平成26年版 防災白書|第1部 第1章 第3節 3-1 事前防災


第3節 災害対策に関する施策の取組状況

3-1 事前防災

災害による被害の発生を未然に防止し、あるいは軽減するためには、災害に強い国づくり、地域づくりのための施策を進めるとともに、防災に関する調査・研究・観測を通じた最新の科学的知見を反映した防災対策の取組が重要である。また、国民一人一人が、平時及び災害発生時において「自らが何をすべきか」を考え、災害に対して十分な準備をするよう促すため、防災訓練等の実施が重要である。

(1)防災に関する科学技術の研究の推進

災害対策を効果的に講じるため、科学技術の分野において、以下のような方針を策定し、防災に関する科学技術の研究を推進している。

我が国の科学技術基本政策の方針を記した「第4期科学技術基本計画」(平成23年8月閣議決定)においては、科学技術政策により目指すべき国の姿として、<1>震災から復興・再生を遂げ、将来にわたり持続的な成長と社会の発展を実現する国、<2>安全かつ豊かで質の高い国民生活を実現する国、<3>大規模自然災害等、地球規模の問題解決に先導的に取り組む国、<4>国家存立の基盤となる科学技術を保持する国等を掲げた上で、「震災からの復興、再生の実現」等を、東日本大震災から力強く復興、再生を遂げ、将来にわたり、持続的な経済成長と社会の発展を実現するための主要な柱として位置付けるとともに、「我が国が直面する重要課題への対応」として、それと同等に取り組むべき課題を掲げている。これらの課題の達成に向けて重点的に推進すべき施策の基本的方向性としてこれまでの分野別の重点化から重要課題の達成に向けた施策の重点化への転換、重要課題の達成に向けたシステム改革、世界と一体化した国際活動の戦略的展開等に取り組むこととしている。

また、科学技術イノベーション総合戦略(平成25年6月閣議決定)において、科学技術イノベーションが取り組むべき課題として世界に先駆けた次世代インフラの整備を掲げ、自然災害に対する強靱なインフラの実現を重点的取組として、耐震性等の強化技術や地理空間情報等を用いた観測・分析・予測技術、災害情報の迅速かつ確実な把握・伝達により被害を最小化する技術、ロボット等による災害対応・インフラ復旧技術等を推進し、多様な災害に対応した安全・安心を実感できる社会を目指すとしている。

また、文部科学省に設置されている地震調査研究推進本部においては、「新たな地震調査研究の推進について-地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策-」(平成21年4月、平成24年9月改訂)等の方針に基づき、活断層調査の総合的推進、地震調査研究の重点的推進を図っている。

(2)災害に強い国づくり、地域づくり

地域の特性に配慮しつつ、災害に強い国土と地域を目指して、国土保全、地域づくりを推進するとともに、主要な交通・通信機能の強化、構造物・施設、ライフライン機能の安全性の確保に関する施策等を実施している。

風水害、土砂災害、地震・津波災害、火山災害等の自然災害から国土並びに国民の生命・身体及び財産を保護するため、治山・治水対策、土砂災害対策、海岸等による国土保全施設の整備や、自助、共助、公助による安全かつ的確な警戒避難体制の整備、老朽化した社会資本の適切な維持管理に取り組んでいる。

また、大規模災害に対しても多様な輸送手段の選択が可能となるよう、高速道路のミッシングリンクの解消等による道路ネットワークの強化や鉄道施設の耐震化、耐震強化岸壁の整備、空港施設の耐震化等を進めている。

今後発生が懸念される大規模地震においても建物等の倒壊による大きな被害が想定されていることから、住宅・学校・病院等の建築物やライフライン、インフラ施設等の構造物の耐震化、吊り天井等の非構造部材の脱落防止対策等を推進している。また、大規模な盛土造成地について、地震発生時に地すべりや崩壊のおそれのある区域を特定し、液状化対策を含めた総合的な宅地の耐震対策を推進している。

さらに、地震被害に対する都市の防災性向上のため、根幹的な公共施設等の整備を推進している。都市公園事業及び街路事業等の活用による避難地・避難路の整備を推進するとともに、避難地・避難路周辺の建築物の不燃化による延焼遮断帯の形成等を図っている。

津波対策については、海岸保全施設等の整備に加えて、海岸防災林の整備、土地のかさ上げ、津波避難ビルや津波避難タワー、避難路・避難階段の整備等を行うほか、外郭施設等が有する津波に低減効果を活かした防災・減災対策を推進している。

風水害を始めとした災害発生時には、災害に関する情報や避難勧告等の情報を正確かつ円滑に伝達するため、防災行政無線、テレビ、ラジオ、携帯電話等多様なメディアの多重活用、災害時の通信遮断を回避するためのネットワークの多重化や優先迂回路等の整備等、情報通信手段の確保を図っている。

