平成26年版 防災白書|第1部 第1章 第4節 4-2 大規模水害対策


4-2 大規模水害対策

(1)大規模水害対策の必要性

平成17年8月末に米国南東部を襲った大型のハリケーン・カトリーナによる災害では、ニューオーリンズ市域の約8割が浸水し、浸水期間は約1か月半に及んだ。被災建物は約30万棟に及び、約1,800人が亡くなるとともに、通信、電力を始めとするライフライン、教育施設、医療機関等社会基盤の多くが被災した。一方、平成24年10月に米国を襲ったハリケーン・サンディではニューヨーク市が被災し、平成25年6月に中央ヨーロッパで発生した洪水ではプラハ市が被災したが、非常事態宣言や地下鉄の運行停止等の事前の措置により、被害の軽減が図られている。

我が国においても、短時間強雨の発生頻度が増加傾向にあり、さらに、地球温暖化による大雨の頻度の増加や海面水位の上昇、極めて強い台風の発生等防災面から懸念される予測が出されている。

これまで、治水施設等の整備は着実に進められてきており、相当程度の洪水までは対応できるようになってきているが、現段階では治水施設等は整備途上であり、大規模な洪水等により被災する可能性が常に存在している。加えて、高齢化社会の到来により災害時要援護者の増加、旧来型の地域コミュニティの衰退、水防団員の減少等、地域防災力が低下し、氾濫した場合の備えがますます重要になってきている。

さらに、首都圏は、利根川や荒川等大河川の洪水氾濫や高潮氾濫が発生した場合の浸水区域に存在し、東京湾周辺にはゼロメートル地帯が広がっており、それらの地域には政治、行政及び経済機能が集積している。そのため、大河川の洪水氾濫や高潮氾濫が発生した場合には、甚大かつ広域的な被害が想定され、発災時の対策をあらかじめ十分に検討しておく必要がある。

(2)大規模水害対策の検討の経緯

中央防災会議では、首都圏において甚大な被害の発生が予想される利根川及び荒川の洪水並びに東京湾の高潮による氾濫を対象とし、大規模な水害が発生しても被害を最小限にとどめる対策を検討するため、「大規模水害対策に関する専門調査会」(以下「大規模水害専門調査会」という。)を設置した(平成18年6月)。

大規模水害専門調査会は、平成22年3月までに20回開催され、これまでに利根川・荒川流域の氾濫地形の把握や氾濫形態の類型区分、詳細な排水計算モデルの構築を行い、洪水氾濫時の浸水想定を公表するとともに、国内では初めて洪水氾濫による死者数、孤立者数等の人的被害の想定や、超過洪水(約1,000年に1度の発生確率の洪水)時の被害想定等を行った。また、平成21年1月には、荒川堤防決壊時における地下鉄等の浸水想定について結果を取りまとめ、公表した。

国土交通省においては、平成21年4月に、東京湾沿岸の現時点での高潮防護能力の検証及び長期的な気候変化に対するリスクの把握を目的とした高潮浸水想定を公表し、その後、被害想定の検討を実施した。

大規模水害専門調査会での被害想定結果や過去の大規模水害時の状況等を踏まえ、逃げ遅れた者の被災回避、孤立者の救助・救援、災害時要援護者の被害軽減、地下空間や、病院等における被害軽減、住民や地域の防災力の向上、公的機関等の業務継続性の確保、ライフライン・インフラの浸水被害による影響の軽減と早期復旧、氾濫拡大の抑制と排水対策の強化等について、平成24年9月、首都圏大規模水害対策大綱を取りまとめた(図表1-1-62)。

図表1-1-62 首都圏大規模水害対策大綱の概要

図表1-1-62 首都圏大規模水害対策大綱の概要
(3)現在の取組

利根川・荒川の堤防が決壊する場合や、東京湾の高潮浸水が発生する場合に、国、都県、市区町村、道路管理者、鉄道事業者、ライフライン事業者等の各関係機関及び住民一人ひとりが、いつ、どのように対応すべきかについて検討を行い、地域で共有し協力することにより、少なくとも命を救い、できるだけ早期の復旧を図ることができるようにすることを目的として、平成25年11月、首都圏大規模水害対策協議会を設置し、それぞれの水害における対応を時系列で示した対処計画の検討を進めている。

さらに、国土交通省においては、平成26年1月に「国土交通省水災害に関する防災・減災対策本部」を設置し、水災害が発生した際に実施すべき対策の検討を進めている。平成26年4月に水災害に関する防災・減災対策中間取りまとめを策定し、平成26年度の出水期に向けて、地下空間における浸水リスクの周知や接続ビル等との連携強化、全国の直轄管理河川における時間軸に沿ったタイムライン(防災行動計画)の策定等を決定した。


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