港高潮対策実施検討委員会  o-yfti-irow: 11"> 11.26  松合漁港高潮災害被災者地元説明会  H13..26  第3回松合漁港高潮対策実施検討委員会(嵩上げ・水門建設・海岸の嵩上げの3事業について概要をとりまとめ) 松合漁港高潮災害被災者地元説明会(3事業の概要説明)  .24  第1回高潮災害復興促進委員会(経過報告、今後の進め方説明)  .6 須の前地区、護岸嵩上げ説明会  須の前地区、護岸嵩上げ説明会  .8 第2回高潮災害復興促進委員会(曳家工法について説明)  .12  和田地区、護岸嵩上げ説明会  .28  地盤嵩上げ相続及び利害関係人説明会説明会  .10  コンサルタントと実施設計業務委託契約締結 

 →以後、町として「補償」「換地」「測量」「設計」の4部門に分かれて活動 .20  第3回高潮災害復興促進委員会(事業説明:道路配置の考え方) 

 →道路の線形、構造等は、これによって基本的に決定  10.  松合高潮災害復興地権者説明会(全体説明会として、経過報告、今後の進め方等)  10.17  第4回高潮災害復興促進委員会(土地利用の意向調査について) 

 →委員に対し試験的に意向調査を実施した後、翌日から本格的に意向調査実施。  10.18  土地利用等の意向調査開始(隣接区画所有者も含む約150件を個別面談、市外在住者に対しては訪問調査も実施) 11.13  第5回高潮災害復興促進委員会(事業内容確認、税務課長より税の取り扱い説明)  H14..12  第6回高潮災害復興促進委員会(換地設計の考え方、用地単価について説明)  .25  第7回高潮災害復興促進委員会(個別説明の概要について説明) 

 →以後、各地権者と個別対応(換地、設計、補償、起工承諾)に入ることを説明  個別面接開始(施工計画平面図を示しての事業説明、施工同意)       (以後、年度当初に開催し、事業推進状況、今年度の計画等を説明)     H20.  20回高潮災害復興促進委員会(慰霊碑建立を議論)

 

松合地区の高潮災害については、公共施設がほとんど被災していないことから、災害復旧のために利用できる事業メニューがほとんどなかった。しかし、そうした中でも、単なる復旧にとどまらず「二度と被災しないための復興」を目標とするという基本方針が立てられた。
・特に集落の嵩上げによる安全性の確保については、事業制度の選定のためにさまざまな制度が検討された。例えば、国土交通省の土地区画整理事業を行うために都市計画区域に指定するこが�の高潮災害については、公共施設がほとんど被災していないことから、災害復旧のために利用できる事業メニューがほとんどなかった。しかし、そうした中でも、単なる復旧にとどまらず「二度と被災しないための復興」を目標とするという基本方針が立てられた。
・特に集落の嵩上げによる安全性の確保については、事業制度の選定のためにさまざまな制度が検討された。例えば、国土交通省の土地区画整理事業を行うために都市計画区域に指定することも検討されたが、伝統的な白壁を守っている非被災者にも影響があること、申請から実現まで長い時間を要することなどから、採用には至らなかった。また、任意な土地区画整理という手法も考えられたが、一人でも反対があれば実現できないので、リスクが大きかった。そうした検討の結果、最終的には漁業集落環境整備事業として、既存道路の拡幅・線形変更を行い、それに伴う宅地の嵩上げとすることで、公共事業として嵩上げを行うという形がとられた。
・具体的には次の①から③の対策が実施されることとなった。
①船溜りの開口部における水門設置(地域水産物供給基盤整備事業:熊本県施行)
・松合地区の仲西船溜りと隣接する救の浦地区の救の浦船溜りについては、避難用船溜りとしての機能強化と、集落への高潮時の越水を防止するため、港口に防潮水門を設置することとなった。
・このうち、仲西船溜り水門については、扉体幅W=10.0m・扉体高H=7.0mの水門1基を整備するものである。また、救の浦船溜り水門については、今年度内に本体工事を発注し、平成16年度の工事完成を予定している。
②護岸の天端嵩上げ(海岸保全施設整備事業(高潮対策):不知火町施行)
・高潮災害発生の後、不知火海湾奥部に設定した既往最高潮位(DL+6.73m)に対応した天端の嵩上げを行うこととなった。
③集落内道路などの整備(漁業集落環境整備事業:不知火町施行)
・水門設置や護岸の嵩上げにおける施設の整備により、前述の既往最高潮位(DL+6.73m)に対しては十分な防護機能を発揮することが出来る。しかし、松合地区の場合は背後の三方を山が囲む、すり鉢状の特異な地形を形成している。そのため、更なる高潮により集落内に海水が越水してきた場合、低地の集落内において避難路となるべき集落道が水没し、その機能を果せない状況に陥ることは明らかであることから、安全な避難路を兼ねた既存集落道を再構築し、嵩上げを行うこととされた。
・嵩上げ高さの決定にあたっては、既設護岸の天端高と低地で被災した家屋・人命などの相関関係から、仮に嵩上げした護岸の天端から、高潮により越水した場合に人命や財産に危険が及ばない範囲での高さが導き出され、DL+5.0mと設定された。
・また、この集落道嵩上げは集落内に多数の窪地を発生させることとなり、それぞれの窪地での家庭・雨水排水の処理や、生活環境が劣悪化するなどの問題を抱えることとなる。このため、漁業集落の健全な発展に資することを目的とする漁業集落環境整備事業の趣旨を踏まえ、費用面での比較検討などを行った結果、併せて低地と残存する家屋等の嵩上げを行うこととされた。