農山漁村については、国土の保全等の森林の有する多面的機能を発揮させ、災害に強い森林づくりを推進しているほか、決壊時に甚大な被害を及ぼすおそれのあるため池の整備等のハード整備と防災情報提供システムの整備等のソフト対策の一体的な実施による農用地及び農業用施設等の防災・減災対策を実施している。また、避難路としても機能する林道、災害時の避難地や災害対策拠点として活用するための漁村広場や公園、緊急物資輸送に資する漁港の耐震岸壁、災害対策上必要な施設の整備を実施している。

(3)防災拠点施設

内閣府(防災担当)では、首都圏における大規模地震・津波災害の発生に備え、緊急災害対策本部が官邸に設置できない場合の代替施設の1つである「災害対策本部予備施設」(立川広域防災基地内)及び緊急災害現地対策本部が設置されることとなる「東京湾臨海部基幹的広域防災拠点施設」(有明の丘地区・東扇島地区)を維持、管理及び運用している。また、南海トラフ地震など首都圏以外の地域における大規模地震・津波災害の発生に備え、被災地の災害応急対策に係る連絡調整を実施する緊急災害現地対策本部の設置場所を既存施設の中から順次選定しているところである。

その他の防災拠点施設については、各施設の管理者において整備や耐震化、設備機能強化等を進めている。地方公共団体が主体となり防災拠点施設の整備等を実施する場合は、その用途や機能に応じて、国土交通省の社会資本整備総合交付金や消防庁の防災対策事業債等により、国が支援をしている。

(4)人材育成

<1> 人材育成の意義、必要性

中央防災会議に設置した「防災対策推進検討会議」の最終報告(平成24年7月)において、災害発生時対応に向けた備えの強化として、「職員の派遣・研修を含む地方公共団体との連携」、「国・地方の人材育成・連携強化」、「政府の防災部門と地方の人事交流の機会の拡充」等を図るべきとの提言がなされたことから、内閣府では、平成25年度より、国や地方公共団体等の職員を対象として、危機事態に迅速・的確に対処できる人材や国と地方のネットワークを形成する人材の育成を図るため、「防災スペシャリスト養成研修」に取り組んでいるところである。

<2> 平成25年度に実施した「防災スペシャリスト養成研修」

地方公共団体の職員等に対して、内閣府の業務を体験しつつ、災害の予防から応急対策、復旧・復興等に係る講座・演習を行う研修や、有明の丘基幹的広域防災拠点施設を活用して、一般職員、中堅職員、幹部職員それぞれの職務と経験に応じた災害対応力の養成のための研修などを実施した。

<3> 平成26年度に実施を予定している「防災スペシャリスト養成研修」

地方公共団体の職員等に対して、「内閣府の業務を体験する研修」、「有明の丘基幹的広域防災拠点施設における研修」と地方で行う「地域別総合防災研修」などを実施する。特に、有明の丘基幹的広域防災拠点においては、災害対策本部運営の中枢的役割を担う職員を対象とした「総合管理研修」、個別課題の対応に専門的に従事する職員を対象とした「個別課題研修」及び防災部門への新任職員を対象とした「防災基礎研修」を設定し、防災対策に必要な活動を行うための能力を習得するための研修を実施する。

また、「地域別総合防災研修」については、各地域における災害発生上の特性を踏まえたテーマを設定して実施することにより、災害対応に必要な知識や態度の習得を効果的に行うこととする。

(5)防災訓練

<1> 防災訓練の意義、必要性

災害が発生した場合においては、国の行政機関、地方公共団体、その他の公共機関等の防災関係機関が一体となって、国民と連携しつつ対応することが求められ、防災関係機関は災害発生時の応急対策に関する検証・確認と住民の防災意識の高揚を目的に、災害対策基本法、防災基本計画、その他の各種規定等に基づき、防災訓練を実施することとしている。

このため、国や地方公共団体で実施する防災訓練の基本的な方針や、国において実施する訓練の概要等を、毎年度、中央防災会議で「総合防災訓練大綱」として決定しているところである。

<2> 平成25年度に政府が実施した主な防災訓練

災害対策基本法の改正を踏まえ、災害緊急事態の布告や災害緊急事態への対処に関する基本的な方針の決定等についての手続の確認を行うため、全閣僚が参加する緊急災害対策本部の設置・運営等の訓練を実施(平成25年9月1日、「防災の日」政府本部運営訓練)した。

また、緊急災害対策本部事務局要員の知識・練度の向上を図るため、同事務局要員に対する座学及び基礎的な図上訓練(平成25年6月19日、緊急災害対策本部事務局要員図上訓練)を実施するとともに、緊急災害対策本部事務局機能及びマニュアルの実効性を検証するロールプレイング形式の図上訓練(平成26年1月14日、政府図上訓練)を実施した。

