・198301:1983年(昭和58年) 豪雨
【概要】
(1)被害の概要
昭和53年7月23日、前線に向かって南海上から暖湿な空気が強く流入し、前線上を低気圧が通過する際に島根県西部で局地的な豪雨が発生した。この豪雨によって、島根県西部では軒並み記録破りの集中豪雨となり、中小河川の大氾濫による水害及び山地・急傾斜地の崩壊、土石流の発生による激甚な土砂災害が発生した。
①気象条件の特徴
・典型的な梅雨末期の集中豪雨で1982年7月23日の長崎を襲った57.7豪雨と類似している。
・梅雨前線上を低気圧が東進し、日本の南海上から暖湿な気流が前線付近に流れこんだため、島根県西部、広島県北部、山口県北部にかけての比較的広い範囲に豪雨が降った。
・23日夜半すぎから昼前まで島根県浜田の西方海上で下層のやや強い南西風により低気圧正循環が維持されていたため、レーダー観測によればエコー合流の場が持続し、海岸から陸地に入ったところでエコーは急発達した。この期間に主な3個の強雨域が現れた。
②被害の特徴
・被害の大部分は島根県内で発生しているが、主に島根県西部に集中している。
・一時、島根県西部は陸の孤島と化し、被災地の救援活動も海路に頼った。
・災害の様相は中小河川の氾濫と山崩れ、がけ崩れによる被害が大半であった。
写真1 被害例(島根県三隅町)
(出典) 島根県『昭和58年7月豪雨災害の記録』昭和59年3月。
表1 被害概要(島根県)
人的被害(人) | 家屋被害(戸) | |||||||
死者 | 行方 不明者 | 重傷者 | 軽傷者 | 全壊 | 流失 | 半壊 | 床上 浸水 | 床下 浸水 |
103 | 4 | 61 | 98 | 939 | 125 | 1,977 | 6,953 | 7,043 |
表2 主要被害額(島根県)
土木被害 | 農地被害 | 農作物被害 | 林地被害 | 水産関係施設被害 |
124,297 | 34,800 | 5,293 | 82,072 | 150 |
(2)災害後の主な経過
表3 災害後の主な経過(島根県の取組状況)
年 | 月日 | 項目 |
昭和33年 | 7月23日 | 0:35 島根県東部、西部に「大雨・洪水警報、雷雨注意報」発令 |
4:00 弥栄村で災害対策本部が設置される | ||
5:18 三隅町長は全町民に対し、防災行政無線で非常事態を宣言し、避難を勧告 | ||
8:00 島根県災害対策本部を設置。第2災害体制に入る | ||
1046 浜田市が浜田川流域住民に避難命令 | ||
1245 第一回島根県災害対策本部会議を開催 | ||
1900 国は「昭和 | ||
県下13市町村に災害救助法を適用 | ||
7月24日 | 災害救助法の適用市町村について、商工被害状況調査を実施 | |
7月25日 | 島根県災害対策本部は第3災害体制に入る | |
昭和58年7月豪雨災害対策指針 | ||
7月29日 | 浜田市外7市町村について災害救助法の期間の延長を申請、承認 | |
8月4日 | 臨時島根県議会を開催し、豪雨災害特別委員会を設置 | |
島根県県議会総務委員会を開催し、被災状況及び災害復旧対策について協議 | ||
8月10日 | 理事の専決処分により7,985,571千円の災害復旧対策を決定 | |
8月13日 | 災害復旧の手引きを作成、配布 | |
9月1日 | 災害救助法の適用市町村なくなる | |
9月5日 | 県災害対策本部は第3災害体制を第2災害体制に切り替え | |
9月13日 | 昭和58年7月豪雨を激甚災害に指定195号) | |
9月14日 | 第1回「島根県7市、三隅町防災都市構想策定委員会」開催 | |
1223日 | 国の昭和58年 | |
1228日 | 島根県災害対策本部解散 |
【参考文献】
1)国立防災科学技術センター『1983年7月梅雨前線による島根豪雨 災害現地調査報告書』昭和59年。
2) 島根県『昭和58年7月豪雨災害の記録』昭和59年3月。
○政府は9月9日の閣議において、一連の豪雨災害として認定し、この間における被害が激甚であったことにかんがみ、「激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律」を適用し、措置を次の通り指定した。
・法第3条及び第4条 公共土木施設災害復旧事業等に関する特別の財政援助
・法第5条 農地等の災害復旧事業に係る補助の特別措置
・法第6条 農林水産業共同利用施設災害復旧事業費の補助の特例
・法第12条 中小企業信用保険法による災害関係保障の特例
・法第13条 中小企業近代化融資等助成法による貸付金等助成法による貸付金の償還期間等の特例