 

地盤嵩上高の設定根拠について

1.99.9.24.18号台風による高潮推定最高潮位
平成11年(1999年)9��い(最も低い部分はDL+3m以下)上にタライ状の地形を形成していたため、流入した高潮の捌け口がなかったことから、大きな被害を招くこととなった。

3.地盤嵩上高さの検討
高潮防護に関する外郭施設(護岸や水門)の整備により99.9.24.18号台風と同レベルの高潮(DL+6.73m:TP+4.5m)が来襲しても、基本的には集落内への高潮の進入は防げることになる。しかし、背後三方を山に囲まれた流入海水の捌け口のない特殊な地形を有する松合地区の低地帯については、同99.9.24.18号台風時を越える高潮の来襲の可能性を考慮して、被害を最小限にとどめることと、円滑・安全な避難・救助活動のための道路機能の確保のために集落全体の地盤嵩上げを実施する必要がある。
(1)現実的な実現性からの検討
地盤高さは、理想的には99.9.24.18号台風高潮による最高潮位DL+6.73mに設定することが最も望ましい。しかし、現実的には、避難機能の確保を目的として道路地盤面をDH6.73mまで嵩上げした場合、当然ながら山側の広い範囲の宅地や農地等の地盤も同じ高さに嵩上げする必要が生じることになる。すなわち、地盤嵩上げ高さをDL+6.73mに設定した場合、対象範囲があまりに広くなり過ぎて、工費、住民の合意形成を含めた工事の難易度などの点で現実的でなくなる。

表 地盤嵩上げ範囲毎の対象面積・家屋面積 

地盤嵩上げ案 

対象範囲面積 

対象家屋数 

DL+6.7m

7.60ha 

約262軒

262軒

DL+6.0m 5.14ha 134軒

DL+5.0~  3.20ha 約 58軒

図 設定地盤高に該当する集落範囲

2)高潮被害軽減および避難・救助機能向上の観点からの検討
前述のように、高潮被害の恒久的な解決策としての地盤嵩上高さは、理想的には99.9.24.18号台風時のDL+6.73mとなるが、前述の通り、現実的には困難な面も多い。そこで、高潮防災対策上最低限の効果が期待できる地盤嵩上げ高さを以下に検討する。

条件-1 高潮による死亡リスクと地盤高の関係(DL+4.0m以上)
99.9.24.18号台風の高潮により、対象地区では12名の死者を出したが、全てDL+4.0m以下の高さに居住していた人に集中している。その後の調査により、死者が出た家が1階建てで、2階建ての場合(2階に逃げることで)死者の発生が見られないという条件も認められるが、現実にDL+4.0m以下の地盤高居住者に死者が集中している事実から、少なくとも死亡リスクの軽減の観点から、地盤高をDL+4.0m以上に設定することが考えられる。