さらには、初実施となる香川県、大阪府を含む3府県において緊急災害現地対策本部の設置・運営訓練を実施した(平成25年8月31日、平成26年1月17日、平成26年2月4日、緊急災害現地対策本部設置等訓練)。

その他、災害派遣医療チーム(DMAT)の参集、被災地外広域搬送拠点の設置、自衛艦に医療モジュールを搭載した実証訓練などの広域医療搬送に関する総合的な実動訓練(平成25年8月31日、広域医療搬送訓練)や人命救助訓練や道路復旧訓練、住民が参加する避難訓練(平成25年11月9日、津波防災訓練)等を実施した(附属資料43)。

<3> 平成26年度に政府が実施を予定している主な防災訓練

東日本大震災や昨今の社会状況等、また平成25年度に実施した防災訓練のフォローアップ結果を踏まえ、平成26年度総合防災訓練大綱を定めた(図表1-1-9)。

この大綱においては、平成26年度に政府が実施を予定している主な防災訓練として、

  • 9月1日の「防災の日」に行う政府本部運営訓練を首都直下地震を想定して実施すること
  • 緊急災害現地対策本部の運営訓練を本格的に各地域で実施すること
  • 11月5日「津波防災の日」を念頭に津波防災に関する訓練を広く国民参加の下、大規模に実施すること
  • 火山に関する防災訓練を実施すること
  • 在日米軍と実施する日米共同統合防災訓練を実施すること
を定めている。

この大綱に基づく訓練を関係機関が連携して確実に行うことにより、災害への備えをさらに確かなものとしていく。

図表1-1-9 平成26年度総合防災訓練大綱図表1-1-9 平成26年度総合防災訓練大綱
(6)社会全体としての事業継続体制の構築

<1> 行政機関の業務継続体制

国の行政機関である中央省庁においては、これまで、首都直下地震等の発災時に首都中枢機能の継続性を確保する観点から、省庁ごとに業務継続計画を策定し、業務継続のための取組を進めてきた。平成25年12月に、「首都直下地震対策特別措置法(平成25年法律第88号)」が施行されたことを受け、政府は、同法に基づく計画として平成26年3月に「政府業務継続計画(首都直下地震対策)」を閣議決定した。本計画に基づき、中央省庁は、省庁業務継続計画について、改定を行い、首都直下地震発生時においても政府機能が麻痺することのないよう、業務継続体制を構築していくこととしている。

また、地方公共団体は、災害時に災害応急対策活動や復旧・復興活動の主体として重要な役割を果たしつつ、地域の住民生活に不可欠な通常業務を継続することが求められており、特に、東日本大震災では、地震・津波により、地方公共団体の庁舎が大きな被害を受け、首長や職員も被災者となったことから、地方公共団体の業務継続体制の構築が強く求められるようになった。これまで、内閣府では、「地震発災時における地方公共団体の業務継続の手引きとその解説(第1版)」により地方公共団体における業務継続の取組を支援してきたところであるが、地方公共団体における業務継続計画の策定率は、近年伸びてはいるものの、平成25年8月現在、都道府県で60%、市町村で13%と低水準に留まっているところである(図表1-1-10)。

このため、内閣府においては、上記手引きの改定等を行い、地方公共団体の業務継続体制の充実・強化を支援していくこととしている。

図表1-1-10 地方公共団体の業務継続計画の策定状況図表1-1-10 地方公共団体の業務継続計画の策定状況

<2> 企業に対する取組について

i 企業の事業継続計画策定・事業継続マネジメント促進に向けた内閣府の取組

大規模災害等が発生して企業の事業活動が停滞した場合、その影響は自社にとどまらず、関係取引先や地域の経済社会、ひいては我が国全体に多大な影響を与えることとなる。そのため、大規模災害等の発生時における企業の事業活動の継続を図ることは、極めて重要である。

そのため、平成16年に中央防災会議の「民間と市場の力を活かした防災力向上に関する専門調査会」において、必要な官民連携策を示した「民間と市場の力を活かした防災戦略の基本的提言」が取りまとめられた。当該提言において、事業継続計画(Business Continuity Plan(以下「BCP」という。))に関する指針の検討が必要とされ、平成17年に内閣府として、「事業継続ガイドライン」を策定した。

また、国の防災基本計画においては、平成17年に「企業がBCPを策定するよう努めるべき」旨を盛り込み、平成20年には、「国及び地方公共団体が策定支援等に取り組むべき」旨を明確に規定し、地域防災計画においても重点を置くべき事項として位置付けた。