・法第15条 中小企業者に対する資金の融通に関する特例
・法第16条 公立社会教育施設災害復旧事業に対する補助
・法第17条 私立学校施設災害復旧事業に対する補助
・法第19条 市町村が施行する伝染病予防事業に関する負担の特例
・法第20条 母子及び寡婦福祉法による国の貸付の特例
・法第24条 小災害債に係る元利償還金の基準財政需要額への算入等
2) 災害復旧予算措置
○災害発生後、県はただちに被災者に対する緊急救援措置を実施すると同時に、被害箇所の応急復旧をはかり、これの実施に必要な予算措置を講じた。
○年間を通じた豪雨災害関係予算は1139億92百万円余となり、復旧・改良等の事業費予定額に対し、初年度で49.6%の予算措置を行った。
【参考文献】
1)国立防災科学技術センター『1983年7月梅雨前線による島根豪雨 災害現地調査報告書』昭和59年。
2) 島根県『昭和58年7月豪雨災害の記録』昭和59年3月。
○市街地が壊滅的な打撃を受けた益田市及び三隅町については応急工事の推進とともに、災害復旧に合わせた市街地整備について検討を行うため、8月30日「島根県益田市・三隅町防災都市構想策定委員会」が設置され、県知事から災害に強い総合的な防災対策の上に立った新しい都市づくりの基本構想について諮問がなされた。
①益田市について
・益田川の益田川ダム建設と河川改修事業、都市基盤整備と建築物整備のため、住環境整備モデル事業及び、街路事業等の推進と住環境整備事業について調査する必要がある。
②三隅町について
・建設中の御部ダムの早期完成を図るとともに、三隅支川に新規ダムを計画することとし、河川改修事業を促進する。
・幹線道路の整備を促進し、向野田地区については、土地区画整備事業を推進する必要がある
2) 防災まちづくり(島根県益田市・三隅町)検討委員会
○国(建設省)においても、今回の災害発生後ただちに「防災まちづくり検討委員会」が設置され、復興に向けての手法等の審議が行われた。
○防災まちづくり検討委員会から島根県益田市・三隅町防災都市構想策定委員会に対し、その都度、適切な指導、助言がなされ、事業の円滑な実施が図られた。
3) 島根県総合土石流対策の推進
○今回の災害の犠牲者の8割ががけ崩れを中心とした土砂災害によるものであり、このような災害を再び繰り返さないよう、今後さらに土石流等の対策事業の推進と危険個所の地域住民への周知徹底、警戒避難、雨量基準の設定、災害予警報の伝達等各関係機関の協力を得て防災体制の整備を推進するため、昭和59年2月6日、島根県総合土石流対策推進連絡会を設置した。
○連絡会では以下の事項について連絡し調整を図る。
・関係市町村に提供する資料に関すること
・土石流危険渓流、山地災害危険地及び急傾斜地崩壊危険個所の表示に関すること
・警戒避難体制に関すること
・その他必要な事項
○計画概要
<全体計画>
・被災前の中小河川計画
計画日雨量303㎜、基本高水流量1,960㎥/s、計画高水流量1,360㎥/s、上流ダム600㎥/sカット
・三隅川水系の治水計画を再度改訂し、水系一貫型の大規模な工事とする。
被害流量2,400㎥/s
・基本高水流量2,440㎥/s(1/100確率)、配分計画:計画高水流量1,730㎥/s、上流ダム840㎥/sカット
・三隅川本流L=9,088m 立川井川川L=12,364m その他立川L=9,088m 総延長約35㎞
<放水路計画>
・三隅川本川下流部は河幅が狭く家屋密集地であるため、計画高水流量1,730㎥/sの内、1,400㎥/sを本川を改修して流下させ、330㎥/sは放水路を新設し、直接日本海に放流する計画とした。
・放水ルートは、以下の項目について検討した後、決定した。
・放水路の延長が最短距離でなおかつ直線に近い
・分流量を安全に対流するため、呑口が地形的に横越流堰が設置できる位置にある
・切盛量が最少で、用地取得面積が少なく経済的である
・国道、県道、町道等の交差点の問題が少ない
・民家密集地域から遠ざける
・分流開始水位:標高2.5m(警戒水位通常時は分流しない)
・放水路形状:単断面開水路
・河口処理対策:単流堤
・水理模型を使って実験を行い、計画内容を決定していった。
○計画作成/工事期間
・災害復旧助成事業5年間
・事業実施にあたり、県西部の被害が激甚であり、労力・資材・機材の調達のために、県及び他県の請負業者を含め事業の促進を図った。
○適用事業/事業費:災害復旧助成事業30,896,457千円
○この事業は、道路・水路・公園等の公共施設の計画的な配置を行い、良好な住環境を整備し、災害に強い魅力あるまちの形成を目的としている。
事業区域 5.8ha
事業期間 昭和51年~昭和60年
事業費 7億1,075.8万円