条件-2 高潮による家屋倒壊等のリスクと地盤高の関係(DL+5.0m以上)
対象地区では、99.9.24.18号台風の高潮による直接的な要因と判断される家屋の倒壊や取り壊さざるを得ない家屋被害を受けた家屋の立地が、DL+5.0mより低い地区に集中している。当時の高潮高さがDL+6.73mであったから、当然ながらDL+5.0m以上の高さにあった家屋についても床上・床下浸水被害は発生しているが、家屋倒壊などの甚大な被害は受けていない。従って、財産の保全の観点から地盤高をDL+5.0m以上に設定することが考えられる。

条件-3 背後の雨水集中による洪水防止との関係(DL+4.12m以上)
三方を山がちの傾斜地に囲まれた対象地区には、河川や側溝を通じて雨水が集中する。しかも、通常満潮位(DL+4.12m)よりも地盤高が低いため、一定以上の降雨の場合、冠水被害がでている。従って、高潮対策に限らず、大雨洪水被害の防止のためにDL+4.12m以上の地盤高が必要となる。

以上の検討の結果、理想的にはDL+6.03m以上の地盤高が望ましいが、先に検討した現実的な工事の実施可能性の検討と考え合わせると、人命及び財産保全リスクの軽減効果が期待されるDL+5.0m以上の地盤嵩上げを、避難・防災ソフトの充実との組み合わせを前提に実施することが現実的選択と考えられる。

地盤嵩上げ(DL+5.0m以上)により想定される効果
1.高潮越流水による流体力の低減に伴い、人的・物的被害の軽減が見込まれる。
2.高潮越流水による流体力の低減と避難・防災ソフトの充実を前提に、住民の避難に要する時間を確保できることになる。
3.降雨時における宅地等の冠水が改善されると同時に、満潮時の海水面DL+4.12mよりも地盤面が高くなるため、大雨時の雨水の排除が容易になり、洪水被害の防止に寄与する。
4.新たな護岸の嵩上げに伴い周囲を壁で囲まれたような閉塞感がなくなり、対象地区住民の日常生活環境上の快適性と景観改善に寄与する。
5.背後を三方から山に囲まれ、海水面(通常満潮水面)より低い地盤という特殊な地形のため、99.9.24.18号台風(高潮)以上の高潮が来襲したらという住民の不安が解消され、民生安定につながる。

【参考文献】
1)熊本県不知火町『不知火高潮災害誌−1999年台風18号の記録−』平成14年3月。
2)熊本県不知火町・財団法人漁港漁村建設技術研究所『平成12年度 松合漁港漁業集落環境整備事業基本計画調査報告書』平成13年3月。


 

ヒアリングによれば、嵩上げ事業は、次のように進められた。

○地権者の同意

・漁業集落環境整備事業における集落道整備とそれに係る低地の嵩上げについては、土地区画整理事業や土地改良事業にある換地制度が適用できない事から、境界未定・相続など数多くの権利関係の処理が必要となった。このため、平成13年度に地区住民の代表者による「松合災害復興事業促進委員会」が設置され、補償交渉や権利関係の処理に関して側面からの支援が得られた。
・全地権者の同意を得るために、まず税務課の協力を得て、平成12年中に半年くらいかけて、地権者の洗い出しが進められた。相続人に関しては、戸籍等を取り寄せて精査し、複数人いる場合は代表と考えられる「管理者」を選定し、通知するなどの作業が行われた。