このような取組の中、東日本大震災が発生し、あらためて災害時における企業の事業継続の重要性が明らかとなり、加えて、それに資する平常時の活動が注目されることになった。すなわち、平常時の経営戦略に組み込まれる事業継続マネジメント(Business Continuity Management以下「BCM」という。)が重要視されるようになったのである。

これらを背景に、平成25年6月の災害対策基本法改正において、事業者に関する事業継続の責務が盛り込まれ(第7条第2項)、平成25年8月には、BCMの考え方を盛り込み、大幅な改定を施した「事業継続ガイドライン第三版-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」(図表1-1-11)を公表した。

さらには、平成26年1月の防災基本計画の修正において、「企業がBCMの推進に努め、国及び地方公共団体がBCMの支援に努めるべき」旨を定め、平成26年3月に決定した首都直下地震緊急対策推進基本計画、南海トラフ地震防災対策推進基本計画、大規模地震防災・減災対策大綱にもその旨を定めた。南海トラフ地震防災対策推進基本計画については、具体的な目標として、BCPを策定している大企業の割合を100%(全国)に近づけること、中堅企業の割合は50%(全国)以上を目指すことを盛り込んだ。

内閣府においては、企業のBCP策定及びBCM推進に向けて、「事業継続ガイドライン」等の充実とともに、課題解決策の検討、優良事例の紹介などに引き続き取り組んでいく。

図表1-1-11 事業継続ガイドライン改定の概要図表1-1-11 事業継続ガイドライン改定の概要

ii BCP及びBCMに関する企業の取組の現状

内閣府では、全国の大企業・中堅企業を主な対象とした「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」を平成19年度より隔年で実施している。

当該調査結果のうち、BCPの策定率に関して(図表1-1-12)、大企業では、「策定済み」及び「策定中」が7割強、中堅企業でも「策定済み」及び「策定中」の回答が約4割と、いずれも前回調査(平成23年度)から伸びていることがわかる。

図表1-1-12 大企業と中堅企業のBCP策定状況図表1-1-12 大企業と中堅企業のBCP策定状況

BCMの実施状況においては(図表1-1-13)、大企業(計52%)・中堅企業(計43.3%)ともに、経営層の決定(「経営会議での決議」、「取締役会での決議」、「担当役員に一任」、「社長に一任」の合計)が4割から5割程度となる反面、大企業では3割弱、中堅企業では4割弱が「BCMには取り組んでいない」と回答している。

図表1-1-13 BCMの実施状況図表1-1-13 BCMの実施状況

また、BCMを実施している企業においては、日常的にBCMをサポートしている部署は、大企業・中堅企業ともに、総務部門が約5割となり、次に経営企画部門が2割程度となっている(図表1-1-14)。

今後、さらに経営層の意識を高め、防災の観点のみならず、経営戦略の一部として、BCMを全社的に拡大していくことが望まれる。

図表1-1-14 BCMをサポートしている部署図表1-1-14 BCMをサポートしている部署

加えて、BCMに関する教育・訓練は、全体として7割強が実施しているが(図表1-1-15)、BCMの点検・評価や是正・改善は、全体で4割程度に留まることがわかる(図表1-1-16)。BCMにおいて、双方が一連となることにより、実効性の高い継続的な活動につながるため、この観点からも、さらなる普及啓発が望まれる。

図表1-1-15 BCMに関する教育・訓練の実施状況図表1-1-15 BCMに関する教育・訓練の実施状況
図表1-1-16 BCMの点検・評価、是正・改善状況図表1-1-16 BCMの点検・評価、是正・改善状況

iii 民間事業者団体による事業継続の取組の普及促進

上述のように、国として企業等における事業継続の取組の課題に対して様々な施策を推進しているところであるが、民間事業者団体においても、東日本大震災等の教訓を踏まえた課題や事例に着目し独自の調査を行い、提言や指針などを取りまとめている。

例えば、一般社団法人日本経済団体連合会では、被災による経済活動の停滞、倒産等の回避は、社会全体で取り組むべき課題であり、まずは個社の取組をより充実させることを前提に、関係する主体との協働を推進すべきとして、途上にある企業間連携に係る取組を観点に、企業・経済界には、サプライチェーンを構成する企業間の連携の強化、地域内連携の強化、業界内連携の強化、行政には企業間連携への支援及び防災・減災対策のさらなる充実を求めている(図表1-1-17)。企業・経済界と行政との連携・協働を深化、拡大させていくためには、様々な主体による具体的な取組と相互の理解を着実に進めていくことが必要である。

図表1-1-17 企業間のBCPBCM連携の強化に向けて 概要(経団連資料)図表1-1-17 企業間のBCP/BCM連携の強化に向けて 概要(経団連資料)

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.