○補償費用

・補償単価については、損失補償基準標準書(用地対策連絡協議会)に従った。工法は「曳家工法」として認定されており、補償費は60%程度である。
・第2回促進委員会で「曳家工法」について説明したが、そもそも曳家の費用を町・本人のどちらが負担するのかが理解を得にくく(実際には本人負担)、また解体・新築よりも負担が小さいとはわかっていても曳家によって傷むのではないかという不安が強かったようである。このため、実際に曳家を実施した住宅は1軒のみだった。
・住民に対しては、道路がかかる場合には道路法と同じ税務上の特例措置があり、道路がかからない場合とには税務上の違いがあった。これについては、税務署と協議し、詳細を決定してもらった上で促進委員会に報告し、住民への周知を行った。町側が事業主管課ではなく税務課が窓口となったことによって、税務署との間の協議がスムーズに進んだと考えられる。
・換地設計は、意向調査の結果、土地を売りたい人と買いたい人が概ねバランスしていたことから、比較的スムーズに行えた。道路拡幅によって狭くなる分を、売却意向のある隣接者の土地から提供するなどの形をとり、損得が出ないように線引きした。

○事業の進め方

・事業費については、町1/3、国1/2、県1/6の負担割合(県負担は通常10%を変更)とされた。総事業費は当初12億円を予定して、毎年2億円、平成20年度完成として計画された。事業期間は非常に長いが、平成16年9月に水門が完成したこと、平成18年に護岸嵩上げが終わったことから、嵩上げ事業そのものの緊急性は低くなった。町負担の事業費を平準化するためにも、平成20年度までかけての事業とした。最終的に嵩上げに要した総事業費は16億2,000万円となった。
・事業サイクルは、地域内をいくつかのブロックに分け、それぞれ「用地買収→嵩上げ(泥の搬入)→盛土完了→土地引き渡し(売却)→ライフライン整備→住宅再建」という段取りで進められた。早期に土地が仕上がった場所へ残っている住宅を曳家して、順次嵩上げする計画とした。
・嵩上げのための土(盛土材)は、ほぼ同質なものを大量に必要とするため、確保が難しかった。予定されていた土砂が確保できなくなり、嵩上げ工事が半年ほど遅れた時期も生じた。また、土地の引き渡しは地盤がある程度安定してからとなるが、安定までに要する時間はブロックによって異なり、盛土完了後1~2カ月で済むところもあれば、半年ほどかかる場所もあった。

○住民への情報提供、意見聴取など

・住民懇談会という形での検討会の報告等は有効だったが、事業計画の策定途中であることから、その場で出た質問への回答が、後の変更を難しくするというような例もあった。検討過程で情報が一人歩きするのを防止するため、説明用資料を回収したような例もあった。また、各自の筆がどこかわかるような詳細図は、基本的には手渡さないように配慮した。
・復興促進委員会を開始してからは、住民向けのニュースを2回作成し、回覧した。内容は、当時2~3時間にわたって議論していた促進委員会の議事概要のようなものである。

 

○事業概要
・漁業環境整備事業として、集落道整備等に関連して嵩上げ事業を実施。
・対象地区45世帯124名、うち29世帯83名嵩上げ範囲(3.2ヘクタールで、44地権利者)
・地元内転居は8世帯17名、1世帯7名は近隣に転出。
・総事業費:12億(町1/3国県2/3)
・施工年数6年
○対応と課題
・嵩上げ事業(手法や嵩上げの高さなど)に関しては、学識経験者(熊本大学教授)、国、県、町で「高潮対策検討委員会」(県主催)を開催し検討された。事業の検討にあたっては、奥尻の視察なども参考にした。
・災害当時は大潮の一番高くなる時期で、もっと大きな被害が発生した可能性もあったという不安もあったため、地盤の嵩上げは必要だった。ただし、大きな施設もあり、費用対効果など考慮し概ね5メートルの高さまでの嵩上げとなった。
・区画整理事業なども検討したが、背後地にも集落があり都市計画区域としてここだけ取り込むのは難しかった。
・移転補償費は事業で出るが、全壊した家は物件が無くなっているので補償の対象にならない。建物に関しては、移転補償費+自己負担(新築多い)で建築。移転補償費で解体撤去費も出る。曳家工法も採用された。盛土→仮移転→造成→戻るという流れで、曳家工法は比較的安い。
・相続人が多いところで、埋め立てにあたって権利者が300人ほどいたため、代表者を募って説明し、代表者から個々に伝達した。

 

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.